「3.11」では死者の約6割が高齢者だった。介護事業者は災害時に何ができるか
未曽有の死傷者数を出した東日本大震災。
被害が大きかった岩手県、宮城県、福島県の3県で収容された死亡者数は1万5,786人(2012年3月現在)にのぼり、検視などの結果から年齢が判明したのは1万5,331人。
そのうち、60歳以上は1万85人となり、約65%は高齢者だと判明しました。
さらに、震災関連死(東日本大震災による負傷の悪化等により亡くなられた方で、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象となった方)の死者数は1,632人でこのうち66歳以上は1,460人と全体の89.5%を占めています。
上述した3県は、もともと高齢化が進展していた地域であるとはいえ、こうした災害では、高齢者が被災者になりやすいという現実が浮き彫りになりました。震災時は弱者となる高齢者。今回は高齢者における防災対策の現状と課題を見ていきます。
町村部の福祉避難所の設置率は40%台!?市区町村の規模によって、大きな隔たり…
高齢者は、防災対策のなかでは「災害弱者」または「要援護者」と呼ばれ、災害時には一定の支援が必要な存在とされています。
東日本大震災のような大規模災害が起き、自宅での生活が困難となると、高齢者はまず一般の収容避難所(地域の学校の体育館など)で生活することになります。
収容避難所は、自治体の「地域防災計画」によって指定され、非常食や毛布など、一定期間生活できる物資がそろっています。
収容避難所での生活が難しい高齢者は、災害救助に基づき「福祉避難所」に収容されます。
「福祉避難所」とは、「介護の必要な高齢者など生活に支障を来す人に対し、一定のケアが提供される、ポータブルトイレや手すり、仮設スロープなどバリアフリーに配慮した避難所」のことです。
入所条件は、「介護保険被保険者であること」や「一般の収容避難所での生活が困難な自宅の要介護認定3以上の人であること」、「日常生活で常時介護が必要であること」などです。
厚生労働省による「福祉避難所指定状況調査」(2012年9月末時点)によると、福祉避難所を1ヶ所以上指定した市区町村は、981(調査対象:1,742市区町村)。
指定率は56.3%でした。
約4割の市区町村は、福祉避難所を設置していないことが判明しました。
。
さらにデータを見ていくと、市の指定率は65.4%、東京23区は指定率100%となっている一方、町村では指定率40%台となっており、市区町村の規模によって、指定率に大きな隔たりがあることがわかりました。
市区町村が指定した福祉避難所の55.2%は高齢者施設。
次に、障害者施設(14.8%)、その他社会福祉施設(8.6%)が続きます。
指定施設数及び種別
施設種別 | 施設数 | 比率 | 施設種別 | 施設数 | 比率 |
---|---|---|---|---|---|
高齢者施設 | 6,211施設 | 55.2% | 障害者施設 | 1,664施設 | 14.8% |
児童 福祉施設 |
546施設 | 4.9% | その他 社会福祉施設 |
965施設 | 8.6% |
公民館 | 466施設 | 4.1% | 小中学校 高校 |
343施設 | 3.0% |
特別 支援学校 |
102施設 | 0.9% | 公的 宿泊施設 |
46施設 | 0.4% |
その他 ※ |
911施設 | 8.1% | ※その他の例…病院、温泉施設、 図書館、民間宿泊施設など |
さらに福祉避難所での受け入れが困難な高齢者は、介護保険法に基づき「緊急入所施設」に入所することになります。
「緊急入所施設」への入所条件は、前述した福祉避難所への入所条件に加えて、「常時、専門的介助・援助が必要であること」「家族や地域住民の支援を受けても充分な介護を期待できないこと」などです。
「緊急入所施設」は、特別養護老人ホームや介護老人保健施設が該当します。
災害時に高齢者の安否確認等を担う介護事業者。独居老人が増えるなか、役割は大きくなるばかり
ひと口に高齢者といっても、「施設入所者」なのか「在宅の要介護・要支援高齢者」なのか、それとも「在宅の自立高齢者」なのか、居場所と介護の有無によって支援すべき内容は当然異なります。
「施設入所者」は介護事業者によるケアが期待でき、居場所が確保されていることから、生命の重大な危機が及ぶケースは少ないでしょう。
