高齢者虐待は年々大きな問題に
超高齢社会の日本では今、高齢者が自分らしく幸せに暮らせるよう介護や福祉の問題に真剣に向き合っています。
しかし、その中で家庭や介護施設における高齢者の虐待が問題になっています。
家庭内や施設内での高齢者虐待は外部が気付きにくく、発見が遅れてしまう例も少なくありません。
ここ数年での虐待件数は、以下の表のようになっています。
養介護施設従事者など | (※1) によるもの養護者(※2) | によるもの|||
---|---|---|---|---|
虐待 | 判断件数相談・ | 通報件数虐待 | 判断件数相談・ | 通報件数|
令和 | 2年度595件 | 2,097件 | 1万7,281件 | 3万5,774件 |
令和 | 元年度644件 | 2,267件 | 1万6,928件 | 3万4,057件 |
増減数 (増減率) |
-49件 (-7.6%) |
-170件 (-7.5%) |
353件 (2.1%) |
1,717件 (5.0%) |
※1.介護老人福祉施設など養介護施設職員、または居宅サービス事業など、養介護事業の業務に従事する者(ヘルパーなど)
※2.高齢者の世話をしている家族、親族、同居人など
高齢者虐待の区分とその例
高齢者の虐待は、身体的なものばかりではありません。
厚生労働省では高齢者虐待を「身体的虐待」「介護・世話の放棄・放任」「性的虐待」「心理的虐待」「経済的虐待」の5つに区分しています。
その具体的は以下のとおりです。
内容 | 具体例 | |
---|---|---|
身体的虐待 | 暴力行為や外部との接触を意図的、そして継続的に遮断する行為 | ・平手打ちをする、殴る、蹴る、やけどを負わせるなど ・ベッドに縛り付けたり薬を過剰に服用させたりして、身体拘束・抑制する |
介護・世話の放棄や放任(ネグレクト) | 意図的かどうかを問わず、介護や生活の世話を行っている家族がそれを放棄や放任をし、生活環境や身体・精神的状態を悪化させていること | ・入浴しておらず、異臭がする ・水分や食事を充分に与えず、脱水症状、栄養失調、長時間の空腹状態にある ・劣悪な住環境のなかで生活させる ・必要な介護、医療サービスを制限したり、使わせない |
心理的虐待 | 脅しや侮辱などの言語や威圧的な態度、無視、嫌がらせなどによって精神的・情緒的苦痛を与えること | |
性的 | 虐待本人との間で合意が形成されていない、あらゆる形態の性的な行為またはその強要 | ・排泄の失敗に対して罰として下半身を裸にして放置する ・キス、性器への接触、セックスの強要 |
経済的虐待 | 本人の合意なしに財産や金銭を利用し、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること | ・日常生活に必要な金銭を渡さない/使わせない ・本人の自宅などを無断で売却する ・年金や預貯金を本人の意思・利益に反して使用する |
さらに、「セルフネグレクト」も問題となっています。これは、本人が要介護状態にあるにもかかわらず、自分の体の健康維持を放置し、不健康なままになっている状態のこと。虐待防止法の虐待類型にはあてはまりませんが、高齢者の尊厳が損なわれます。放置できないことに変わりはなく、行政窓口は対策に取り組んでいます。
虐待と聞くと身体的虐待をイメージしがちですが、本人の意志に反して財産を勝手に使ったり、毎日暴言を投げかけるという行為も虐待のひとつ。
心身にダメージを与え、人としての尊厳を傷つける行為は、すべて虐待と言えるのです。
家族、親族などによる高齢者虐待
身内による虐待も増えています。その詳細を見ていきましょう。
在宅での虐待数は年間1万7,000件以上
養護者による高齢者の虐待発生件数は、以下のように推移しています。

厚労省が発表する資料によると、在宅における2020年度の養護者(家族や親族)による高齢者虐待は1万7,000件以上。
把握できているだけでも、これだけの高齢者が虐待に苦しんでいます。
高齢者虐待を防止するためには、高齢者の暮らしをしっかりと見守る社会体制の構築だけでなく、介護うつなどが原因となって虐待をしてしまう介護者へのケアも不可欠です。また、虐待防止法は「養護者支援」も車の両輪のひとつだと位置づけています。
高齢者や介護者(養護者)が不幸な事態にならないように、地域や行政が介護者を支援することが求められています。
それでは養護者による虐待の種別をみていきましょう。

