今回お邪魔したのは、大阪府豊中市のグループホーム曽根オアシス(運営:株式会社ハートコーポレーション)。管理者・木元愛乃さんは、輝く太陽を思わせる朗らかな性格で、周囲から頼られ愛される存在です。でもそんな彼女も、昔の職場では失敗ばかりで上司に叱られる毎日だったとか。自分の性格を仕事に活かしきれていないと悩んでいる方、本インタビューがひとつのヒントになるかも!?

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Profile 管理者 木元 愛乃さん

短大卒業後、金融系企業で事務職に従事。結婚・出産のため退職後、介護業界へと転職する。訪問介護事業所立ち上げへ参画し、サービス提供責任者を経験した後、2019年株式会社ハートコーポレーションへ入社。動物好きでペットは犬・猫・亀。

経歴            
2006年〜2009年 短大卒業後、金融系企業の事務職に従事
2012年〜2016年 訪問介護事業所の立ち上げに携わり、サ責として活躍
2016年〜2018年 高齢者施設で介護士として勤務
2019年1月 株式会社ハートコーポレーションへ入社
長所 ポジティブ
短所 楽観的すぎる
趣味 ピアノ、料理、動物のお世話
特技 肺活量

毎日がつらい…。自分の良さが発揮できない職種を選んで大苦戦

以前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

短大を卒業した後は、金融系企業の内勤事務に就きました。お客様からいただいた契約書類に不備がないかのチェックや、PC入力などが主な業務です。結婚・出産を期に退職するまでの約3年間お世話になりました。

  Before After
雇用形態 正社員 正社員
業種 金融 グループホーム
職種 一般事務 管理者
勤務時間 8:40〜17:10 8:50〜17:50
休日 土日祝 月9〜10日のシフト制
仕事内容 書類管理・送金業務 施設管理業務

事務職を選んだ理由を教えてください。

両親への親孝行のつもりでした。「安定した会社で落ち着いたデスクワークをしてほしい」と言われていたんです。それまで、進路に関して両親へ相談することなく自由にさせてもらったこともあり、私の就職が恩返しになればといった気持ちがありました。

実際にデスクワークをしてみていかがでしたか?

これが大げさではなく、本当にダメだったんです…。私の性格は良くいえばおおらかなんですが、要するにおおざっぱで細かい作業が苦手なんですよね。そのため、例えば書類チェックでは間違っている箇所にまったく気が付かないし、数字を記入する位置が多少ズレていても「だいたい合ってるからええやん」みたいな(苦笑)。一事が万事こんな調子なので、毎日上司から叱られていました。

誰しも向き・不向きがありますからね…(笑)。

そういうことですね(笑)。加えて、女性が大半の職場だったため、気難しいお局様がいたり職員間の派閥があったりと、社会の厳しい洗礼を受けた初就職となりました。

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けれど辛かった分、たくさんの学びもあったのではないですか?

はい。社会人としての自覚や責任感を持つといった面で、大いに鍛えてもらえたと思います。TPOに合わせた振る舞いは特にそうです。同僚たちがパンプスを履いている中、カジュアルなサンダルで出勤してしまい、上司から呼び出されたことは今でもよく覚えています。

新規事業所の立ち上げに奮闘。周囲のあたたかさとやさしさをパワーに

ご出産を機に退職されたとのことですが、産後に福祉業界へ転職したんですね。

実は、子どもが2歳の時に離婚したんです。シングルマザーとして安定した生活基盤を築くためには、とにかく手に職をつけることが必要だと思いました。それにどうせ働くなら、日々の暮らしのためだけじゃなくて、上を目指せるような業界でチャレンジしてみたいと考えたんです。

そこで目を向けたのが福祉の世界でした。特に身体介助を行う職種は、女性の方が有利な場面がたくさんあると思っていました。気配り・目配りの細やかさといった点はもちろんだし、例えば利用者さまのご自宅に上がる訪問介護なら、男性ヘルパーよりも女性ヘルパーの方がリラックスして迎えていただけるんじゃないかって。

そういった理由から、こんな私でも頑張れば認めてもらえる世界なんじゃないかと期待しました。デスクワークは懲り懲りだったので(笑)。

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なるほど。ご自身の適性を分析して、福祉の道へ進まれたと。

最初に勤めたのは、障がい者の方のための通所施設でした。パートタイムの支援員として1年ほど働いてみて、その仕事がすごく楽しかったんです。もっと経験を積んで、介護福祉士の資格を取ろうと決意しました。

その後、資格取得のためにも正社員として働ける先を探していたところ、知人が訪問介護事業所を新設するという話を聞き、立ち上げに参画させてもらうことになりました。そこから高齢者介護の道に入りました。

スタートアップを経験してみていかがでしたか?

