保健師とは?仕事内容から国家資格の取得ルート、就職先を解説

保健師の仕事内容から資格取得のための手順、資格取得後の就職先や給与待遇、さらには働くメリット・デメリットについて紹介する記事です。 将来のキャリアアッププランについても提案。 保健師という資格を通じて、社会にアプローチすることを考えている人にとって、役立つ情報をギュッとまとめてお届けします。

保健師とは

保健師とは、地域住民の保健指導や健康管理を主に行う専門家です。実際のところどういった業務を行っているのか。詳しく見ていきましょう。

人数と男女比

厚生労働省の衛生行政に関する調査によると、2018年末時点での働いている保健師の人数は、全国で5万2,955人。そのうち、男性は1,352人、女性は5万1,603人です。前回調査の2016年より1,675人、3.3%増となっています。

保健師の男女比

2008年の調査では、4万3,446人のうち、男性保健師は447人、女性保健師は4万2,999人で、男女比は1対99でした。2年ごとの調査で男女の構成割合はわずかに男性の増加傾向が高まっていて、2010年の男性の割合は1.3%、2012年1.5%、2014年1.9%、2016年2.2%、そして2018年2.6%となっています。

このように、保健師も時代とともに男女比の構成に変化が見られます。

助産師、看護師との違い

保健師になるには、看護師資格が必要です。つまり、いきなり保健師の資格取得はできません。大学や専門学校によっては看護師と保健師や助産師の受験資格を同時に取得できる養成施設もありますが、あくまで看護師資格とセットのカリキュラムです。

保健師は、予防医学や公衆衛生など、市民や企業の従業員、学校の教職員や生徒などが健康的な生活が送れるように活動するのがメイン。病気やケガの患者を直接看護する看護師との大きな違いです。

助産師は、妊産婦や母子のケア、出産のサポートなど、女性の出産や育児に大きく関わる資格です。幅広い年齢や性別の人たちと関わる保健師と、ケアする対象範囲が大きく異なります。

仕事内容は地域住民の保健指導や健康管理

仕事内容と職場を保健師の種類ごとに解説

1. 公務員として働く市町村(行政)保健師

公務員として働く保健師のイメージイラスト

地方自治体の保健所や健康関連の部署で活躍する保健師は、保健師国家試験と各自治体の公務員採用試験の両方に合格が必要です。新卒での就職活動の場合、看護師や保健師の国家資格と公務員試験の受験勉強も同時進行しなければなりません。

新卒で採用されると、多くの保健師は保健所や健康づくり課といった母子保健の部署に配属されます。乳幼児健診をはじめ妊産婦や乳幼児の健康と成長を支える業務を担当。出生数の多い地域になると、健診事業は多忙を極めるでしょう。

市町村保健師の大卒初任給はおよそ17万円から20万円前後。都市や地方、自治体の規模や財政状況などのほか、資格職のため一般行政職より優遇されている自治体も少なくありません。

2. 産業保健師は民間企業や団体で働く

産業保健師の就職先は、企業です。社内の従業員の健康管理を担当します。

医務室などに常駐する産業保健師は大企業が多く、主に社員の定期健康診断を実施したり、健診結果に基づくフォロー面談を行ったりするのが、大きな業務です。

このほか、現代人に増えている高血圧や脂質異常症、メタボリックシンドロームなど生活習慣病の予防を啓発もしています。

さらに、最近はメンタルヘルスケアの役割が高まっていて、社員の精神的な健康を維持するため従業員数50人以上の企業に義務付けられているストレスチェックの実施をはじめ、ストレスを抱えている社員のカウンセリングや心療内科や精神科などへの紹介、職場環境の改善など、企業で健康的に働くためのさまざまな対策を行っています。

3. 学校保健師は学生や教職員の健康維持を担当

学校保健師は、私立の小学校、中学校、高校、国公立や私立の大学や短大、専門学校などに所属して活躍します。

生徒や教職員のケガの応急処置をしたり、急病の手当てをして救急車や医療機関へとつないだり、教育機関での健康管理をするのがメインです。

また、定期健康診断を実施するため学校医や健診センターとの連絡調整や当日のサポート、健診後の記録管理や健康指導の実施なども大切な仕事といえます。

このほか、最近は教職員や学生のメンタルヘルスケアを預かるという仕事も重要度が増しています。教職員のストレス対策をはじめ、各教室の子供たちの人間関係をチェックして心のストレスを抱えた生徒や学生のケアをするほか、必要に応じてスクールカウンセラーや精神科医と連携して適切な対処をします。

4. 病院保健師は病院で「基礎検診業務」を行う

病院保健師は、主に入院施設のある大きな総合病院や訪問看護ステーションで働いています。看護師と違って、生活習慣の予防やメンタルヘルスケア、健康診断事業の実施を担当するのが特徴です。

個人や法人単位の定期健康診断を行い、生活指導や栄養指導、インフルエンザや子ども対象の予防接種の実施をしたり、病院や診療所で予防医療に携わります。「基礎検診業務」もその一つで、医師や看護師との円滑なコミュニケーションが大切です。