心配なのは「在宅の要介護・要支援高齢者」と「在宅の自立高齢者」です。
これらの高齢者の安否確認を誰が行うのかが大きな問題となります。
独居老人が増えているのは周知の通り。
家族による安否確認が期待できないなか、地域のボランティアや介護事業者などの協力に頼らざるを得ない状況です。
しかし、大規模災害発生という混乱状態のなかで、事業者の自助努力を強いるのは酷な話。
介護職員への過度な負担も問題となります。
東日本大震災では、介護事業者がどのような対応を取ったのか、参考になるデータがあります。
株式会社富士通総研による調査によると、地域の在宅高齢者の安否確認等を行った事業者は、13.6%(「自分たちの施設で把握している高齢者に加え、今まで把握していなかった高齢者についても(安否確認等を)行った」)。
一方、「主に自分たちの施設で把握している高齢者についてのみ行った」事業者は56.8%、「特に行わなかった」事業者は28.2%でした。約1割の事業者は仕事の枠を超えて、高齢者の安否確認等を行っていたことがわかりました。
「福祉避難所」「緊急入所施設」として指定を受けている高齢者施設にはより大きな責任があります。緊急時には、地域の要援護高齢者を受け入れる立場にあるからです。このような施設では、防災計画の策定はもちろん、日頃から十分な訓練を実施することも重要です。
未だ福祉避難所を設置していない市町村も存在。「自分の身は自分で守る」ことが肝要!?
今後、高齢者における防災対策はどうあるべきでしょうか。月並みですが、地域住民・国、自治体・介護事業者が連携を取りつつ、それぞれの立場で高齢者を支援していくことが必要。地域住民は日頃から高齢者の見守り等に関心を持ち続けることが大切です。
余裕があれば、地域コミュニティの防災を担う団体、例えば消防団、自主防災組織に所属するのも一案です。下記のグラフを見てわかる通り、消防団員数は右肩下がりに減少しています。
団員の高齢化も顕著です。消防団員の年齢構成比率を見てみると、10~30代の比率は1965年には90.4%を占めていましたが、2011年には57.5%まで下がっています。
一方、自主防災組織に目を移すと、組織数は増加傾向にあるとわかります。「自主防災組織」とは、地域住民の任意防災組織のこと。消防団のように決められた活動は定められておらず、ゆるやかな連帯のなかで自由に動けることが増加の一因と見られます。
国、自治体は、災害時に住民が混乱しないよう、正確な情報の発信と各避難所の整備が急務です。
上述した通り、町村を中心に「福祉避難所」の整備が進んでいない現状があります。
厚生労働省によると、未指定の市町村のうち、約9割は福祉避難所の指定を検討しているといいます。
しかし、残り1割(60市町村)は「今後も指定の予定なし」と回答し、その理由を「福祉避難所として適切な施設がない」としています。
このような市町村に居住する高齢者は災害時に行き場を失う可能性があります。
介護施設は、災害時の指揮命令系統の確認と防災意識の高い人材の育成が急務
災害が発生すると、要介護高齢者が介護施設に大挙して押し寄せる可能性があります。
受け入れ時には、介護施設の収容場所およびマンパワーの不足が問題になります。
災害時は介護職員自身が被災者になるケースも想定され、職員が集まらないことも考えられます。
こうしたときに備えて、施設間協定等を結び、事前に連携先を確保しておくと受け入れがスムーズに進むでしょう。
東日本大震災では、「直接施設間で交渉」(39.4%)「同一法人・関連グループの紹介」(21.1%)などが実際に行われていました。それから、介護施設内での防災管理体制の強化も重要です。
最近の介護施設は、寡占化の流れからグループ運営が基本になりつつあり、各施設は法人本部から指示を受けて、業務にあたることが増えています。
災害時には法人本部と連絡が取れない事態も想定されることから、施設長を筆頭に指揮命令系統の確認はもちろん、非常時に的確に対応できる職員の育成も必要です。
首都圏直下型大地震や東海地震の発生が危惧されるなか、「災害弱者」「要援護者」である高齢者をどのように支えていくのか。人任せにせず、それぞれの立場で自主的に関わっていく姿勢が大切です。
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2020年9月7日 制定