社長である知人は福祉とはまったく関係のない異業種からの参入で、私も高齢者介護は未経験ですから、まさに手探り状態でした。

開業に必要な申請書類の作成からはじまって、スタッフ集め・利用者さま獲得に向けた営業にも飛び回り、毎日が怒涛のように過ぎていきました。最終的には20名近くの利用者さまからご契約をいただき、10名のヘルパーさんにお手伝いしていただくようになったんです。

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ひとりで小さなお子さんを育てながら責任あるお仕事をこなすのは、ご苦労も多かったと思います。

何かトラブルが起こると、サービス提供責任者である私が対応する必要がありました。ようやく業務が終わって保育園に迎えに行くと、子どもが最後のひとりでポツンと待っているんです。その姿を見るたび、心の中は葛藤でいっぱいになりました。

気持ちが折れそうになる時もありましたが、それでも頑張れたのは事業所の社長やヘルパーさんたちのやさしさのおかげ。突然の稼働のお願いも「あんたに頼まれたら頑張るしかないなぁ」と無理やりシフトの都合をつけてくれたり、子どもが体調を崩した時は心配してお世話を買って出てくれたりと、周囲に助けてもらいながら踏ん張っていました。

当時の木元さんはまだ20代。みなさん、娘を見守るような気持ちだったんでしょうね。

ヘルパーさんは50・60代の方が多かったので、まるでお母さんのように気にかけてもらいました。私は母を早くに亡くしたこともあって、なおさらそれが嬉しかったし、感謝しかありません。事業所を辞めて5年経ちますが、みなさんとは今でも連絡を取り合っているんですよ。

訪問介護事業所ではどれくらいの期間働いたのですか?

丸3年です。家庭の事情で転居することになり通勤が難しくなったため、今度は入居型施設の介護士として働くようになりました。その頃には子どもがある程度大きくなっていたこともあって、プライベートでもホッとひと息付けるようになりました。

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「私らしさ」を全開に!自然体で楽しむグループホームのお仕事

今の職場へ転職されたのはいつ頃でしょうか?

2019年です。前の職場では介護士として現場職に就いたものの、子どもの発熱などで急なお休みをしたとき、シフト調整で迷惑をかけてしまうのが気になっていました。もちろん周りのスタッフは「心配しないで」と言ってくれるんですが、どうしても自分の中の罪悪感は消すことができなくて。

そこで、できるだけ周囲に迷惑をかけずに家庭との両立を実現したいと考え、現場ではなく施設マネジメントがメインの管理者として、株式会社ハートコーポレーションへ転職することを決めました。

実際に働いてみて、家庭と仕事の両立は叶いましたか?

管理者の業務内容は人材マネジメントや外部調整など、施設責任者である私にしかできないことがほとんど。また、入居者様の異変など緊急事態が起こると、休みの日でも24時間連絡が入ります。そういった面での重責や緊張は感じますが、仕事の進め方は自由に配分できるため、ずいぶんと気持ちが軽くなりました。日々働く上で、ある程度マイペースに仕事を進められるという余白の広さが私には必要なんでしょうね。

就業時間は8時50分から17時50分で、月に10日程度の休日があります。規則的な勤務スタイルとしっかりお休みが取れる環境のおかげで、家族にも負担をかけずに働くことができ、満足しています。

スケジュール

以前の事務業務と介護の仕事を比べて、最も違いを感じる点はどこですか?

