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認知症ケア専門士とは?仕事内容や受験資格、試験の合格率を解説!

認知症の発症者に対し、専門的な知識・スキルを活かして介護にあたる専門家が「認知症ケア専門士」です。 この記事では、認知症ケア専門士の業務内容や資格の取得方法、メリット・デメリット、平均給与額などについて詳しく解説します。 認知症の方へ適切な介助を行いたい方や、認知症ケア専門士の資格をとってさらなるスキルアップを図りたい方など、ぜひ介護業界でのさらなるキャリアアップのために、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。

認知症ケア専門士とは、認知症の方が安心して入院生活を送れるように支援する仕事

認知症ケア専門士は、認知症の方が安全で安心して日々生活を送れるように、専門知識やスキルを基に支援を行うスペシャリストです。

一般的には介護職員やホームヘルパーなど、認知症の方と接する機会が多い職種の人がその資格を取得する傾向にあります。すでに介護福祉士など介護分野の資格を持ち、さらなる知識・スキルを身に付けるために取得する人が多いのです。

認知症ケア専門士の役割

高齢化が急速に進む中、介護の現場では認知症を発症して要介護状態となる人も少なくありません。しかし、認知症の方は徘徊をはじめ、人によってさまざまな症状が現れます。そのため、認知症ケアに関する知識・スキルを持つ認知症ケア専門士が、適切な対応を判断する役割を担うのです。

資格認定は日本認知症ケア学会が行っており、現在、認知症ケアのプロとして実践的な知識とスキルを持つ人材として、介護現場での活躍が期待されています。

仕事内容

認知症ケア専門士は、認知症の方に対する支援に困ったとき、より適切なケアの方法を提案して実践したり、同僚の介護職員・ホームヘルパーに助言したりします。そのため、資格保持者が重要なポストを任されることも珍しくありません。

認知症ケア専門士の資格は、介護・医療・福祉などの分野にかかわる職場で活用できます。介護サービスを提供する施設・事業所、特に認知症の方のみを受け入れるグループホームにおける需要は高くなっています。

また、介護施設・事業所に加えて、病院などの医療機関や地域包括支援センターなどにおいても、知識・スキルを十分に活用できます。

ほかの職種との違い

ケアマネージャーとの違い

認知症ケア専門士は認知症ケアにかかわる専門知識・スキルを持つ専門職です。それに対し、ケアマネージャーは利用者に対して要介護認定の支援やケアプランの作成、サービス調整などを行うケアマネジメントの専門職です。

ケアマネージャーには大きく分けて居宅ケアマネージャーと施設ケアマネージャーの2種類があります。

居宅ケアマネージャーは居宅介護支援事業所に所属し、在宅にて介護サービスを受ける方への支援を実施。施設ケアマネージャーは介護施設に所属し、入居者に対して支援を行います。どちらのケアマネージャーもケアマネジメントを担うという点において、仕事内容は同じです。

ケアマネージャーについて詳しく知りたい方は、「ケアマネージャー(介護支援専門員)とは?仕事内容から受験資格、就職先を解説」をご参照ください。

認知症介助士との違い

認知症介助士は日本ケアフィット共育機構が実施している資格で、認知症の方を社会全体で支えていくという理念のもとで2014年に設立されました。

そのため、介護職として働いている方はもちろん、身近に認知症の高齢者がいる一般の方、サービスの質を高めたい会社員の方などさまざまな方を資格取得者として想定しています。この点、介護職員やホームヘルパーなど介護分野で働く人が主な資格取得者となる認知症ケア専門士とは大きく異なります。

また、認知症介助士は認知症ケア専門士に比べると短期間で取得できます。取得方法には2種類あり、一つは自宅学習をしたうえで検定試験を受ける方法、もう一つは認知症介助セミナーを受講して、検定試験を受験する方法です。

認知症ケア指導管理士との違い

認知症ケア指導管理士は認知症ケアにかかわる人の専門性を高めることを目的に創設された資格で、職業技術振興会および総合ケア推進協議会の2団体が共同で認定を行っています。

初級と上級の2種類があり、初級は認知症ケアを行うための資格、上級は認知症ケアの指導者として、指導や管理を担う人向けの資格です。上級は合格率が低く、難関資格となっています。上級取得者には資格名にもある通り、指導・管理・人材育成の役割が求められます。

受験者は介護職・医療職が多く、この点は認知症ケア専門士と同様です。しかし指導者の育成を明確に視野に入れているという点において、認知症ケア専門士とは異なっているのです。

