健康運動指導士とは
健康運動指導士とは、心身状態にあった安全で効果的な運動を行うためのプログラムの作成と指導をする専門家です。健康・体力づくり事業財団が認定している資格を取得することで、健康運動指導士として活動できます。
以下では、健康指導士の役割や他職種との違い、現状における資格保持者の人数などについてご紹介しましょう。
1.役割、目的
先述の通り、健康運動指導士は、保健医療の関係者と連携しながら、安全かつ効果的な運動を行うための運動プログラムの作成および指導を行うのが主な役割です。
近年の医療制度改革においては、生活習慣病予防が個々人の健康づくりのみならず、中長期的な医療費抑制策として位置づけられています。それに伴い、運動を指導する専門家の必要性が増しています。
特に、2008年度からスタートした特定検診・特定保健指導において、健康運動指導士は運動・身体活動支援の担い手として大きな役割を果たしてきました。ハイリスク者も対象とした運動指導を行うことができるスペシャリストとして、健康運動指導士はスタンダードな資格に位置づけられています。
2.健康運動指導士会とは
日本健康運動指導士会は、健康運動にかかわる指導者の知識や技能の向上を目的とした事業を実施している団体です。より多くの人々が健康保持と病気予防、介護予防を実現できるよう、日々活動しています。
具体的な事業内容には、以下のようなものがあります。
- 健康運動指導士と健康運動実践指導者の更新単位認定講習会の実施
- 健康運動指導者の研究交流会の開催
- 学術大会の開催
- スキル向上を目的とした各種講習会の実施
また、専門書籍の作成やWEBサイトの公開、会報誌の発行なども行い、広く情報の収集・提供も行っています。
3.他職種との違い
健康運動実践指導者との違い
健康運動実践指導者は、健康運動指導士と同じく健康・体力づくり事業財団が認定している資格です。健康の維持、向上を目的とした運動方法を考えるという点では両者とも似ていますが、役割に違いがあります。
健康運動指導士は運動プログラムの作成と実践指導計画の調整を担うのに対して、健康運動実践指導者は、作成されたプログラムに基づく実践指導を行うことができる者のことです。「運動プログラムを立案できる者」と「実践指導を行うことができる者」という点に違いがあります。
理学療法士(PT)との違い
理学療法士とは、病気や怪我、老衰、障がいなどが理由で運動機能が低下した人に対し、運動や電気、温熱、光線などの物理的方法によって機能改善を図る専門職です。リハビリを通して利用者・患者の日常生活動作(ADL)を改善させて、生活の質(QOL)を高める役割を果たしています。
健康運動指導士は、個々人の状態にあった運動プログラムの作成や実践指導計画の調整などの役割を担う専門職です。リハビリに特化した職ではなく、むしろリハビリを必要とする心身状態になるのを予防するという点を重視した運動計画を考えます。また、健康運動指導士が民間資格であるのに対して、理学療法士は国家資格です。
理学療法士について詳しく知りたい方は、「理学療法士とは?仕事内容から受験資格、就職先を解説」をご参照ください。
作業療法士(OT)との違い
作業療法士とは、病気や怪我が原因で障がいが生じた方に対して、「作業」を用いたリハビリを通し、日常生活を送るうえで必要となる心身機能の維持・回復を図る専門職です。
ここでいう「作業」とは、排泄や着替えなどを自力で行うこと、家事や仕事、余暇活動、地域活動など日常生活に関係するあらゆる行動が含まれます。実際にどのような形でリハビリが行われるのかは、個人によってさまざまです。
健康運動指導士の目的はリハビリそのものではなく、リハビリを必要とする心身状態になることを避ける疾病予防や介護予防が含まれます。また、理学療法士と同じく作業療法士は国家資格です。民間資格である健康運動指導士とは、認定者に違いがあります。
作業療法士について詳しく知りたい方は、「作業療法士とは?仕事内容から受験資格、就職先を解説」をご参照ください。
看護師、保健師との違い
看護師は、医師の診療をサポートし、病気や怪我に直面した人への医療的ケア、および患者本人とその家族に精神的なケアを実施する専門職です。
