鍼灸師とは
鍼灸師(しんきゅうし)とは、「鍼(はり)」や「灸(きゅう)」を使用して治療行為を行う専門職です。ただ、資格の区分としては「はり師」と「きゅう師」の2種類であり、「鍼灸師」という資格があるわけではありません。はり師資格ときゅう師資格の両方を取得した人が鍼灸師と呼ばれています。
鍼灸師(はり師資格ときゅう師資格)は国家資格であるため、施術行為を行うには国家試験の合格が必要です。
資格を取得していない限り、鍼灸師を名乗ることはできません。
1.人数と男女比
公益財団法人東洋療法研修試験財団『年度別登録者数』によると、国家試験に合格し、鍼灸師として活動するための免許登録をしている人の数は、2018年時点ではり師が17万6,386人、きゅう師が17万5,270人です。
どちらの資格も免許登録者数は年々増え続けており、人気のある資格といえます。
男女比については、鍼灸師を要請する専門学校の入学者数の割合は、概ね男性が6~7割、女性が3~4割という状況です。
しかし近年、年々女性の受講者数は年々増えており、女性が鍼灸師として活躍するケースも多くなってきました。
2.柔道整復師やあん摩マッサージ師との違い
鍼灸師と混同されやすい仕事には、「柔道整復師」や「あん摩マッサージ指圧師」があります。
これらの仕事は、いずれも国家資格を必要とする共通点はあるものの、業務内容や必要な資格などは大きく異なります。
柔道整復師は、柔道整復術を用いて、怪我を負った箇所を固定・整復をして、関節や靭帯、骨の損傷改善を行います。鍼灸師ははりときゅうを使用するのに対し、基本的に手技のみを使って施術します。
また、医師の同意があれば骨折の治療も可能です。
あん摩マッサージ指圧師とは、あん摩やマッサージ、指圧で押す、もむ、叩く、なでるなどの刺激を体に与えることで筋肉をもみほぐして血行を改善し、体調回復を図ります。
同じ国家資格ではありますが、鍼や灸を用いる鍼灸師とは、方法やそれによって得られる効果が異なります。
資格 | はり師・きゅう師 | 柔道整復師 | あん摩マッサージ指圧師 |
---|---|---|---|
業務内容 | 鍼や灸を用いて肩こりや神経痛を緩和 施術による体の不調や病気の予防 |
非観血的療法を用いて骨折や脱臼、打撲などの箇所を整復・固定 | あん摩・マッサージ・指圧の3つの手技で血行を促進させて肩こりや腰痛などを改善 自然治癒力を高める |
鍼灸師の仕事内容
鍼灸師とは、鍼や灸を使って体のツボを刺激し、回復力や自然治癒力を高めて健康を回復させて病気を治療する仕事です。
鍼と灸に分けて、施術方法や効果について詳しく見ていきましょう。
1.鍼(はり)で自然治癒力を高める
鍼灸師が使う「鍼」とは、裁縫で使う針や注射針とはまったく異なるものです。
注射針の3分の1程度の、非常に細いステンレス製鍼を体に刺して治療を行います。
鍼が細いことや先端の丸みによって、刺しても痛みをほとんど感じません。
鍼灸師は、患者の体にある「経穴」と呼ばれるツボを探し当て、鍼を使って瞬時に刺激をして治療をします。
患者の症状によっては、刺した鍼に電流を流すなどの方法も用いられています。
2.灸(きゅう)で血行改善や免疫力アップ
灸とは、よもぎなどの薬草からつくられた「もぐさ」を使った治療のことです。
体のツボにもぐさを乗せ、火をつけて燃やした熱によって刺激します。
火を使いますが体に感じる熱は高くはなく、リラックスできるほどの温かさが特徴です。
もぐさを燃やして体に熱を与えることで、血行改善や免疫力アップが期待できます。
鍼灸師が行うこれらの治療は、古代中国発祥の「東洋医学」に基づいており、怪我や病気が発症する手前の状態「未病」の段階で治療を行うとしています。
「未病」とは、回復力や自然治癒力を高めて怪我や病気を未然に防ぐという考えで、予防医学の原点ともいわれています。
鍼灸治療では西洋医学のように薬品を使わないので、薬の使用に制限がある子どもや妊婦でも治療を受けられるため、西洋医学が主流の欧米でも注目を集めています。
予防に限らず、頭痛や肩こり、腰痛などのほか、高血圧、不眠症、アレルギーなど、幅広い年代の人の体の不調に対応できます。
鍼灸師の給料はいくら?
