世界の注目を集める新薬
これまでの治療薬とは何が違う?
日本の製薬会社エーザイとアメリカのバイオジェンが共同開発したアルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」が、アメリカのFDA(食品医薬品局)で新薬として承認されました。
この新薬は脳に溜まった「アミロイドβ」という異常なたんぱく質を取り除いて、神経細胞が壊れることを防ぐ効果が期待できると考えられています。
アルツハイマー病の新薬がアメリカで承認されたのは2003年以来のことで、アミロイドβに対して作用する治療薬としては初めて。
従来のアルツハイマー治療薬は一時的に症状を緩和させるものでしたが、アデュカヌマブは新たな治療を切り開く薬として大きな期待が寄せられています。
認知症の半数以上はアルツハイマー型
今回の新薬に期待が寄せられている理由として、アルツハイマー病と認知症との関連性が挙げられます。前提として、認知症の原因には大きく分けて、次の4つがあります。
- アルツハイマー型
- 脳内に溜まった異常なたんぱく質(アミロイドβ)により神経細胞が破壊されて、脳に萎縮が起こる
- 脳血管性
- 脳梗塞や脳出血によって脳細胞に十分な血液が送られずに、脳細胞が死んでしまう
- レビ-小体型
- 脳内に溜まったレビ-小体という特殊なたんぱく質により、脳の神経細胞が破壊される
- 前頭側頭葉型
- 脳の前頭葉や側頭葉で、神経細胞が減少して脳が萎縮する
この4種類のうち、アルツハイマー型は認知症を引き起こす最大の原因となっており、有症者のうち67.6%を占めています。そのため、もしアルツハイマー病を根本的に治療する薬があれば、認知症の人を大幅に減らすことができるのです。

賛否が分かれる新薬の評価
アルツハイマー型認知症の基礎知識
国内における認知症の人は年々増加傾向にあります。
2017年度の『高齢社会白書』によると、もし有病率が上昇する場合には、2025年には730万人、2030年には830万人、2050年には1,000万人を超えるとされています。
上昇率によって人数は異なりますが、今後も発症者は増加することが見込まれます。

さらに、日本は全人口における認知症の有症率が2.33%で、OECD加盟国のうちで最多となっています。これは2位のイタリアや3位のドイツと比べても高い数値です。さらに、OECDの平均値である1.48%と比べても大きな差がみられます。
日本で認知症が増えている理由は平均寿命が大きく伸びているからだと考えられています。認知症の発症リスクは年齢とともに高まっていきます。その大きな理由のひとつがアルツハイマー病の特徴にあります。
アルツハイマー病は、正常な状態から前臨床期(目に見えた症状のない潜伏期間)、軽度認知障がい(もの忘れが多くなるなどの前段階)、認知症という流れで進行していきます。
その主な原因となるのがアミロイドβという異常なたんぱく質の蓄積です。
このたんぱく質は生きている間に脳に蓄積されていきますが、10~30年という長い期間を経て脳内に蓄積していき、アルツハイマー病を発症することがわかっています。
そのため、平均寿命が延びるほど、認知症のリスクも高まるのです。
認知症が進行してからでは意味がない可能性も
今回アメリカで承認された新薬は、アミロイドβを取り除く効果があるとされ、アルツハイマー病の進行そのものを抑える可能性があると考えられています。
この新薬が承認されるまでには、紆余曲折がありました。
試験の途中経過の解析では、一度は認知症の症状を改善できないという結果が示され、2019年には試験の中止も発表されました。
しかし、再解析によってアミロイドβの量が低下させていたことがわかったのです。
こうした経緯から、一部の専門家からは疑問の声も挙げられています。再解析の結果だけが根拠では、あまりに弱いという指摘もあるのです。
また、アミロイドβを取り除いても、それによって失われた認知機能が治るというわけではないという指摘もあります。認知症を発症する前から摂取していれば予防になるかもしれませんが、重症化した患者に対しては意味がない可能性もあるのです。
国内の認知症治療の現状
増加する若年性アルツハイマー型認知症
これまで認知症は高齢者が発症するものと考えられていましたが、近年は65歳未満で認知症を発症する「若年性認知症」も問題になっています。
人口10万人あたりでみると、60~64歳が274.9人と最多です。
さらに50~59歳でも153.5人と高い値を示しています。

若年性認知症の最大の原因となっているのもアルツハイマー病で、その5割以上を占めています。若年性認知症の大きな問題は、発症することで生活環境が大きく変わってしまう点。発症後に約8割の人が失職しており、経済的な困窮を迎えることも少なくありません。
高齢者の場合と異なるため、介護保険制度だったり支援制度を利用するケースが少なく、これまでの認知症ケアとは異なる支援体制を築かなくてはなりません。
新薬に期待しつつも支援体制を充実
新薬が認知症治療のあり方を大きく変えるようなことがあれば、介護給付費の抑制や介護者の負担を軽減することにつながるかもしれません。今後は医療現場での臨床データを蓄積し、その効果の検証が続けられることでしょう。
しかし、新薬が必ずしも期待された効果を示すかどうかはわかりません。しばらくは介護などによる認知症ケアが必要です。中でも、若年性認知症の場合は、早期発見が難しかったり、支援体制に不備があったりすることが指摘されています。
今後は世代を問わずに広く認知症の人へののケア体制を充実させていくことが大切です。若年性認知症の人に対しても適切なケアが受けられるような制度づくりが求められています。
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2020年9月7日 制定