また、精神科や心療内科では患者やその家族に対する生活指導やメンタルヘルスケアも大切な業務です。さらに、在籍する病院や診療所、事業所内の医師や看護師、医療スタッフなどの健康管理全般も担当します。

就業場所ごとの保健師の数

保健師はどういった職場で活躍しているのでしょうか。2018年末の厚生労働省のデータによると、保健師総数5万2,955人のうちトップは市区町村の保健師で2万9,666人。次いで保健所が8,100人、事業所3,349人、病院3,307人、診療所2,003人と続いています。

構成割合から保健師を見ると、1位の市区町村は56.0%、2位の保健所は15.3%、3位の事業所6.3%となっていて、トップ3が全体のおよそ8割を占めています。病院6.2%、診療所3.8%と、病院保健師の割合はそれほど高くありません。

就業場所ごとの保健師の数

このように、保健師は自治体に公務員として採用されたり、事業所に産業保健師として在籍するケースが高いのが特徴といえます。

保健師になるには国家試験を受験する

受験資格を取得するための方法

保健師になるためのルート図

4年制の大学・専門学校で受験資格を取得

高校生など看護師ではない人が保健師になるには、看護師資格が必要です。

大学や専門学校によって看護師と保健師の資格をセットで取得できるカリキュラムを持つ学校があります。卒業後、そのまま保健師として働きたい人には、一番おすすめのルートといえます。

また、入学時は看護師のみの資格取得を考えていた人でも、学校のカリキュラムや学内のルールで途中から保健師の資格履修も可能な場合もあります。

看護師か保健師で迷っているなら、両方の履修コースがある学校にいったん入学しておくというのも一つの方法です。

しかし、もともと看護師養成しか行っていない学校や、成績や定員の関係で保健師コースに進めなかった場合は、卒業後に改めて保健師養成施設に入学し直す必要があります。

保健師養成学校で1年以上の専門課程を修了

保健師の受験資格には看護師資格が必要なため、看護系大学や短大、専門学校を卒業した既卒者は、保健師養成課程のある大学や大学院に入学して受験資格を取得します。

ひとまず看護師養成施設を卒業してから保健師を目指す場合も同様です。どちらにしても、看護師と保健師の受験資格を同時に取得できる大学や専門学校よりは、時間や費用がかかるうえ、キャリアを中断しなければならない可能性が高くなります。

保健師養成課程は1年以上の専門課程が必要です。看護師養成課程で取得した科目をベースに新たな科目履修を続けます。受験資格の取得見込みとなる卒業年度に保健師国家試験を受験して合格すれば、保健師になれます。

保健師国家試験の合格率は91.5%

2020年2月14日の「第106回 保健師国家試験」の合格率は、91.5%でした。受験者数8,233人、そのうち合格者数は7,537人となっていて、国家試験の中でも高い合格率です。

保健師国家試験の合格率の推移を見ると、ここ10年で最低だった2018年で81.4%。最高の年は2015年で99.4%。80%台後半の年が多く、合格率の高さが特徴です。

保健師の合格率の推移

ここ5年の変化では、2016年度以降、受験者数がそれまでより半減しました。背景には、厚生労働省の保健師の養成方針が変わったことが考えられます。以前のように看護師と保健師の資格の同時取得課程が主流だったものから、看護師と保健師の教育課程を切り離してそれぞれの専門性を高める教育を目指す学校が増えたためです。

受験料

保健師国家試験を受けるには、受験手数料5,400円が必要です。受験手数料は現金ではなく収入印紙を購入して受験願書に貼り付けます。なお、収入印紙に消印すると無効扱いになるので注意してください。また、受験願書などを提出して受理された後は、受験手数料の返還は受け付けてくれません。

受験に関する書類は郵送または直接持参できます。郵送する場合は、書留郵便で決められた期日までの消印があるものだけが有効です。

なお、国家試験を受験して1ヵ月ほどすると合格発表です。合格者には願書に記入した住所に「合格通知書」が届くので、住所地の保健所に免許申請を行います。免許申請料は9,000円。申請には住民票の写しや健康診断書も添付が必要のため、そうした書類の取得費用もかかります。

試験内容

保健師国家試験の主な試験科目は、

  • 公衆衛生看護学
  • 疫学
  • 保険統計学
  • 保健医療福祉行政論

など、教育課程を通して学んだ内容であり、保健師として実際に活躍するときにも必須の内容です。

国家試験の合格率は80%から90%を超える年もあるなど、比較的高い数字。一見簡単に合格できそうですが、受験者は看護師資格をベースに保健師になるためのカリキュラムを1年以上しっかり履修しているため、試験問題の難易度は覚悟しておきましょう。

合格基準は年によって変わりますが、おおむね60%以上の正答率と考えられます。例年、試験日の午前の一般問題と、午後の状況設定問題の総合得点が6割以上で合格です。

試験日と合格発表日

試験日は例年2月。2019年度の場合は2020年2月14日に実施されました。試験地は、北海道、青森県、宮城県、東京都、新潟県、愛知県、石川県、大阪府、広島県、香川県、福岡県および沖縄県の12都道府県です。

