今回ご紹介するのは、社会福祉法人元気村が運営する介護老人保健施設「蓮田ナーシングホーム翔裕園」(埼玉県蓮田市)。ここで支援相談員として働く小倉徳之さんは、カーレーサーとしてレース活動を行っていた異色の経歴の持ち主です。レース引退後は宅配業やトラック運転手などを経て、介護の世界で新たなキャリアをスタート。勤続18年目を迎える今、「介護は魂が震える唯一無二の仕事です」と語ってくれました。

更新
小倉徳之アイコン
Profile 支援相談員 小倉 徳之さん

16歳でカーレーサーを目指し、サーキット「富士スピードウェイ」をホームにレース活動を開始。その傍ら、配送業などに従事していたが、父親の病気をきっかけに27歳で地元・埼玉へUターン。ホームヘルパー2級(現・初任者研修)を取得し、社会福祉法人元気村へ介護士として転職した。現在は老健の入居相談などを行う支援相談員として活躍している。

経歴
1990年〜1994年 レーサーを目指し、高校中退。資金づくりのためバイトに明け暮れる
1994年〜2001年 宅配業に従事しながらレース活動に取り組む
2001年〜2003年 トラック運転手などとして勤務
2003年10月〜 社会福祉法人元気村に入社
長所 体が丈夫
短所 マイペース
趣味 サッカー観戦、史跡めぐり
特技 安全運転

夢を追いかけたカーレーサーは、未経験の介護の世界へ飛び込んだ

まずは前職について教えてください。

宅配ドライバーやトラック運転手など、車の運転にかかわる仕事をしていました。それと並行して、20代前半の頃はカーレーサーとしてレース活動をしていました。

レーサーですか?かっこいいですね!

子どもの頃から車が好きで、レーシングドライバーに憧れていたんです。将来はレーサーになることを目標に、車に触れる工業高校へと入学しました。でも、機械のことを勉強するより、早く働いてお金を貯めて自分のマシンを買った方が近道なんじゃないかと思い立ち、16歳で高校を中退しました。今思い返すと浅はかな考えですが、当時は「これしかない!」とまさに猪突猛進(笑)。

バイトをしてマシンを手に入れた後、20歳からは拠点を埼玉からサーキットのある静岡へ移して、本格的にレース活動を始めました。レースだけでは食べていけないので、宅配業者に運転手として就職し、二足のわらじを履いて夢を追いかけていましたね。

小倉徳之さん

どうして車の世界から介護業界へ興味を持ったのですか?

父親が倒れたことがきっかけです。回復後も体に少し麻痺が残ったため、レースは辞めて実家に戻ることを決意しました。私が27歳の頃です。

Uターン後は、ルート配送のトラック運転手をしながらホームヘルパー2級(現・初任者研修)を取得しました。運転手の仕事は夜をメインに働いていたため体力的にきつく、長く続けるのは難しいと思っていました。また、介護の資格を取ることで、父や家族のために何か役に立てるかもしれないという気持ちがありましたね。ちょうど介護保険制度が創設された頃で、タイミングが良かったこともあります。

  Before After
雇用形態 正社員 正社員
業種 運送業 介護老人保健施設
職種 運転手 支援相談員
勤務時間 15:00~7:00 8:30〜17:30
休日 月6日 月9〜10日
仕事内容 配送業務 相談業務

介護の資格を生かして転職されたんですね。

そうですね。転職活動を始めてすぐ、今の職場で採用してもらいました。そのまま勤め続けて今年で勤続18年目です。自分でも驚いています(笑)。

当施設は介護老人保健施設です。病院から在宅への中間施設として日常生活上の介護に併せて、医師や看護師、介護士やリハビリスタッフが心身のリハビリを行い、在宅復帰のお手伝いをします。また退所されたら終わりではなく、その後の在宅生活を支えていくのも大きな役割であり、そのためのいろいろな機能も持っているのが老健です。

当初は介護士として、利用者様の身体介助のほか、レクリエーションなどを行っていました。介護福祉士とケアマネの資格も取得し、リーダーとして約40名の介護スタッフをマネジメントする立場でもありました。

トラブルにも慌てない!前職のスキルを生かした臨機応変な対応力

現在はどんな業務に従事されていますか?

