あん摩マッサージ指圧師とは?仕事内容から受験資格、就職先を解説

あん摩マッサージ指圧師とは、手を用いた施術を行う国家資格で、介護施設の「機能訓練指導員」になることができる資格の1つです。 ここでは、資格取得までの流れから、就職先や年収、さらには個人で開業するまでのキャリアプランなどについて解説してきます。 将来、あん摩マッサージ指圧師の資格取得を考えている人や、現在資格を持っていて、介護業界への就職を考えている人は、ぜひ目を通してみてください。

あん摩マッサージ指圧師とは

あん摩マッサージ指圧師とは、「もむ」「押す」「たたく」「なでる」といった手技を使って、患者の体の不調を緩和する医療系専門職です。国家資格であり、医師の指示を受けずに施術を行うことができます。

東洋医学をベースとしており、器具を利用しない治療を行う点が大きな特徴です。「あん摩」、「マッサージ」、「指圧」という3種類の技術を用いるため、それぞれに関する専門知識やスキルを身につける必要があります。

もともと「あん摩」は中国から伝わった治療方法で、「あん」は押さえる、「摩」はなでるという意味です。

これにドイツ医学を基礎とする「マッサージ」、さらに「指圧」を加えて、総合的な施術法にて患者を治療します。

1.人数と男女比

公益財団法人東洋療法研修試験財団『年度別登録者数 種類別-あん摩マッサージ指圧師』によると、あん摩マッサージ指圧師の登録者数は2019年度時点で19万4,166人。

毎年の新規登録者数は近年やや減少していますが、1992年~2019年にかけて、約4万人増加しています。

男女比については、同財団『第4回あん摩マッサージ指圧師・はり師及びきゅう師 免許取得者の進路状況アンケート調査報告書』(2011年10月実施、要約版)のなかで、あん摩マッサージ指圧師の免許を持っている人の男女比率は双方とも5割に近く、大きな差はありません。

男女問わず活躍できる専門職となっています。

2.鍼灸師・整体師などとの違い

鍼灸師

鍼灸師とは、はり・きゅうを使用して体のツボを刺激し、人間がもともと持っている自然治癒能力を活性化させ、患者の身体的な不調を改善する専門職です。

あん摩マッサージ指圧師と同じく、西洋医学のような手術や薬物療法は行いませんが、道具を用いて施術を行う点が大きく異なります。

整体師

整体師は、関節あるいは骨格のゆがみを、手・足を使った施術法で矯正する人を指す言葉で、「あん摩マッサージ指圧師」も含まれます。

「整体師」として開業する場合、国家資格は必ずしも必要ありません。

各種団体が主催している専門学校などで技術を身につけて、その団体が認定している免状をもとに開業するというケースも多いです。

リラクゼーションセラピスト

リラクゼーションセラピストは、一般社団法人日本リラクゼーション業協会が行っている認定試験に合格し、リラクゼーションを業としている専門職。

手・指などを使って、心と体にかかっているストレスを解放する時間をつくります。

あん摩やマッサージ、指圧のような治療行為とは異なる価値を提供しています。

あん摩マッサージ指圧師の仕事内容

手を用いた施術で体調不良の患者を改善するイメージイラスト

あん摩マッサージ指圧師は、あん摩・マッサージ・指圧の3つの手技で血行を促進させて、肩こりや腰痛など体の不快感の改善や自然治癒力を高める職業です。

マッサージは西洋で発展したものですが、あん摩と指圧は東洋医学の流れをくむ代替療法(近代西洋医学以外の方法による治療法)の代表的な手法です。すべて手を使ったテクニックであり「なでる、揉む、押す、さする」などのアプローチをします。

その際、基本的に器具や薬を使わず、直接体に触れることで、人に備わっている自然治癒力や免疫力を引き出して症状を改善し、健康へと導きます。

あん摩マッサージ指圧師として活躍している方たち全体の2割ほどは視覚障がい者の人たちです。

1.あん摩で気血の流れを良くする

あん摩は、体に生体反応を生じさせる刺激療法の一種です。

原則として、心臓から離れる方向に向かって衣服の上から筋肉を「もむ」、「叩く」といった手法を用います。中国で生まれた治療法であり、明治時代以前から日本で行われてきました。

直接皮膚に触れずに行うことができること、心臓から離れる「遠心性」という方法で施術することが、あん摩という療法の大きな特徴です。

2.マッサージで血流改善

マッサージはあん摩とは異なり、フランスやスイスなどヨーロッパで生まれた治療法で、明治維新後に日本で導入が進められました。

直接皮膚に触れながら、血流改善を目的として、心臓に向かって体をなでる、という治療法が中心です。

遠心性による施術を行うあん摩に対して、マッサージは心臓方向へと施術する「求心性」という特徴を持っています。

あん摩とマッサージは一見するとよく似ていますが、歴史や治療のあり方には大きな違いがあるのです。

3.指圧でツボを集中的に刺激

指圧は日本で誕生した治療法です。

あん摩と同じく衣服の上から施術をし、筋肉などを指で押す、離す、圧を加えるなどの方法を用いて治療を行います。

あん摩は中国、マッサージはヨーロッパ・西欧、指圧は日本を発祥地としていますから、あん摩マッサージ指圧師は、世界各地の手・指を使った療法をすべて駆使して治療を行う専門職であるわけです。また、これら3種類の治療法は、いずれも「器具を使用しない」という点で共通しています。

あん摩マッサージ指圧師になるには?

