コロナ禍で高齢者虐待件数が増加
家庭内の高齢者虐待が過去最多に
新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた2020年。厚生労働省は、養護者(家族、親族、同居人など)による高齢者の虐待件数が、過去最多を記録したことを発表しました。
「相談・通報件数」は3万5,774件で、そのうち1万7,281件が「虐待判断件数」として認定されており、いずれの数値も、2006年度の統計開始以来、過去最多となっています。

施設従事者による虐待は11年ぶりの減少
養護者による虐待件数が増加する一方で、介護施設従事者による虐待件数は減少しています。「相談・通報件数」は、前年度より170件少ない2,097件、「虐待判断件数」も49件少ない595件でした。
虐待を防ぐ意識の高まりや、現場で重ねられてきた努力の結果でもありますが、別の要因として、新型コロナウイルスの感染拡大が考えられます。
各介護施設で面会制限が行われたことにより、利用者の家族など外部の目が届きにくくなり、施設での虐待相談件数が減少したのではないかという見方もあります。
実際に、施設における虐待の「相談・通報者」は、「当該施設職員」が26.7%で最多、「家族・親族」は前年度から5%減少の13.9%となっており、「家族・親族」から受ける報告数が減ったことが、虐待件数の減少に直接的な影響を及ぼしたのではないかという見方もあります。
コロナ禍のストレスが増加の原因か
養護者による虐待の状況
高齢者虐待には、深刻度という指標が当てられています。深刻度は、「被虐待者が虐待によってどの程度被害を受けたのか」と定義づけられており、5つの区分に分かれています。
深刻度区分が1・2の区分は「生命・身体・生活への影響や本人意思の無視など」といった、比較的被害が軽微の場合に当てられます。
深刻度が3・4に上がると、「生命・身体・生活に著しい影響」が及ぼされていることを示し、さらに5になると、「生命・身体・生活に関する重大な危険」があることを表します。
この深刻度が低いうちに発見することが大切です。しかしながら、コロナ禍によって、虐待の早期発見はますます難しくなっています。
虐待の深刻度は、施設内で起こる虐待の事例よりも、家庭内で養護者によって引き起こされる虐待事例の方が高いといわれています。
介護施設における虐待では、6~8割が深刻度1・2なのに対し、養護者における虐待のうち、45.9%が深刻度3以上というデータもあります。
また、養護者による高齢者虐待は、社会から孤立した家庭で起こりやすい傾向があります。虐待者と被虐待者との同居・別居状況をみると、「虐待者のみと同居」が52.4%となっており、他者との接触を極限までそがれた時に、虐待が引き起こされると考えられます。
例えば、被虐待高齢者の「介護保険サービス利用状況」と「虐待の深刻度」との関係をみると、介護保険サービスを利用している場合は深刻度が相対的に低い傾向が明らかになっています。
コロナ禍で増加した家族負担による虐待傾向の加速
家庭内での虐待事例が深刻化した理由にも、新型コロナウイルスの感染拡大が挙げられます。
広島大学が調査したところ、在宅介護をしている家族の負担が重くなっていたことがわかりました。最も多く家族の負担となったのが「仕事を休んだ」ことで40.1%となっています。
また、27.5%の人が「介護負担のため抑うつ気味」、21.7%の人が「介護負担のため体調不良」と、半数近くの人が体調面での不調を訴えています。

これらが引き起こされた大きな原因は、コロナ禍での介護事業所の休業や介護保険サービスの停止によるものです。
実際にアンケートでは、「虐待傾向となった」というコメントも寄せられており、介護者がストレスを解消できなかった結果、精神的なゆとりがなくなり、虐待へとつながったのではないかと考えられます。
求められる家族への支援
高齢者虐待事例への対応事例
このような養護者による虐待への対応は、当事者たちを「分離するか否か」によって大きく異なります。
分離されるのは緊急性が高い場合で、主に深刻度5のケースが当てはまります。被虐待者を保護する目的で、施設に入所させるといった措置が取られます。
一方、分離が行われないケースでは、主に虐待者に対する支援・教育が行われます。認知症などの各症状への理解や介護保険サービスの基本的な知識の不足が、虐待を引き起こしているケースもあるからです。
その典型的な例として、川崎市での事例があります。
認知症を患った親と息子の二人暮らしの家庭で、息子による介護放棄が疑われました。
通院先の医療機関が、地域包括支援センターへ通報したことがきっかけでした。
後日行われたケアマネージャーの生活実態調査によって、虐待の事実が明らかにされたのです。
その後、市職員やケアマネージャー、介護サービス担当者などが協議し、虐待を行っていた息子に対して介護保険サービスの利用を勧めるとともに、認知症への理解を深められるよう支援を行いました。
デイサービスなどの利用を通じ、支援者と当事者との信頼関係を構築し、別居していた娘の協力を得て、ようやく介護と生活の両立が可能となったのです。
行政の介入によって、介護保険サービスを適切に利用でき、家族の介護負担を軽減することができた事例です。介護者の負担を減らすことが、虐待を防ぐ一歩であることがわかります。
多職種による連携システムの整備が必要
しかし、実務的な負担を減らすだけでは、介護者の負う精神的負担まで減らすことは困難です。そこで、行政内での連携が重要視されています。
千葉県では、『徘徊する認知症高齢者等を減少させるための警察署と各市町村・地域包括支援センターとの情報共有』の取組を2018年から実施しています。その基本的なポイントは、次の3つにあります。
- 高齢者虐待を未然に防止するためには、家庭内における権利意識の啓発、認知症等に対する正しい理解や介護知識の周知
- 介護保険制度の利用促進などによる養護者の負担軽減
- 近隣との付き合いがなく孤立している高齢者のいる世帯などに対し、関係者による働きかけを通じて、虐待が発生する要因を低減させる
警察署や地域包括支援センターのほか、民生委員や自治会などとの連携を強化して、高齢者虐待の早期発見・早期対応を目指しています。千葉県では、この取り組みで虐待件数の減少に成功しています。

川崎市の事例でも同様に、虐待を早期に発見するためには、高齢者の生活にかかわる機関が連携して情報を共有することが大切です。そのためには事例を重ね、虐待発見までのシステムを一般化していくことが肝心です。
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2020年9月7日 制定