今回は、石川県白山市の特別養護老人ホーム・キラッと篤寿苑(運営:社会福祉法人篤豊会)へお邪魔しました。同施設の介護士・得田勝也さんは元警察官!「たまたま試験に受かって」始めた警察のお仕事は、自身の個性と合わない組織風土で苦労の連続だったそう。興味のあった介護の世界へ転職して11年が経つ今、「素晴らしい職場にめぐりあえた」と笑顔で話してくれました。

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Profile 介護士 得田 勝也さん

大学卒業後は警察官として2年間奉職し、2011年篤豊会へ入社。現職場の「キラッと篤寿苑」には入社当初より勤務しており、現在はユニットリーダーを務める。「良いケアに必要なのは心身の健康」がモットーで、休日にはジョギングや筋トレを欠かさない。

経歴
2009年〜2011年 大学卒業後、警察官として働く
2011年11月 社会福祉法人篤豊会へ入社
長所 マイペース
短所 楽観的
趣味 旅行、読書、体を動かすこと
特技 トレーニング

病んでしまうほどに厳しかった警察組織

これまでのご経歴を教えてください。

大学卒業後は、警察官として交番に勤務していました。ただ、高い志を持って入職したわけではなく、約2年で退官することに。職務への熱量が周囲に比べて欠けていたのと、縦社会の組織風土に馴染めなかったことが理由です。

  Before After
雇用形態 地方公務員 正社員
業種 警察官 特別養護老人ホーム
職種 交番勤務 介護士
勤務時間 3交代 シフト制
休日 4週8休 月休9日のシフト制
仕事内容 交番勤務 身体介助

警察官になろうと決めたのはどうしてですか?

本当にたまたまというか…。友人が警察官の採用試験を受けると言うので「じゃあ自分も受けてみようかな」と、ほぼ記念受験のような軽いノリでチャレンジしたところ、幸運にも引っ掛かったんです。

大学では社会福祉学を学んでおり、就職も福祉関係で想定していました。卒業後は障がい者支援や不登校児童のサポートを希望していたものの、福祉系のリクルートって動き出しが遅いんですよね。

そのため、警察官試験に合格したのは本格的に就活を始める前でした。家族をはじめ周りから「せっかく受かったんだし、公務員なら安定していて良いじゃないか」と勧められ、自分もついその気になって流されるままに警察学校へ…という経緯です。

なるほど。けれど目標のない警察官生活は2年が限界だったと。

限界でしたね(苦笑)。やはり警察官という職業は「とりあえず」では務まらない仕事でした。周囲は高い志と誇りを持って働いている人ばかりなのに、僕は警察官として将来こうなりたいという夢すらない状態。向上心を持って業務に取り組むことができず、結果、上司から叱られて…の悪循環です。厳しい上下関係にも息が詰まってしまう毎日でした。

トラブルを解決できた時や、市民から「ありがとう」と感謝されたときはやりがいを感じましたが、だんだんと出勤すること自体が苦しくなってきて。このまま警察で働いていても未来が見えないという恐怖もあり、なかば衝動的に退職したのが2011年のことです。

それで学生時代に希望していた福祉業界へ転身されたのですね。

はい。けれど、大学では社会福祉を学問として学んでいたため、実務的な資格は持っていませんでした。

すでに福祉の世界で働いていた友人に相談したところ、僕の性格的に現場職が合っているのではとアドバイスされました。そこで、ハローワークで見つけた介護資格取得の職業訓練を受けることにしたんです。

今の職場である篤豊会には、実習先としてお世話になったご縁で入社しました。配属先の「キラッと篤寿苑」は特別養護老人ホームです。入社当初からずっとこちらで働いており、今年で丸11年が経ちました。

念願の福祉の道へ進むも、思わぬギャップが

そもそも、得田さんが福祉に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?

同居の祖母が、軽度の小児麻痺を抱えています。生まれた時から福祉という言葉が身近にあったというのが、この道に進んだ一番の理由かもしれません。

子ども時代から、おばあさまのケアをお手伝いされることもあったのですか?