事務はルーティンワークがほとんどでしたが、介護の仕事は日々変化があります。特にグループホームは認知症の入居者様がお相手なので、ジェットコースター級の驚きと刺激の連続です。こちらの予想を上回る事態はしょっちゅうで、「今度はそう来たかー!」と叫びながら仕事をしています(笑)。

お話をお聞きしていると、つい笑ってしまいます。

遊んでいるわけじゃなく、ちゃんと働いてますよ(笑)!大変だけれど、同時に楽しさも山ほどあるのが介護の仕事。人間同士、丸裸の心でぶつかり合うからこその面白さというのかな。入居者様は日々異なる感情をお持ちだし、私たちスタッフ側だって機械のようにいつもフラットでいるのは難しいですよね。だから現場では毎日同じことなんてひとつもなく、働いていて飽きません。

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グループホームで働く上で、必要な心構えなどはありますか?

思い通りにいかないことがあっても「まぁ、そんなときもあるよね」と笑い飛ばせる寛容さがあるといいなと思います。やはり、認知症特有の暴言などが出る入居者様もいらっしゃいますからね。その発言や行動すべてを生真面目に受け止めすぎると、介護者は心を摩耗してしまいます。肩の力を抜いて、自分を許し、相手を許す。そんな余裕を持って仕事に臨めるとベストですね。

細かいことを気にしない自分の性格は、事務職時代は弱点と捉えられた部分。けれど今、介護の世界ではそれが大いに活きています。まさに「適材適所」というやつですね。

木元さんのモチベーショングラフ

管理者の業務で、最も重視しているポイントはどこですか?

私の仕事は、スタッフが楽しく働ける環境をつくることだと思っています。働く人が笑っていなければ、入居者様に笑顔で生活していただけるはずがありませんから。スタッフが困っていたら何とかしてあげたいし、施設のみんながハッピーに過ごせるよう、いつもアンテナを張っています。

木元さんのポジティブな明るさが、スタッフのみなさんにも伝播しているのだろうと感じます。

「相手の良い所探し」が私の人生のモットーなんです。誰しも人間ですから、気が合わない人・苦手な人と相対することって必ずありますよね。それでも私は、相手の欠けている部分をクローズアップするのではなく、関わるすべての人の良い面を見つけたい。職場でもこの価値観を大切にしています。

私自身、自分が完璧な人間じゃないことを嫌というほど分かっていますから。今だって、抜けが多くて周りに「ごめーん」と謝ってばかりですよ(苦笑)。でも、いつだってどこでだって、私をフォローしてくれるしっかり者にめぐり会えるんです。すごく強運な女です。

強運です!そこも前向きに、ですね。

そうそう(笑)。見守ってくれている周囲の人たちに心から感謝しています。

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目立たなくても頑張る人を応援したい。独自の表彰制度で現場の士気UP

これからの目標を教えてください。

スタッフがモチベーションを維持し、向上心を持って働き続けられるよう、管理者としてしっかり支えていくこと。そのための取り組みとして、昨年から「は〜とんグランプリ」という施設独自の表彰制度を実施しています。

介護の現場は各人の成果を数字で表しづらく、人事評価が難しい分野です。業界全体をみても、能力に応じた賃金制度の改革などがまだまだ必要だと感じます。だからこそ「報・連・相が完璧」「入居者様への対応が丁寧」など、地味ながらも施設へきちんと貢献してくれているスタッフを評価してあげたい。いち管理者の私が用意できる入賞賞品は、新作カップ麺くらいなんですけどね(苦笑)。それでも「自分の努力を見てくれている人がいる」と、スタッフの励みになればいいなという想いでやっています。

働く人のやりがいにつながる、素敵な制度だと思います!

実は、弊社でイメージキャラクターのデザインが公募された際、私が描いたイラストが採用されたんです。私の場合、イラストという本来の業務とは違う分野ではありますが、「他者から認めてもらえた」というのは思いのほか嬉しい出来事で、仕事へのやる気にもつながりました。同じように、人から褒められるという経験を施設スタッフにも味わってほしいと思ったのが、制度をスタートさせたきっかけです。

はーとん

最後に、介護業界を目指す方にメッセージをお願いします。

介護職って人のお世話ばかりでつまらなさそう、なんて思っていませんか?これが全然違うんですよ。変化に富んだ刺激的な毎日で、むしろ飽き性な人にこそおすすめしたい仕事です。不安もあるかもしれませんが、仕事なんて楽しんだもの勝ち!あまり固く考えすぎず、気楽にチャレンジしてくださいね。


記事末

撮影:STUDIO WAVE