若者と高齢者がともに暮らす異世代ホームシェア
多世代型コミュニティアパートで深まる世代間交流
神奈川県藤沢市には『ノビシロハウス亀井野』というまったく新しい形の高齢者用の住宅があります。そこでは、1階に高齢者、2階に20代の若者が居住し、高齢者と交流しています。
賃料は、高齢者は7万円ですが若者は半額になります。その代わりに若者は「ソーシャルワーカー」として、高齢の居住者に必ずあいさつするというルールがあります。
コミュニティスペースとしてカフェが設置されており、月に一度お茶会を開催して、近隣住民との交流も推進しています。
また訪問看護センターも併設されており、今後は在宅診療専門のクリニックも併設される予定です。居住者だけでなく、地域の高齢者を支援する拠点づくりを実施しています。
こうした居住施設は、「多世代型コミュニティアパート」や「異世代ホームシェア」とも呼ばれています。若者と高齢者が同時に居住することで、多世代の交流を深め、高齢者の生活を豊かにする効果があるとして、海外では普及が進んでいます。
ニーズの背景にある一人暮らし高齢者の増加
異世代ホームシェアは今後ますますニーズが高まるとして、研究者などから注目されています。
注目されている理由として、一人暮らしの高齢者の増加があります。厚生労働省の『令和3年版高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らし高齢者の人数は2015年時点で男性約192万人、女性約400万に上ることがわかっています。

一人暮らしの高齢者は、地域コミュニティから孤立しやすく、孤独死などのリスクが高まるとされています。
内閣府の調査によると、一人暮らしの高齢者の約4割は自身が介護が必要な状態になることに不安を感じていることが明らかにされています。
今後も一人暮らし高齢者は増加すると見込まれており、地域における支援のあり方が模索されています。
異世代ホームシェアで若者と共同生活をすることで、日常的な支援が可能になり、高齢者の孤立化を未然に防ぐことができるのです。
異世代ホームシェアの定義と意義
海外では30年前から異世代ホームシェアがあった
異世代ホームシェア事業は海外で広く行われています。イギリスに本部を置く国際ホームシェア協会によれば、アメリカやドイツなど12ヵ国で推進されていることが報告されています。
例えば、ドイツでは大学教授の指導のもと、1992年から異世代ホームシェアの取り組みが進められています。
海外における異世代ホームシェアは、アパートではなく、一軒家に高齢者と若者が住むパターンが多くなっています。
高齢者の自宅に、若者を居候として迎え入れているのです。
ドイツの事業では、若者の賃料は無料ですが、その代わりに「提供された個室1平方メートル当たり毎月1時間は家主に支援を行う」という基準を設けています。
これは家賃に相当する金額分を奉仕することで、お互いの関係を深めることを目的にしています。中には、こうした基準を定めていないケースもあり、多世代の交流が進められています。
高齢者と若者双方にメリットがある
異世代ホームシェアは、高齢者と若者の共同生活を目的としており、高齢者と若者の双方に大きなメリットがあります。
福井大学の研究では主に次のようなメリットが挙げられています。
高齢者のメリット
- 孤独の解消、安心感
- セキュリティの向上
- 住宅の維持管理・家事などの支援による負担軽減
- 他者とのコミュニケーションによる適度な刺激
若者のメリット
- 暮らしの知識などを学ぶ
- 住居費の抑制
- 生活リズムの維持
また、内閣府の調査によると、「若い世代との交流の機会があった場合どうするか」という問いに対して、「積極的に参加したい」が14%、「できるかぎり参加したい」が45.9%を占めるという結果になっています。

上記の調査からも、高齢者は若者との交流に意欲的であり、異世代ホームシェアが双方にメリットをもたらすことは明らかです。
異世代ホームシェア普及の壁
日本の住宅環境の悪さなどがネックに
日本の異世代ホームシェアはまだわずかな事例しかありません。
普及が進まない理由には、さまざまな課題があり、そのうちの1つに日本の住宅環境が挙げられます。
海外では自宅が大きく、部屋が余っていることも多くありますが、日本の住宅は比較的小さく、若者を受け入れるスペースがありません。
内閣府が実施した住宅に対する意識調査によれば、「住宅が狭い」と感じている割合はドイツでは3.3%なのに対し、日本では10%と約3倍に上ります。
さらに、認知度が低いことや、異世代ホームシェアを行う機関や事業所が少ないことも課題となっています。
海外の異世代ホームシェアは関係機関が大学と連携しているところもあり、大学にはその窓口が設置されています。
トラブルが起きた時のために事業所がホームシェア後にも、アフターケアを実施しています。
また、実際にホームシェアをする前に試用期間が設けられています。その試用期間で問題がなければ契約書にサインをし、ホームシェアを開始します。
認知度が低い異世代のホームシェアを広めるためには、手厚いケアをする機関が必要不可欠です。
官民連携などでまちづくりに組み込むなどの工夫を
一方で、日本では空き家が年々増加しています。全国の空き家数は2018年時点で848万9,000軒に上り、総住宅数に占める割合は13.6%に達しています。

近年は、こうした空き家を有効活用するため、移住者用に安い賃料で貸し出したり、カフェや宿泊施設などにリノベーションされたりしています。
空き家などを異世代ホームシェアの拠点としてつくり変えれば、空き家と高齢者の一人暮らしという社会問題を一気に解決することができます。
こうした事業を推進するためには、民間の力だけでなく、国や自治体による支援が不可欠です。超高齢社会を迎えた今、異世代ホームシェアは高齢者の生活を支える施策になる可能性を秘めています。
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2020年9月7日 制定