管理栄養士とは
管理栄養士とは、専門的な知識と技術に基づいて、食事を摂る人の心身状態に合わせた栄養指導や栄養管理、給食管理などを行う専門職です。指導や管理を行う対象は、健康な方から病気や高齢により食事を摂りづらくなっている方まで、個人・集団を問わず多岐にわたります。
管理栄養士は国家資格であり、資格取得者でなければ「管理栄養士」を名乗ることができません。
資格を取得するには、所定の養成学校にて専門課程を履修する必要があります。
なお、養成学校では基本的に夜間や通信での教育は行っていません。
昼間開校の学校に通学することになるため、夜間に働くなどの方法を取らない限り、仕事をしながら管理栄養士の資格を取るのは難しいと言えます。
1.人数の推移
厚生労働省発表資料『管理栄養士名簿登録数の推移』で、2020年12月末時点で総計25万4,223人です。
また、その年に免許が交付されたのは9,736人となっていて、毎年新たに約1万人の人が管理栄養士として現場で活躍しています。
2.栄養士との違いって?
管理栄養士も栄養士も、食と栄養の専門家として、病院や企業、学校といった施設内の給食部門などで働くという点で共通しています。そこでの仕事内容は、栄養指導や食事の管理を行うことです。
栄養士の場合は、健康な人だけを対象に、栄養指導や相手に合わせた献立のメニュー作り、カロリーや栄養バランスの計算など行います。
一方、管理栄養士は、健康な人だけではなく、病気や怪我で入院している人、在宅療養している人も対象に、食と栄養面のサポートを行っているのです。
また、資格の取得方法にも違いがあります。
栄養士は栄養士養成施設(4年制大学や短大、専門学校など)を卒業すれば資格を得ることが可能です。
管理栄養士になるためは栄養士の資格を取得したのちに、管理栄養士国家試験に合格する必要があります(「栄養士養成施設」の卒業者は、受験資格を得るために一定期間の実務経験が必要です)。
管理栄養士 | 栄養士 | |
---|---|---|
資格 | 国家資格(厚生労働省認定) | 国家資格(都道府県認定) |
対象者 | 健康な方 病気を患っている方 高齢者 |
健康な方のみ |
業務内容 | 栄養管理や指導 給食の運営 |
栄養管理や指導 給食の運営 |
管理栄養士の仕事内容
管理栄養士が栄養面での指導・管理を行う対象者は、健康な方、病気を患っている方、高齢者の方などです。
食事を摂る方がどのような状態にあるのかを正確に把握し、必要な栄養をきちんと取ってもらえるように指導や管理を行います。
高度な専門知識・スキルが要求され、必要に応じて医師をはじめとするほかの専門職との連携も必要です。
1.病気を患っている方の栄養管理
病気や怪我をした人は、現在の状態から速やかな回復を図るために、適切な栄養を摂取する必要があります。
しかし、病気や怪我の内容によっては食事制限なども必要であり、栄養がありそうなものを何でも摂取できるわけではありません。
管理栄養士は、本人の心身状態を見定めたうえで、過不足なく栄養を摂取できるよう指導・管理を行います。
その際、患者の担当医との連携も必要となるでしょう。
2.健康な方の栄養管理
現状では病気にかかっていなくても、栄養状態に偏りがある食生活を続けると、将来的には高血糖、高脂肪、高血圧といった生活習慣病を発症する恐れがあります。
そのような状態を未然に防ぐためには、健康なうちから食生活の改善を図ることが大切です。
管理栄養士は個人の状態に合わせて、心身状態の悪化を予防するために、健康保持・増進につながるような栄養指導を行います。
3.高齢者の方の栄養管理
有料老人ホームや特別養護老人ホーム、介護老人保健施設などの高齢者向けの施設では、高齢者が適切に栄養を摂取できるように、管理栄養士が指導・管理を行っています。
高齢になると持病を抱えている人が多く、さらに若い頃と食生活の習慣が変わるなどして、栄養面で偏りが出てくることも多いです。
そのような方が栄養不足に陥らないように、食事面でサポートを行うのが管理栄養士の仕事です。
管理栄養士の給料はいくら?