月収 | 18~20万円 |
---|---|
年収 | 350~400万円 |
鍼灸師の平均年収は病院や鍼灸院などの医療施設で勤務しているか、もしくは自ら鍼灸院を独立開業している場合とで変わってきます。
ただ、全体としてみた場合、平均年収は約350~400万円です。
あん魔マッサージの平均年収は370万円前後といわれているので、両者はほぼ同水準といえます。
医療施設に勤務する場合、鍼灸師の平均年収は300~400万円、月収では18~25万円ほどが一般的な相場です。
経験を積み、高い技術を身につけているほど勤務先での評価は上がり、収入も上がります。
一方、鍼灸師として独立開業する場合、年収の高低を決めるのは「顧客の獲得数」です。
治療院が成功すれば、勤務スタッフとして働く場合よりも多くの年収を得ることもでき、中には年収が1,000万円以上に達するケースもあります。
鍼灸師の初任給や福利厚生、雇用形態別の収入など、詳しく知りたい方は「鍼灸師の給料を年齢や職場、都道府県ごとに徹底解説!」をご覧ください。
鍼灸師になるには?
先述しましたが、鍼灸師になるには「はり師」と「きゅう師」の2つの資格取得が求められます。
そしてどちらも国家資格であり、合格が必須です。
ここでは、国家試験を受けるための受験資格取得ルートや合格率について解説していきます。
1.受験資格を取得するためのルート
はり師ときゅう師の国家試験の受験資格を得るには、高校卒業後に厚生労働省または文部科学省で指定された専門学校や大学などの鍼灸師養成施設で修学して卒業する必要があります。
それぞれのルートについて詳しく見ていきましょう。
1.【専門学校ルート】養成施設で3年間履修
鍼灸師の養成施設は全国に100校弱あり、その多くが専門学校です。
鍼灸師養成施設では、人体解剖学や病理学などの現代医学のほか、東洋医学概論、治療学や治療実習など幅広い内容を専門的に学びます。
多くの場合は同じ学校ではりときゅう両方について学ぶのが一般的です。
鍼灸師養成施設では、3年以上の修学期間が定められているため、鍼灸師の国家試験の受験資格を得るまでに最低3年かかります。
2.【大学(4年制)ルート】はり師・きゅう師関連の学部で学ぶ
医療系の大学で、鍼灸または関連学科に所属して履修し、卒業することで受験資格が得られます。
大学で鍼灸師を目指す場合、卒業までに4年間の修学期間がかかります。
専門学校よりも1年多くかかりますが、共通科目など、専門科目以外の教養を獲得できることが最大の特徴です。
「興味があり勉強したいが、将来の選択肢を広く持ちたい」という方にお勧めのルートになります。
2.合格率ははり師、きゅう師ともに7割
2020年に行われた第28回試験は、はり師は受験者数4,431人のうち合格者数3,263人で、合格率が73.6%。
きゅう師は受験者数4,308人のうち合格者数3,201人で、合格率が74.3%でした。
はり師、きゅう師ともに受験者の7割超が合格しており、合格率は高めといえるでしょう。
ただ、3割近い人が不合格になっているのも事実であるため、油断は禁物といえます。
また、同日に行われたあん摩マッサージ指圧師国家試験の合格率は84.7%でした。
はり師ときゅう師の試験は、あん魔マッサージ指圧師の試験よりもやや難関となっています。
合格基準
鍼灸師の国家試験の合格基準は、総得点の6割と定められています。
総得点は150点ですので、90点以上を取得すれば、合格ラインに到達するわけです。
満点に近い得点を取得する必要はありませんが、はり師、きゅう師ともに出題範囲は広いため、試験に備えた勉強をきちんと積み重ねる必要があります。
3.受験料
受験手数料は2020年2月時点で1万4,400円です。
納付方法は、受験手数料に相当する金額を公益財団法人東洋療法研修試験財団が指定している銀行もしくは郵便局の口座に納付する形で行います。
