准看護師とは
准看護師の仕事内容・範囲
准看護師とは、医師・看護師(正看護師)の指示を受けながら、診療時の補助や療養を必要とする方のお世話をする専門職です。各都道府県知事が発行する「准看護師免許」を取得している看護師であり、准看護師は介護福祉士に許可されていない医療行為も行うことができます。
准看護師が独自に判断して業務を行うことはできませんが、特に地域の診療所や高齢者向け施設では根強いニーズがあります。
看護師(正看護師)と准看護師の違い
業務内容・範囲
准看護師は、看護師と同様に広範な医療業務に従事します。
しかし、准看護師は独自の判断で医療行為を実施することは許されず、常に看護師や医師の明確な指示の下で行動する必要があります。
例えば、患者からの要望に応える際も、准看護師は担当看護師からの指示を仰ぐことが求められています。
また、看護師に指示を出すことはできません。経験や年齢を重ね、現場に精通していたとしても、新人の方が看護師である場合は指示を出せないため、もどかしく思うこともあるかもしれません。
免許の発行元
看護師は国家資格であり、厚生労働大臣が免許を発行します。
一方、准看護師は都道府県知事が発行する免許です。
ただし、准看護師の免許が都道府県知事から発行されるからと言って、特定の都道府県でしか働けないわけではありません。
准看護師は免許発行された都道府県内の医療機関であれば働くことができます。
免許の取得しやすさ
看護師は高校卒業後、看護系大学や看護専門学校に最短でも3年以上通わなければならないため、在学期間も長く、その間の費用も高くつきます。また、全日制のため働きながらの資格取得は難しいでしょう。
一方、准看護師であれば中学卒業後最短2年で就職できるので、コストをかけずに早く社会に出ることができます。さらに、准看護師の養成所のなかには、半日制や週3で働きながら授業が受けられるところもあり、働きながらでも資格取得することが可能です。
看護師(正看護師) | 准看護師 | |
---|---|---|
資格 | 国家資格 | 都道府県認定資格 |
業務内容 | ・血圧や体温などの測定 ・点滴・注射 ・介助・体位変換 ・手術の補助 ・患者のサポート |
看護師と同様 ただし、単独ではなく医師や看護師の指示が必要 |
資格取得にかかる年数 | 3年以上 | 2年以上 |
准看護師は廃止に?看護師との統合論も
近年、医療の高度化・複雑化に伴い、看護師に求められる専門性の向上や准看護師志望者数の減少を受け、看護師と准看護師の資格統一に関する議論が活発化しています。
例えば、日本医師会では准看護師の地域治療における初期治療分野での貢献を大きく評価しており、統合反対の立場を取っています。その一方で、日本看護協会では医療の安全性向上のため、自己判断のできない准看護師資格は見直すべきであると主張しているのです。
とはいえ、たとえ准看護師資格が廃止されたとしても、取得した准看護師の免許がはく奪されることはありません。取得した資格が無駄になることはないため、安心してよいでしょう。
准看護師の就職先
准看護師が活躍できる場所は、老人ホームなどの介護施設、病院、診察所などがあります。
基本的に、准看護師は看護師が働ける現場で活躍できます。しかし、求人には「正看護師のみ」と限定しているところもあるため、注意が必要です。
なお、厚生労働省の「令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、准看護師の勤務先は70%程度は病院・診療所といった医療機関であり、次いで老人ホームなどの介護保険施設が続くようです。
病院
病院は、准看護師が最も多く働いている場所です。統計によると、准看護師の約4割が病院に勤務しています。
病院では、看護師と同様に、医師の診療補助や患者のケアを担当します。
新卒採用では、看護系大学や3年制・4年制の看護専門学校の卒業生が中心となるため、看護師の割合が高くなる傾向にあります。しかし、准看護師も病棟や外来などさまざまな部署で活躍しています。
病棟勤務の魅力としては、基本的な看護技術を身につけられることや、夜勤手当により収入がアップすることなどが挙げられます。
ただし、病棟では看護師一人ひとりが自立して職務にあたることが求められるシーンが多いため、正看護師資格を応募要件とする求人も存在します。
診療所
診療所は、准看護師にとって病院に次ぐ主要な就職先です。特に、地域の診療所では准看護師が多く活躍しています。
診療所での准看護師の主な業務は、診療前の問診や検査の説明、採血、注射、点滴など一般的な診療補助です。また、小さな診療所では、受付や会計、清掃などの雑務も業務に含まれる場合があります。
なお、診療所の約9割が無床診療所であるため、勤務形態は基本的に外来・日勤のみとなります。
そのため、診療所は日勤が中心で、勤務の曜日が決まっていることが多く、働きやすい職場だと言えるでしょう。
老人ホームなどの介護施設、訪問看護
高齢化社会の進展に伴い、介護関連の施設やサービス事業所で働く准看護師の需要が高まっています。
介護施設では、准看護師は利用者の健康管理全般を担当し、バイタルチェックや服薬管理、薬の塗布、喀痰吸引、往診・受診の付き添いなどを行います。また、必要に応じて他の介護職員と協力して、利用者の入浴・食事・排泄の介助にも携わります。
