理学療法士(PT)とは
理学療法士とは、病気や怪我、老衰、障がいなどの原因で運動機能が低下した人に対して、運動や温熱、電機、光線といった物理的手法により機能改善を図る専門家のことです。運動機能が著しく低下すると、「起き上がる」「座る」といった基本的な動作が困難になってきます。そうなると「自分でトイレに行く」「1人で食事をする」といった、日常生活で行う動作も難しくなるでしょう。
理学療法士はリハビリなどを通して、利用者の日常生活動作(ADL)を改善させ、生活の質(QOL)の向上を図ります。
人数と男女比
公益社団法人日本理学療法士会が公開している『統計情報-会員の分布』によれば、理学療法士の会員数は2020年3月末時点で12万5,372人。
近年の新規登録者数は横ばいで推移しており、厚労省『第55回理学療法士国家試験及び第55回作業療法士国家試験の合格発表について』では、2020年2月実施の国家試験で新たに1万608件の登録が確認されています。
また、同会による『理学療法士協会の現在』の中で、2013年時点で男性会員56,028人、女性会員35,036人で男女比率は6:4。
現場では男性だけでなく女性も活躍していることがわかります。
作業療法士・言語聴覚士とはどう違うの?
理学療法士に似ている仕事に、作業療法士と言語聴覚士があります。
これら3資格はすべて国家資格で、利用者に対してリハビリを行うことが主な仕事です。
しかし、理学療法士と作業療法士・言語聴覚士とでは、提供するリハビリの内容と目的が異なります。
理学療法士が行うリハビリは、利用者の身体機能や動作能力を改善させることを目指すものです。
一方、作業療法士が行うリハビリは、日常生活を送るうえでの「応用的な動作」の改善も視野に入れた内容となっています。
つまり、日常生活で必要となる動作のリハビリのほか、レクリエーションなども用いて心身のリハビリを実施するのが作業療法士の役割です。
また、言語聴覚士が行うリハビリは、「話す、聞く、食べる」といった機能が低下している人に対して、言語能力や聴覚能力を改善・回復させることを目指します。
具体的には、文字や絵で言葉を引き出す、呼吸や発音の訓練を行う、舌や口を動かす運動をする、といった内容です。
理学療法士 | 作業療法士 | 言語聴覚士 | |
---|---|---|---|
資格 | 国家資格 | 国家資格 | 国家資格 |
業務内容 | 運動療法を用いて体幹や運動機能のリハビリ | 日常動作(応用動作)や精神的なリハビリ | コミュニケーションや食事摂取、聴覚の問題の改善 |
仕事内容は患者の身体機能向上のサポート

「Physical Therapist」を略した「PT」と呼ばれることもある理学療法士は、体を動かすための基本となる身体機能の回復を支援します。
専門的な知識と技術を用いて患者に最適なプログラムを作成、運動機能への働きかけや動作改善を実施し、日常生活で自立できるまで治療や支援を行います。
具体的な理学療法士の仕事内容について、以下で詳しく解説していきましょう。
運動療法で関節を曲げ伸ばしさせる
理学療法士が行う「理学療法」の1つである運動療法は、実際に体を動かしながら行うものです。
関節や筋肉を動かしながら、関節の可動域や筋力の改善を目指す方法で、歩くことが難しい人に対しては歩行訓練などを行います。
必ずしも立って動くだけではなく、横になった状態で関節を伸ばしたり拡げたりするので、ベッドから起き上がれない人にも有効です。
運動療法を経て起き上がれるようになれば、筋力回復のための訓練を受けられるようになります。
物理療法で体をマッサージ
物理療法は、物理的に体へ刺激を与えて、痛みの軽減や運動能力改善を図る方法です。
体のどこかに痛みやしびれを感じている患者に対し、温熱療法や寒冷療法、赤外線や水、電気刺激などのなかから、一人ひとりの状態に合った方法を用いて、症状を和らげます。
機器を使用したこれらの治療に加え、指圧やマッサージなどを、直接患者の体に施すこともあります。
住宅環境整備のためのアドバイス

動作能力が落ちると、「自宅では暮らしにくい」と感じることもあります。
理学療法士は、患者が自宅で転倒し怪我をすることがないよう、より住みやすい環境をつくれるように住宅環境整備のアドバイスも行います。
玄関や廊下、浴室などの転倒リスクが高い場所に手すりをつける、段差をなくす、転落防止のためにベッドに手すりを設置するなど、自宅で安全に生活できるように、理学療法士は適切な改修計画に関して助言を行います。
理学療法士の給料はいくら?
