「磯野波平さんはいくつに見える?」高齢者を再定義したうえで目指すべき老人ホームのあり方を探る
日本人の若返りが進んでいる
磯野波平さんはいくつに見える?
日本をはじめとした多くの国では、65歳を高齢者と定義しています。起源は諸説ありますが、1956年に世界保健機関(WHO)が発表した報告書に由来しているという説が有力です。
しかし、健康寿命が延びた現代においては、高齢者の定義が医学的にも社会的にも実情に合わないという問題が生じています。
日本老年学会、日本老年医学会が立ち上げたワーキンググループ(以下、WG)は、「『サザエさん』に出てくる磯野波平さんの年齢はいくつに見えるか?」「現代の54歳のイメージとは大きく乖離しているのではないか?」という素朴な疑問をきっかけに、頃年、65歳を高齢者とする定義が妥当かどうかについて調査を続けています。
若返りを示す医学的根拠
劇中の波平さんの年齢は54歳ですが、現代の多くの方は60歳以上と想像されるのではないでしょうか。連載開始時の54歳の平均的イメージが波平さんだったとも考えられます。
現代の日本人は以前に比べて若返っているという仮説のもと、WGは体力・生活機能・知的機能の観点で男女別の経年変化を調査。結果は、若く元気で社会性の高い高齢者が増加していることが判明し、高齢者の若返り現象がイメージだけでなく科学的にも証明されました。
また、脳卒中などの高齢者に多い疾病の受療率や死亡率の低下が認められ、さらには人口当たりの要介護率の低下やフレイルに該当する高齢者数も減少していたようです。 出典:『社会保障研究』(国立社会保障・人口問題研究所)図1「脳卒中による死亡率の経年変化(Ishii S, et al.(2015)」を基に作成
活力も能力も十分にありながら、65歳を迎えたその日から、突然、社会を支える側から社会に支えられる側になるというのも不合理な話だろうと、WGは医学的見地からも高齢者の年齢の引き上げを提言しています。
支えられる存在から支える存在へ
WGは、なぜ高齢者の年齢引き上げを提言するのか?その狙いは「高齢者を、社会の支え手としてモチベーションを持ったポジティブな存在に変える」ことにあるといいます。
これから先、少子高齢化が加速度的に進んでいきます。すると、労働力不足が社会の課題となります。高齢者のスキル・経験を労働市場で活かせるような体制作りは急務なのです。
さらに、健康な高齢者が労働市場に参加することは、社会保障の負担軽減にも繋がります。
確かに、まだまだ高齢者に対しては「社会の負担」ではないかというイメージが根強くあります。しかし、このイメージを刷新し、年齢で分け隔てない「エイジフリー社会」を志向することが必要だとも、WGは提案しています。
高齢者の社会参加を促す取り組みとは
老健式活動能力の上昇
WGが高齢者の年齢の引き上げを提言した医学的根拠のひとつに、70-84歳における老健式活動能力指標の経年変化があげられています。
老研式活動能力指標とは、手段的自立、知的能動性、社会的役割の各項目の「はい」を1点、「いいえ」を0点とし、13点満点として生活での自立を評価する尺度です。
出典:『社会保障研究』(国立社会保障・人口問題研究所)図7「70-84歳における老健式活動能力指標の経年変化(Suzuki T(2018)による)」を基に作成
身体性だけでなく、社会的な自立性も年々上昇していることが判明しています。
介護施設の入居者に対しては、QOLの向上を目的に「カラオケ」や「麻雀」をはじめとしたレクレーションが行われていますが、これらのレクレーションには、利用者のQOLの向上だけでなく、利用者同士が相互にポジティブな交流をすることができる可能性もあります。
活力ある高齢者が増えていることを鑑みれば、今後、介護施設の在り方も変化していくことが必要と考えられます。
例えば、レクリエーション設備のさらなる充実、介護施設に入居しながらの社会参加などへのニーズが今後高まっていくはずです。
現在の介護施設の設備状況
実は、活力ある高齢者に応えるために施設側も既に様々な取り組みを進めています。
「みんなの介護」で、全国の介護施設におけるQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に関わる設備について調べたところ、興味深い結果が出ました。
「理美容サービス・カラオケ・インターネット、いずれも他者との繋がりを想定したものです。これらのサービスは、5年前にはごく少数でしたが、いま全国の介護施設に急速に普及しつつあります。
「静かに余生を過ごす」といった従来の高齢者像ではなく、万一の際の健康のケアは介護施設に委ねつつも、アクティブにあり続けようとする新しい高齢者像が介護施設入居者においてもトレンドとなりつつあるのです。
ロールモデルは山梨県の介護施設運営
先進的な取り組みをしている山梨県の介護施設
「みんなの介護」の調査からは、全国でも特に山梨県が介護施設のQOL充実に力を入れている傾向が見えてきました。
ネット利用可能の施設数の割合、理美容サービスを提供している施設数の割合で全国1位の結果となりました。そのうち、ネット利用可能の施設は全体の47%、理美容サービスを提供している施設が全体の86%と全国平均を大きく上回る結果です。
ネット利用は、デジタルに抵抗感の無い世代の入居が今後増えていくこともあり、ニーズは非常に高 まっていくと考えられます。理美容サービスは、施設外の方々と触れ合う機会でもあるので、社会参加を促すいい機会といえます。
山梨県はカラオケが楽しめる施設数の割合でも全国で第2位となっており、設備投資を通じて入居者のQOL向上、社会参加の活発化に積極的に取り組んでいるようです。
こうした山梨県の取り組みは、全国の介護業界のロールモデルとなるかもしれません。
エイジフリー社会を創る
今後は、介護施設に求められる役割も変化していくと考えられます。
例えば、「介護施設が地域のハブになること」などが考えられます。既に、地域の保育園・幼稚園などと交流し、介護施設に入居する高齢者が教育の一部を担うようなケースも少しずつ増えつつあります。
介護施設はコロナ禍でクローズドな環境になってしまいましたが、今後は施設内での活動はもちろんのこと、地域社会とも連携して社会参加を促していく環境作りが大事になるのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定