3年前より、支援相談員として働いています。ご家族や、病院・事業者など外部機関との連絡調整が主な業務内容ですね。入退所の相談・調整、利用者様の通院手配からショートステイの送迎まで、あらゆることをこなしています。

部署には私を含め3名の支援相談員がいます。スケジュール通りにルーチンワークをこなすというより、その日の状況によって臨機応変に動くことが多いです。利用者様の突然の体調不良など、突発的で緊急性の高い出来事も多く起こるのが介護施設。支援相談員には、慌てず一つひとつ対応していく対応力が求められます

小倉徳之さん

勤務形態はシフト制で、休日は月に9~10日あります。8時30分から17時30分が勤務時間で、残業は多くて1~2時間程度です。なるべく定時で帰ろうと心がけています。勤続年数によってリフレッシュ休暇が付与されますし、有休も取りやすく、働きやすい環境が整っていると思います。

以前のお仕事に就いていた頃と比べて、生活は大きく変わりましたか?

トラック運転手の頃は夜間に働いていたため、周囲と休みが合わず、それまでの友人関係が断たれてしまうというデメリットがありました。時間の感覚がおかしくなりますし、人と話すこと自体が少なくなってしまうのも辛かったです。その点、現在の職場に転職してからは、利用者様をはじめ、人とコミュニケーションを取ることが主な仕事となり、180度方向転換した感じがします。昼間の仕事になって生活のリズムが整い、体も楽になりましたね。

転職前後の週間スケジュールの変化

役に立っていると感じる前職のスキルはありますか?

宅配業をしている時に身につけた、作業効率の追求はとても役に立っていると思います。決められた時間内で、複数の相手にたくさんの荷物をお届けしなければいけないため、毎日が時間との勝負です。どのルートでどうやって配るのが最短で効率的か。車両への荷積みの段階からスケジュールを組み立て、頭の中は常にフル回転でした。

介護士時代に夜勤に入っていた時は、少ないスタッフ数で100床の利用者様をお世話していましたし、支援相談員への異動後もやることは毎日たくさんあります。けれど、どんな状況でもパニックになることなく、落ち着いて判断することが必要です。優先順位をつけながら手際良くこなしていくことができているのは、前職での経験のおかげだと思います。

すべての利用者様にとって居心地の良い施設であるために

お仕事をされるうえで、心掛けていることなどはありますか?

施設には、さまざまな価値観やバックグラウンドをお持ちの利用者様がいらっしゃいますから、自分の考える常識を押し付けないよう注意していますね。

ある日、利用者様が食べものを落とされたので、「捨てますね」とゴミ箱へ入れたところ、とても怒られたことがあります。食べものを粗末にしない世代の方ですから、もったいないと思われたんですね。小さなことであっても先入観を持つことなく、その都度、お相手に確認することが重要だなと感じました。

人と人とのかかわりにおいて基本的なことでありながら、難しい部分でもありますね。

そうですね。私は介護の世界に長く身を置いているため、ある程度の知識や経験はあるかと思います。けれど、過去の経験を過信して、物事をパターン化したり、結論を急ぎすぎてしまうと失敗しますね。

支援相談員になってすぐの頃です。体調を崩された利用者さんがいらっしゃって、そのご様子をご家族へお伝えすることになりました。このような場合は、本来であれば医師や看護師が同席してお話をしなければなりません。けれど私はそのとき、自分だけで対応してしまったんです。後日、ご家族から「なぜ、医師からの状況説明がなかったのか」とご意見をいただきました。

安易な自己判断が、ご家族を不安にさせてしまう結果となり、本当に申し訳ない気持ちになりました。ご家族、スタッフ、外部機関、利用者様にかかわるすべての人たちと連携をとり、客観的な視点で仕事を進めなければいけないと改めて学んだ出来事でした。

なるほど。小倉さんの誠実なお仕事ぶりが察せられます。

介護の現場では、どなたに対しても、公平性を持って接することも大切だなと思います。よくお話される方、寡黙な方、さまざまな気質の方が施設をご利用になられます。でも、スタッフがおしゃべり好きの方とばかり仲良くしていては、それを見て、寂しく思われてしまう人もいますよね。利用者様には居心地よく過ごしていただきたいからこそ、一歩引いてフラットな立場でいることを心掛けています。

小倉徳之さん

介護のお仕事で、楽しさややりがいをどこに感じられていますか?