認知症ケア専門士の資格

認知症ケア専門士

認知症ケア専門士は、認知症介護に従事している人の自己研鑽や生涯学習の機会提供を目的に創設された資格です。

資格取得者は認知症の方に対して高度な知識・スキルに基づいたサービスを提供し、高齢化が進む日本の福祉に対して貢献する役割が期待されます。介護の現場で認知症に接する方、第一線で介護にあたっている方向けの資格です。

認知症ケア上級専門士

認知症ケア専門士には上位資格である認知症ケア上級専門士があります。両者の違いにより、法律上できる業務が変わるわけではありません。しかし、より専門性の高い知識・スキルを持つことを証明できる認知症ケア上級専門士の資格を取得することで、仕事の幅がさらに広がります。

認知症ケア上級専門士に期待されるのは、認知症ケアにあたるチームのリーダー、および地域における認知症ケアのアドバイザーとしての活動です。認知症の方に接する専門職としての倫理観を深く理解し、認知症介護の方法を理論の部分から説明できる能力が求められます。

認知症ケア上級専門士には、介護現場で認知症の方を介護することに加えて、施設全体・地域社会全体を視野に入れた活動が期待されているわけです。

認知症ケア専門士になるには

認知症ケア専門士になるには

受験資格

認知症ケア専門士の受験資格は、認知症ケアに関連する施設・期間において、過去10年以内で3年以上の認知症の人の介護にかかわる実務経験を持っていることです。

介護職としての実務経験、しかも認知症ケアにかかわっていることが条件であるため、介護職員・ホームヘルパー向けの資格だと考えられます。認知症ケア専門士の資格を取得してスペシャリストとして活躍したい場合、認知症ケアについて経験を積み、学べる施設に就職する必要があるのです。

受験資格を満たしていない場合

認知症ケアの実務経験3年以上という要件がある以上、学生や市民の方、これから介護職を目指そうと思っている方は、認知症ケア専門士資格の受験はできません。

受験資格を満たしていない人の場合、認知症のことを理解できる機会を提供すること、質の高い介護人材を輩出することなどを目的に創設された、認知症ケア准専門士の資格取得を目指すのも一つの方法です。18歳以上であれば誰でも受験でき、受験勉強を通して認知症ケアの基本についてしっかりと学べます。

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受験から資格取得までの流れ

認知症ケア専門士の受験から資格取得までの流れは以下の通りです。

手順 詳細
受験資格を満たす 過去10年以内に3年間の実務経験を有する必要があります
実務経験証明書と受験の願書を提出 願書はインターネット、電話、FAXにより一部1,000円で購入できます
一次試験 毎年7月頃に実施されます
一次試験の合格発表 毎年8月中旬頃に発表。試験結果が郵送されます
二次試験の受験申請 8月中旬~9月頃に、一次試験合格者は二次試験論述問題の論述、および第二次試験受験申請書類を提出します
二次試験の面接 毎年11月~12月頃に実施。受験票に記載されている会場でグループ面接が行われます
二次試験の合格発表 毎年1月下旬頃に行われます。インターネット上でも合否確認が可能です
登録申請・資格取得 所定の書類を作成・提出すると認知症ケア専門士としての登録が完了し、有資格者であることを証明するカードが送付されます

認定試験の概要

試験日

認知症ケア専門士の試験は毎年実施され、申込期間は3~4月頃です。2021年度認定試験の場合だと、第一次試験である筆記試験が2021年7月11日、第二次試験である論文・面接試験が2021年12月5日に実施される予定です(ただし、2021年度試験については新型コロナウイルス感染症の影響によって受験方式・受験日程が変更される場合があります)。

受験場所

認知症ケア専門士の試験会場は、第一次試験は札幌、仙台、東京、京都、名古屋、福岡の中から希望受験地を一つ選択します。第二次試験は札幌、仙台、東京、名古屋、神戸、福岡の中から希望受験地を一つ選択します。なお、上記の会場は2021年度試験の情報です。来年度以降は、変更される可能性がアップします。

受験費用

受験費用

認知症ケア専門士の受験費用は、第一次試験が1万2,000円(各3,000円で4分野)、第二次試験が8,000円です。試験に合格したら、資格認定の手数料として1万5,000円がかかります。また、試験勉強に使うテキスト代として、各分野合計で1万円程度かかるのが一般的です。受験対策講座などを利用すれば、別途費用が発生します。

試験内容

第1次試験は一問一答

第一次試験は、「認知症ケアの基礎」「認知症ケアにおける社会資源」「認知症ケアの実際Ⅰ:総論」「認知症ケアの実際Ⅱ:各論」の4分野から出題されます。試験形式は五者択一のマークシート方式です。出題数は各分野50問、合計200問となっています。

第2次試験は論述

第二次試験は、論述試験と面接試験があります。論述試験は認定委員会が出題する事例問題が出題され、特定の試験会場で執筆するのではなく、指定された期間内に執筆して提出するという試験形式です。

一方、面接試験は指定された会場で実施され、当日発表されるテーマに関して、スピーチとディスカッションを行います。試験時間はスピーチが1分程度、ディスカッションが20分程度です。

認知症ケア専門士の難易度は?

