認知症薬の種類は主に4種類!新薬の中には飲む薬ではなく貼る薬も存在する⁉
厚生労働省によれば、2025年の認知症患者は現状の1.5倍近くも増える約700万人と推計。さらに予備軍患者を加えれば、約1,300万人にものぼり、65歳以上の3人に1人は認知症患者とその予備軍となる見込みです。
認知症患者がこれほど増えると見込まれる要因のひとつに、認知症には根本的な治療薬がないということが挙げられます。
現在使われている薬剤は、あくまでも症状の改善を目指す治療に用いられるもので、進行を抑える効果が期待できるというところまで。
残念ながら根治できるわけではないからです。
また、認知症にも種類があり、治療薬の効果が認められているのは一部の認知症のみなのです。
認知症の中でもアルツハイマー型認知症の薬は、長年の間「ドネペジル塩酸塩(商品名:アリセプト)」が国内唯一の薬として、日本の認知症治療を支えてきました。
そこに、2011年より新薬として3つの薬剤が承認され、現在は4剤が用いられるようになっています。
なかには、飲み薬だけでなく貼るタイプの薬もあり、認知症患者が薬の服用を忘れるといった問題を予防する効果が期待できるものもあります。
そこで今回の特集では、アルツハイマー型認知症治療の新3薬の特徴や作用メカニズムを中心に、認知症治療薬の最前線を紹介していきます。
認知症の種類によって有効な薬は異なる!認知症薬の疑問を一挙に解決!
認知症の種類によって有効な薬の有無があるって本当?
ご存じの方も多いと思いますが、認知症は認知機能に障害を来して社会生活などが困難になる病気を総称したもので、いくつかの病態があります。認知症のタイプによって治療方法も異なってきますので、ここでまとめておきましょう。
認知症の中でも代表的なものが、「アルツハイマー型認知症」です。脳にアミロイドβやタウというタンパク質が凝集して沈着することで神経細胞が変性し、脳が萎縮してしまうことが原因とされています。
その他、脳梗塞や脳出血などが原因で起こる「脳血管性認知症」、大脳皮質にレビー小体と呼ばれるタンパク質が蓄積することで発症する「レビー小体型認知症」の3つが三大認知症と呼ばれるものです。
アルツハイマー型認知症(55%) | |
脳血管性認知症(19%) | |
レビー小体型認知症(18%) | |
その他の認知症(8%) |
これらの認知症のうち、治療薬が唯一存在するのがアルツハイマー型認知症です。それ以外の認知症については、特に有効だとされる治療薬は見つかっていません。
脳血管性認知症は、血圧の安定や、糖尿病・脂質異常症の治療が間接的に認知症の治療として活用されています。また、レビー小体型認知症には特化した治療薬がなく、アルツハイマー型認知症の治療薬が用いられていることが多くなっています。
認知症治療の新薬には、貼るタイプの薬も!作用メカニズムの異なった薬を併用することで治療効果が上がることも
アルツハイマー型認知症の治療薬は、「ドネペジル塩酸塩(商品名:アリセプト)」が1999年に国内で最初に承認されるや否や、瞬く間に年間売り上げ1000億円以上にのぼる大型薬剤に成長。
10年以上、アルツハイマー型認知症の治療薬=アリセプトという構図が成り立つような状況が続いていました。
それが、2011年になって新しく3種類の薬剤(「ガランタミン臭化水素酸塩(商品名:レミニール)」「リバスチグミン(商品名:イクセロン/リバスタッチパッチ)」「メマンチン塩酸塩(商品名:メマリー)」)が承認され、アルツハイマー型認知症の治療薬の幅が広がってきています。
同時に、ある市場調査によれば、アルツハイマー型認知症薬の市場は、2020年には2010年の1.7倍の2,900億円にまで拡大する可能性があると言われています。
薬剤の種類が増えることは、患者さんの症状や体質により合った形で薬を処方できることになり、メリットが大きいと言えます。
作用メカニズムの異なった薬を併用することで治療効果が上がるとの報告もありますし、それまで飲んでいた薬で改善がみられなければ、他の薬に切り替えることもできます。
また新薬の中には、貼るタイプの薬もあり、飲み薬だと飲み忘れの心配がある患者でも、貼り薬であればひと目で薬の使用が分かり、とても有効です。
副作用がつらいとき、飲み薬では薬を吐き出せませんが、貼り薬であればすぐに剥がすこともできます。
使用法は1日1枚、胸や上腕部、背中などに貼るだけと簡単。
必ず前回のパッチを剥がしてから、新しいパッチを貼るようにしましょう。
アリセプト、レミニール、イクセロン、メマリー…。アルツハイマー型認知症の治療薬を徹底解説!
