介護予防運動指導員とは
1.仕事内容
介護予防運動指導員は、高齢者が要介護状態とならずに自立した生活が送れるように、身体ケアについて指導する専門家です。
地方独立行政法人の東京都健康長寿医療センター研究所が主催している民間資格の取得により就労できます。
以下では、介護予防運動指導員の仕事内容とその養成事業の実情、さらに介護予防指導士や機能訓練指導員などとの違いについてご紹介しましょう。
利用者一人一人に介護予防プログラムを提供
介護予防運動指導員の仕事内容は、利用者の方一人ひとりに合った介護予防プログラムを考え、実際に筋力トレーニングや口腔訓練などの指導を行うことです。
介護予防プログラムは利用者の方がどのような身体状況であるかによって変わってきます。
例えば、足の筋肉が衰えている方には歩行訓練をはじめとする運動訓練、食べ物を咀嚼して飲み込む力が弱くなっている方には誤嚥を予防する訓練などを行います。また、栄養面に問題がある方には、普段の食生活を見直す栄養指導も行います。
さらに、実行に移した介護予防プログラムの効果はどのくらいだったのかを、客観的に事前評価・事後評価を行うのも介護予防指導員の役割です。
2.介護予防運動指導員養成事業とは
介護予防運動指導員養成事業とは、高齢者の介護予防に貢献する指導員を養成するために設けられた事業で、東京都健康長寿医療センター研究所に指定されている事業所が行っています。
この事業では、同センターが提供している介護予防プログラムの理論や高齢者の筋力を高めるためのトレーニングを、介護予防主任運動指導員が講義、演習を実施しています。
受講対象となるのは、医師や歯科医師、看護師などの医療関係者や介護福祉士などの介護職、さらに理学療法士や作業療法士といったリハビリの専門家など、職種を問わず多岐に渡ります。
3.他の資格との違い
介護予防指導士との違い
介護予防指導士とは介護予防につながる運動法を指導できる専門職で、日本介護予防協会が資格の認定を行っています。資格取得のための研修の受講時間は21.5時間。介護予防運動指導員の場合だと31.5時間の研修が必要であるため、資格取得までの時間に違いがあります。
また、受講資格については、介護予防指導士だと実務経験が問われません。一方、介護予防運動指導員の研修を介護の資格で受講する人は、実務経験が必要なケースもあります。
こうして比べると、介護予防運動指導員の方が資格取得の難易度は高いと言えるでしょう。しかし介護予防運動指導員は求人の多い専門職であり、就職・転職という点では有利です。
機能訓練指導員との違い
機能訓練指導員とは、利用者の心身状態に適した機能訓練を実施し、自立して暮らしていけるように支援を行う専門職のことです。
その仕事内容は、利用者の生活環境や身体機能を評価し、本人と家族の意向を確認しつつ機能訓練計画表を作成すること、そしてその計画表にそって本人に機能訓練を行います。
介護予防運動指導員との大きな違いの1つが、機能訓練指導員はあくまで職種であり、そういう名称の資格はないという点です。
ただし、機能訓練指導員として認められるためには、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、看護師または准看護師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師などの資格を保持していることが求められます。
運動器機能向上加算とは
利用者が要介護状態になることを防ぐことを目的とした「運動器機能向上加算」と呼ばれる加算があります。これは要介護認定で「要支援1~2」の認定を受けている利用者が要介護状態になることを防ぎ、より長く自立した生活を送れるように個別的に実施されるサービスを評価する加算です。
対象となるのは介護予防通所リハビリテーションと介護予防通所介護事業所。加算を受けるには、機能訓練指導員の仕事に関わる理学療法士や言語聴覚士、作業療法士などの専門家を1名配置していることや、理学療法士や介護職員などの関係者が共同で「運動器機能向上計画」を作成し、個別に実施、評価していること、などが必要です。
介護予防運動指導員になるには
1.受講対象者
介護予防運動指導員養成講座を受講するには、以下のいずれかの条件を満たしていることが必要です。
- 介護職員初任者研修を修了し、実務経験が2年以上ある人
- 介護福祉士実務者研修修了者
- 介護支援専門員(ケアマネージャー)の有資格者
- 健康運動指導士等の有資格者
- 医療系の国家資格(医師や歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、保健師、助産師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師、栄養士、はり師、きゅう師、臨床検査技師、精神保健福祉士、歯科衛生士など)
2.講習内容
認知症予防や筋力向上トレーニング
介護予防運動指導員の講習時間は合計で31.5時間。講義と実習で構成されています。
具体的な科目としては、介護予防評価学特論および実習、高齢者筋力向上トレーニング特論および実習、転倒予防特論および実習、尿失禁予防特論および実習、口腔機能向上特論および実習、認知症予防特論および実習など。
「介護予防概論」や「高齢者の社会参加と介護予防」、「うつ・孤立・閉じこもり予防特論」といった講義のみの科目もあります。