そこまで重い麻痺ではないため、歩行時に脇で支える程度ですけどね。

ただ、両親が共働きで留守がちだったこともあり、祖母とは長く一緒の時間を過ごしました。祖母は大切な存在であると同時に、常に様子を気にかけるべき対象でもあります。今でも、出かけている時は「おばあちゃん大丈夫かな」なんてつい心配してしまいます。

では介護士として働き始めた際も、ケア業務へ戸惑いはなかった?

高齢者や体が不自由な方に対する気遣いや接し方については、さほど困ることはありませんでした。排泄介助など実践的な介護は初めてだったため、慣れるまでは結構苦労したかな。でも、こういった技術的なものは、先輩職員の言うことをしっかり聞いて、経験さえ積めば何とかなります。

戸惑いという面では、入居者さまとの日々の関わり方に最も大きなギャップを感じました。入社前に思い描いた介護が実現できない現実に打ちのめされたというか…。

その時感じたギャップについて詳しく聞かせてください。

職業訓練の実習で施設を訪れた際、担当した利用者さまがとてもチャーミングで素敵な方でした。たくさんお話をしながら、すごく親しい距離感でケアのお手伝いをさせてもらい、「介護士の仕事はこんなにあたたかくて楽しいのか!」と夢いっぱいで就職を決めたんです。

けれど実際に正社員として入社すると、実習生とは違って、おしゃべりだけしていれば良いという訳にいきません。特に、うちのような特養は入居者さまの人数も多いですし、業務は山のようにあって、一人ひとりとコミュニケーションにかけられる時間というのが限られています。

最初のうちは僕の要領が悪かったことも原因で、ひたすら時間に追われ、目の前の仕事をこなすことだけで精一杯になってしまいました。相手に寄り添った、理想の介護ができない自分が悔しかったです。一方で、施設の特性上これでも仕方がないといったジレンマもあり、すごく悩んだのを覚えています。

理想と現実のギャップへどのように折り合いを付けたのですか?

仕事に慣れ、気持ちにも余裕が出てくるにつれて「あの入居者さまは◯時頃なら会話のチャンスがある」「おむつ交換の時にたくさん世間話しよう」など、自分なりに理想を実践できる隙間を発見できるようになりました。

それに、忙しい施設で働くことで、ケアの効率性やスピード感といったスキルはかなり鍛えられたと思います。早ければ何でも良いということではありませんが、素早く丁寧に介助が終えられれば、空いた時間をコミュニケーションに充てられますよね。

環境のせいにしてあきらめたり腐ったりするのではなく、与えられた条件の中で自分ができる最善を尽くすという意識を持つことが、働く上で大事なのかなと思います。

高齢者との交流に気負う必要はゼロ!

現在の勤務形態を教えてください。

勤務時間はシフト制で、月9日のお休みがあります。夜勤に入る頻度は月5〜6回程度です。有給を使った長期休暇も取りやすい職場なので、メリハリをつけた働き方ができています。

20代の頃に比べて、働き方が変わったと感じる部分はありますか?

僕も35歳になって、夜勤はしんどいなぁと思うようになりました。特に、明け方くらいにエネルギー切れを起こすんですよ(笑)。でも早番のスタッフが出勤してきたら引き継ぎで話さなきゃいけないことも多く、結局は元気になって帰宅するんですけどね。

しんどいと言っても、3交代制の警察時代と比べれば楽ではあります。途中で仮眠が取れるとはいえ、24時間近くも帰れないような勤務体制だったし、市民から相談を受けている途中だと終業時間でも帰れませんでしたから。

入社から11年間「キラッと篤寿苑」にお勤めとのことでしたが、現在のお仕事内容を教えてください。

介護士として身体介助を行うほか、ユニットリーダーというポジションを任されています。当施設の入居者さまは10名ずつのユニットに分かれて生活されており、6つのユニットそれぞれにリーダーが配置されているんです。

入居者さまにケア以外の部分で問題が起こったとき、ナースやケアマネといった他職種と連携して解決するのがリーダーの役割。また、スタッフのシフト管理なども行っています。

前職と介護職を比べて、最も違いを感じる点はどこですか?

