高齢者の約3割が排泄トラブルを抱えている!「日中おむつゼロ運動」を推進する施設も
排泄は、高齢者が自立し、健康的な生活を送るうえで、必要不可欠な行為です。うまく排泄できない状態が続くと、最悪の場合、死に至ることもあります。高齢になると排泄機能が徐々に弱ってきます。要介護状態の高齢者なら、なおさらその傾向は強くなります。
排泄行為は人間の尊厳にかかわるもの。できる限り他人の力を借りず、自力で排泄したいと願うのは普通のこと。今回は、高齢者の「排泄ケア」の現状と課題について見ていきます。
60代では20%以上、70代では約30%が排泄トラブル!ひとには言いにくいから?半数が放置の現状…
大人用おむつの製造・販売などを手がけるユニ・チャーム株式会社が実施した排泄トラブル(尿もれ、便失禁など)に関する調査によると、60代では23.7%、70代では29.7%が排泄トラブルを抱えているそうです。

そして、排泄トラブルを認識しつつも、46.3%が「特に何のケアもしていない」と回答しています。要するに、排泄に何らかの障害があっても、放置している人が多いのです。
特に何のケアもしていない(46.3%) | |
何らかのケアをしている(53.7%) |
排泄トラブルによる困りごとの上位に来ているのは「夜中にトイレに起きる・よく眠れない」(45.3%)「トイレに行く回数が多い」(38.1%)「外出先の困りごと(トイレを探すのが大変、旅行やお出かけが楽しめない、不安)」(24.3%)「友人や知人に知られるのがイヤ」(10.1%)となっています。
排泄トラブルによって困っていること
夜中にトイレによく起きる・よく眠れない | 45.3% |
トイレに行く回数が多い | 38.1% |
外出先の困りごと(トイレを探すのが大変、 旅行やお出かけが楽しめない、不安) |
24.3% |
友人や知人に知られるのがイヤ | 10.1% |
飲み物やお酒を控えるようになった | 8.1% |
家族に気づかれるのがイヤ | 6.6% |
排泄トラブルに直面した高齢者は「自分の健康に対する自信」(32.4%)を失い「睡眠の時間や質」(23.4%)そして「外出する意欲」(14.4%)まで変化するとしています。つまり、排泄がうまくできないと、睡眠や外出などを含めた「日常生活の質」が低下するのです。
排泄トラブルによって日常生活で減ったこと
自分の健康に関する自信 | 32.4% |
睡眠の時間や質 | 23.4% |
外出する意欲 | 14.4% |
自分らしくいきいき暮らしたいという意欲 | 14.4% |
おしゃれや趣味(好きなこと)をする意欲 | 13.8% |
人づきあいに対する意欲 | 12.0% |
運動(身体を動かすこと)への意欲 | 11.7% |
仕事に対する意欲 | 9.5% |
食事への意欲、楽しさ | 8.6% |
トイレで排泄させてあげたいが…排泄ケアに悩み、苦しむ家族介護者
排泄行為は、日に5~10回ほど。日常的な行為なだけに、排泄ケアは介護者にとっても大きな負担になります。尿意をもよおすたびに、要介護者をトイレまで連れて行くことは、時間的にも体力的にも負担となるため、おむつに頼っているご家庭も多いでしょう。
しかし、おむつに頼りすぎると、次第に排尿・排便機能が弱ることもあります。介護者としては、できる限りトイレで排泄させてあげたいと思うもの。実際、要介護3または4の要介護者を持つ家族介護者のうち、82.7%は、「トイレやポートブルトイレで排泄させてあげたい」と本当は望んでいます。
そう思う(82.7%) | |
思わない(17.3%) |
しかし、現実はそうはいかず、家族介護者のうち86.4%が「トイレでのおむつ交換は負担」と感じていることからも、家族介護者の多くが排泄ケアを負担に感じている姿が浮かび上がります。
負担を感じる(86.4%) | |
負担を感じない(13.6%) |
「排尿障害」「排便障害」の分類にみる「排泄障害」の注意点