介護施設における准看護師の業務内容は、利用者の要介護度や医療依存度、施設の規模や体制によって異なります。
夜勤やオンコールの有無も施設ごとに異なるため、就職活動の際は各施設の求人情報を確認することが重要です。
保育園
保育園では、准看護師が看護職員として働くことができます。
保育園で働く准看護師の主な業務は、園児の健康管理や感染症の予防、職員(保育士)や保護者に対する指導などです。園児の健康状態を把握し、怪我や急病の際には適切な処置を行います。
また、感染症の予防と早期発見に努め、必要に応じて保護者や関係機関への連絡・調整を行います。
興味深いことに、保育園で働く看護師・准看護師は、1施設につき1名まで「保育士」とみなすことができます。つまり、准看護師が保育(補助)を業務に含めることができるのです。これは、准看護師の専門性を活かしつつ、保育現場での人材不足を補うための措置といえるでしょう。
准看護師の資格を取るには
1. 都道府県が実施する准看護師試験の受験資格を取得する
【中卒入学ルート】准看護師養成所や准看護学校で履修
中卒入学ルートは、中学校卒業後に准看護学校に2年間通学、もしくは高校の衛生看護科に3年間通学し、准看護師試験の受験資格を得るという方法です。
准看護学校の入試レベルは中卒程度に設定されています。
入試科目は学校によって多少異なりますが、国語、数学、理科、社会、英語、作文などから2~3科目程度出題されるというのが一般的です。
准看護学校の場合、ご家庭の事情で働きながら通学せざるを得ない場合でも、学業がおろそかにならない限りは基本的に問題ありません。
【高卒入学ルート】看護科のある大学や短大・専門学校に入学
高卒入学ルートとは、一般の高等学校を卒業してから准看護学校に入学する方法です。
中卒入学ルートと比較すると高校3年間は専門外の勉強をすることになるため、その点では回り道をしてしまうといえますが、高卒資格を得られる点がメリットです。
准看護学校では、中卒入学ルートの場合と基本的に学ぶ内容は同じです。
1年目に学科の履修を行い、2年目から実習を行います。授業時間などは学校ごとに異なるので、入学前に情報収集して調べておくと良いでしょう。
通信教育はないが半日制で学べる
准看護師学校では、中卒者・高卒者を対象とした通信教育は行われていません。受験資格を得るために入学する場合、全日制もしくは半日制の通学が必要です。
全日制は朝~夕方まで学校に拘束されますが、半日制であれば昼間の半分を自由に利用できます。
そのため、授業のない時間を仕事に割り当てれば、自分でお金を稼ぎながら准看護師の資格取得を目指せるでしょう。
入学の際は自身のライフスタイルに合わせて、全日制と半日制のどちらかを選択する必要があります。
准看護師学校養成所にかかる学費
准看護学校には公立学校や医師会立学校などの種類があり、学費は学校ごとあるいは受講形式によって変わってきます。
その点を踏まえたうえで全体としての平均的な費用をみると、月額で2万5,000円~4万円、年間では30万円~50万円ほどが相場です。
授業料の負担に加えて、教材費や実習にかかる費用なども別途必要となるため、実際の負担額はもう少し高額になってきます。
2年間の通学であれば、最低でも100万円ほどを準備しておくことが望ましいでしょう。
ただし、これらはあくまで目安であり、具体的な金額を知りたい場合は各准看護学校に問い合わせるようにしましょう。
2. 准看護師試験に合格する
2022年度准看護師国家試験の合格率は97.9%
厚生労働省の『准看護師試験の実施状況』によると、2022年度に実施された准看護師試験の合格率は97.9%でした。
合格率は毎年100%に近く、准看護学校や高校の衛生看護科できちんと学習すれば、間違いなく合格できる難易度といえます。
合格基準
准看護師試験は都道府県ごとに行われているため、全国レベルで一律の合格基準が定められているわけではありません。
ただ、どの都道府県においても概ね正答率60%以上を確保できれば、合格基準点到達者とみなされています。
150点満点の試験であれば90点以上が合格ラインです。
受験料
准看護師試験の試験手数料は2023年の時点では6,900円です。
専用の納付書を使って都道府県が指定する金融機関に納入しますが、一度納入した試験手数料は返還されない点に留意してください。
納入時に受け取った領収証書は、受験願書受付の際に必要になるのでなくさないように注意しましょう。
試験内容
出題される試験科目は、以下の通りです。
- 人体の仕組みと動き
- 食生活と栄養
- 薬物と看護
- 疾病の成り立ち
- 感染と予防
- 看護と倫理
- 患者の心理
- 保健医療福祉の仕組み
- 看護と法律
- 基礎看護
- 成人看護
- 老年看護
- 母子看護および精神看護
いずれも准看護学校にて基礎から学べる内容ですので、試験前にきちんと対策・復習をしておけば、問題なく合格水準に到達できます。
試験日と合格発表日
2023年度の准看護師試験は、東京都の場合は2024年2月4日(日)の午後1時30分~午後4時に実施され、合格発表は2024年3月7日(木)に行われました。