厚生労働省が発表している資料によると、虐待を受けていた高齢者約1万7,000人の中で、身体的虐待を受けていた人が最も多く68.2%となっています。
次いで心理的虐待41.4%、経済的虐待を受けていた人も14.6%いるという実態が明らかになっています。
在宅での高齢者虐待と認知症の有無の関係
次は、認知症と虐待の関係についてみていきましょう。

※「あり」は認知症日常生活自立度Ⅰ~M、および認知症あるが自立度は不明を含む。
上記のグラフより、虐待を受けている高齢者の約8割が、認知症であることがわかります。これは介護者の方で、思うようにいかないケースが多く、ストレスを感じやすいことが原因として考えられます。
誰でも虐待してしまう可能性がある
データを見ると、誰しも介護ストレスなどから、虐待と見なされる行為に至ってしまう可能性があることを痛感させられます。
高齢者虐待の特徴として、虐待している人に「虐待している」という自覚があるとは限らないことがあります。
しかし、虐待が疑われるケースの10%ほどは、高齢者の命に危険がある状態にあるとされており、自覚のなさが虐待を助長することにもつながりかねません。
⾼齢者虐待の要因は、以下のように多岐にわたります。
- ⽣活苦
- 希薄な近隣関係
- 介護者の社会からの孤⽴
- ⽼⽼介護・単⾝介護の増加
- 介護者のニーズに合わない介護施策
- 介護疲れ
- ⻑期にわたる介護ストレス
- 介護に関する知識不⾜
- 認知症による⾔動の混乱
- ⾝体⾃⽴度の低さ
家族における虐待者の内訳
家庭内において高齢者虐待をしている虐待者の内訳を見てみると、39.9%が息子、22.4%が夫、17.8%が娘となっており、実の息子から虐待を受けるケースが多いという点も注目したいところです。

未婚化や、子どもと住居を別にする世帯の増加に伴い、介護の担い手が息子や夫、つまり男性介護者であることも珍しくありません。
これまで仕事一筋だった男性が慣れない家事や介護をすることは、自分の思い通りにことが進まないことからストレスを感じやすくなっています。また、思い込みで判断してしまい、かえって虐待につながっているのではないかとの見方もあり、男性介護者への支援策も求められていると言えそうです。
シングル介護へのサポートが重要
では、介護者がシングルか既婚者かといった点との関連性についても、みていきましょう。
虐待者とのみ同居 | ×未婚の子と同居36.5% |
---|---|
虐待者および他家族と同居 | ×未婚の子と同居16.9% |
虐待者および他家族と同居 | ×子夫婦と同居12.0% |
虐待者とのみ同居 | ×配偶者と離別・死別した子と同居10.5% |
息子から高齢の親への虐待が起こる理由の一つは、息子が「独身」であること。独身の場合、身体的、精神的なサポートを得られにくく、介護ストレスが蓄積しやすい傾向にあります。そのため、高齢者虐待のリスクが高まるのです。
男性の介護者は、介護の効率化やルーティン化を図るなど仕事のように介護を捉える傾向にあり、女性に比べて身体的な介護ストレスを感じにくいと言われています。
しかし、男性介護者は人間関係や社会関係が乏しいために地域との接点が少なく、情緒的サポートを得られにくいことが多いです。さらに家事に不慣れな人も少なくなく、その点でのサポートもきちんと得られなければ、精神的な介護ストレスが蓄積し、虐待につながる恐れがあります。
虐待した息子が独身であることと同時に、定職に就けていない場合も多く、その発生にはさまざまな背景が考えられます。
例えば、独身で、定職にも就いていない息子が、要介護者(親)に依存し、要介護者もそのような息子を受け入れ、共依存の形で一つ屋根の下で生活しているケースを考えましょう。その場合、息子から役所や介護事業所に自ら相談をすることもまれで、問題やその予兆があっても気づくことが難しくなります。
このような、定職につけていない、独身である層を社会がサポートしていくことも、今後の介護における大きな課題となるのではないかと懸念されています。
特に独身の息子は既婚者の息子よりも虐待の発生率が高く、「シングル介護者のリスク」として挙げることができます。
息子のストレスを軽減するには、他者からのアドバイスや知識が必要です。客観的な視点や距離感を保ちながら、親の介護に取り組んでいける地域と社会のサポート、制度が求められます。
子世帯と被虐待高齢者が同居をしている割合は60%以上
では、虐待者の家族形態についてみていきましょう。

