身元保証人を求める介護施設・病院が9割以上!?社会全体で天涯孤独の高齢者への支援を
少子高齢社会が進展するなか、一人暮らし高齢者数は増加傾向にあります。
一人暮らし高齢者が高齢者人口に占める割合は、1980年には男性4.3%、女性11.2%でしたが、2010年には男性11.1%、女性20.3%にまで高まっています。
今後も、この傾向は続くと予想され、2035年には男性16.3%、女性23.4%となる見込みです。
また、65歳以上人口に占める割合は19.0%となっており、65歳以上人口の約5人に1人が一人暮らしとなっています。
一人暮らし高齢者とひと口に言っても、置かれている状況はさまざま。
近くに家族がいて悠々自適に一人暮らしをしている高齢者なら、あまり心配する必要はないかもしれません。
一人暮らし高齢者の増加が大きな社会問題になっているのは、誰も頼る人がおらず、孤立化を余儀なくされているからです。
高齢者世帯のうち、困ったときに頼れる人がいない人の割合は、全体では2.4%と低いものの、一人暮らし男性世帯では20.0%に、一人暮らし女性世帯では8.5%に跳ね上がります。一人暮らし男性は、近所づきあいも少なく、孤立しやすい傾向があります。
こうした高齢者は、病院や高齢者施設等に入院、入所を断られるケースがあります。というのも、入院、入所に必要な「身元保証人」を立てることができないからです。
身元保証人等がいない場合、病院の約2割、施設等の3割が入院、入居を拒否
身元保証人とは、「患者や利用者本人の義務や債務を連帯して保証する人」のこと。
身元保証人に期待される役割は「入院費・利用料金の支払いと債務の保証」「身柄の引き取りと居室等の明け渡し」「緊急の連絡先」「入院計画書・ケアプランの同意」「医療行為の同意」「遺体・遺品の引き取り」など多岐に渡ります。
公益財団法人成年後見センター・リーガルサポートが実施した「病院・施設等における身元保証等に関する実態調査」によると、入院・入所の際、身元保証人等を求める施設等は91.3%、病院は95.9%でした。
9割もの病院、施設等が身元保証人等を求めている現状があります。
もし、身元保証人等を得られそうもない場合、病院、施設等はどのように対処しているのでしょうか。
「不在のまま認める」と回答した病院は45.2%、施設等は16.0%。
一方、「入院・入所(入居)を認めない」とした病院は22.6%、施設等は30.7%でした。
つまり、少なくないケースで入院、入所を断られている高齢者がいるという結果です。
最も多かったのは「成年後見制度の検討・活用を図る」という回答。
病院の53.8%、施設等の71.0%がこの回答を選択しています。
実は、この背景は少々複雑です。
というのも、成年後見人は身元保証人等になることが望ましくないとされているからです。
身元保証人等になってしまうと、成年後見人が債務を弁済する義務を負います。
高齢者が医療費等の支払いができない場合、代わりに弁済する必要があるのです。
しかし、支払っても、結局高齢者本人に弁済を求めることになり、本質的な解決にはなりません。
成年後見制度とは、「判断能力が十分でない高齢者のために、援助者を選任して、高齢者の法律行為を補助する制度」のことです。
成年後見人は家庭裁判所が、高齢者の状況に応じて適任者を選任します。
成年後見人は、高齢者本人の親族以外でも、弁護士や司法書士、社会福祉士といった法律、福祉の専門家のほか公益法人などの法人が選任されることもあります。
民間賃貸住宅の貸主は、「賃料の支払い能力の有無」よりも「保証人の有無」を重視?
身元保証人等を確保できないと、民間の賃貸住宅に入居することさえ難しくなります。
神戸市では、約4割の貸主が高齢者の入居を断っているという事実があります。
主な理由は「居室内での死亡事故への不安」と「保証人の有無」でした。
つまり、家賃の支払い能力の有無というより、高齢者の周辺状況に重きを置いているのです。
この事態を重く見た神戸市は2014年に「こうべ賃貸住宅あんしん入居制度」を創設(事業主体:神戸すまいまちづくり公社)。
主に提供されるサービスは「連帯保証サービス」(入居者負担:18万円以下)を基本に、入居者本人が死亡した場合、残存家財を片付ける「残存家財の片づけサービス」(原則15万円以下)、センサー等により入居者の安否確認を行い、異常時には速やかに対応する「安否確認サービス」(月額4,000円以下)の全部で3つです。
類似の取り組みは東京都(事業主体:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター)でも行われています。
「東京都あんしん居住制度」は「見守りサービス」(年間利用料4万8,300円)「葬儀の実施」(預かり金30万8,500円)「残存家財の片づけ」(預かり金15万4,200円)を提供する制度。
この制度には連帯保証サービスはありませんが、高齢者の一人暮らしの不安解消に役立つサービスと言えるでしょう。
下記のグラフを見てわかる通り、単身居住者で死亡から相当期間(死亡後1週間超)経過後に発見された高齢者は、増加傾向にあります。
死亡後は、親族のほか身元保証人が遺体を引き取ることになりますが、こうした人がいない場合、いわゆる「無縁仏」として処理されることになります。
札幌市が2006年に引き取った無縁仏は25体。
最近では、親族が遺体の引き取りを拒否するケースが増えていると言います。
昔と異なり、親族間の絆が希薄になっているという指摘もあり、今後もこのようなサービスは増えていくと予想されます。
すでに機能していない身元保証人制度。社会全体で孤立化する高齢者を支える必要がある
これまで見てきたように、頼る人がいないと、入院や高齢者施設への入所、民間住宅への入居、遺体の引き取りなどに支障を来すようになります。
こうした事態に陥らないよう事前準備が大切です。
最近ではNPO法人や公益財団法人などが身元保証引き受けサービスを実施しており、利用するのも一案でしょう。
しかし、契約の際は十分な注意が必要です。
契約内容が複雑で理解できないまま契約に至るケースが散見されます。
「契約が履行されない」「サービス内容に不満がある」といった相談が、全国の消費生活センターに寄せられている現実もあります。
これでは安心して利用することなどできません。
行政機関、社会福祉協議会などが身元保証人等を担うべきだという指摘もあります。
前述した通り、神戸市や東京都には支援制度があります。
しかし、こうした支援制度を利用するにもある程度の資力が必要。
低年金・低貯蓄など高齢者の貧困が深刻化するなか、利用をためらう高齢者がいないとも限りません。
病院・施設等からすれば、経営の安定化のために身元保証を求めるのは当然のことかもしれません。
とはいえ、身元保証人に支払いを求めても音信不通になったり、支払いや関わりを拒否する例も多発しています。
すでに身元保証人制度自体が機能していないとも考えられるでしょう。
世界に類を見ない高齢国・日本。
家族の形が変わるなかで、孤立する高齢者をどのように支援していくべきでしょうか。
頼れる人がいないと、入院などが難しくなり生命の維持にも危険が及ぶだけに、孤立化は切実な問題です。
今後も一人暮らし高齢者は増加していくでしょう。
自分が当事者になる可能性もあります。
決して他人事とは考えず、社会全体で解決策を練ることが求められます。
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2020年9月7日 制定