介護事務とは
介護事務とは、介護サービスを提供する施設・事業者に勤務して、受付業務や介護報酬請求業務など、介護関連の事務を担う職のことです。介護保険制度に関する専門的な知識が求められ、勤務先となる施設・事業所によって仕事の範囲が変わってきます。
介護事務のメイン業務ともいえる介護報酬請求業務は、事業所の経営に直結する仕事です。
そのほか、電話応対や来客の対応などの窓口業務、事業所によっては、備品の管理や職員の労務管理なども担う場合があります。
医療事務・一般事務とはどう違うの?
介護事務と比較される職種の1つが医療事務です。しかし介護事務と医療事務は、勤務場所と仕事内容の点で違いがあります。
医療事務は病院や診療所といった医療機関に勤務し、そこで働く医師や看護師、利用する患者さんとかかわりながら仕事をするのが基本です。
仕事内容については、医療事務も介護事務と同様、請求業務がメイン。厚生労働省が指定する診療報酬点数表に基づいて診療費を計算し、患者と国、各種健康保険組合に請求を行います。
一方、介護事務は介護サービス施設・事業所に勤務して、請求業務では、介護サービス利用料を計算し、利用者および国民健康保険団体連合会に対して請求するのが特徴です。
さらに介護事務は、介護関連の知識を有するという点で、一般的な事務職とは大きく異なっているといえます。
一般企業での事務経験があっても、転職により介護事務として働く場合は、介護保険制度や介護サービスについて一から勉強する覚悟が必要でしょう。
仕事内容は介護職の業務支援
介護事務の業務は以下の4つです。それぞれの業務内容について、以下でくわしくご説明します。
- 介護報酬請求業務(レセプト作成)
- 電話や来客の対応
- 労務管理
- 備品購入や修繕
1.介護報酬請求業務(レセプト作成)
介護報酬請求とは、国民健康保険団体連合会に毎月請求書を提出して、国民健康保険団体連合会から介護報酬をもらうための業務です。
介護サービスの利用料は、介護サービス制度の運営主体(全国の市町村や東京23区)が7~9割を保険料や税金で補填、利用者が残りの1~3割を自己負担しています。
1~3割の利用料は施設が直接利用者に請求して支払ってもらいますが、残りの7~9割は「介護報酬」と呼ばれ、毎月レセプトを作成して国民健康保険団体連合会に請求しなければいけません。
正式には「介護給付費明細書」と呼ばれるレセプトに、介護保険制度で定められている介護給付費単数表の単位にしたがって、利用者ごとに、利用した介護サービスの内訳を計算して記載し、国民健康保険団体連合会に介護報酬を請求します。
また、利用者に請求する1~3割の利用料も、毎月請求書を作成して、現金や口座振替、振込などで集金します。
2.電話や来客の対応
施設や事業所に掛かってくる電話は介護事務員が受けて対応します。
関係機関からの事務連絡、利用者やその家族からの問い合わせ、職員からの業務連絡などが主な内容です。
介護事務員の把握している範囲で応対することもありますが、直接職員を呼び出したり、担当部署に電話を回したりと、臨機応変に対応しなければなりません。
また、受付である介護事務員は施設の顔なので、来客の応接も重要な仕事です。
関係機関や業者の打ち合わせ、利用者の見学などに対応し、応接室や会議室に案内して、お茶を出したりエアコンの調整をしたり、施設を案内したりといった仕事を行います。
3.労務管理
介護事務員は施設長や管理者の指示のもと、労務管理の業務に、サポートするかたちでかかわることがあります。
職員の求人の際、ハローワークや人材派遣会社との連絡調整、採用時に必要となる労働条件通知書の作成や各種保険の手続きなど、総務の事務を担当します。
また、雇用関係の手続きでかかわりの深い税理士や社会保険労務士とのやりとりも、介護事務員の仕事のひとつです。
さらに、給与計算や振込といった一連の勤怠管理も大切な仕事です。
施設の職員にとって毎月の給料日に給与が正しく振り込まれていることは、生計を立てるうえで何より重要です。
1円たりとも数字に間違いがないように、業務に対して慎重に向き合う姿勢が大切です。