あん摩マッサージ指圧師の資格を得るためには、国家試験の合格が必須です。

この試験の受験資格は、あん摩マッサージ指圧師養成施設に通学して、卒業した人にのみ与えられます。

ここでは国家試験を受験するための資格取得方法や試験科目、受験料などについて紹介します。

受験資格を取得するための3つのルート

あん摩マッサージ指圧師の国家試験を受験するには、学校などで養成課程を修了することが必須条件。

そのためには「専門学校ルート」、「短大ルート」、「大学ルート」の3つのルートのいずれかを選ぶ必要があります。

それぞれについて、くわしく見ていきましょう。

1.【専門学校ルート】

あん摩マッサージ指圧師養成コースのある専門学校で3年以上学ぶことで、国家試験の受験資格を得ることができます。

卒業しても大卒などの学歴は得られませんが、3年間集中的にあん摩、マッサージ、指圧に関する体系的な理論を学べるので、身につけることができる知識・スキルは質・量ともに多いです。

また、大学・短大では専門科目以外の教養・語学系の単位を取得する必要がありますが、専門学校ではそのような授業を受けなくても卒業することができます。

2.【短期大学(3年制)ルート】

短期大学の中にもあん摩マッサージ指圧師養成コースを備えた学校があります。ただし医療・看護系の短期大学であるため、通学期間は3年です。

卒業前に国家試験を受験して合格し、卒業直後から「あん魔マッサージ指圧師」として働き始めるというのが一般的な進路となっています。

卒業により短大卒の学歴を得ることもできるので、その点は専門学校にはない強みといえるでしょう。

3.【大学(4年制)ルート】

あん摩マッサージ指圧師養成コースを備えた4年制大学で、受験資格を得ることもできます。

卒業までに4年かかるため、専門学校ルートや短大ルートよりも働き始めるまでに時間が必要です。また、通学期間が長い分、学費も高くなってきます。

しかし、「4年制大学卒」という学歴を得ることができることに加え、4年という時間的余裕もあることから、在学中にあん摩マッサージ指圧師以外の資格取得も目指しやすいです。

学校ごとの学費を比較

あん摩マッサージ指圧師の受験資格を得られる専門学校の学費は、学校間で差があります。

しかし全体的な相場としては、専門学校の入学金と初年度の授業料で150~200万円ほど、卒業までは概ね300~500万円が必要です。

一方、短大・大学の場合は、入学初年度に納める金額だけで200万円弱かかることも。

年間の授業料も数十万円程度必要で、通学年分を負担する必要があります。もし留年したりすれば、その分さらに費用が増えるので注意が必要です。

もし専門学校、短大・大学を通うにあたって経済的な負担が心配される場合は、奨学金制度を活用するのも1つの方法といえます。

ただし、就職後に長期に渡って返済する必要もあるので、利用する際は返済方法についても確認しておきましょう。

通信講座はなく、働きながら資格取得を目指す人は夜間で履修

あん摩マッサージ指圧師国家試験の受験資格を取得するための養成課程では、「通信講座」は設けられていません。

しかし、専門学校のなかには夜間の部を設けている学校もあります。

また、夜間のみ開講の専門学校だと、やや授業料が安めになる傾向もあるため、昼間に働いている方や学校にかかる費用を抑えたい方はぜひ検討してみてください。

1.2020年第の国家試験合格率は84.7%

2020年に行われた第28回あん摩マッサージ指圧師国家試験は、受験者数1,432人、合格者数1,213人で、合格率は84.7%となっています。

同日に行われた、はり師国家試験、きゅう師国家試験の合格率と比較しても、あん摩マッサージ指圧師国家試験が最も高いです。

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合格基準

あん摩マッサージ指圧師国家試験は四肢択一のマークシート方式で筆記試験にて実施されます。実技試験などはありません。

出題数は150問、1問1点であるため合計150点満点で、そのうち90点以上を取れば合格です。

具体的な合格基準については、合格発表後に掲示されます。

ただし例年共通しているのは、「あん摩マッサージ指圧理論」を3割以上正解しないと不合格になるという点です。

2.受験料

受験手数料は、2019年度時点で1万4,400円です。

受験書類を提出するにあたって、同額を公益財団法人東洋療法研修試験財団が指定した銀行または郵便局の口座に振り込む必要があります。

受験書類が受理された後から返還を求めることはできませんので注意しましょう。

3.試験内容

試験科目は以下の通りで、試験はすべて筆記試験で行われます。

なお、視覚障がいを持つ方は、拡大文字や超拡大文字による受験、点字による受験、DISY-CDの使用や試験問題の読み上げによる受験、照明器具や読書補助具、点字タイプライターによる受験も可能です。

