認定介護福祉士とは
認定介護福祉士とは、さまざまな利用者・生活環境、サービス提供形態等に対応するために、より質の高い介護実践や介護サービスマネジメント、介護と医療の連携強化、地域包括ケア等に対応するための考え方や知識、技術等を認定介護福祉士養成研修で修得した介護福祉士のことです。
一般社団法人「認定介護福祉士認証・認定機構」が主催している民間資格であり、介護福祉士の上位資格とされています。
国家資格ではありませんが、資格保有者は介護福祉士よりもさらに介護分野の知識、スキルを有する専門家とみなされます。
ここでは、認定介護福祉士の役割、介護福祉士との違いなどについて詳しく解説します。
認定介護福祉士の役割
介護サービスマネージャー
認定介護福祉士の役割は多岐にわたりますが、まず第1に各介護サービス事業所において「介護サービスマネージャー」としての責務を果たすことが期待されています。
利用者各人に対して最適、合理的な個別ケアを実施するのはもちろんのこと、同じ事業所で勤務するほかの介護職員への教育や指導、管理の役割も担います。
さらに、認定介護福祉士は、介護スタッフ一人ひとりのキャリアパスの支援にも取り組みます。スタッフのスキルアップや資格取得をサポートし、やりがいを持って働ける環境づくりに尽力します。
他職種との連携・協働の中核
認定介護福祉士は、利用者やその家族を支援するために、さまざまな職種との連携・協働の要となる存在です。
看護師、リハビリ専門職、ケアマネージャーなど、多職種からの情報収集と交換、共有を積極的に行い、それぞれの専門的なアセスメント結果を介護実践に活かします。
また、多職種連携チームの一員として、利用者の状況に応じた最適な支援計画の立案に協働で取り組みます。
各所の役割を理解し、スムーズな協力体制を構築することで効果的なチームアプローチによる利用者支援を実現することが期待されています。
地域とのかかわり
地域全体の介護力向上に資する専門家として、地域にある施設や事業所、ボランティアに働きかけ、地域全体の介護力を引き出すことも認定介護福祉士の役割です。
自治体や地域包括支援センター等との連携を密にとり、地域ケア会議での的確なアセスメントを通じて、地域の課題解決に尽力します。
さらに、町内会活動や認知症カフェへの参画、地域での勉強会の講師など、活躍の場はますます広がっています。
認定介護福祉士と他職種の違い
認定介護福祉士と介護福祉士の違い
認定介護福祉士と介護福祉士は、具体的にどのような点において違いがあるのでしょうか。
まずは資格の認定者が異なります。認定介護福祉士は民間資格であり、所定の養成研修を修了して認定されれば取得できる資格。一方、介護福祉士は国家資格であり、国家試験に合格し、登録を行う必要がある資格です。
また、役割も違います。介護福祉士は介護のプロフェッショナルとして、利用者に適した介護サービスやアドバイスを行うことが主な業務です。指導などを行う場合、対象は主にほかの介護職員に限られます。
一方、認定介護福祉士は、介護福祉士をメンバーとするチームのリーダー・責任者として、看護職やケアマネージャーなど多職種との連携を担う介護現場の中心的存在です。
さらに資格取得の要件も異なります。実務経験ルートの場合、介護福祉士は介護職として3年以上の実務経験が必要となります。一方、認定介護福祉士は、介護福祉士として5年以上の実務経験が求められます。
認定介護福祉士とケアマネージャーの違い
ケアマネージャーも認定介護福祉士も、どちらも介護福祉士からのキャリアアップにふさわしい資格であり、他職種の連携・調整を担うポジションですが、「業務を介護現場で行うか否か」が大きく異なります。
ケアマネージャーは介護サービスは行わず、介護保険利用者に対してのケアプランの作成が主な業務となるため、現場からは離れることになります。
一方、認定介護福祉士は介護現場でマネジメントを行うことを期待されたポジションです。
認定介護福祉士取得のメリット
特定処遇改善加算対象のため給与が上がる可能性が高い
2019年10月から特定処遇改善加算が導入されたことで、認定介護福祉士の価値が向上したと言われています。特定処遇改善加算とは、介護職員の人手不足を解消するために導入された介護報酬加算。その内容は、勤続10年を目安としたベテランの介護福祉士に対して、月額8万円程度の待遇改善を行うものです。
この加算の配分方法は事務所に一定の裁量が認められていますが、優先順位としては「経験、技能のある介護職員(リーダー級介護職員)」が最優先とされています。つまり、よりベテランの介護職員ほど、賃上げ率が高くなるわけです。
