高齢者ほど睡眠時間は長くなる傾向に!睡眠は「時間」より「質」が大事

心身ともに健康に生活するには良質な睡眠が欠かせません。睡眠は脳機能や身体機能を維持・向上させるための基本です。ところが、NHKの国民生活調査によると日本人の5人に1人が「睡眠障害または睡眠障害の疑いあり」という結果になっています。
60歳以上になるとその割合はさらに高まり、約3人に1人が何らかの睡眠障害があると言われています。
睡眠障害とひと口に言っても、不眠症をはじめ、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害などさまざまな種類があります。
今回は、高齢期の「睡眠」について横断的に見ていきます。
高齢者は睡眠の質が変化する?レム睡眠が増え、「うとうと状態」が恒常化…
高齢者は一般的に早寝早起きになります。それは、「睡眠の質」に変化が生じるからです。体内時計が加齢により変化し、血圧や体温、ホルモン分泌など睡眠を支える生体機能リズムが若年者より早くなります。そのため、高齢者の早起きは、特に問題とは言えません。
「睡眠の浅さ」も高齢者の睡眠の特徴のひとつと言えるでしょう。
深い睡眠が減り、浅い睡眠である「レム睡眠」が増えます。
「レム睡眠」は、単純に表現すれば、いわゆる「うとうとした状態」のこと。
このため、尿意やからだの軽い痛み、ちょっとした物音で起きる頻度が増えます。
睡眠の質の変化は、加齢による自然現象なので、過度に心配する必要はないでしょう。
しかし、前述した通り「高齢者の3人に1人は何らかの睡眠障害」があると言われています。
実際、60歳以上の高齢者では、入眠障害(すぐに眠れない)、中途覚醒(睡眠の途中で起き出す)、早朝覚醒(起床時間が早すぎる)のいずれも全年代より増えています。

睡眠障害は、うつ病やアルコール依存症、認知症などの精神疾患から発症する
高齢者が睡眠障害を患う主な原因は3つです。
一つ目は「心理的ストレス」です。
近年、独居高齢者が急増しており、生活への不安感からストレスを溜める傾向にあります。
独居高齢者の場合、話し相手がおらず、ストレス解消の機会もないため、重大な睡眠障害にかかる可能性もあります。
配偶者や子どもとの死別によって、喪失感を抱き一時的に睡眠障害になるケースもあり、高齢者のストレスケアは欠かせません。
次に「身体疾患による痛み」です。狭心症や心筋梗塞、関節リウマチによる胸や脚の痛みなどが該当します。
三つ目は「精神疾患」です。精神疾患のうち、睡眠障害を引き起こす要因として主に挙げられるのは「うつ病」「アルコール依存症」「認知症」です。下記のグラフの通り、「うつ病」は女性がかかりやすい病気。60歳代、70歳代の女性は要注意です。

「アルコール依存症」は、高齢者の約3%がり患していると言われています。
「認知症」は、ご存知の通り、もはや国民病と言えるもの。
2012年度における認知症高齢者は約462万人です。
厚生労働省の資料によると、2025年の認知症高齢者は約700万人。
高齢者のうち、約5人に1人が認知症になるという推計です。

精神疾患を持つ高齢者には不眠症状が高頻度で見られ、認知症患者が増加し続けるなか、睡眠障害はより大きな社会問題になっていくと思われます。
認知症高齢者は、高確率で睡眠障害…重症化すると「夜間せん妄」にまで至ることも!!