受験書類が受理された後に、納付した受験手数料の返還はされませんので注意が必要です。
4.試験内容
はり師・きゅう師の試験科目は次の通りです。
はり師国家試験ときゅう師国家試験は、「はり理論」と「きゅう理論」以外の共通科目は同じ内容です。
そのため、両方とも同時に受験する場合は、受験者の申請により、共通科目については一方の試験を免除できます。
はり師の受験科目
- 医療概論(医学史を除いて)
- 東洋医学概論
- 関係法規
- 解剖学
- 生理学
- 病理学概論
- 臨床医学各論
- リハビリテーション医学
- 臨床医学総論
- 経絡経穴概論
- 東洋医学臨床論
- 衛生学・公衆衛生学
- はり理論
きゅう師の受験科目
- 医療概論(医学史を除いて)
- 解剖学
- 衛生学・公衆衛生学
- 関係法規
- 生理学
- 病理学概論
- 臨床医学総論
- 経絡経穴概論
- 臨床医学各論
- リハビリテーション医学
- 東洋医学概論
- 東洋医学臨床論
- きゅう理論
5.試験日と合格発表日
2020年に行われた第28回試験の実施日は2月23日(日)で、合格発表日は同年3月26日(木)に行われています。
例年では、厚生労働省と公益財団法人東洋療法研修試験財団において受験地と受験番号が掲示されていますが、今年は新型コロナウイルスの影響により中止され、ホームページでの掲示と受験者への成績・合否結果の通知のみ行われました。
鍼灸師の就職先は?
1.介護施設や訪問介護
高齢化が進む日本では、介護の需要も右肩上がりに増加しています。
高齢者に対する鍼灸治療のニーズが高まることが予想されるほか、要介護者に対する鍼灸治療として、介護現場での活躍も期待されます。
例えば、鍼灸院に通えない要介護者対象の在宅ケア、怪我や病気のリハビリ、病気の予防などの健康維持を目的に、介護業界での鍼灸師が活躍できる場が増えつつあります。
鍼灸師の資格に加えて介護系の資格を取得していれば、介護業界でさらなる活躍ができるでしょう。
2.鍼灸院やマッサージ院、スポーツジム
鍼灸師の就職先で多いのは、専門的にはり・きゅう治療を行う鍼灸院やマッサージ院です。
なかには、女性特有の症状改善を専門に行う女性向け鍼灸院で働くケースもあります。
はりやきゅうを美容目的で使用する美容鍼灸サロンも、鍼灸師の就職先の1つです。
また、スポーツの分野でも鍼灸治療が取り入れられています。
スポーツ選手を対象に怪我の治療や予防、体のコンディションを整えるための「スポーツ鍼灸」のために鍼灸師を採用しているところがあります。
スポーツの分野で働くことを希望しているなら、スポーツ鍼灸を学べる学校がおすすめです。
向学心・向上心がある人に適性がある
鍼灸師は、患者の体の状態を正確に把握し、はりときゅうを使って治療を行います。そのためには、医学に対する興味や関心を持ち続けられる人、医学の勉強が苦にならない人が向いています。
常に最新の知識を取り込みながら治療に活かせる向上心がある人に、鍼灸師としての適性があるでしょう。
医師などにも共通しますが、良い治療のためには患者とのコミュニケーションが重要です。幅広い年代の患者の症状や普段の生活など、治療につなげられることを問診でしっかり聞き取って良い関係をつくるコミュニケーション能力がある人も、鍼灸師の適性があります。
はりやきゅうの取り扱いは、体のツボの位置を捉えて正確に行う必要があります。この細かな動作を行うための手先の器用さや几帳面さも、鍼灸師に求められる適性の1つです。
将来的には独立開業を目指せる
ほかの項目でも述べたように、鍼灸師の就職先として最も一般的な場所は鍼灸院です。
そのため、鍼灸院からキャリアをスタートする人も多いでしょう。
最初のうちはそれほど高額な給与は期待できないかもしれませんが、地道に鍼灸師としてのスキルを磨いていけば、独立開業の道もひらけます。
鍼灸師は独立開業が認められている職業なので、実力次第で自分の鍼灸院を持って治療を行うこともで十分可能です。