認定介護福祉士の資格は、この「リーダー級介護職員」であることを証明するための1つの基準となります。つまり、資格取得によってリーダー級介護職員とみなされ、待遇が上がりやすくなるわけです。
現場以外の仕事を増やすことができる
認定介護福祉士の資格を取得することで、介護現場での業務以外にも、幅広いキャリアパスを歩むことができます。
この資格は、教育や指導、マネジメントの能力を兼ね備えていることを証明するものであり、それらのスキルを活かして、現場での身体的負担を軽減しつつ、長く働き続けることが可能になるのです。
介護職の職業病の一つに「腰痛」があり、年齢を重ねるごとにその負担は大きくなっていきます。しかし、認定介護福祉士の資格を持っていれば、現場以外での仕事を増やすことで、持続可能な介護人生を歩むことができるでしょう。
キャリアアップを図りながら、自身の健康も守っていくことが可能です。
転職に有利
認定介護福祉士は、介護福祉士の上位資格であり、高度な専門知識と技術を有していることを証明する資格です。
この資格を取得することで、転職活動において大きなアドバンテージを得ることができます。
施設長や管理職への転職を目指す場合、リーダー的なポジションを求める場合、専門性を活かせる職場を探している場合など、さまざまなケースで有利に働きます。
認定介護福祉士の資格を持っていることで、採用担当者に対して、高いスキルと知識を持っているという印象を与えることができます。
また、資格取得後の実務経験で、他職種との連携や指導的立場を経験していれば、さらに転職先での適応力の高さをアピールできるでしょう。
認定介護福祉士取得のデメリット
費用・時間の負担が大きい
認定介護福祉士取得のデメリットはほぼありませんが、強いて言うならば資格取得のためのコストが挙げられます。
厚生労働省の調査によると、介護福祉士の資格を取得しない理由として、「(受験資格を得るのに必要な)実務者研修を受講するのに必要な費用負担が大きかった」との回答が52.7%と最多でした。
国家資格の介護福祉士資格ですら、研修の費用負担を理由として資格取得をあきらめる人が多いわけです。
民間資格であり、介護福祉士資格よりもさらに膨大な研修時間(600時間)と費用(長野県介護福祉士協会の例だと、定価で約60万円)を必要とする認定介護福祉士は、やはり取得までのハードルは高いと言えます。
認定介護福祉士の取得方法
認定介護福祉士養成研修を修了する必要がある
認定介護福祉士の資格を得るには「認定介護福祉士養成研修」を修了しなければなりません。認定介護福祉士養成研修にはⅠ類とⅡ類があり、受講するには以下の要件を満たす必要があります。
認定介護福祉士養成研修の受講要件
研修名 | 条件 |
---|---|
認定介護福祉士 養成研修Ⅰ類 |
・介護福祉士としての実務経験5年以上 ・介護職員を対象とする現任研修を100時間以上受講 ・研修実施団体が行ったレポートの課題あるいは受講試験において、一定の成績を修めている |
認定介護福祉士 養成研修Ⅱ類 |
・認定介護福祉士養成研修Ⅰ類を修了 ・介護職の小チーム(5~10名の介護職からなるチーム)のリーダーとしての実務経験を有する |
なお、Ⅰ類とⅡ類の両方とも、研修の受講にあたっては、居宅系・施設系サービス両方での生活支援の経験を有することが望ましい、とされています。
申込方法
認定介護福祉士養成研修は、主催者である認定介護福祉士認証・認定機構が直接実施しているわけではなく、同機構が認定している実施団体が行っています。
通常研修を実施、募集しているのは、都道府県の社会福祉協議会や介護福祉士会などです。研修の申込をしたい場合は、自分が住んでいる都道府県ではどの団体が実施しているのかを確認しましょう。
なお、受講にあたっては、個人ではなく事業所など法人単位で申し込みを行うケースもあります。まずは勤務先で認定介護福祉士養成研修の団体受講を行っていないか確かめてみましょう。
認定介護福祉士養成研修のカリキュラム
認定介護福祉士養成研修Ⅰ類
認定介護福祉士養成研修Ⅰ類では、医療、リハビリ、認知症、心理・社会的支援、福祉用具、住環境にかかわる新たな知識を学び、他職種との連携も含めた実践的な力を高めます。さらに、介護職からなる小チームのリーダーに対して指導を行ううえでの必要な知識も習得します。幅広い分野について、合計で345時間のカリキュラムをこなす必要があります。
具体的なカリキュラムは、認定介護福祉士養成研修導入(15時間)、医療に関する領域(60時間)、リハビリテーションに関する領域(60時間)、福祉用具と住環境に関する領域(30時間)、認知症に関する領域(30時間)、心理・社会的支援の領域(60時間)、生活支援・介護過程に関する領域(90時間)です。