月収 | 20万~30万円 |
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年収 | 250万~450万円 |
厚生労働省の『平成29年度 介護労働実態調査』によると、管理栄養士・栄養士の所定内賃金(毎月の月給から残業などの時間外労働手当を除いた金額)の平均月給は、24万503円でした。
一般的な管理栄養士の月収は20万円~30万円ほど、年収は250万円~450万円ほどです。
ちなみに、収入は施設のあるエリアによって大きく異なり、東京や大阪では年収400万円超えの求人もしばしばあるようです。
管理栄養士は、病院や企業官公庁や給食会社など、勤務先がバラエティー豊かなのが特徴です。
勤務先によって収入は異なるため、病院や老人保健施設、食品メーカーでは年収400万円を超えたり、給食センターでは年収600万円を超えたりすることもあります。
特に最近は、病院が患者への栄養指導に力を入れるようになったり、食に対する関心が高まったりしています。
そのため、病院や食品メーカー、給食センターなどの求人ニーズが多く、管理栄養士という資格の希少性も手伝って、まとまった年収や給与待遇を得ることができます。
なお、管理栄養士の資格保持者には手当がつくことがあります。資格手当の金額は施設によって違いはあるものの、月額5,000円から1万円ほどです。
管理栄養士になるには?
管理栄養士になるには、管理栄養士国家試験を受験して合格する必要があります。
しかし自由に勉強して受験できるわけではありません。
受験するには、所定の要件をクリアすることが求められます。
1.受験資格を取得するためのルート
管理栄養士の国家試験を受験するためには、大きく分けて2つのルートがあります。
「管理栄養士養成施設ルート」「栄養士養成施設ルート」です。
1.【管理栄養士養成施設ルート】大学(4年制)で履修
管理栄養士の養成校である4年生の大学に入学し、在学中にまず栄養士の資格を取得してから管理栄養士の取得も目指します。
このルートの最大の利点は実務経験を必要としないことです。
在学中に働くことなく、栄養士と管理栄養士の両方の資格を取得し、卒業時には管理栄養士として就職することができます。
管理栄養士の養成課程のある大学は限られていますので、大学の受験・入学先を考える高校生時点で、将来の方向性を定める必要があるでしょう。
2.【栄養士養成施設ルート】大学・短大・専門学校で履修+実務経験を積む
栄養士の養成課程のある大学・短期大学・専門学校を卒業し、その後に実務経験を経て、管理栄養士国家試験の受験資格を取得するという方法です。
この場合、通学した栄養士養成施設の修業年限によって、必要となる実務経験は違ってきます。
修行年限別で見る養成施設が求める実務経験年数は以下の通りです。
修行年限2年 | 修行年限3年 | 修行年限4年 | |
---|---|---|---|
実務経験年数 | 3年以上 | 2年以上 | 1年以上 |
2.2020年の国家試験合格率は61.9%
2020年3月27日に、第34回(2019年度)管理栄養士国家試験の合格発表が行われました。
合格状況は受験者数1万5,943人に対して、合格者は9,874人。合格率は61.9%となっています。
過去に実施された試験の合格率は2016年の第30回試験が44.7%、2017年の第31回試験が54.6%、2018年の第32回試験が60.8%、2019年の第33回試験が60.4%です。2016年に比べると、2020年の合格率は15%以上も上昇しています。
ただ、学校区分別の合格率をみた場合、その差は大きいです。
「管理栄養士養成課程」の「新卒者」の場合だと合格率は92.4%に上っていますが、管理栄養士養成課程の既卒者だと合格率は12.0%、「栄養士養成課程」の既卒者だと合格率は17.8%となっています。
既卒者の場合、管理栄養士課程で学んだ人であっても合格率は1割程度であることから、働きながら勉強することが困難な資格と言えるでしょう。