4.備品購入や修繕
事務用品やオフィス家具、施設で使う介護用品やベッド、テーブル、チェストなどの備品購入を行います。
その際、業者への見積もりから発注、受け取りから支払いまでの一連の流れを担当するのも、介護事務員の仕事です。
地域の事務用品店や介護用品店、関連の卸業者を利用するほか、最近はビジネス向けのネット通販サイトで購入するケースも増えています。
備品は予算の範囲内で購入しなければいけないので、無駄のない買い方が必要です。
また、事業所や施設の建物の修繕や敷地の管理も介護事務が行います。
老朽化した部分の修繕を工事業者に依頼したり、敷地の芝生や植栽の管理を専門業者に相談するなど、施設長や管理者の判断を仰ぎながら施設の維持修繕に努めます。
介護事務になるまでの流れ
介護事務になるには、介護報酬請求業務を行っている介護施設や事業所の採用に応募。
採用されれば、すぐにでも介護事務として勤務することができます。
介護や福祉の専門教育課程を経ていない方でも、介護現場で仕事を始められることが最大のメリットです。
1.資格なしでも働ける
介護事務員になるのに資格は不要です。
同じ介護施設で働く介護福祉士や介護支援相談員などは国家資格や公的資格が必要な一方、あくまで事務職として働くというのが介護事務の特徴です。
ただし、介護事務の知識やスキルを認定する民間の資格がいくつかあります。
民間の団体が定期的に資格取得のための試験を実施していて、合格すれば、就職活動時に履歴書に記入して知識やスキルをアピールすることが可能です。
2.就職に有利な4つの資格と試験
介護事務を行うための条件となる資格はありませんが、取得しておくと就職時に有利になる資格は複数あります。
どれも介護事務に必要な知識を体系的に身につけることができる資格ばかりですので、介護事務を目指す際に取得の検討をお勧めします。
ここでは以下の4つの資格について紹介します。
- 介護事務管理士
- ケアクラーク
- 介護保険事務士
- 介護保険事務管理士
1.介護事務管理士
介護事務管理士は、介護サービスを提供する施設・事業所において、受付や会計、レセプト業務などを担えることを証明する資格です。
資格の認定はJSMA技能認定振興協会が行い、「介護事務管理士技能認定試験」に合格すれば資格を得ることができます。
受験資格の制限はなく、試験の回数は年6回です。
全国各地の主要都市が会場となっているほか、指定の通信講座を受講している場合、自宅での受験も行えます。
2.ケアクラーク
ケアクラークとは、介護事務に求められる知識・スキルに加えて、高齢者・障がい者の心理や医学に関する一般知識、人とのコミュニケション方法に関する知識を評価する資格です。
一般財団法人日本医療教育財団が行っている資格試験に合格することで取得できます。
試験に合格するには、学科試験と実技試験でそれぞれ7割以上の得点が必要です。
合格に向けた学習は指定の専門学校で行うことができ、通学講座だけでなく通信講座もあります。
3.介護保険事務士
介護保険事務士とは、介護報酬の請求事務や相談窓口業務、ケアマネージャーの業務支援などの作業を行う能力・スキルを証明する資格で、一般財団法人つしま医療福祉研究財団が実施しています。
資格取得には所定の資格試験の合格が条件です。
ただし現在のところ、認定されている教育機関は介護関連の4年制大学、短大、専門学校と定められています。
そのため資格の取得だけを目的とした、数ヵ月単位で短期間だけ受講・修了することは難しいのが現状です。
4.介護保険事務管理士
介護保険事務管理士も介護報酬給付請求事務を行えることを証明する資格で、こちらは一般財団法人日本病院管理教育協会が実施しています。
同協会が指定している大学、短大、専門学校にて所定のカリキュラムを修了することが、資格取得の必須条件です。
そのうえで、「医事管理士」「病歴記録管理士」「医療事務士」「介護保険事務管理士」という4つの資格認定試験のうち、介護保険事務管理士を含む2つ以上の試験に合格し、認定申請を行うことで資格を得ることができます。
介護事務(事務員)の給料はいくら?