なお、受験資格は2019年3月15日までに文部科学大臣指定の保健師養成課程を1年以上修業した人または修業見込みの人に与えられます。受験願書の配布時期は例年10月中旬以降、願書の受付は11月中旬から12月上旬です。

合格発表は試験日から約1ヵ月後です。2019年度の合格発表は2020年3月19日。当日午後2時に厚生労働省や試験運営臨時事務所で、受験地と受験番号を掲示して発表されます。

保健師の給料は?月給・年収相場と給与待遇

保健師の給料のイメージイラスト

保健師の実賃金

月収 32.7万円
年収 538万円

保健師の平均月収はどのくらいでしょうか。市区町村などで公務員として働く行政保健師の場合、総務省の「平成30年地方公務員給与実態調査結果の状況」によると32.7万円でした。

2018年の実績では賞与に4.45ヵ月分支給されているため、平均年収はおよそ538万円。看護師の平均年収は480万円程度なのに比べると、保健師の平均年収は約60万円も高い水準となっています。

なお、公務員の保健師の初任給は東京都の場合で2017年は約23万円。これはあくまで基本給なので、通勤手当や住宅手当など各種手当がさらに加算されて月給が支給されています。

医療系の転職サイトを見ると、保健師の求人案件の月給は約26万円から31万円。学歴や経験、年齢などによっても差があることがわかります。

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保健師のメリット・デメリット

メリットは予防医療に携われること

保健師が一番活躍できる分野は、公衆衛生から健康管理までを視野に入れた予防医療です。看護師は、病気やケガで治療や入院が必要な患者を直接ケアします。一方で、保健師は感染症を含めた病気を行政単位から企業や学校単位、そして個人レベルまで幅広い視点で病気予防をリードします。日常的に市民や学生、社員が健康な日々を送れるサポートをするのが大きな魅力とやりがいにつながるでしょう。

予防医療は範囲やアプローチが多彩です。自治体の保健所で公衆衛生や疫学に携わりたい人もいれば、学校や企業で学生や生徒、従業員の健康を支えたい人もいるでしょう。また、介護施設や事業所で高齢者や障がい者の健康維持を担う保健師の道もあります。

雇用が安定していて医療職の中でも好待遇といわれる保健師は、一つの職場でじっくりと業務に取り組めるのもメリットといえます。

デメリットは看護師より給料が低いこと

保健師は看護師より給与が低めといわれることもあります。転職サイトの求人案件を見ると、年収ベースで数十万円の差があることも。実際には、どうなのでしょうか。

厚生労働省による「職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額」という調査報告があります。平成30年度のハローワークで扱ったフルタイムの月給の下限額の平均を時給に換算した数字などから計算したものです。

これによると、保健師の基準値(0年目)の収入は時給換算で1,303円。経験や能力を含めた場合、5年目で1,809円、10年目2,130円、20年目には2,658円と増加していきます。

一方で、准看護師を含めた看護師の基準値(0年目)は時給1,274円。この基準値に経験や能力を調整すると5年目で時給1,768円、10年目2,083円、20年目には2,599円。一見、保健師と看護師は、入職時も経験や能力などを含めても収入に大きな差はありません。

ただ、このデータはあくまで基本給と賞与を中心に計算したもの。看護師は保健師と違って入院病棟のある病院勤務では夜勤手当などが手厚く支給されます。そのため、各種手当を含めて比較すれば、看護師の方が保健師より数万円は総支給額が高くなると考えられます。

保健師の将来性

保健師がより一層求められる時代が来る

保健師が求められる時代のイメージイラスト

これまで保健師は、医師や看護師に比べて、世間から見れば地味でどういった仕事をしているかわからないといったイメージがありました。保健所などで自治体の職員として働きながら、行政の公衆衛生や疫学に努める保健師はなかなか市民との接点はありません。

また、学校や企業の学校保健師や産業保健師として医務室などに常駐していても、たまにケガや病気で関わったり、定期健康診断でお世話になるくらいで、どういった役割なのかわからない人も多いのではないでしょうか。

しかし、生活習慣病やメンタルヘルスケアをはじめ予防医療の重要性が年々増しているのに加えて、新型コロナウイルス感染拡大で感染予防や公衆衛生など保健師の活躍する保健所の役割がクローズアップされています。とはいっても、保健師の数はまだまだ足りているとはいえない状況なのです。

また、最近は保健師にも分野別でスペシャリストを育成する動きが進んできました。たとえば保健所に入職すると、多くの場合母子保健を経験してからさまざまな部署を担当していくケースが一般的でしたが、さらに高齢者や障がい者、メンタルヘルスなど、看護師での認定看護師、専門看護師のように業務を細分化して得意分野で活躍を促す傾向が強くなっています。

ジェネラリストの保健師だけではなくて、今後はますます分野別でスペシャリストの保健師が必要となる時代が訪れるでしょう。

このように、保健師の仕事はまだまだ将来性があって、社会の健康を維持するために重要な職業といえます。

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