合格基準
管理栄養士試験の合格基準は年度ごとでわずかに異なりますが、概ね全問題の60%以上を取得することが求められます。
確実に合格したいのであれば、全問題の7割を取得するのが望ましいでしょう。
試験の出題基準は4年に一度変更されるので、受験準備は最新の教材を使う必要があります。
3.受験料
管理栄養士国家試験の受験料は6,800円です。受験料の額に相当する収入印紙を取得し、受験願書に貼り付ける必要があります。
受験願書が受理された後の返還は受けつけてもらえませんので注意しましょう。
4.試験内容
管理栄養士の試験科目は、以下の通りです。
- 社会・環境と健康
- 人体構造と機能および疾病の成り立ち
- 食べ物と健康
- 基礎栄養学
- 応用栄養学
- 栄養教育論
- 臨床栄養学
- 公衆栄養学
- 給食経営管理論
試験時間は、試験日当日の午前中に「社会・環境と健康」、「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」「食べ物と健康」「基礎栄養学」「応用栄養学」の科目が行われます。
そして、同日午後に行われるのが「栄養教育論」「臨床栄養学」「公衆栄養学」「給食経営管理論」と応用力試験です。
5.試験日と合格発表日
「第34回管理栄養士国家試験」は、試験日が2020年3月1日(日)で、合格発表が行われたのは同年3月27日(金)です。
合格発表日の午後2時から、厚生労働省のホームページにて合格者の受験地と受験番号が掲載されました。
なお、合格発表については、例年では受験地と受験番号について、厚生労働省と各地の国家試験運営臨時事務所において掲示されています。
管理栄養士の就職先は?
1.介護施設や保育園で正社員として従事
介護施設や保育園などで正職員として働くことができます。
主な仕事内容としては、医者の指示による給食の管理、献立の作成、厨房での食事づくり、厨房における衛生面面の管理、栄養管理計画書をつくることなどです。
介護施設では、高齢者の持病や嚥下機能(食べ物を飲み込む機能)の状態によって、提供すべき食事内容が変わるため、管理栄養士のサポートが不可欠と言えます。
保育園の場合、児童の発育に資する栄養バランスの取れた献立を考えるのが管理栄養士の役割です。
2.保健所などに行政栄養士として採用
保健所や保健センターで働く管理栄養士は、「行政栄養士」と呼ばれるのが通例です。
保健所の場合、栄養士免許の申請受付、検診と予防接種の受付、食品衛生の管理、医療・福祉・保健にかかわる栄養士・管理栄養士の育成、給食施設での栄養管理の指導などの業務を行います。
一方、保険センターでは、食育にかかわる講演と食育教室の開催、健康につながる料理講習会の開催、個別栄養指導を含む市民への健康教育の実施、乳児検診などが主な業務です。
3.学校で栄養職員として勤務
公立の小中学校では生徒に給食が出されますが、管理栄養士は指導管理の役割を担います。
具体的には、栄養バランスの取れた献立の作成、厨房での調理業務、厨房の衛生管理、栄養管理計画書の作成および栄養指導などが主な仕事内容です。
学校で勤務する場合、「栄養教諭」や「栄養職員」という肩書で働くのが一般的となっています。
4.医療機関で公務員採用
病院やクリニックに入院している患者さんに提供する食事の栄養管理を担います。
医者の指導に基づく食事管理、入院患者一人ひとりの体調にあった献立の作成、厨房での業務、厨房の衛生管理、利用管理計画書の作成および栄養指導などが主な仕事内容です。
入院患者は病状によっては厳しい食事制限があるため、栄養管理は医師との連携が不可欠。
医療専門職と頻繁に連絡を取る必要があるため、高いコミュニケーション能力も必要でしょう。
認定取得で在宅訪問栄養管理士にもなれる
所定の認定試験を受験して合格することで、「在宅訪問栄養管理士」として活動することもできます。