認知症の薬は作用メカニズムによって、「コリンエステラーゼ阻害薬」と「NMDA受容体阻害薬」の2つに分かれます。それぞれの働きを紹介しておきましょう。
アルツハイマー型認知症を発症すると、アセチルコリンという脳の伝達物質が減少します。アリセプトは、アセチルコリンを分解する酵素のコリンエステラーゼを阻害し、アセチルコリンが減少するのを食い止めて神経伝達を助けます。
レミニールとイクセロン、リバスタッチパッチも同様の作用で、これらが「コリンエステラーゼ阻害薬」と分類されています。なお、アリセプトに関しては、2014年からレビー小体型認知症への適応も承認されています。
アリセプト
一般名 | ドネペジル塩酸塩 |
---|---|
剤形 | 錠剤/細粒/ゼリー/ドライシロップ/OD錠 |
適応症状 | 軽度~高度 |
国内販売 | 1999年11月 |
作用メカニズム | コリンエステラーゼ阻害薬 |
レミニール
一般名 | ガランタミン臭化水素酸塩 |
---|---|
剤形 | 錠剤/OD錠/液剤 |
適応症状 | 軽度・中程度 |
国内販売 | 2011年3月 |
作用メカニズム | コリンエステラーゼ阻害薬 |
イクセロン/リバスタッチパッチ
一般名 | リバスチグミン |
---|---|
剤形 | 貼付剤 |
適応症状 | 軽度・中程度 |
国内販売 | 2011年7月 |
作用メカニズム | コリンエステラーゼ阻害薬 |
もうひとつは、メマリーが分類される「NMDA受容体阻害薬」。
脳内で記憶や学習に関わる神経伝達物質にグルタミン酸があります。
しかし、アルツハイマー型認知症を発症すると、異常なタンパク質によってグルタミン酸が過剰になり、過剰になることで記憶のシグナルが妨害されてかえって記憶が困難になることが知られています。
。
メマリーはグルタミン酸受容体(NMDA型グルタミン酸受容体)を遮断してグルタミン酸の異常流入を防ぐことで、記憶を正常に保つように働きます。「コリンエステラーゼ阻害薬」と併用することができ、焦燥感やイライラ、攻撃性を抑える働きも持ちます。
メマリー
一般名 | メマンチン塩酸塩 |
---|---|
剤形 | 錠剤/OD錠 |
適応症状 | 中程度・高度 |
国内販売 | 2011年6月 |
作用メカニズム | NMDA受容体阻害薬 |
薬剤を選択できるようになったことは認知症患者にとってメリットが大きいと言えますが、やはり根治的な治療薬ではありません。
だからこそ、治療に早く取り組むことが、症状の進行を遅らせるために重要なポイント。
もの忘れが増えてきたなと感じたら(または周囲の人が気づいたら)、なるべく早く認知症専門外来を受診するようにしましょう。
。
認知症治療薬処方の問題は山積み…医師の判断で薬を減らしても保険外診療となり診療報酬カットに?
処方される薬剤の種類が増えたことは喜ばしいことですが、まだ問題も残されています。
薬を早期から服用している場合、そうでない場合と比べて認知機能の低下が緩やかです。
そのため、状態に変化がないといって自己判断で服用を中止し、悪化させてしまうケースも少なくないと言います。
認知神経学会のガイドラインでも、治療効果が明らかでない場合も、薬剤中止で認知機能が低下する症例を紹介しているように、薬剤の中止は決して自己判断せず、医師の判断のもとで慎重に検討することが大切です。
また、処方量についても問題視する声が挙がっています。
薬の添付文書には、処方の際には最少量から使用し、一定期間ごとに初期量の2~4倍量までに増量しなければならないことが明示されています。
この指示に従わず、医師の判断で薬の量を減らすと、保険外診療として診療報酬がカットされることがあるのです。
ところが、実際は患者に合った適量には個人差があり、処方量が増えることで怒りっぽさが増す、吐き気を感じる、歩行が困難になるといった副作用が生じることもあります。そこで、医師の裁量によって患者に見合った処方を促す適量処方の実現も待たれているわけです。
認知症発症メカニズム解明により、根本的な治療薬が完成するのもそう遠い未来ではない?
最後になりましたが、認知症を根治する薬は現れないのかという問題についても紹介しておきましょう。
長年、認知症の脳細胞の変化過程が解明できず、治療薬の開発が困難を極めてきましたが、近年アミロイドβとタウが脳に蓄積して、ほぼ同時期に海馬の萎縮が始まるという認知症発症メカニズムが分かってきました。
これによって、「アミロイドβの蓄積を防ぐ」「タウの蓄積を防ぐ」「海馬の萎縮を防ぐ」方法について、世界中の研究者が研究を重ねています。
イギリスでは、タウの蓄積を抑える治療薬が臨床試験の最終段階にあり、認知症の根治を目指す治療薬の先駆けになる見通しです。
早ければ、2016年にも認知症を根本的に治療する薬が完成するかもしれません。
その他、認知症患者の細胞をから作成したiPS細胞を使用して治療薬を作る試みも始まるなど、様々なアプローチで認知症治療の研究が進もうとしています。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 3件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定