厚生労働省発表の「賃金構造基本統計調査の職種別賃金額」のデータによると、理学療法士と作業療法士の平均月収は、28万5,200円でした。
一般的な理学療法士の月収は23万円~30万円ほど、年収は350万円~500万円ほどです。
理学療法士の仕事はパート勤務も可能で、その場合の時給は2,000円ほどが相場です。
月収 | 23万円~30万円 |
---|---|
年収 | 350万円~500万円 |
時間給 | 2,000円前後 |
勤務場所によっても給与は変動し、特に規模の大きな病院では上記の金額よりも給与や待遇が良くなることがあります。
国家資格が必要な医療系の仕事にしては収入が低いと感じるかもしれませんが、これには、理学療法士として働く人に若い人が多く、中高年が少ないことが影響しているようです。
40代で理学療法士として働く人は、男女とも全体の11~12%、50代になると2~3%程度となっています。
初任給も働く場所により変動しますが、月額23万円ほど、年収280~300万円ほどが一般的です。
理学療法士になるには国家試験を受験する
理学療法士として働くには、国家試験を受験して合格しなければなりません。
以下では、受験資格の取得方法や国家試験の内容について紹介していきます。
受験資格を取得するための6つのルート
理学療法士の受験資格を得る方法には6つのルートがあります。
「4年生大学ルート」、「短期大学(3年制)ルート」、「専門学校(3・4年生)ルート」、「特別支援学校(視覚障がい者が対象)ルート」、「作業療法士資格取得からのルート」、そして「外国で資格を取得するルート」です。
それぞれのルートについて詳しく見ていきましょう。
1.【4年生大学ルート】大学の養成課程を履修
理学療法士の養成課程を設けている4年生大学を卒業することで、理学療法士試験の受験資格を満たすことができます。
大学の場合、カリキュラムの中に一般教養や語学なども含まれているため、理学療法士になるための専門教育だけを集中的に受けることはできません。
ただ、多様な学問分野に触れることで、理学療法士としてのみならず、知見を広めることにはつながるでしょう。
また、大学卒業後は理学療法士以外の就職を考えることもできます。
理学療法士になることを目指しつつもそれ以外の道への選択肢も残し、将来についてじっくり検討したいと考えている人には「4年生大学ルート」は適しているでしょう。
2.【短期大学(3年制)ルート】養成カリキュラムのある短大に入学
短期大学においても、理学療法士養成カリキュラムを設けている場合があります。
ただし、短大には2年制と3年制とがありますが、理学療法士の受験資格を得ることができるのは3年制です。
4年生大学よりも卒業までの年が1年間短いので、より専門領域に特化した教育を受けることができます。
4年生大学の卒業資格に対して必要性や魅力を感じず、理学療法士を目指すなら短期大学で十分、と考えている人にお勧めです。
3.【専門学校(3・4年制)ルート】専門学校で集中的に学ぶ
専門学校は理学療法士の受験資格取得に特化した学校であり、カリキュラムは理学療法に関する専門分野がメインです。
また、必要な課程を修了して理学療法士となった場合、手厚い就職支援を受けることができます。
理学療法士として就職することを決意し、努力を続けていくことを覚悟しているならば、専門学校ルートが適しているでしょう。
理学療法に関することを集中して学び、専門能力を高めたいという人にお勧めのルートです。
4.【特別支援学校(視覚障がい者が対象)ルート】理学療法科で養成課程を履修
視覚障がい者の方(弱視中心)の方でも、特別支援学校(盲学校)の理学療法科で所定の養成課程を経ることにより、理学療法士を目指すことができます。
全寮制の場合だと、1年次に基礎科目を学び、2年次に臨床医学や理学療法の科目、3年次に長期臨床実習および卒業研究の実施がカリキュラムの一例です。
特別支援学校で理学療法士を目指すことには、「少人数体制で教職員から丁寧な指導を受けることができる」という、ほかのルートにはない利点があります。
5.【作業療法士資格取得からのルート】養成校で2年履修
理学療法士と作業療法士は、学ぶべき内容が一部重なっている部分があります。
そのため、「作業療法士」の資格を既に持っている人が理学療法士の受験資格を得ようとする場合、すべてを一から学ぶ必要がありません。
専門学校などの養成校に2年以上通うことで、受験資格を得ることができます。