厚生労働省が虐待者と被虐待者の同別居関係について調査したところ、「虐待者とのみ同居している」という世帯が52.4%と約半数を占め最多となりました。これに「虐待者および他家族と同居」の36.0%と合わせると、虐待を受けた高齢者の88.4%が「虐待者と同居していた」ことになります。
また、虐待の起こった世帯の家族形態としては、「未婚の子どもと同居」が36.4%と最も多い回答となりました。これに「子ども夫婦と同居」の11.7%、「配偶者と離別・死別等をした子どもと同居」の13.2%を合わせると、被虐待者の61.3%が子ども世代と同居していたことになります。
なお「夫婦のみ世帯」で虐待が起こった割合は23.3%にとどまっており、「親子が同居している世帯において、虐待が多く発生している」というのが実情なのです。
では、被介護者である親と介護者である子が同居している場合、どうすれば虐待の発生は防げるでしょうか。
その解決策を考えるうえでのポイントになるのが、「介護の場に多くの人に関わってもらうこと」です。介護スタッフはもちろんのこと、兄弟姉妹や親せき、信頼のおける友人などを巻き込んで介護のシフトを組み、「チーム」で介護に対応していくと、介護負担を分散でき、虐待に至るリスクを減らせます。
あるいは、経済的な負担は発生しますが、有料老人ホームなどの高齢者向け施設に入居してもらうという選択肢も、虐待を未然に防ぐという点では有効です。
具体的な虐待事例

虐待の発生にはさまざまな要因がある中で、先に挙げた「心理的虐待」「経済的虐待」「身体的虐待」「介護・世話の放棄や放任」、それぞれの虐待についてどのようなケースがあるのかを考えてみましょう。
心理的虐待が起きるケース
例えば、家族間における介護で、介護をする方にストレスがたまっていたりすると、つい高齢者を怒鳴ってしまうこともあり得ます。歳をとれば、同じことを繰り返し話したり、必要以上に心配性になって心配事ばかりを口にしたりするのは当たり前のことです。しかし、それを毎日のように話される家族にとっては、精神的なストレスがたまる要因となります。
このようなシチュエーションを想像すると、高齢者が話をしている際にうるさいと怒鳴ることや無視してしまうことは、珍しくないのではないでしょうか?しかし実は、このような状況は、「心理的虐待」に当てはまります。
さらに、高齢者本人の目の前で、近所の人に「うちのおばあちゃんはおねしょがひどくて…」と話し、精神的苦痛を与えることも同様です。
経済的虐待が起きるケース
高齢者の預貯金を子どもが預かるというケースもあります。時が経つにつれ、そのお金がまるで自分のもののように感じるようになり、生活苦やストレスを発散したいという思いから、ちょっとだけ使ってしまおうという気にもなってしまうかもしれません。
しかし、高齢者自身がそれを了承しておらず、金銭の使用を制限すれば、これは「経済的虐待」に該当します。
身体的虐待が起きるケース
また、認知症症状が重くなる家族を何年も介護する生活が続き、誰にも介護を頼れない状況に追い込まれてしまったとき、徘徊を防止したいという思いからベッドに家族を拘束してしまえば、それは「身体的虐待」となります。
介護・世話の放棄や放任が起きるケース
「介護・世話の放棄や放任」についても、意図的であってもそうでなくとも虐待をしている可能性があることを忘れてはいけません。
おねしょがひどいからと言って水分をあまり飲ませないでいる生活が続き、高齢者がひどい脱水症状に陥ってしまうこともあり得ます。この場合は「おねしょがひどい→水を飲ませない」という対策ではなくほかの方法を考えなければいけません。
性的虐待が起きるケース
高齢者に「性的虐待」はありえないとお考える方もいるかもしれません。しかし、排泄を失敗した際に、罰として下半身を裸にして放置することなども「性的虐待」になります。
介護うつが高齢者虐待につながる恐れ

ご家族の介護をされている方のなかには、資金的に有料老人ホームなど民間が運営する施設への入所は難しいと考えている場合も。安価に利用できる特別養護老人ホームへの入居を希望するものの、待機者が多く、なかなか入所ができないという方も多いかもしれません。
また、デイサービスやデイケアサービスを普段から利用している人のなかには、ショートステイで介護負担が軽減できると分かっていても、費用面などの問題から利用を控えざるをえないと考えている人もいるのではありませんか?
介護は家族の介護であっても悩みや問題は多く、精神的・心理的な労苦から「介護うつ」に陥る人も多くいます。
さらにその介護うつによるストレスが増大することで、高齢者の虐待につながっているケースも事実としてあります。
誰にとっても身近な“介護うつ”