ここからは、排泄障害の種類について簡単に見ていきましょう。
排泄障害は、「排尿障害」と「排便障害」に大別されます。さらに「排尿障害」は、「腹圧性尿失禁」「切迫性尿失禁」「溢流(いつりゅう)性尿失禁」「機能性尿失禁」「尿排出障害」の5つに分けられます。
- 「腹圧性尿失禁」では、せきやくしゃみをしたり、重いものを持ちあげたときなどお腹に力が入ったときに、尿がもれてしまいます。泌尿器の構造上女性に多く見られます。
- 「切迫性尿失禁」は、高齢者に多い尿失禁。脳出血や脳梗塞、パーキンソン病などによる中枢神経疾患などが、原因のひとつとされます。尿意を感じるとトイレまで間に合わず、尿がもれてしまいます。失禁する尿の量や回数が多いため、何らかの介助が必要となります。
- 「溢流性尿失禁」は、尿道通過障害や膀胱の収縮障害により起こります。常に、膀胱内には尿が多量に残っているため、尿道から長時間尿があふれている状態です。放置すると腎不全や膀胱結石、尿路感染症を併発することも。すぐに専門医に相談しましょう。
- 「機能性尿失禁」は、身体機能全般が低下し、それに伴い、排尿機能も徐々に衰えることで起こります。この尿失禁では、介護者の役割が非常に大きくなります。排尿管理はもちろん、生活全般のケアが必要です。
- 「尿排出障害」は、膀胱にたまった尿を、体外へ排出する機能が低下することで起こります。悪化すると、まったく尿が出せなくなることもあります。糖尿病や頸部椎間板ヘルニアなどが、原因となるケースもあります。残尿が多くなると、上述した「溢流性尿失禁」を併発する可能性があります。「排尿障害」は、それぞれ単独で起こるものではなく、相互に関わっているだけに注意が必要です。
「排便障害」は、「便秘」「下痢」「便失禁」に分けられます。
原因はさまざまで、腸や肛門の異常、糖尿病や慢性腎不全、アレルギー疾患などによっても起こります。高齢者の場合、大腸の運動機能低下や運動不足などにより、腹圧が減少、便秘になりやすいとされています。
居宅での排泄ケアは「スキンケア」「感染症」「陰部洗浄」などに注意する

高齢者に排泄障害が見られた場合、どのように対処すべきでしょうか。ここでは、居宅介護での対処法について説明します。尿失禁が気になったら、まず「排尿日誌」をつけましょう。
排尿日誌には、排尿時間や排尿量、失禁の有無などを3日程度記録します。日誌の記録は、専門医の診断にも役立つことから、尿失禁の早期発見につながります。
寝たきり高齢者の場合、寝たまま排泄を行うケースも多いでしょう。しかし、これは本来の排泄メカニズムから見ると、不自然なことです。というのも、通常、人は座位または立位で排泄するからです。
寝たままの姿勢では、重力が邪魔をして腹圧をかけにくくなり、力むことができず、便の排出に悪影響を及ぼします。また、便が肛門まで上がらないと排泄できないために、うまく排便できず、残便感が抜けません。
排泄は自律神経の働きによるもの。プライバシーの守られたトイレで排泄できれば、心理的にも安定します。とはいえ、トイレに寝たきりの高齢者を連れ出すのは負担が大きいはず。やむを得ずおむつを使う場合は、下記のことに気を付けましょう。
- スキントラブル
- おむつかぶれ、褥瘡(床ずれ)の発生に注意すること。尿がかかり、皮膚がふやけることがあります。そのようなときは、入念に拭くことが大切です。
- 感染症
- 雑菌が尿道や膀胱、腎臓、膣に侵入し、感染症を引き起こします。主な感染症は「膀胱炎」「腎盂(じんう)腎炎」「萎縮性膣炎」「カンジダ膣炎」です。
- 陰部洗浄
- 湿らせたガーゼなど肌に刺激が残らない拭きものを使います。このとき、石鹸を多用しないこと。高齢者は皮脂の分泌量が低下し、乾皮症を起こしやすいからです。
- 医療費控除を活用する
- 年間医療費が10万円または所得金額の5%を超過すると、医療費控除を受けることができます。医師が必要と認めた紙おむつや尿取パッドなども、医療費の一部として認められるので、領収書はしっかりと保管しておきましょう。
「日中おむつゼロ運動」を推進する施設も。「排泄ケア」の高度化が急務!

人間の尊厳の観点からも排泄ケアの重要性が指摘されるところですが、今のところ、介護負担の大きさから、トイレでの排泄は広がっていないようです。
現実は、おむつ頼りの施設が大半で、特別養護老人ホームのうち、入所者におむつを着用させている施設は60%にのぼると言われています。
この現状を変えようと、介護施設のなかには「日中おむつゼロ運動」を展開、ほぼ寝たきりであった重度要介護者が、自力で排泄を行うまでに回復した事例も報告されています。「日中おむつゼロ」に成功した施設には、3つの秘密があると言います。それは「施設長の決意と行動」「職員のチームワーク」「実践的研修」。
こうした「日中おむつゼロ運動」のような取り組みは、施設長も職員も「本当にできるのだろうか」と委縮しがち。成功している施設では、まず施設長が絶対にやり切るという意思を示し、職員が職種の垣根を超えて連携したと言います。そして、成功事例を共有し、改善につなげたそうです。
東京商工リサーチによると、2015年の老人福祉・介護事業所の倒産は76件。過去最悪の数字です。介護事業所も普通では生き残れない時代になってきました。
「排泄ケア」は、「食事ケア」「入浴ケア」と並び介護事業所の大きな役割のひとつです。「排泄ケア」がうまく機能すると、高齢者の生活の質も高まります。高齢者がより元気に充実した生活を送れるよう「日中おむつゼロ運動」をはじめとした、より高度なサービスが求められています。
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2020年9月7日 制定