世代間闘争は回避不可能?!破綻を避ける唯一の方法は、選挙制度改革にある!
将来世代への投資は先進国最低ランクの国、日本
こんにちは、都議会議員のおときた駿です。
前回は「高齢者だけが利用できる「シルバーパス(敬老パス)」を廃止した方が良い3つの理由」として寄稿をさせていただいたところ、多くの反響をいただきました。
福祉の切り捨て(かのように見える)政策には厳しい目線が注がれる一方で、若年層からの高齢者優遇政策に対する反発もまた苛烈を極めていると実感しています。
少し前のことになりますが、昨年には東京都内の年金受給者500名以上が連名で国を相手取り、「年金を減額するのは憲法違反だ」と主張する『年金減額訴訟』が発生しました。
これに対して、その主張に異を唱える若手有識者が「よろしい、ならば世代間闘争だ」と提起する記事を投稿し、大きな話題を呼びました。
「日本の若者は、虐げられているのに本当におとなしい」とよく言われます。実際、最近は多くの有識者が指摘するようになった通り、主に社会保障に関連する「世代間格差」はもはや1億円に迫る勢いとも言われています。

そして若年層が被っている負担は、個人的なものに限りません。
子育てや教育など、いわゆる将来世代向けの投資である「家族関係支出」という項目の対GDP国際比較を見ると、日本の政策投資・支出はわずか0.8%程度と、先進国中で最低ランクを記録しており、高齢者向けの社会保障費支出とは著しい隔たりがあります。

これだけ若者・子どもたちは有意に虐げられているのですから、確かに若年層は怒りの声の一つでも上げてしかるべきとも言えます。若年層の不満が高まれば、大規模デモ活動や抗議の海外居住、最悪のケースでは暴動やクーデターにすら至る可能性があります。
現在のところ、幸か不幸かそのような事態は我が国ではそのような事態は起きておりませんが、冒頭に紹介した若手有識者のような、「世代間闘争」の火種が存在しないと言えば嘘になるでしょう。
世界最速で進む超高齢化がもたらした「歪み」
それではなぜ、このような「世代間闘争の火種(世代間格差)」が生じているのでしょうか?言うまでもなく最も大きな原因は「高齢化」です。
総人口に対して65歳以上の高齢者人口が占める割合を高齢化率と言いますが、世界保健機構や国連の定義によると、高齢化率が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた社会を「高齢社会」、21%を超えた社会を「超高齢社会」としています。
我が国は世界最速で超高齢社会へと突入し、2010年国勢調査時点でも高齢化率23%と世界トップを記録しています。こうした状態にさらに、投票率という大きな要因が加わります。

若者の政治離れに改めて言及するまでもなく、高齢者層と若年層では投票率に大きな差があります。人口と投票率の割合を図で可視化してみます。

全人口の比率ではまだ30%強に過ぎない60代以上の割合が、なんと50%近くまで急上昇します。当然のことながら20代未満は選挙権がなく除外されるため、高齢者の比率はさらに跳ね上がっています。
民主主義という制度下では、政策決定をする政治家・議員たちは投票(民意)によって選択されます。これだけ高齢者層の影響力が有意に強ければ、将来世代への投資が先進国最低ランクになり、高齢者向けの社会保障費の支出が膨らんでいくのは必然とも言えるのです。
シルバーデモクラシーは、制度設計の想定外?!

このように20年・30年後の未来に責任を持たない世代が影響力を持って意思決定を行い、将来世代に危機的なツケを先送りしてしまうことを「シルバーデモクラシー」と言われていますが、そもそもこの単語自体が比較的新しい造語です。
なぜならば「みんなで決める」民主主義社会において、これほど高齢者(非納税者)が増えることは想定されていなかったからです。
民主主義を支える根幹は、有権者が投票により自分たちの代表者を選ぶ「選挙」ですが、歴史を見れば選挙で票を持つ有権者は、一定以上の納税額を納めたものに限られていました。
これを「制限選挙」といい、納税額の多寡に関わらず成人に(※当初は男子のみ)選挙権が与えられた普通選挙の導入は、なんと1925年からの出来事に過ぎません。
それまでは「政治というのは、税金の使い道を決めるもの」と考えられていたからです。
政治の最大の役割とは「再配分」をすること=財源・予算や組み方を決めることです。ならば納税した人々が、納税した自分たちの意思によって、その使われ方を決めていく。これが民主主義の当然の前提だったのですね。
時代は変わり、有権者に納税のハードルはなくなりました。
これは多様な意見を取り入れる視点から、民主主義の発展にとって間違いなく素晴らしいものだと思います。
一方で、寿命の伸長・高齢化の進展によって納税額<<年金受給額となるような高齢者が有権者の中心となり、政治家たちもその代弁者ばかりとなりました。
普通選挙の導入を訴えた人々は、まさかこれほど高齢者が増える社会を予想していなかったことでしょう。
税金を支払う側ではなく、もらう側が政策決定のイニシアチブを握った結果が我が国の財政状況であり、世代間格差であると言われています。
こうした危機感から「シルバーデモクラシー」という単語が生まれ、既存の民主主義制度下では是正できないこの状況をなんとか打破しようとする動きがチラホラと出てきています。
私も僭越ながら、その活動を続ける一人です。
「世代間格差」は、高齢者層にも深刻なダメージをもたらす

