東京都が高齢者や障がい者の旅行支援に乗り出す。”アクセシブル・ツーリズム”がもたらすメリットとは
東京都が推進する”アクセシブル・ツーリズム”とは
「誰もが旅行を楽しめることを目指す」取り組み
国内で“アクセシブル・ツーリズム”の推進を強く訴えている都市の代表が東京都です。
東京都によると、“アクセシブル・ツーリズム”とは、「高齢者や障害者など、移動やコミュニケーションに困難を抱える方のニーズに応えながら、誰もが旅を楽しめることを目指す取り組み」のこと。
前回の東京オリンピックの実施にあたっても、国内外から多くの旅行者を受け入れるために、都内各所でバリアフリー化などが進められました。
東京都は国内外からさまざまな旅行者を迎えるに当たり、高齢者や障がい者などが安心して都内観光を楽しめる「”アクセシブル・ツーリズム”」の充実に向けた取り組みを推進しています。
世界保健機構(WHO)によると、世界人口の15%にあたる約10億人が、何らかの障がいを持って生活していると指摘しており、国連世界観光機関(UNWTO)が中心となって”アクセシブル・ツーリズム”の普及を目指しています。
日本では、これまで「バリアフリー旅行」「ユニバーサルツーリズム」とも呼ばれてきました。ただ、世界的には”アクセシブル・ツーリズム”の方が広く普及しているため、東京都では世界基準に合わせて名称を統一して取り組みを実施しているのです。
「介護付き旅行」や「医療ツーリズム」との違い
”アクセシブル・ツーリズム”の一環として国内で広まりつつあるのが「介護付き旅行」です。これは、主に要支援・要介護認定を受けている人を対象に、介護士や看護師などが付き添って介助をしながら旅行を楽しむというものです。
近年は、各旅行会社などがツアーやパックなどの商品を売り出し、介護業界でも広まりつつあります。要支援・要介護者でも国内外に旅行できるとあって注目度が高まっています。
一方、急成長を遂げている「医療ツーリズム」は、海外などの医療機関にかかることを目的とした旅行であることから、”アクセシブル・ツーリズム”とは意味合いが異なります。
いずれにしても、身体に何らかの不自由を抱えている人でも旅行ができるような環境が世界的に求められているのは事実です。
東京都で進められる具体的な対策
バリアフリー観光が楽しめるコースを紹介
東京都では、”アクセシブル・ツーリズム”の特設ポータルサイトを設け、さまざまな情報を発信しています。
その一環として東京都内で”アクセシブル・ツーリズム”が楽しめる30コースを紹介しています。例えば、外国人旅行者にも人気のある築地・月島コースでは、築地本願寺や魚河岸、月島もんじゃストリートなどを掲載。
それぞれのスポットで、バリアフリートイレ、車椅子用の駐車場、車椅子の貸し出し、オストメイトなどの有無を明記し、施設内のどこに何があるかわかりやすくなっています。
観光情報だけでなく、バリアフリーに関する情報を発信しているので、高齢者や障がい者でも計画を立てやすくなっているのが特徴です。
そのほか、都内にある宿泊施設のユニバーサルデザイン設備状況などを一覧表として公開もしています。
ユニバーサルデザインとは、高齢者や障がい者でも利用しやすいように、階段ではなくスロープを設置したりする設計などを指します。いわゆるバリアフリー設備です。
このように、東京都では積極的に情報を発信することで、”アクセシブル・ツーリズム”の普及を目指しているのです。
さまざまな支援団体と協力体制を構築
さらに、東京都は”アクセシブル・ツーリズム”を推進するため、NPO法人などと協力体制を構築しています。主な支援団体は、「NPO法人高齢者・障がい者の旅をサポートする会」と「WheeLog!」の2団体です。
「NPO法人高齢者・障がい者の旅をサポートする会」は、高齢者や障がい者の旅行を支援する「旅サポーター」という有償ボランティアを養成しており、いわゆる「介護付き旅行」を支援しています。
東京都が主催するシンポジウムなどにも参加し、広く”アクセシブル・ツーリズム”を推進する活動を行っています。
一方、「WheeLog!」は主に車椅子の人を対象にバリアフリー情報の発信や啓発活動を実施しています。特に、団体名と同名のアプリでは、国内だけでなく世界中のバリアフリー情報を集約し、閲覧できるような仕組みになっています。
東京都では官民協働で”アクセシブル・ツーリズム”の普及を目指しており、今後企業などが参画すると、大きく成長する分野になる可能性があります。
”アクセシブル・ツーリズム”がもたらすメリット
70歳以上になると旅行回数が大きく減少する
”アクセシブル・ツーリズム”が普及すると、減少傾向にある国内観光を活性化する可能性があります。
政府は、これまで外国人観光客によるインバウンドを推進してきましたが、コロナ禍によって不安定な状況になっており、日本人による国内旅行の需要を高める必要に迫られています。
超高齢社会に突入した日本では、必然的に高齢者の割合が高くなるため、高齢者でも旅行を楽しんでもらうことが大切です。
しかし、国土交通省の『車いす、足腰が不安なシニア層の国内宿泊旅行拡大に関する調査研究』によると、70歳以上になると旅行回数が減少することがわかっています。
また、加齢とともに宿泊旅行が減少する理由として、70歳以上で最も多かったのは「健康上の理由」で約3割に上ります。特に歩行への不安が強くなっていることもわかっています。
一方、70歳以上の高齢者が旅行できるような環境が整備されれば、国内旅行を活性化する要因にもなります。また、高齢者が旅行することで、心身のリフレッシュなどの健康増進効果も期待されています。
”アクセシブル・ツーリズム”は、観光業を活性化し、高齢者の介護予防にもつながる可能性があるのです。
全国に拡大する”アクセシブル・ツーリズム”
こうしたメリットを最大化するためにも、”アクセシブル・ツーリズム”の考え方を全国に拡大することが大切です。そのためには旅行業者などのサポートだけでなく、自治体による環境整備も不可欠です。
観光庁の『ユニバーサルツーリズムの促進業務』という報告書によると、障がい者等の旅行で課題とされているのは「訪問先でのサポート体制の確保」が63%で最多。
次いで「受入が可能な運輸・宿泊機関・食事など観光施設の確保」62%、「専門知識の習得・人材育成」59%と続きます。
これらの課題を受けて、東京都のように官民協働の取り組みを行う自治体も増えています。
例えば、三重県では宿泊施設などのバリアフリー改修アドバイスを実施。プロジェクト開始から年10軒以上の改修につなげています。さらに伊勢神宮では独自の旅行介助を行うヘルパーのボランティアを配置しています。
コロナによる影響が大きな観光業、介護予防が必須な高齢者のためにも、”アクセシブル・ツーリズム”が果たす役割は大きいといえるかもしれません。
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2020年9月7日 制定