一番違いを実感するのは、横同士の連携や職場内でのつながりの強さです。縦社会だった警察とは真逆で、介護の世界はみんなでフォローし合おうという意識が強いと感じます。ケアのやり方や内容についても、立場に関係なく全員が意見を出せる風通しの良さが魅力ですね。

僕もリーダー職を務めていますが、スタッフを統率しなければといったストレスはまったくなく、みんなで一緒に働いているという意識でいます。むしろ、スタッフたちには助けられてばかりで…。ここで長く働けているのは、周りの人のやさしさのおかげ。転職して良かったとしみじみ思います。

居心地の良い職場であり続けるため、リーダーとして努力していることはありますか?

仕事とプライベートは分けろなんてよく聞きますが、人間ですから私生活で悩みや困り事があれば、仕事ぶりに影響することもあって当然だと思います。だから、スタッフの誰かがいつもと少し雰囲気が違うと感じた時は声をかけたり、押し付けにならない程度でアプローチするようにしています。

介護者の気持ちが落ち込んでしまうと、ネガティブな空気感が施設内に伝播してしまい、入居者さまへご迷惑をかけることにもつながります。良い介護をするためにも、働く人のメンタルケアはとても大事だと考えています。

警察官時代、何か思い出深い出来事はありますか?

当時の上司から「得田、お前は本を読め」と叱られたことです。それまで僕はまったく本を読まない人間だったんですが、「どんなジャンルでも良い。そして、読んだら感想を伝えに来い」と言われ、えー…と思いながらも、怖い上司を無視するわけにもいかず(苦笑)。サッカーが好きなので、元日本代表選手が書いた本を手に取ってみました。

すると、それがすごく面白くて。自分とは異なる視点に感心したり、問題解決のための行動力に驚かされたりと、まさに目からうろこでした。いろんな価値観や背景を持った人がいると知るきっかけになったし、もっとたくさんの人の考えや人生を知りたいと思うようになりました。

それ以来、読書は習慣となり、今も時間があれば本を読んでいます。仕事に直結して役立つ経験とはいえませんが、ストレス解消にもなるし、僕の生き方にプラスの影響を与えてくれた思い出として心に残っています。

他者とのコミュニケーションを大切にする、得田さんの原点になっているのかもしれませんね。

人への好奇心という点ではそうかもしれません。若い頃の話や戦時中の苦労話など、入居者さまから色んな昔話を聞くのが、仕事でもあり楽しみにもなっています。

自分とは異なる世代の入居者さまと、上手にお付き合いするコツも知りたいです。

介護転職に二の足を踏む理由として、高齢者と接すること自体に不安があるという話も聞きます。でも、何も気負う必要はありません。特に20代・30代の方なら、入居者さまの孫やひ孫世代にあたるわけで、すごく可愛がってもらえますよ。

慣れ慣れしいのは良くないですが、構えすぎず、フランクに。知らないことがあれば遠慮せずどんどん聞いて構わないと思うし、きっと皆さんやさしく答えてくださるはずです。

僕は現場が大好き。いつまでも介護士として活躍したい

得田さんの目標を教えてください。

今の職場の良い雰囲気を継続させ、より魅力ある施設づくりに向けて貢献すること。

個人的には、可能な限り介護士として、現場の第一線で働くことが夢です。それを叶えるためには、やはり気力体力が充実していなければいけません。ジョギングや筋トレなどトレーニングを欠かさず、食事や睡眠にも気を遣って、健康でいられるよう努力しています。

最後に、介護業界を目指す人へエールをお願いします!

僕、実はすごく人見知りなんです。けれど介護の現場は、相手のあるがままを受け入れてくれる懐の深さを持っていると感じます。入居者さまと笑い合い、スタッフ同士が自由に意見を交わせるあたたかいこの職場では、無理して自分を飾る必要なんてありません。

介護の仕事はマイナスイメージが先行しがちですが、実際はとてもポジティブな世界。誰もが自然体でいられる介護士という仕事に、あなたもチャレンジしてみてください。

撮影:studiofish

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