資格に運動という名称が付いているので、身体面のみ対象とすると思われがちですが、認知症予防やうつ・孤立・閉じこもりの予防など、心のケアの面も学習範囲です。また、老年学や高齢者の社会参加、リスクマネジメントなども含まれ、介護予防にかかわる総合的な知識を学ぶことができます。
3.合格率・難易度
介護予防運動指導員の合格率は、講座を終えた後に行われる試験ですのでかなり高いと予想されます。各科目の講義と実習の内容を理解し、日々きちんと学習を続けていれば、合格ラインに達すると考えて良いでしょう。
ただし、学習範囲は広いので、よく理解できなかった科目などを作らないよう注意が必要です。学習したことを復習し、不得意科目をなくすことが大切です。
4.受講期間・費用
介護予防運動指導員の資格を取得するために必要な研修の合計時間は31.5時間ですが、どのくらいの期間をかけて学ぶのかは研修先によって違うので注意が必要です。
5日程度で集中して学べる場合もあれば、日々少しずつスクーリングを行って1ヵ月程度の時間をかけて実施されることもあります。
資格取得までにかかる費用は概ね9万円前後です。働きながらでも無理なく受講できるカリキュラムを準備していることも多く、なかには最長で1年まで受講期間を延ばせる場合もあるので、自分に合った研修先を選択しましょう。
5.資格は3年ごとに更新
介護予防運動指導員の資格は、取得後に3年に1回の頻度で更新が必要です。ただし、研修を受講する必要はなく、更新日が近づくと連絡がくるので、登録更新申請書に写真を張り付けて送付するだけで更新できます。
なお、通常の更新頻度は3年に1回ですが、前回の登録時から住所や氏名に変化があったときは、すぐに変更手続きが必要です。
6.資格取得のメリット
介護予防運動指導員の資格を取得するメリットは、研修を通して、高齢者が介護予防に取り組むうえで必要なことを一通り学べるという点です。介護予防の知識やスキルを身につければ、介護職員としてのケアの質を高めることにつながるでしょう。
また、2018年の介護報酬改定において「自立支援と介護度の重度化防止」に焦点が当てられるなど、近年は国を挙げて介護予防に力を注いでいます。
それに伴い、介護予防の専門家である介護予防運動指導員へのニーズは高まりつつあると言えるでしょう。老人ホームなど高齢者向けの施設、介護事業所などに就職・転職する際、介護予防運動員の資格は自分の強みにできます。
なお、介護予防運動指導員の活躍の場は、介護事業所だけではありません。厚生労働省は、地域交流サロンや民間運営のフィットネスジムなどにおける介護予防教室も推進していることから、資格取得により介護施設以外の場所でも就職・転職できる機会を得られます。
さらに介護予防運動指導員は、働き方の面でも利点が多いです。介護施設で働く場合でも、介護職にはつきものの夜勤や残業は基本的にありません。仕事とプライベートを両立させながら介護の分野で働きたいという方には、最適の資格と言えます。
介護予防運動指導員の給料は?
1ヵ月あたりの実賃金
勤務先にもよっても変わりますが、介護予防運動指導員の平均月収は25~30万円ほど。アルバイトやパートだと時給1,000~1,500円ほどが相場。一般的に、介護職員として介護施設などで働く場合よりも高収入になることが多いです。
特に、リハビリサービスを提供している施設や医療施設では介護予防運動指導員に対するニーズは高くなりますので、本人の実務経験や実績次第ではさらに給料が高くなるでしょう。
介護予防専門指導員の有資格者は、介護予防に関するより専門的な知識・スキルを持っていると評価されます。介護予防の現場では有資格者が不足しているのが現状。資格取得により手当を支給するという優遇制度を設けているケースもあります。
介護予防運動指導員の将来性
1.将来性のある資格
高齢者・障害者の身体機能を高め、要介護状態に陥ることを防ぐ介護予防サービスを提供するうえで、介護予防運動指導員は不可欠な存在です。
資格取得により質の高い介護サービスの提供を実現でき、さらに自身のキャリアアップにもつながることから、医療・福祉従事者の間で資格を目指す動きが強まっています。
超高齢社会の日本では、介護予防のプロフェッショナルへのニーズは高まる一方です。将来性の高さという点では、介護予防運動指導員は申し分ない資格と言えるでしょう。
2.資格を活かせるシーン
介護予防運動指導員の資格は、総合病院やリハビリセンターなどの医療施設、高齢者向けの介護施設、身体障害者施設、訪問介護事業所などで生かすことができます。
さらに、医療・介護の分野だけでなくスポーツの分野でも活用でき、フィットネスクラブやスポーツ施設のインストラクターとして働く際に、自分の強みにできるでしょう。
高齢化が進む日本では、国全体で介護予防に力を入れています。市区町村から介護予防の指導員として、介護予防運動指導員の有資格者が派遣されるケースも少なくありません。資格取得により、仕事の幅が大きく広がるのは間違いないでしょう。
3.有資格者を対象とした研修
介護予防運動指導員の有資格者を対象としたスキルアップの研修が、さまざまな場所・機関で実施されています。
例えば資格の認定を行っている地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所では、「介護予防運動指導員フォローアップ研修」を随時開催。スキル向上の機会を提供しています。
また、公益社団法人日本鍼灸師会でも「介護予防運動指導員スキルアップ研修会」を実施。有資格者を対象に講師を招いての講座を行っています。