保健師助産師看護師法の第5条では、看護師とは厚生労働大臣の認定を受けて、傷病者あるいはじょく婦(分娩後~妊娠前までの状態にある女性)への療養上の世話や診察の補助を行う者だとが規定されています。
健康運動指導士はあくまで運動を通した健康の維持・向上を図る専門職であり、医療的ケアなどは行えません。また、医師への補助などを行うこともできません。看護師は国家資格、健康運動指導士は民間資格という点も異なります。
看護師について詳しく知りたい方は、「看護師とは?仕事内容から受験資格、就職先を解説」をご参照ください。
保健師について詳しく知りたい方は、「保健師とは?仕事内容から国家資格の取得ルート、就職先を解説」をご参照ください。
管理栄養士との違い
栄養管理士は、専門的な知識や技術を基に、食事を摂る人の心身状態に適した栄養管理や栄養指導、給食管理などを実施する専門職です。指導や管理を行う対象となるのは、健康な方から病気や高齢の方まで多岐にわたります。
健康運動指導士は運動プログラムの立案は行いますが、食事面でのサポートは行いません。管理栄養士も国家資格であり、民間資格の健康運動指導士とは資格認定者が違います。
管理栄養士について詳しく知りたい方は、「管理栄養士とは?仕事内容から受験資格、就職先を解説」をご参照ください。
4.健康運動指導士の人数
2020年4月現在、健康運動指導士として登録されている人の数は、全国で1万8,425人です。男女の割合は、女性の方が圧倒的に多くなっています。
現状、病院や介護老人保健施設、介護予防事業などの分野で活躍している人が多くなっています。
健康運動指導士の仕事内容
1.対象者との面談
健康運動指導士は、日常的に生活習慣病予防に取り組むことができていない方々と面談を行って、生活習慣改善の必要性を伝え、有効な運動の指導・アドバイスを行います。
また、運動をスタートさせた後、始めたときの目標をどの程度達成しているのか、面談を通してチェックするのも健康運動指導士の業務内容のひとつです。
2.運動プログラムの作成
健康運動指導士は、生活習慣病を予防し、健康の維持・向上につながる運動プランをまとめた運動プログラムを作成します。運動プログラムは対象者一人ひとりにあったものを作成する必要があるため、本人の日々の生活の様子をきちんと把握しなければなりません。対象者本人あるいはその家族としっかりと連絡を取り、健康増進につながる運動プログラムを作成する必要があります。
3.運動指導
運動プログラムに基づいて、計画通りに運動が行われているのかをチェックしながらの指導も行います。運動プログラムは各人の健康状態にあわせて作成されているため、内容に沿った形で行われないと効果は十分に得られません。計画通りに行われていない場合は、指導や修正を行いながら、目標達成に向けてサポートを続けます。
特定保健指導も行う
健康運動指導士は、特定保健指導も行っています。
2006年6月に実施された医療制度改革において、生活習慣病予防は、生涯を通じた個人の健康づくりにつながるだけでなく、中長期的な医療費適正化対策の一つとして位置づけられています。
実施されている生活習慣病対策(特定保健指導)では、一次予防(健康な人を対象とした予防措置)のみならず、二次予防(病気になっている人を早期に発見し、治療を行って病気の重篤化を防ぐ措置)も含めた運動指導の専門家が不可欠です。
こうした中で、2007年に誕生したのが健康運動指導士です。その養成カリキュラムでは、ハイリスク者も対象とした安全かつ効果的な運動指導法を学ぶことができます。
健康運動指導士が働く場所
健康運動指導士が活躍できる場は多岐にわたります。例えば以下のようなものが挙げられます。
- フィットネスクラブ
- 診療所・病院
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホームなど)
- 介護老人保健施設
- 健保組合・会社(健康管理部門)
- 保健所
- 学校
このほか、フリーで活動している健康運動指導士もおり、幅広い場で活躍が期待されている専門職だと言えます。
健康運動指導士になるには?