ただし、試験日と合格発表日は都道府県によって異なります。
受験の際は、各都道府県が発表している受験要綱を確認しておきましょう。
准看護師の年収・給料
「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、准看護師の月収の相場は28万6,800円、賞与62万9,500円でした。
勤務形態や働き方によって幅があるものの、年収に換算すると400万円程度です。
准看護師と看護師の給料の比較
また、同調査によると看護師の場合月収の相場は31万9,300円、賞与85万6,500円でした。
年収換算すると470万円程度であり、准看護師と比較すると約70万円の開きがあることが分かります。
全産業平均年収の約318万円は大きく上回っていますが、看護師へのキャリアアップによってより年収を上げていくことが可能になります。
項目 | 准看護師 | 看護師 |
---|---|---|
月給 | 28万6,800円 | 31万9,300円 |
年間賞与 | 62万9,500円 | 85万6,500円 |
年収 | 約400万円 | 約470万円 |
准看護師になるメリット
働きながらでも資格取得が狙える
看護師を目指す場合は、高校卒業後、看護師養成所や大学などで3年以上の教育を受けなければなりません。基本的には全日制であるため、社会人の方が働きながら目指すのは難易度が高いかもしれません。
一方、准看護師の場合は半日制や週3日の養成所に通うことでも試験の受験資格が得られるため、働きながらでも資格取得することが可能です。
また、准看護師試験の合格率はほぼ100%であり、看護師試験と比べると難易度が低くなっています。看護師よりも目指しやすい資格である点は大きなメリットであるといえるでしょう。
看護師へのキャリアアップも目指せる
准看護師資格を取得した後、働きながら看護師の資格取得を目指すことも可能です。
本来看護師国家試験の受験資格を得るためには全日制の教育機関に通う必要がありますが、2004年から通信教育で正看護師を目指せるようになっており、准看護師として7年以上の実務経験があれば、看護師学校養成所2年課程通信制に進学が可能です。働きながらでも看護師資格を目指しやすくなります。
他にも、准看護師の資格所有者は全日制であれば2年、定時性であれば3年の看護師学校養成所に進学して学ぶことで看護師国家試験への受験資格を得ることが可能です。
准看護師のやりがい
さまざまな環境や世代、立場で生活している患者と触れ合うなかで、自分の看護が相手に役立っていると感じたり、感謝の声を聞いたりすると、大きな喜びが得られるでしょう。
准看護師のように、医療現場で人の生命を預かって健康をサポートする仕事は、ストレスも大きく責任感も重大ですが、その分、「誰かの役に立っている」というやりがいを感じることができます。
准看護師に向いている人
つらい症状を抱えた患者やその家族は、些細なことに敏感になっている場合も珍しくありません。
そんなとき、患者や家族の話をしっかりと聞いて、よく気がつき、適切に対応できる准看護師は、周囲から頼りがいがある良い印象を抱かれるでしょう。
また、緊迫した状況では相手の立場になって瞬時に意思疎通を図るテクニックも必要です。
チーム医療を円滑にするため、准看護師もチームメンバーの一員として協調性を持った業務が求められます。
勝手な判断をしたり、周囲に非協力的だったりするようでは、チーム全体の業務にかかわりモチベーションを低下させるだけでなく、患者に迷惑を掛けることにもなりかねません。
医療現場にはさまざまな医師や看護師、医療スタッフがいます。それぞれの立場や業務内容に沿った対応ができる人も、准看護師の仕事に向いていると考えられます。
准看護師の将来性
近年、准看護師の就業者数は減少傾向にあります。
厚生労働省『平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況』によると、2018年末時点での全国の准看護師の数は30万4,479人。2008年時点では37万5,042人でしたから、10年間で7万人以上減少しています。
一方、看護師の数は2008年が87万7,182人、2018年が121万8,606人。10年間で30万人以上も増加しました。
准看護師が減少傾向にあるのに対して、看護師は急速に増え続けているわけです。
そもそも、准看護師は戦後に病院が次々と増設される中で必要となった看護職員を補うために発足した資格でした。当時は、高校へ進学する女性が少なく、不足する看護師を補うことが難しいことから、中学校卒業を要件にした資格として生まれたのです。
ですが、現在では女性の高校進学率が上昇しており、2020年度では95.7%にまで上昇しています。そのため、高校卒業が要件であり、待遇の比較的よい看護師を目指す人の比率が高まってきているのです。
とはいえ、准看護師は資格取得にかかる時間や費用を抑えられるうえに定時制の養成所で働きながらや育児をしながら取得できる、魅力ある資格です。また、地域医療や初期医療の要であり、看護師とは異なるニーズもあります。
高齢化社会を迎えますます医療業界のニーズは高まる中、今後も将来性の高い資格だといえるでしょう。