  1. 医療概論(医学史は含まない)
  2. 衛生学・公衆衛生学
  3. 解剖学
  4. 生理学
  5. 病理学概論
  6. 関係法規
  7. 臨床医学総論および各論
  8. リハビリテーション医学
  9. 東洋医学概論および経絡経穴概論
  10. あん摩マッサージ指圧師理論および東洋医学臨床論
                            など。

4.試験日と合格発表日

2020年に実施された第28回あん摩マッサージ指圧師国家試験は、2月22日(土)に実施されました。

合格発表は同年3月26日(木)でした。

毎年、厚生労働省と公益財団法人東洋療法研修試験財団は合格者の受験地と受験番号を掲示にて発表しています。

2020年については新型コロナウイルスの影響により、掲示による合格発表は同省・同財団のホームページでの発表のみ行われました。

あん摩マッサージ指圧師の給料はいくら?

病院勤めの場合の月収 20万円程度
治療院勤めの場合の月収 16万円程度
年収 300万~400万円程度

あん摩マッサージ指圧師の月収は、勤務先が病院の場合で20万円ほど、治療院などの場合で16万円ほどが相場です。年収に換算すると300万円から400万円ほどになります。

年収や待遇は、勤務先の地域、さらに本人の経験や技術によって大きく異なります。

治療院などでは指名による歩合制を導入しているケースもあり、固定的なお客さんがつけばまとまった収入を得ることも可能です。

一方、ある程度就職して経験を積んだら、自分で治療院やマッサージ店を開業する人も少なくありません。

独立開業した場合の年収は、本人の経営手腕や技術力、営業力などによるところが大きいですが、なかには1,000万円を超える人もいます。

患者が、病院やクリニックに在籍しないあん摩マッサージ指圧師に支払われる施術料金は、60分で5,000円ほどが相場です。

あん摩マッサージ指圧師の初任給や福利厚生、雇用形態別の収入など、詳しく知りたい方は「あん摩マッサージ指圧師の給料を職場や雇用形態、都道府県ごとに徹底解説!」をご覧ください。

あん摩マッサージ指圧師の就職先は?

就職先は、介護施設やスポーツジムなどの場で活躍イメージイラスト

あん摩マッサージ指圧師の資格を取得すると、さまざまな活躍の場があります。

就職先についてくわしく見ていきましょう。

1.介護施設

最近は介護現場でのニーズの高まりから、老人ホームやデイサービスなどであん摩マッサージ指圧師が施術や運動指導を行っている場合も増えています。

介護施設によっては、機能訓練指導員を必ず1名以上を配置する必要があります。

このために、機能訓練指導員の資格要件である「あん摩マッサージ指圧師」の求人も少なくありません。

介護施設では、リハビリだけでなく健康体操や筋トレのサポートをすることもあります。

2.病院や治療院

資格取得後、経験を積むために病院や治療院に就職するケースが大半です。

病院やクリニックにある整形外科やリハビリテーション科では、患者の症状の改善や機能回復を目指してあん摩マッサージ指圧師の施術を取り入れているところが多いからです。

鍼灸師や柔道整復師が開業する治療院に就職するケースもあります。

3.鍼灸師などの資格を取って開業も可能

ほかには、鍼灸師や柔道整復師なども取得したうえで、治療院を独立開業する人がいます。

また、訪問リハビリマッサージの事務所を開設して仕事を始める人も増えていますし、プロやアマチュアのアスリートを対象としたスポーツ専門の治療院を開設することも可能です。

自ら経営を行うには、顧客を獲得する必要があります。そのためにも病院や治療院などでスキルを磨き、必要な知識を蓄えてから挑戦してみるのも良いでしょう。

体力に自信がある人に向いている

腕や指を使うため、体力に自信がある人向けのイメージイラスト

あん摩マッサージ指圧師として働くために大切なことは、元気で体力があることです。

あん摩やマッサージ、指圧は、指や手、腕を使って施術を行います。器具や機械を使わないだけに、体への負担はとても大きい仕事です。そのうえ、立ち仕事がメインになるため、足腰の筋力や体の使い方が非常に重要になってきます。

体調がすぐれなくて、つらい症状を抱えてやってきた患者に、しっかりとした施術を行うためにも、普段から健康管理と体力アップを心がけていく必要があります。

さらに、患者とコミュニケーションを図りながら施術を行うことが多いので、人と接することが好きな人もあん摩マッサージ指圧師に向いています。

患者は自分の症状を客観的に説明できないことが珍しくありません。患者がどういった症状の悩みを持っているか、正確に把握するためには本人からのヒアリングがとても大切。こちらから上手に質問を投げかけて、相手の思いをくみ取る力も重要になってきます。

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