介護職の賃上げ、2022年2月から。関係各所の要望と実現へ向けた課題
介護職らの賃金アップ、岸田首相が検討
介護職員の賃上げは最優先課題
岸田首相は就任当初から「新しい資本主義の実現」を政策の目標の1つとし、成長と分配を強調しています。
分配戦略では4つの重点戦略を柱としており、中でも「公的価格の在り方の抜本的な見直し」では、社会の基盤を支える現場で働く介護職員、看護師や保育士などの所得向上を最優先課題とし、前倒しで実施することを公約していました。
そして、2021年11月18日に後藤厚生労働大臣は、2022年2月から介護職らの給与を、月額3%程度(9,000円)引き上げることを正式に表明しました。
賃上げには評価も懸念する声も
しかし、一方で段階的に上げていくことが得策ではないという専門家の声もあります。
「第1回公的価格評価検討委員会」で提出された資料を見ると、介護職は夜勤があるにもかかわらず、その給与は全産業の平均と比べ約6万円ほど低く(2020年時点)なっていることがわかります。
小規模な賃上げを繰り返しでは、当事者たちはその効果を十分に実感できず、介護現場の深刻な人手不足解消にはならないのではないか、と言われています。
たとえ9,000円の賃上げがあったとしても、平均には及ばない給与水準であるということをまず認識する必要があるのです。
さらに、今回の賃上げが後の介護報酬に組み込まれれば、保険料や利用者負担が増えることになります。その結果、2024年度に予定されている介護報酬改定の議論がより厳しいものになるという声もあります。
賃上げすること自体には概ね好意的ですが、財源の確保の曖昧さや賃上げ率の低さに、不安や憤りを感じている人も少なくありません。
現行の介護職の処遇改善策とその進展
介護職員の処遇改善加算とは
今回の賃上げの決定が最初ではなく、これまでにも介護職の処遇を改善するための措置はとられてきました。
具体的な支援策として、介護報酬上の「介護職員処遇改善加算」と「介護職員等特定処遇改善加算」の2種類が設けられています。
「介護職員処遇改善加算」は、2012年に運用が開始された制度で、主に介護職員の賃金向上と労働環境の整備を目的としています。
例えば、「加算Ⅰ」を取得することができれば、介護職員1人当たり月額3万7,000円相当の加算を受け取ることができます。
その加算を取得した事業所は、加算された額に相当する賃金改善を行う義務があるため、加算を受けること自体が賃金の改善に繋がっているというシステムなのです。
「特定処遇改善加算」は、経験や能力のある職員への処遇改善を目的に、2019年に新設されたもので、勤続10年以上の介護福祉士が対象です。
全職員に向けた「介護職員処遇改善加算」とは異なり、キャリアや技量をより重視した評価基準で処遇を改善するためのシステムなのです。
「特定処遇改善加算」の問題点
介護現場で働く人たちにとって、この2つの処遇改善加算はとても重要な位置付けです。
しかしながら、「特定処遇改善加算」の取得は思うように進んでいません。
「特定処遇改善加算」の申請率は、2021年3月時点で、66.4%にとどまっていることが厚生労働省の調査で示されています。これは、加算の申請に必要な事務作業が負担となっていることが大きく理由として挙げられています。
また、「特定処遇改善加算」の元となるお金は、事業所の売上によって変化します。
従って、月8万円の賃上げが保証されているというものではなく、あくまでも売上×加算率で給付された金額を事業所内でさらに分配していくというシステムなので、事業規模が小さい事業所や、分配する対象となるベテラン職員が多く在籍している場合、個々人の手当は8万円よりも少なくなる傾向にあります。
より現場の声を反映させた改善のために
全介連、政府へ要望書を提出
介護職らの賃上げを巡る議論が進む中、全国介護事業者連盟は政府に対し、より現場の声を反映させた要望書を提出しました。内容は以下の通りです。
- 「介護保険制度における被保険者の年齢を30歳以上(現行40歳以上)へと引き下げる」
- これは、今後ますます進む高齢化と現役世代の減少が著しい社会において、高齢者の暮らしや尊厳を守り、公的価格の継続的な財源確保のために、みんなで広く、薄く負担していこうという考えです。
- 「介護事業者の裁量権の拡大」
- 経営層の懐を温めるための提言ではなく、賃上げの対象を介護職員のみに限定したり、細かい配分ルールで束縛せずに、不公平が生じないよう全職員に柔軟に配分すべきという考えです。
- 「加算の統合及び文書負担増への配慮」
- 現在設けられている2種類の処遇改善加算について、2020年3月に計画書や報告書などが一本化される手続きがとられ、現場の負担は軽減されたものの、いまだ事務作業は膨大なままです。ゆくゆくは書式だけでなく、制度自体の統合の検討を求めています。
- 「過度なローカルルールの見直し」
- 書式の統一や書類の簡素化において、各都道府県によっては十分に浸透していないため、過度なローカルルールが生じており、制度設計については配慮が必要だと言われています。
介護保険を支える被保険者数の推移を見ると、2021年をピークに減少しており、現状の介護保険制度を維持していくことの難しさが示されています。対象年齢の引き下げを求める根拠はここにあるのです。
第2被保険者を現在の40歳以上から30歳以上に引き下げると、2040年においても介護保険制度創設時と同程度の母数を確保できることになります。
また、全介連は今回の賃上げの対象には、ケアマネージャーも含めるように求めています。
ケアマネージャーはこれまで、処遇改善加算など国が支援してきた賃上げの施策で対象外となるなど、冷遇されてきた経緯があり、それにより、人数も減ってきていると専門家は指摘します。
利用者と介護者をつなぐ専門的な役割を担うケアマネージャーの人員確保もまた急務であると、業界の各方面から声が上がっています。
職種に限定しない、業界全体の賃上げと人材確保を
日本デイサービス協会は、この度の処遇改善に関する政府の方針に対して、賃上げの原資を事業者が職員へ柔軟に分配できる仕組みにすべきという声明を発表しました。
「資格だけでなく、人材の能力に対ししっかりとした評価をする必要がある」、としています。他職種によるチームケアで構成される介護現場において、職種に限定した処遇改善は現場に不協和音を招きかねないと懸念しています。
介護業界全体で期待されている賃上げではありますが、財源の確保や分配方法など、課題は多く残っています。政府にはこれまで以上に、現場の声に耳を傾け、抜本的な解決の姿勢が求められているのです。
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2020年9月7日 制定