1.受講資格
健康運動指導士の受験資格を持つのは、以下の条件に該当する人です。
- 歯科医師、看護師、助産師、准看護師、薬剤師、あん摩マッサージ師、きゅう師、はり師、栄養士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、柔道整復師のうちいずれかの国家資格を取得していて、4年制大学を卒業している人
- ①と同等以上の能力があると健康・体力づくり事業財団が特別に認める人
- 保健師あるいは管理栄養士の資格を取得し、4年制体育系大学(教育学部体育学系を含む)を卒業し、かつ健康運動実践指導者の称号を持っている人
- 健康運動指導士養成講習会を受けて修了した人、または健康運動指導士養成校における養成講座を修了した人
2.資格取得までの流れ
健康運動指導士養成講習会を受講する
健康運動指導士養成講習会を修了することで資格取得を目指す場合、まずは受講申込書を提出して書類審査を受ける必要があります。受講資格があるのは以下に該当する人です。
- 歯科医師、看護師、助産師、准看護師、薬剤師、あん摩マッサージ師、きゅう師、はり師、栄養士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、柔道整復師の国家資格を有し、4年制大学卒業者
- ①と同等以上の能力を有していると財団が特別に認定する人
- 受講資格④~⑥を満たしている人
- 医師、保健師あるいは管理栄養士の資格を取得している人
- 4年制体育系大学(教育学部体育学系を含む)卒業者
- 健康運動実践指導者の称号を取得している人、スポーツプログラマー・フィットネストレーナー・アスレティックトレーナーのいずれかの資格を取得している人、GFIエグザミナーまたはGFIディレクターの資格を取得している人
以上の受講資格ごとに、講習会で取得すべき単位数は違います。
- ①②③の受講資格…104単位
- ④の受講資格…70単位
- ⑤の受講資格…51単位
- ⑥の受講資格…40単位
大学、専門学校などの養成校に通って試験を受ける
健康・体力づくり事業財団が指定している養成校(4年制大学)の養成講座を修了することにより、認定試験を受けることができます。養成校は同財団の公式サイトで紹介されているので、チェックしてみるとよいでしょう。
「スポーツ」や「健康」などの名称のつく学部のある大学で受講できるケースが多くなっています。地方の大学なども指定されているので、養成校で学ぶ場合は大学名を確認しておきましょう。
認定試験に合格する
健康運動指導士養成講習会または健康運動指導士養成校などで所定のカリキュラムを修了したら、認定試験を受験し、合格することが必要です。
認定試験は、3月・9月・11月の年3回、実施されます。試験の内容は、四肢択一式のマークシート方式です。
試験の開催場所および詳細スケジュールについては、健康・体力づくり事業財団の公式サイトにて確認できます。
3.試験内容と試験日
試験の実施期間は、例年2月上旬~3月下旬と9月下旬~12月初旬となっています。
2020年度下半期における健康運動指導士試験の日程は、2020年9月28日(月)~12月3日(木)にかけて実施された「第145回健康運動指導士認定試験」と、2021年2月8日(月)~3月21日(水)にかけて実施された「第146回認定試験」です。
なお、健康運動指導士養成講習会を経て受験する場合は、受講したコース(104単位、70単位、51単位)によって試験内容が異なるので注意しましょう。
試験の予約はオンラインでも申し込みできますが、同一期間内の再受験は不可です。試験実施期間は2ヵ月程度ありますが、その間に挑戦できるのは1度のみです。
4.受講費用と講習期間
健康運動指導士養成講習会の費用は、以下の通りです。
- 104単位コース…26万2,500円
- 70単位コース…19万4,500円
- 51単位コース…14万5,500円
- 40単位コース…12万1,500円
講習期間は前期(4月~9月)と後期(10月~3月)に分かれており、それぞれ半年の間に科目ごとに授業が実施されます。
5.資格・試験の難易度、合格率
健康運動指導士の資格を得るには、健康運動指導士養成講習会の受講もしくは養成校を卒業した後に、試験を受験して合格しなければなりません。
2019年度に行われた試験では、合格率は68.1%でした。約4割が不合格となるため、難易度は高めだと言えます。
6.資格更新の方法
更新必修講座を受講して必要単位を所得する必要がある