理学療法士と作業療法士という2つの資格を持っていれば、リハビリの専門家として活躍できる範囲はさらに広がるでしょう。
6.【外国で資格を取得するルート】手続きをして受験または不足単位を履修
現在では、海外で生活している日本人も多くいます。
もし外国で日本の理学療法士に該当する資格を取得している場合、所定の手続きを行って厚生労働大臣から認定を受ければ、日本の養成校に入学せずに受験資格を得ることができます。
しかし、外国で理学療法士の資格を取得できていても、「日本における理学療法士試験の受験に必要な単位を取得していない」と判断される場合もあるでしょう。
その場合は、不足している単位を取得するだけで、受験資格を得ることができます。
2020年の国家試験の合格率は86.4%
2020年2月に「第55回理学療法士国家試験」が行われました。受験者数は1万2,283人で、ここ数年はほぼ横ばいの状況が続いています。
合格者数は1万608人で合格率は86.4%。新卒者のみの合格率をみると、93.2%に達しています。
合格率は毎年80%前後という高い水準で推移しているので、試験自体は特別難関というわけではありません。
養成校で学んだことをきちんと身につけていれば、ほぼ確実に合格できると言えるでしょう。
合格基準
合格ラインは総得点の約6割で、かつ実地問題で3割以上の得点がなければ不合格です。
例えば、過去の合格基準は次のようになっています。
試験 | 総得点 | 実地問題 |
---|---|---|
第54回試験(2019年実施) | 272点中164点以上 | 117点中41点以上獲得 |
第53回試験(2018年実施) | 274点中165点以上 | 114点中40点以上獲得 |
第52回試験(2017年実施)の場合 | 280点中168点以上 | 120点中43点以上獲得 |
受験料
国家試験である理学療法士試験は、受験料は制度により規定されています。2020年現在の受験料は1万100円です。
受験料を支払う際には、収入印紙を受験願書に張りつける必要があります。
受験願書を送付後、受験票が郵送で送られてくるので、忘れずにチェックしましょう。
所定の期日までに送付されてこない場合は、「理学療法士国家試験臨時事務所」に問い合わせを行います。
試験内容
理学療法士試験は、大きく「一般問題」と事例・症例に基づいた設問である「実地問題」とで構成されています。
一般問題として出題されるのは、以下のような科目です。
- 解剖学
- 運動学
- 生理学
- リハビリテーション医学
- 臨床心理学
- 病理学概論
- 病理学概論
実地問題では、次の科目などから問われます。
- 運動学
- リハビリテーション医学
- 生理学
- 臨床医学大要および理学療法
重度視力障がい者の受験者は、実地問題を受ける必要はありません。
その代わりに口述試験と実技試験を受験します。
問われる内容は、運動学、リハビリテーション医学、臨床心理学、李承医学大要および理学療法です。
筆記試験
筆記試験の出題範囲はかなり広く、ボリュームが多い試験となっています。
試験の問題数は一般問題が160問、実地問題が40問で合計200問。
試験は午前と午後に分けて行われ、午前中に一般問題80問・実地問題20問に取り組み、午後に再び一般問題80問、実地問題20問に取り組みます。
試験時間は午前と午後それぞれ2時間40分。丸一日をかけて行われる試験です。
問題形式は、一般問題については5つの選択肢の中から1つまたは2つの正答を選ぶという形式となっています。
実地問題については、1つの事例・症例につき、小問が2問出されるという問題設計です。
口述試験及び実技試験
口述試験および実技試験は、重度の視力障がい者の方を対象とした試験です。
試験では、各分野に関する口頭での質問に応答し、さらに試験管の前で実技を行う必要があります。
緊張してしまう方もいるでしょうが、学校で習ったことをきちんと行えば、合格水準に達する内容です。
指導を受ける先生としっかりと対策を行い、試験に臨みましょう。
試験日と合格発表日
第55回理学療法士国家試験については、試験日は2020年2月23日(日)で、合格発表は同年3月23日(月)の午後2時に行われました。
発表の第一報は、各地の理学療法士試験運営臨時事務所において、受験地と受験番号を掲示する形で行われます。
一刻も早く結果を知りたい方は、合格発表の時間を把握したうえで、発表が行われる事務所に向かうと良いでしょう。
理学療法士の就職先は?