“うつ”は日本人の10人に1人が発症するともいわれている一般的な病気でありながら、きちんとケアをしないと自ら命を絶つこともある怖い病気です。
2005年に厚労省が行った調査では介護者の4人に1人が介護うつ状態にあるという驚くべき実態も報告されています。
この原因は、ストレスや経済的負担、肉体的負担、孤独、燃え尽き症候群などと言われています。特に家族の介護を自宅で行う場合だと、常に介護を必要とする家族を優先して自分自身を犠牲にしてしまうことが多くあり、介護うつを発症する理由のひとつとなっています。
現に、同居する家族を介護する介護者に日常生活においてストレスがあるかを問う設問に対し、ストレスが「ある」を回答した人は全体の約7割となっています。
さらに、主な介護者の悩みやストレスの原因として最も多いのが「家族の病気や介護」であり、介護がいかに精神的に大きな労苦を与えるのかが見て取れます。

上記のグラフからは、家族の病気や介護に悩み、ストレスを感じている人が多いことがわかります。
介護うつの現状について
子育てと違って終わりの見えない介護だからこそ、負担は大きいもの。
自宅で家族の介護をしているとさまざまな苦労が生じてきます。
厚生労働省が発表している資料によると、介護で苦労した内容として最も多いのが「排泄介助」。
次いで「入浴介助」や「食事」が上がっており、在宅介護に従事している方はうなずける内容なのではないでしょうか?
順位 | 家族の在宅介護で苦労したと感じた内容 | 割合 | |
---|---|---|---|
1 | 排泄 | 排泄時の付き添いやおむつの交換 | 62.5% |
2 | 入浴 | 入浴時の付き添いや身体の洗浄 | 58.3% |
3 | 食事 | 食事の準備や介助 | 49.1% |
4 | 移乗 | 車椅子からベッド、便器、浴槽、いすへの移乗の際の介助 | 48.3% |
5 | 起居 | 寝返りやベッド、いすからの立ち上がりの介助 | 47.7% |
6 | 移動 | 屋内を歩いて移動する際の介助 | 37.8% |
7 | 認知症ケア | 認知症の症状への対処 | 28.9% |
8 | 見守り | 徘徊の防止や夜間の転倒防止の見守り | 28.2% |
9 | 外出 | 買い物などの付き添い | 19.4% |
10 | リハビリ訓練 | 歩行訓練などの付き添い | 16.1% |
こうしたストレスを抱えながらも、自宅で24時間介護のために高齢者に付き添っていると、自分自身の時間を持つことも難しくなり、精神的ストレスを誰かに相談する機会も自然と減ってしまいます。
「気分が落ち込むことが多くなった」「食欲がない」「喜びや楽しみを感じられない」というような症状が見られはじめたら、もしかしたら介護うつかもしれません。
周囲にも気付かれにくい“介護うつ”

「介護をしている人が、介護うつになってしまっている」と、すぐに誰かが気がつけるような環境の場合、介護をする人の介護うつが深刻化することはあまりありません。
なぜなら介護をする人の周りには、常に誰かがいて、介護に関しても日頃から協力してくれる体制が整っているはずだからです。
こうしたケースと違って怖いのが、介護をする側が介護うつを発症している事を、誰も気がつかない場合です。
在宅介護を担う人の中には、社会との接点がほとんどなく、1人で介護を担っていたり、家族の協力が得られなかったりすることが多くあります。そのため、介護うつを発症している人が多く、一点集中的に介護の負担がのしかかっている場合が少なくありません。
社会からの孤立、自宅内での介護などさまざまな要因から、介護うつ患者数を正確に把握することは難しいのが現状。しかし、深刻な状態に陥っている介護者が多いのではないかと考えられています。
介護うつにならない工夫を

肉体的にも精神的にも、1人で担うことが難しい介護。だからこそ、家族がいるなら、よく話し合い、できるだけ介護は分担するように協力しあうことが大切です。
介護者と一緒に住んでいるか住んでいないかといったことは関係ありません。
自分のことを「ストレスには強いほうだ」と思っていても、精神的なストレスをまったく受けないということはあり得ません。むしろ誰かに頼ることが苦手な場合も多く、そうした場合は突然、介護うつ状態になってしまうことも珍しくないのです。
介護うつを予防するためには、介護にかかる負担を軽減しようと仕事を辞めるという選択肢を選ぶ方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、介護離職は経済的負担の増大、社会とのつながりの減少などさまざまなデメリットが多いのも事実。
自分自身の時間や世界を持つことは、介護に伴うストレスを上手に発散するためにも大切なことです。
近年、「認知症カフェ」や「介護者の集い」などを自治体や地域のボランティア団体などが主催しているケースも増えつつありますから、こうした活動に勇気を出して参加してみるのも、介護うつを予防するためのひとつの対策です。身近に相談できる人がいない方でも、地域での介護や医療、保健、福祉をサポートする地域包括支援センターなどに相談し、専門家からアドバイスを受けましょう。
そして自分の時間を作り、リフレッシュするように心がけていくことが大切です。
介護従事者による高齢者虐待
次は、在宅サービスや介護施設などで働く介護従事者による虐待についてみていきましょう。
以下のグラフは、介護従事者による虐待を種別に表したものになります。