利用者さんとのコミュニケーションは本当に楽しい時間です。今は支援相談員ですが、また介護士として現場に戻りたいくらいです(笑)。

老健はリハビリが目的なので、利用者さんは短い期間で退所されることが多いです。これまでたくさんの方々とお会いし、在宅復帰に向けたお手伝いをさせていただきました。人生経験豊富な皆さんと交わした言葉はどれも思い出深く、「ありがとう」という何気ない一言一言にも、やりがいを感じられますね。

忙しい業務の中で、ホッと一息つける時間や場所はありますか?

休憩時間に缶コーヒーを飲むのがささやかな楽しみです。自宅からブラックコーヒーも持参しているんですが、この時間に飲むのは甘いタイプと決めています。糖分を補給して「よし!残りの時間も頑張るぞ」と気合を入れる感じですね。あとは敷地内を散歩をしたり、趣味のことを色々調べたりして過ごします。

小倉徳之さん

お休みの日はどのように過ごされているのですか?

昔から歴史が好きだったこともあり、史跡や城跡めぐりが趣味の一つです。最近は古い地図を見ながらいろいろな痕跡を探しに、自転車であちこちめぐることにハマっています。片道50kmかけて東京の日本橋まで行ったことも。体力には自信がありますが、さすがにヘトヘトになりました(笑)。

あとは、サッカーが好きなので、Jリーグの試合をよく観ますね。コロナ前はスタジアムへもよく出かけていました。子どもが部活やクラブチームでサッカーをしているので、その応援に行くのも楽しみです。

モチベーショングラフ

介護のプロフェッショナルとして、愛する職場で成長を続けたい

これからの目標や、将来なりたい姿を教えてください。

支援相談員になってからは、経営的な感覚を求められるようになりました。ベッドコントロール(病床の管理)といった数字の部分を考えないといけませんし、介護保険制度などは頻繁に改正があるため、常に新しい知識をインプットする必要もあります。けれど、施設の主役はあくまで利用者様です。どうやって支援していくのがその方にとってベストなのか。それを忘れることなく、介護に携わる人間として恥じない仕事をしていきたいですね。

こんな職種につきたいなど具体的に思い描く将来の姿はありませんが、介護のプロフェッショナルを目指して、色々な職種を経験し、自分の幅を広げたいと考えています。事務方のことをもっと深く知るのも良いなとも思いますし、もしも他の施設へ異動となればそこで頑張るつもりです。これからも、さまざまなことを吸収しながら楽しく働いていきたいですね。 ただ、定年退職後は、デイサービス部門の送迎ドライバーをやりたい。まだまだ先の話ですが、それだけは自分の中で決まっています(笑)。

小倉徳之さん

小倉さんが、今の職場へ愛情を持たれているのが感じられます。

はい。この蓮田ナーシングホーム翔裕園のことは、就職した当時から変わらず大好きですね。長く勤めていますから、もちろんその間にはいろいろなことがありました。でも、すべてが自分にとって糧になっていると思います。

1997年の開設以来、ずっと働いている先輩もいらっしゃるくらい定着率の良い職場です。私ももう少しで到達しますが、20年選手が何人もいます。介護の現場はチームワークが何よりも大切です。お互いの気遣いが、職場の良い雰囲気をつくっているんでしょうね。

介護業界で長く活躍されている小倉さんから、転職を考えている皆さんへメッセージをお願いします。

介護は、相手の人生に深くかかわる仕事です。当然、楽しいことや嬉しいことばかりではなく、辛い場面・悲しい場面に立ち会うこともあります。もちろん、カーレーサーや配送業をしていた際も、達成感ややりがいはありました。けれど、こんなに魂が震えるほど深く感情が揺れたり、良いことも悪いことも含めて誰かと心から向き合える仕事は、介護の仕事をおいて他にないと感じますね。

それに、介護業界は職種の選択肢が広いのが良いところです。その人の個性に合った目標がきっと見つけられると思います。介護業務を経験したのち、支援相談員や事務といった現場の後方支援であったり、医療・リハビリの道へと進まれる方もいます。この世界への転職を考えられている方、ぜひチャレンジしてみてください

小倉徳之さん

撮影:丸山剛史

求人の詳細
はこちら
社会福祉法人元気村