在宅訪問栄養管理士とは在宅で療養生活を続ける人に対して、「在宅訪問栄養食事指導」を実施できる専門職で、認定制度は2011年度からスタートしました。
認定団体は、公益社団法人日本栄養士会と、全国在宅訪問栄養食事指導研究会(現在の一般社団法人日本在宅栄養管理学会)です。
国内には在宅訪問栄養食事指導を行える管理栄養士は少ないため、もし認定を受けることができれば、貴重な人材として転職の際にも有利になるでしょう。
やりがいは食の重要性を伝えられること

管理栄養士は、食事と栄養という、生活するうえで非常に重要な分野のスペシャリストとして多くの人たちとかかわります。
病院で働く管理栄養士は、患者だけでなく病気を予防しようと考えている人、さらに子どもの食育など、さまざまなアプローチで幅広い世代の食と栄養をサポートできます。
最近は脂質異常症や高血圧、糖尿病やメタボリックシンドロームといった生活習慣病の栄養指導が増えていて、毎日の食事を通して健康づくりに取り組むことの重要性が着目されているため、今後ますます管理栄養士の役割は大きくなるでしょう。
管理栄養士は、栄養士よりもさらに専門的な知識と経験が求められる仕事です。
病気や体質、遺伝、食生活は人によって異なるため、一人ひとりに合わせたヒアリングを大切にして、相手に合った栄養指導や食事管理、メニュー作成のポイントを伝えていく必要があります。
病院では、患者に合わせた栄養指導を通して入院中の食事メニューの考案や、通院している患者に対して日々の食事作りのアドバイスをします。
そうした栄養指導の結果、患者の症状が改善したり、健康な生活を取り戻したりする姿を見れば、大きなやりがいを感じるでしょう。
また、日ごろから健康づくりに取り組んでいる人やスポーツを楽しんでいる人たちへの栄養指導によって、毎日の生活をいきいきと送る姿や喜びの声を耳にしたときも、管理栄養士としての手応えを感じます。
適性があるのは食に高い関心を持つ人

管理栄養士は食と栄養のスペシャリストとして、病気や障がいなどを持つ人たちに栄養指導や食事管理を行う仕事です。そのため、食事や料理はもちろん食生活を通して健康づくりをする分野に興味や関心が高いことが大切です。
また、栄養指導を行う相手は子どもからお年寄りまで年齢も性別も、生活環境もさまざまです。
ハンディキャップを抱えていたり、食や栄養に関する知識も人によって違いが大きかったりするため、コミュニケーションをしっかり取れる人が望ましいでしょう。
さらに、栄養士になるための勉強には、生物や化学といった栄養学に隣接する学習も必要になります。
栄養素がどのように体内で働いているのか、消化のメカニズムはどうなのか、病気や健康のほか、科学や医学、医療に対する知識も必要です。
管理栄養士は栄養士や調理スタッフをまとめて管理職になることも多く、職場でリーダーシップを持って活躍するための責任感も必要です。
健康志向の高まりにより需要は多い

単に食事を摂れればいいという時代が終わり、栄養バランスやおいしさも食事に求められるようになっています。
そのため、健康的な将来につながる食事や栄養管理が重要になっており、管理栄養士の役割はますます高まっています。
病院の入院食も、ただ必要な栄養を摂取していれば良いというだけでなく、おいしくて笑顔になってもらうために、調理法の工夫や食材のこだわりが求められています。
また、急増する生活習慣病やがん、心臓疾患、脳卒中など、病気を持った患者への栄養指導も重要です。
管理栄養士は、カロリーや食事に気を使う人たちに向けた食品開発を行うメーカーや、スポーツクラブ・プライベートジムなど、健康づくりに関心の高い人たちに向けた商品開発やサービス提供を行う企業からのニーズも少なくありません。
このように、管理栄養士は病院や企業、学校をはじめ保健所や福祉施設など活躍する場が多く、それだけ食と栄養のスペシャリストとして期待されている資格です。
食や栄養のアドバイスを通して今後ますます社会に貢献していく仕事です。