介護従事者によるケースでは、身体的虐待が50%を超え、高い割合で起きていることがわかります。
介護施設で虐待が起こる理由①人手不足
介護施設で虐待が起こる理由のひとつが、人員不足による職場環境の悪化だと言えます。
人手不足の状況では、スタッフ一人ひとりの負担が重くなってしまい、ストレスや疲労を蓄積し続けてしまうことになります。そのため、そうしたストレスのはけ口として、入所している方への虐待が起こってしまうと言われています。
介護施設で虐待が起こる理由②職員の教育不足
もうひとつ虐待が起こる理由としては、職場教育の不足が挙げられます。
介護スタッフの中には、入居する方に対する接し方のマニュアルや、効率的な作業の仕方を十分に学ばないまま、慣れない仕事に直面する人も。その場合、入居している方へのストレスを虐待という方法で発散してしまう事態が起こります。
介護施設で虐待が起こる理由③被虐待者に認知症の症状がある
先ほども触れたとおり、高齢者虐待には社会的要因や人間関係、高齢者や虐待者の状況などさまざまな要因が考えられます。
例えば2016年に行われた「平成28年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)報告書」を見てみると、虐待されている高齢者のうち、実に約84%の人に認知症症状が認められ、認知症と虐待には深い関係があることが見て取れます。

認知症高齢者への虐待は、介護者に対する適切なサポート体制が整っていないことや、被介護者の言動からくる介護者の介護負担の増大などが原因と考えられます。
高齢者虐待に対する国の対応
現在、政府は全国の知事に対して以下の4つの項目を通知し、各自治体に虐待への対応を求めています。
- 虐待についての相談窓口の設置、報告手順の標準化
- 職員に対する研修と、虐待の早期発見への体制強化
- 初期段階における迅速かつ適切な対応
- 地域の実情に応じた体制整備の充実
虐待は、繰り返されるうち、その行為自体が自然なものとなってしまい、その内容がより酷いものになってしまうと言われています。
そのため、虐待の初期段階で迅速に対処することが必要です。当事者はもちろん、周囲の人も、事後だけでなく、事前に虐待について相談できる窓口を確認しておくべきでしょう。
窓口は、各市町村や、地域包括支援センターなどで設置してあります。
高齢者虐待防止法とは

高齢者の虐待が問題視されたのを受け、平成18年に「高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が施行されました。これによって、国、地方公共団体、国民、保険・福祉・医療関係者は、高齢者虐待防止のための責務を負うこととなっています。
介護関係者や介護施設に家族を預けている方、行政関係者は、高齢者側に虐待されている認識がなくてもその実態を把握し、防止策や対策を図ることが求められます。
また介護者は、この法律の存在と詳細をきちんと理解し、日ごろから常に虐待に注意して介護を行うことが大事です。そして介護負担を抱え込みすぎず、ストレスを別の場所で上手に発散することが、虐待の防止を考えるうえで重要です。
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高齢者虐待防止法はいつから?
高齢者虐待防止法は2006年4月1日に施行されました。介護職員や施設入居者の家族など、高齢者の虐待防止をしつつ、早期発見・対策を進めていくことを目的としています。
高齢者虐待法はなんでできた?
高齢者虐待が起きる要因は家族間の場合、介護疲れ、老老介護、単身介護、介護への知識不足、経済的負担、長期にわたる介護ストレスなどです。
施設内で起こる虐待の要因は人手不足によるストレス、職場の教育不足、入居者の認知症症状などがあるためです。
高齢者虐待は何種類?
高齢者虐待の種類は主に5種類に分けられ、身体的虐待、介護・世話の放棄や放任(ネグレクト)、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待に分けられます。
高齢者虐待は誰から受ける?
家庭内での高齢者虐待で多く見られる続柄は息子(39.9%)です。続いて夫の22.4%、娘の17.8%、妻の7.0%へと続きます。