健康運動指導士には5年の更新期限があり、その間に更新手続きを行う必要があります。登録の更新をするには20単位を改めて受講する必要があり、専門講座の受講に加えて、「更新必修講座」を受講して「必修要件」を獲得しなければなりません。
なお、特別な事情によって更新必修講座を受講できない場合は、健康・体力づくり事業財団指定の「ミニマムテスト」を受けて合格することで、「必修要件」を得ることができます。
更新手続きを忘れた場合
登録更新手続きを忘れて資格を失効した場合は、認定試験に合格することで再登録ができます。
試験の詳細については健康・体力づくり事業財団の指導者養成部にご相談ください。
7.資格取得のメリット
健康運動指導士の資格を取得するメリットの一つとして、ほかの資格との相性の良さを挙げることができます。特に相性が良いと言われるのが、栄養士や管理栄養士の資格です。
栄養士は患者やアスリートの健康管理を栄養面から支援するのが主な仕事ですが、健康運動指導士の資格を取ることで、栄養面と運動面の両方からアドバイスを行えます。健康のスペシャリストとして自分の価値をより高めることができるわけです。
また、現代の日本では生活習慣病の人が増え、さらに高齢化の進展により健康に不安を抱える人が増加しつつあります。そのため、保健医療関係者と連携しながら対象者の健康状態を把握し、その人にあった運動指導を行うことができる健康運動指導士へのニーズは高まっています。資格を取得すれば、就職・転職時に有利となるでしょう。
健康運動指導士の給料・年収
保有資格ごとの平均給与額(1ヵ月あたり)
健康運動指導士の給料は、勤務先や本人の経験・スキルによっても変わってきます。全体としての平均月収は、医療保険機関・介護福祉施設だと約18万円、フィットネストレーナーだと約22万円。年収で換算すると、200~400万円程が平均値です。
正社員で働くのか、それとも時給制のパート・アルバイトで働くのかによっても収入は大きく変わってきます。就職・転職の際は、健康運動指導士の資格によって手当がつくかどうかも確認しておくとよいでしょう。
異業種から転職を成功させる方法
1.求人・就職状況・需要
生活習慣病患者の増加、高齢社会の進展という現代の日本においては、少しでも長く健康でい続けることが大きな課題です。医療費や介護費といった社会保障費を抑えるためにも、国は国民の「健康づくり」に注力しているという状況です。
こうした社会の状態は今後も続くと見込まれます。それに伴い、健康の維持・向上の指導を行うことができる健康運動指導士へのニーズも高まっていくことが考えられます。健康運動指導士の将来性は極めて高いと言えるでしょう。
2.履歴書の書き方
健康運動指導士として就職・転職する際には履歴書の作成が必須です。履歴書は自分の顔ともなる書類であるため、所定のルールに従って正しく記載する必要があります。
まず履歴書の日付については、郵送日もしくは持参する日を書くのが原則です。また、履歴書の書式が西暦か和暦かを確認し、それにあわせて記入しましょう。
氏名は略字などを使わずに、戸籍の漢字の通りに楷書体で丁寧に記入します。履歴書用紙にふりがなを書く際、「ふりがな」と印刷されているときはひらがなで、「フリガナ」とある場合はカタカナで書きましょう。
写真は縦4cm、横3cmが一般的です。スーツ着用で履歴書提出の3ヵ月以内に撮影したものを貼り付けます。スマホの自撮り写真やスナップ写真などは避けましょう。
学歴については、中学校卒業または高等学校入学から書きます。職歴欄には正社員の経歴のみを書き、アルバイトやパートは記載しないのが一般的です。ただし正社員として雇用された経験があるなら、勤務期間が短い場合でも書いておきましょう。
3.向いている人、必要な知識・スキル
健康運動指導士には、健康や身体の構造、運動に対する継続的な関心を持ち続けることが求められます。資格取得までだけでなく、就労して実際に多くの人と接することになってからも学び続ける姿勢が欠かせません。
そのため、運動指導のスペシャリストとして向上心を持ち続けることができる人が、健康運動指導士に向いています。
また、健康運動指導士は普段の業務の中で医師や看護師、リハビリ専門職など多様な保険医療関係者と連携する必要があります。各専門分野の人を尊重しながらうまく意思疎通を図り、チームとして行動する姿勢が不可欠です。
多様な立場にいる人と手を取り合い、目標に向かって団結しながら取り組める人は健康運動指導士に向いています。