月収 | 16万円~18万円 |
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年収 | 240万円~390万円 |
時間給 | 800円~1,200円 |
一般的な事務員として介護事務で働くケースでは、月収は16万円~18万円、年収は240万円~390万円ほどになります。
また、パートやアルバイト、派遣社員として働くときは、時給800円〜1,200円程度です。
ただし、介護事務員は現場の介護職員として働きながら、事務仕事もこなさなければならないケースが少なくありません。
その場合は、ヘルパーや介護福祉士、ケアマネージャーの給料があてはまることが多いようです。加えて、事務業務を兼任する介護職員には資格手当や夜勤手当などがつくこともあります。
このように、給与や年収は介護事務のみの職員よりも、介護事務と現場の介護職を兼任するほうが高くなります。
介護事務の初任給や福利厚生、雇用形態別の収入など、詳しく知りたい方は「介護事務の給料を年齢や職場、都道府県ごとに徹底解説!」をご覧ください。
介護事務員の就職先は?
介護事務員が活躍できる場所は、介護報酬請求を行う施設や事業所で、例えば老人ホームや、訪問介護の事業所などがあります。
以下、介護事務員が活躍できる職場をまとめました。
勤務シフトや仕事内容を見ながら、自分に合う施設や事業所を選びましょう。
1.入所・入居施設
高齢者の方が入居する介護施設で介護事務員として勤務することができます。
入居者の方とかかわる機会も多く、将来介護現場で仕事をしてみたい方などにお勧めの就職先です。
ただし、介護施設では慢性的な人手不足で、介護事務のみ行う介護事務員はあまり多くはありません。
入居施設で働くこと考えている方は、将来的に介護関連の資格を取得することを考えておくと良いでしょう。
- 民間の有料老人ホーム
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 療養型医療機関
- グループホーム
- ショートステイ
2.介護事業所
在宅介護や通所介護を支えている事業所での需要も多くあります。
小さな事業所などでは、より身近に介護職員の仕事を見ることができるのが特徴です。
- デイサービス
- 訪問介護事業所
- 訪問看護事業所
- 福祉用具レンタル会社
3.訪問看護ステーションなど
- 居宅介護支援事業所
- 損害保険会社など
ヘルパーやケアマネなどにおすすめ
介護事務員は、介護のニーズが急増する介護業界で活躍したい人に向いています。
障がいや高齢のため自立した生活が難しい人たちを支援して、生活の質を向上させるために役立つ素敵な仕事です。
自分の仕事がどのようなお金の流れで収益として成り立っているのかを知ることは、リーダーや管理職を目指すときにも役立ちます。
介護保険制度や介護報酬請求業務の知識やスキルを身につけているヘルパーや介護福祉士は、運営側から活躍を期待される人材です。
介護事業所の運営が厳しくなっている現在、数字がわかる職員は、より責任のある立場に引き上げてもらえる機会が増えるでしょう。
また、介護福祉士やケアマネージャーなどを目指すなら、スキルアップの一環として介護事務の知識や経験は無駄になりません。
介護職のニーズは高まる一方
超高齢社会(65歳以上の人口が全人口の21%を占める社会)を迎えた日本では、今後も介護施設や介護事業所の役割は重要で、介護職のニーズは高まる一方です。
とくに介護保険制度は、国や地方自治体と連携して地域で介護を担っていくために運営されていて、介護報酬請求という国民健康保険団体連合会から保険金を受け取る仕組みが続く限り、介護事務の業務がなくなることはありません。
毎月のレセプト作成は単にパソコン入力すれば良いというものではなく、介護保険制度や介護についての知識を理解したうえで、数字や請求内容に誤りがないのか注意しながら進めることが必要です。
介護事務には特別な資格はありませんが、いきなり初心者や一般事務の経験のみで対応するのは簡単ではありません。
また、先にも述べたように、規模が小さい施設や事業所では、ヘルパーや介護福祉士などの介護職員が、日常の介護業務と合わせて介護事務を兼任していることが珍しくありません。
介護事務の知識やスキルを持っていれば、採用選考や就職後の待遇面で有利になるでしょう。