介護施設
老人ホームなどの高齢者向けの施設で「機能訓練指導員」として働くケースも多いです。
機能訓練指導員とは、病気や怪我により日常生活に支障が生じている人が、健康な状態で自立した生活を送れるように、リハビリ・機能訓練を行う専門職のことを言います。
なお、機能訓練指導員は、特別養護老人ホームやデイサービスに最低1人以上配置することが制度上義務づけられています。
病院・診療所などの医療機関
理学療法士の就職先として最も多いのが医療機関です。
クリニックなどでは整形外科が選択されるケースが多く、総合病院の場合は整形外科だけでなく、心臓外科、脳神経外科でも勤務しています。
例えば、脳血管疾患により麻痺などの後遺症が生じ、身体機能が低下した患者に対して、本人の状態にあったリハビリを行うのは理学療法士の役割です。
そのほか、入院中のがん患者の体力維持、あるいは高齢者の体力低下を防ぐためのリハビリも担当します。
スポーツジムなど
割合としては多くはありませんが、フィットネスクラブを始めとするスポーツ関連施設で働く理学療法士や、プロスポーツ選手を対象としたリハビリに特化した理学療法士もいます。
やりがいは患者の回復を実感できること

理学療法士がリハビリを行い、身体機能が向上するまでの過程は簡単なものではありません。
一人ひとりに最適なプログラムの作成と日々の地道なリハビリが必要なため、根気強く患者に寄り添わなければなりません。
継続的に同じ患者とかかわりながらリハビリを行い、その結果、患者の身体機能の回復を目に見えて実感できるのが、理学療法士としてのやりがいでしょう。
それまで自由に動いていた体を思うように動かせなくなったことに対して、患者は絶望していることが少なくありません。
衰えた機能を回復させるためにリハビリに取り組んでもらいたくても、患者本人がリハビリに後ろ向きでは、回復が難しくなってしまいます。
理学療法士は、そのような患者の気持ちを理解し、リハビリに取り組めるように気を配ります。
患者の家族ともコミュニケーションを取って、寄り添いながらリハビリを続けることで、ポジティブな気持ちでリハビリを行ってもらえるようになるでしょう。
「向学心」がある人に適性がある

理学療法士として働くには国家試験に合格しなければなりませんが、一度資格を取得して働き始めてからも、学ぶことは重要です。
医学は常に進歩しており、リハビリに関する情報も変化します。
常に新しい情報にアンテナを張ってリハビリに活かせるような、「向学心」を持つ人が理学療法士に向いています。
また、理学療法士の仕事内容は幅広い知識が求められるので、医学や身体機能などへ深い関心を持つ人も、適性があるでしょう。
リハビリは、患者の気持ちに寄り添いながら行うことが必要不可欠です。
自分の作成したプログラムをただ推し進めるのではなく、患者の体の状態や気持ちを理解して共感し、思いやりの気持ちをもって接することができる人も、理学療法士として向いています。
理学療法士の仕事は、体力勝負という場面も少なくありません。
例えば、リハビリ中に患者の体を支えてバランスを取るときに、理学療法士の支える力が足りないと患者が安定せずに、不安を感じてしまうことがあります。
また、リハビリがなかなか進まないときは患者本人だけでなく、家族が精神的な負担を感じてしまうことがあるため、その時々に応じてサポートが必要です。
そのため、理学療法士は心身ともに健康であることに加えて、ある程度の体力も求められます。
リハビリサービスの利用者が増加で需要大

リハビリを専門とする理学療法士の仕事は、医療機関はもとより介護施設でも必要とされています。
特に近年の著しい高齢化で、要介護の高齢者の身体機能向上だけではなく、介護予防のための身体機能維持や向上にも注目が集まっています。
そういった中で、正しい方法で適切なリハビリを実行できる理学療法士は、ニーズが高い職種です。
今後、高齢者数増加に伴いリハビリを必要とする人も増加が見込まれるため、需要もさらに増えていくでしょう。
また、介護に関連する施設として、高齢者が住み慣れている地域で生活できるよう支援を行う地域包括支援センターでも、理学療法士が活躍しています。
地域包括支援センターも今後の増加が見込まれていることから、理学療法士の需要も高くなることが予想されています。
理学療法士の勤務先としても触れましたが、スポーツ分野で働く理学療法士もいます。
理学療法士はリハビリに限らず、体のゆがみなどの問題箇所を改善し、本来持つ力を最大限に発揮できる状態まで体の状態を向上させたり、動作改善により怪我予防を行ったりできるため、スポーツの分野でも重宝される存在です。
高齢化にもつながることですが、健康に気遣い健康増進センターやフィットネスクラブなどに通う人が増加していることから、そのようなスポーツ関連施設でも理学療法士が求められることが増えていくでしょう。
国家資格で社会的にも評価が高い理学療法士は、活躍の場も広がりつつある、将来性の高い仕事です。