認知症は「アルツハイマー型」「脳血管型」「レビー小体型」「前頭側頭型」の4つに大別されます。
なかでも、睡眠障害の危険性が高いのは「アルツハイマー型」と「レビー小体型」。
アルツハイマー型認知症高齢者では約4割が、レビー小体型認知症高齢者に至っては5割以上が睡眠障害を患っているというデータもあります。
重度の認知症になると、睡眠障害により「夜間せん妄」に陥ります。
夜間の徘徊が頻発し、過度な興奮状態から介護者への暴力が見られるようになります。
介護者にとっては昼間だけでなく、夜間も介護をしなければならず、心が休まる暇がありません。
さらに症状が悪化すると、1時間程度の短時間でも眠ることができなくなると言われています。
現時点では認知症の睡眠障害に対する治療法は確立されていません。
睡眠薬を投与するといった安易な薬物療法は、せん妄症状をより悪化させる可能性があると指摘されています。
どうやら、認知症高齢者の睡眠障害の解消には、専門医の指導内容の励行など地道なケアが必要と言えそうです。
「睡眠障害の対処法12の指針」からみる高齢者の日々の睡眠改善法
これまで見てきたように、高齢者の3人に1人は睡眠障害があるとされ、認知症高齢者に至ってはその割合はより高まるとわかりました。
もはや、睡眠障害は高齢者にとって当たり前の病気と取らえることが重要でしょう。
そのうえで、睡眠障害にうまく対処していく方法を知ることが必要です。
厚生労働省は、睡眠障害に対処する12の指針を公開しています。指針の一部を抜粋して紹介します。
1.睡眠時間は人それぞれ。日中に眠くならなければ十分
睡眠時間の長さにこだわる必要はありません。よく長寿には8時間睡眠が最適だと言われますが、このような情報に振り回されてはいけません。高齢になると、睡眠時間は自然に減っていくと覚えておきましょう。
2.刺激物を避け、眠る前にはリラックスする
就寝4時間前には、カフェイン入り飲料(コーヒーやお茶など)を避けましょう。読書や音楽、入浴など自分なりのリラックス方法を見つけることも大切です。
3.眠くなってから床に就く。就寝時間にこだわらない
眠ろうと意気込むと頭が冴えて、むしろ寝つきが悪くなります。眠れないときは、無理に寝ようとしないこと。寝床を出て、趣味の時間に充てるのもよいでしょう。
4.同じ時刻に毎日起床する
早起きが早寝につながります。勘違いしている方がとても多いのですが、「早寝だから早起きになる」のではありません。
5.日中は日光を浴び、夜は照明の光量を調整
目が覚めたら日光を浴び、体内時計をリセットしましょう。夜は明るくなりすぎないよう、照明の光量を調整します。
6.規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
朝食は必ず摂取、夜食は軽めに抑えましょう。からだを動かし、適度な刺激を与えることで、入眠しやすくなります。運動時間は、午後から夕方がベストです。
7.昼寝をするなら、15時前の20~30分
どうしても昼寝をしたい場合は、15時前にすること。長い昼寝は睡眠に悪影響を与えます。
8.眠りが浅いと感じたら、遅寝・早起きを励行する
寝床に長くいると、熟睡感が減退します。遅寝・早起きをすると、自然と眠くなります。
9.イビキや呼吸停止、足のぴくつき、むずむず感は要注意
睡眠障害にはさまざまな種類があります。睡眠時無呼吸症候群にかかっている高齢者は、10~20%とも言われています。気になったら、すぐに専門医にかかりましょう。
10.十分眠っても日中の眠気が強い場合はすぐに専門医へ
11.睡眠薬代わりの寝酒はしない
アルコール依存症にも繋がりかねない飲酒。深い睡眠を減らし、睡眠障害の原因にもなります。寝る3時間前には飲酒しないこと。
12.睡眠薬は医師の指示のもと使用する
一定時間に服用し、就寝するよう心がけましょう。アルコールとの併用は副作用が出やすくなるため、注意が必要です。
85歳以上の平均睡眠時間は9.4時間?「睡眠の質」を重視した取り組みを!
高齢になるにつれて、睡眠時間は増加傾向にあります。
85歳以上になると、9.4時間眠っている計算に。
しかし、これまで見てきたように、睡眠時間が長くても、“よく眠れている”とは限りません。
高齢になると自然と「睡眠の質」が落ちるだけに、介護者は注意が必要です。
何度も指摘しますが、健康維持・向上に必要なのは、“寝ている時間”ではなく「睡眠の質」です。

今後、認知症患者が急増するに伴い、睡眠障害も大きな関心ごとになっていくでしょう。現役世代の介護負担を減らすためにも、睡眠障害の解消は急務です。
眠れない高齢者を見ると、日頃の介護ストレスなどからついイライラすることもあるでしょう。そんなときも決して焦らないことです。睡眠薬をむやみに投与するのは本末転倒です。睡眠障害の治療は、上述した指針を適宜守りつつ、長期的な取り組みが必要です。
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2020年9月7日 制定