では、こうした状況をどのように打破していけば良いのでしょうか。まず何よりも大事なことは、「世代間格差」が生じている社会は直接的に虐げられている若年層だけでなく、中長期的には高齢者層にも明白にマイナスになるという認識を共有することです。
子育てや教育に十分な投資を受けられなかった若者たちは疲弊し、非正規雇用などが増えて十分な所得が得られない=納税できない状態になりつつあります。
さらに優秀な若者たちの中には、理不尽な格差に絶望して海外移住を決断する人々が出てきていることも見過ごせません。
賦課方式の年金を始めとする社会保障制度の多くは、実際には働き盛りの若年層が高齢者を支える仕組みですから、若年層が弱体化し減少すればこれを維持することは困難です。
どこまで「逃げきれるか」という問題もありますが、若者への投資を惜しんで世代間格差を放置することは、いずれ高齢者を支えるシステムに致命的なダメージを負わせることになります。将来世代への政策投資を増やすことは、高齢者のためでもあるのです。
そのためには、序盤で見てきたように選挙制度において若年層の影響力を高めることが必要になります。
そうかといって、「納税者=有権者」論から「年金受給者からは選挙権を取り上げろ!」という主張が導き出す方もおられますが、それはあまりにも非現実的です。
「全面戦争」の姿勢は、世代間闘争の最後の引き金にもなりかねません。
そこで私が現在提唱しているのは、「ドメイン制度」と呼ばれる選挙制度です。これはドイツの学者ポール・ドメインによって提唱された制度で、選挙における影響力で世代間格差が広がるのを防ぐために、0歳児からすべての国民に投票権を与えるものです。
でも、小さな子どもたちは意思決定できませんよね。
そこで18歳なりの成人年齢に達するまでは、親権者(親)がこれを代行します。
例えば3人お子さんを持っている人は、自分と合わせて4票を投じられるわけですね。
私はこれを日本語では「国民総投票制」と呼んでいます。
仮にこれが日本で実現すると、現在50%近くにまでなっている高齢者世代の投票割合が、若年層の低投票率を考慮しても40%未満にまで下がります。
そして制度で力を持つのはまさに将来のための投資を最も必要とする「子育て世代」ですから、彼らの発言力が何倍にも増すことで保育・子育てへの投資が劇的に進むことが予想されます。
さらには、発言力が増す→政策が実現する→投票の重みを実感して投票率が向上する、という好循環も期待できます。
国民総投票制を訴える、全年代横断の「こども党(仮)」が必要?!

具体的には、こうしたドメイン制度を提唱する「こども党(仮)」のような政党が必要ではないかと感じています。多くの既存の政党も、子育て支援や教育・若年層の雇用支援などを掲げてきました。
しかしながら現状が劇的に改善される見込みはなく、世代間闘争の気配は抜き差しならぬところまで来ています。各論の政策を掲げるのではなく、その根本要因(選挙制度)に一石を投じるのが最も効果的です。
これまでも数多くの団体が「世代間格差の是正」を掲げ、政治活動を行ってきました。
しかしながらそれらが結局、大きなムーブメントにならなかったのは、ともすれば活動主体が「若者たち」だけで、政策の対象が「若者向け」であり、高齢者を味方にしようという配慮に足りなかったからでした。
若年層に対する支援が脆弱なことは社会システムを崩壊させ、高齢者にとってもマイナスするという点を強調・共有して、多世代共存型の組織づくりをしなければなりません。
それには双方の歩み寄り・相互理解が必要です。
若者世代は既得権益を奪取することではなく、正統に「子どもたちに発言権を」得られることで妥協する。
それから先、道を切り拓くのは自分たちの世代の努力です。
一方で高齢者世代は、将来世代の発言力が増す≒相対的に自分たちの存在感が低下することを受け入れていただく必要があります。
社会保障などの政策各論に入ってしまうと、予算の奪い合いになって対立が起きがちになりますが、根本の選挙制度改革こそ実はあらゆる世代が折り合える一致点ではないかと思っています。「選挙で入れるところがない」「世代間格差を解消してくれる政治家がいない」そんな状況下で、「こども党(仮)」のようなインディーズ政党が颯爽と登場したら…?
そんなことを考え、また行動する日々です。今年は参議院選挙があり、そして衆議院選挙もあるかもしれません。我々を取り巻く選挙・投票環境に、皆さまも思いを巡らせていただけると幸いです。
それでは、また次回。
おときた駿さんへの特別インタビュー「賢人論。」(前編)「介護保険制度は今、ただでさえ危うい制度上にいる。そのことはみんなが認識しないといけない」はこちらから
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2020年9月7日 制定