合格率と合格者数

合格率と合格者数

認知症ケア専門士の合格率は50%前後で推移しています。最近の合格率の推移をみると、2014年度試験が53.5%、2015年度試験が59.8%、2016年度試験が49.3%、2017年度試験が56.5%、2018年度試験が54.7%です。

合格者数については、受験者数が減少傾向にあるためここ数年は減少傾向にあります。最近の推移をみると、2014年が3,365人、2015年が4,375人、2016年が3,983人、2017年が3,266人、2018年が2,769人です。

受験者数が減少傾向にある理由

認知症ケア専門士の受験者数が減っている理由としては、介護事業所に配属義務のある資格ではないことや、就職や待遇面で目に見えて有利になるわけではないことなどが影響していると考えられます。

資格取得後も5年に一度更新手続きが必要

認知症ケア専門士の資格には5年の有効期限があり、資格を継続させるには所定の単位を取得して更新する必要があります。単位が満たなかった場合でも、申し出ることで最長1年間の保留が可能です。その保留期間内に単位を取得できなかった場合は、認知症ケア専門士の資格は失われます。

更新のための単位取得方法

資格更新には合格後もしくは前回更新後から5年以内に、認知症ケア学会が定める3つの分野において合計30単位以上取得する必要があります。

3つの分野とは「学術集会などへの参加」「生涯学習プログラムなどへの参加」「機関誌などへの論文発表」です。30単位のうち20単位については「学術集会などへの参加」と「生涯学習プログラムなどへの参加」による取得が必要です。

更新しないとどうなる?

更新を行わないと取得した資格は失われてしまいます。保留申請などを行えば、最長1年までの延長は可能です。しかしそれでも必要な単位を取得できなければ資格は消失します。

現在は認知症ケアにかかわっていないという人の場合、更新すべきかどうかは悩まれるかもしれません。しかし、再度資格を取りなおすためには時間も労力も必要です。将来的にまた認知症ケアにかかわる可能性があるのであれば、更新しておくのがおすすめです。

メリット・デメリット

メリット

資格を取ることで認知症ケアの知識が得られる

資格を取ることで認知症ケアの知識が得られる

認知症ケア専門士の合格率は5割程度です。そのため、しっかりと勉強に取り組まないと合格するのは難しいです。そこで学んで身につけたことは、認知症ケアの現場で役立ちます。

例えば、第一次試験では認知症ケアの理念や原則、認知症の人とのコミュニケーションの方法、認知症の人への在宅支援・施設支援のあり方など、認知症ケアに関する重要な知識を体系的に身につけることが可能です。第二次試験ではアセスメント力や介護計画の立案能力などが問われるので、試験対策を通して認知症ケアの実践方法を学べます。

就職や転職時に有利となる

介護保険施設においては、「日常生活に支障がある」と認められる認知症の高齢者にサービスを提供した場合、認知症ケア加算を受けることができます。加算を受ければ収益増となるので、施設側としては認知症ケアを行える体制づくりを整えたいわけです。

そうした施設では認知症ケア専門士へのニーズは高くなるため、就職・転職を有利に行える可能性があります。資格取得により、労働市場における自分の価値を高めることが可能です。

給料アップにつながる

認知症ケア専門士は民間資格なので、資格手当として給与額には影響しにくいと言われています。しかし近年、認知症の高齢者の増加に伴う認知症の専門家へのニーズの高まりにより、資格手当の対象とする施設・事業所も増えてきました。

仮に資格手当に反映されなくても、認知症ケア専門士資格を有していることで重要なポストを任され、昇給できる可能性があります。

デリット

配置義務がないため就職には結びつかない可能性も

認知症ケア専門士は、事業所に配置義務のある資格ではありません。そのため、資格取得が直接的な形で就職につながるわけではなく、あくまで自身のスキルアップや自己研鑽を目的としている資格です。