認定介護福祉士養成研修Ⅱ類
認定介護福祉士養成研修Ⅱ類は、Ⅰ類を修了した人が受講する研修であり、Ⅰ類で学んだ知識を応用し、指導力や創意工夫する力、判断力など養います。
具体的なカリキュラムは、医療に関する領域(30時間)、心理・社会的支援の領域(30時間)、マネジメントに関する領域(105時間)、自立に向けた介護実践の指導領域(90時間)で構成され、合計で255時間です。
受講費用と期間
認定介護福祉士の研修時間は、Ⅰ類とⅡ類の合計で600時間。しかも科目ごとにスケジュールが定められているので、研修をすべて終えるまでに平均で1年~1年半ほどの時間がかかります。短期間でまとめて研修を受ける、といったことはできません。
さらに、養成機関によっては、カリキュラムの総時間が232時間もかかる介護福祉士ファーストステップ研修の修了が要求される場合もあり、その場合だと合計で800時間以上も受講する必要があります。
研修にかかる費用は実施団体によって多少変わりますが、認証団体の1つである長野県介護福祉士会の場合だと、定価で約60万円です。
介護福祉士ファーストステップ研修との違い
介護福祉士ファーストステップ研修とは、国家資格である介護福祉士の資格を取得してから2年程度の経験者を対象に行われる研修です。介護福祉士としてのキャリアアップや、小規模チームのリーダーを養成することを目的とした研修内容となっています。
受講のメリットは、自分自身が取り組んできたこれまでの業務を振り返り、リーダーシップスキルを高め、介護福祉士としての専門能力をさらに高めることができる点です。また、知識・スキルアップを図ることで、所属する事業所や利用者からの信頼も高めることができます。
認定介護福祉士研修と介護福祉士ファーストステップ研修との違いの1つは、受講に必要な実務経験。認定介護福祉士研修は5年であるのに対して、介護福祉士ファーストステップ研修は3年です。また、認定介護福祉士研修は合計で600時間が必要ですが、介護福祉士ファーストステップ研修は232時間となっています。
認定介護福祉士の給料・年収
厚生労働省の「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」によれば、介護職員の手当や一時金などを含めた月の平均給与額は下記の表のようになります。
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
29歳以下 | 29万円 | 28.3万円 |
30~39歳 | 33.7万円 | 30.9万円 |
40~49歳 | 35.9万円 | 31.8万円 |
50~59歳 | 33.9万円 | 31.7万円 |
60歳以上 | 27.9万円 | 29.1万円 |
認定介護福祉士の場合も介護福祉士とほぼ同水準~やや高め、といった金額になっていると推測されます。
しかし、資格取得までにかかる時間や費用を考えると、現状ではまだまだ十分な待遇を得ているとは言えません。将来的に認定介護福祉士の給料が上がることが期待されます。
認定介護福祉士資格の将来性
認定介護福祉士資格の人数
認定介護福祉士の資格を取得した方の人数はまだそれほど多くありません。
協会のHPによると、2023年12月時点で認定介護福祉士の登録名簿に名前があるのは170人程度です。
資格取得者が少ないのは、認定介護福祉士養成研修を受けるための要件として介護福祉士の実務経験が5年以上必要であること、研修時間が600時間も必要なこと、費用が高いこと、などが挙げられます。
認定介護福祉士資格は意味ない?
このように、受講要件の厳しさや取得コストの割に収入アップに直結しないことから「認定介護福祉士は意味がない」とささやかれることも多いようです。
しかし、認定介護福祉士は決して意味のない資格ではありません。
例えば、特別養護老人ホームで施設長を務めている方の場合、自身の職場において退職が続くチーム内に介入し、研修で学んだ組織論を展開することで、定着率の改善に成功しました。
また、地域での支援についての理解を深めた方の事例も報告されています。近隣住民や民生委員に依頼し、一人暮らしの高齢者の方へ定期的に声掛けをする仕組みを作ることによって、対象者の気持ちが前向きになるという成果が出たというのです。
このように、資格取得を通じて学ぶ知識は、そのまま業務に活きるものばかりです。
「必ず待遇が向上する」とは言い切れないかもしれませんが、認定介護福祉士の取得を通じて、より周囲から評価され、理想的な介護サービスを提供するために必要なソフトスキルとハードスキルをどちらも身に着けることができるでしょう。