資格取得のための勉強法

資格取得を目指す場合、日本認知症ケア学会が監修するテキスト、専門書を使って勉強を続けることが大事です。介護職として働いているなら、勉強していて疑問点やわからない点があった場合、職場の上司や同僚に聞いてみると良いでしょう。

講座を受ける

認知症ケア専門士の場合、毎年2日間にかけて受験対策講座が開催されています。2019年度は横浜・京都にて実施され、参加費用は1万5,000円となっていました。講座への参加には、事前に公式テキストを購入しておくことが必要です。

オンライン講座(e-ラーニング)

オンライン講座(e-ラーニング)

近年ではeラーニング講座によって、認知症ケア専門士の勉強ができます。インターネット環境さえあれば、パソコンはもちろんスマホでも学習できるので、自宅以外の場所でも空いた時間を利用しての勉強が可能です。公式テキストの内容がわかりやすく解説されているので、独学では理解が難しいという方にはおすすめの勉強法といえます。

独学で勉強する

認知症ケア専門士の公式テキストを使用して独学で学ぶ場合でも、合格を目指すことは十分可能です。また、公式テキスト以外にも問題集やテキストが市販されているので、それらをあわせて使うとより理解が深まるでしょう。

アプリで勉強する

認知症ケア専門士の場合、過去問題を解けるアプリなどがあるので、ぜひ活用したいところです。過去問題を解き直すことが合格に近づく最適の方法です。

スマホで簡単に勉強できるので、場所を問わず繰り返し問題を解くことができます。

認知症ケア専門士の給料

平均給与額(1ヵ月あたり)

認知症ケア専門士の公式サイトによると、同資格の資格所有者数は2020年時点において約6万人です。職種別の内訳は介護福祉士が全体の27.9%、ケアマネージャーが20.8%を占めています。資格保有者の半数近くが介護福祉士、ケアマネージャーで占められているわけです。

「みんなの介護求人」の求人票によると、介護福祉士の月給(正社員)はおおむね20万円台前半、ケアマネージャーは20万円台後半であり、認知症ケア専門士の給与額もこれら専門職の額に近いと考えられます。就職後に勤続年数を重ねてキャリアアップを図っていけば、さらに給与額はアップしていくでしょう。

手当

最近では認知症ケア専門士の有資格者に対して資格手当を支払う施設・事業所も増えています。日本では高齢化は今後さらに進み、認知症の高齢者もそれにあわせて増加していく見込みです。認知症ケアができる人材へのニーズは将来的にさらに高まると考えられ、資格手当を支給する施設・事業所は今後も増え続けると予想されます。

認知症ケア専門士の資格が役立つ職場とは

認知症ケア専門士の資格が役立つ職場とは認知症ケア専門士の資格は、認知症の方が入所・利用している施設・事業所であれば重宝されます。特に、グループホームなど認知症の方を専門的に受け入れている施設では、認知症ケアのスペシャリストである認知症ケア専門士へのニーズは高いのです。また、医療機関、地域包括支援センターにおいても、認知症ケアに関する知識・スキルを十分に活用できます。

介護士

認知症ケア専門士公式サイトによると、認知症ケア専門士の2020年時点における有資格者のうち、27.9%が介護福祉士、15.7%がホームヘルパーです。全体の4割以上を介護現場で実際に介護を担う介護士が占めています。

介護士の中には認知症の方と接することに不安を感じ、ケアに自信を持てない方もいるでしょう。しかし介護士が不安を感じていると、その気持ちが利用者に伝わってしまい、よりコミュニケーションが取りづらくなってしいます。

認知症ケア専門士の資格取得を目指して勉強することで、認知症ケアに必要な知識を一通り身につけることが可能です。資格を取得すれば、誰もが認める認知症のスペシャリストとなり、ケアに自信をつけることもできます。

介護士や介護福祉士について詳しく知りたい方は、「 介護福祉士とは?仕事内容から受験資格、就職先を解説」をご参照ください。

看護師

認知症ケア専門士公式サイトによると、2020年時点における認知症ケア専門士の有資格者約6万人のうち、8,756人(13.7%)が看護師です。病院に入院する高齢者が認知症を発症している場合、あるいは入院後に認知症となった場合、認知症ケア専門士の資格を持つ看護師の専門知識・スキルが役立ちます。

今後日本ではさらに高齢化率が高まり、認知症を発症する高齢者も増加していくであろうことを考えると、認知症ケア専門士の資格を持つ看護師へのニーズは将来的にさらに高まっていくでしょう。

看護師について詳しく知りたい方は、「看護師とは?仕事内容から受験資格、就職先を解説」をご参照ください。

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