月10万円の収入で老後が豊かに?知っておくべき定年後のおカネ事情
本稿では、この8月に上梓した「ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う(講談社現代新書)」から、意外と知られていない「定年後の働き方」の実態についてお伝えします。
高齢就業者のリアル「仕事に満足している人が6割」
定年後に本当に必要なのは月10万円の収入
老後2,000万円問題が叫ばれる昨今、定年後の生活に不安をかかえている人もいるのではないでしょうか。
年齢が進むにつれ、家計の支出額は大きく変動します。家計収支の年齢別データをみていくと、家族のために無理をしてでも働くことを求められていた壮年期と違い、高齢期はゆるやかな働き方を選択することが可能になことがわかります。
まず、60代に差し掛かる頃には、大部分の世帯で教育費の負担がなくなり、住宅ローン完済によって住居費も減少傾向に向かいます。家計支出額がピークを迎える50代前半には月57.9万円必要だったのが、65歳以降になると月およそ30万円の支出で生活できます。
収入面も見てみましょう。65〜69歳の平均収入はおよそ月25万円になります。その内訳は、公的年金を含む社会保障給付が月19.9万円、確定拠出年金などを含む保険金が月2.7万円、その他収入が月2.2万円というデータが出ています。
したがって、高齢期に労働収入でカバーすべきは、家計収支の差である月10万円前後。夫婦でそれだけの収入があれば平均的な家計は十分に回ることが分かります。
2,000万円と聞くと非常に大きな額に感じますが、これは高齢期に働かないと仮定したときのことです。月10万円程度の収入であれば定年後でも無理なく働くことができる人も多いと思います。
高齢期の仕事に満足している人は多い
「定年して仕事から解放されたのに、まだ働くのか」
現役世代からそんな嘆きの声が聞こえてきそうですが、実際に就労している高齢期の方々の仕事に対する満足度は、決して低くはありません。
上に掲載した労働時間の分布データを見ると、実際に高齢労働者の多くが、週に数回程度の仕事に就いていると予想できます。趣味や余暇にも時間を使いつつ、加齢による能力や身体機能の低下に応じて、無理なく過度なく働いています。
私自身、多数の働く高齢者にインタビューを行った実感としても、多くの人は自身の生活を折り合いをつけながら無理なく働いているというのが実態に近いと思います。
次のデータを見ても多くの人が定年を迎える60〜65歳頃以降から、仕事に満足している人の割合が急上昇していくのが読み取れます。
特に70代の就労者のうち、実に約6割以上の人が前向きに仕事へ取り組んでいます。
高齢期に働く人の多くは、現役世代よりも身体的・精神的に負荷の低い働き方を選択しています。定年後の就労をネガティブにとらえている人は、現役時代並みの現在の自分自身が担っている業務量や働き方をイメージしているからということもあるのかもしれません。
健康なうちは働くという意識を持つべき
2020年における70歳男性の就業率は45.7%。半数近くの70歳男性が何らかの仕事についていることになります。マンション管理人、コンビニのレジ、飲食店での接客など、あらゆる場所でシニア世代が働く姿を見かけることも少なくありません。
超少子高齢化が迫る日本において、労働需給のバランスが不均衡になっている様子も見て取れており、多くの業界・企業が直面する人手不足の課題は深刻化しています。こうしたなか、労働市場を見渡しても、高齢の方を積極的に採用する企業も増える傾向にあります。
また、高齢期の生活費のメインである公的年金は、ゆるやかな給付額の減少が見込まれます。年金の位置づけは徐々に変化することが予想され、現実的には年金は働けなくなったときの保険と考えることになるでしょう。
高齢期の「小さな仕事」が日本を救う
必要なのは現場仕事の地位向上
先に述べたような、高齢期に就く負荷の比較的小さい仕事を「小さな仕事」とすれば、これらは、農林漁業のほか、施設管理や販売といったサービス業、清掃・運搬、輸送、飲食業など現場で仕事をする職種が多くなります。
定年後も働くことが当たり前になっていくなかで、こうした仕事に関して、給与など処遇を改善していくことも必要になるでしょう。さらに、機械化や自動化によって、働く人の負担も減らしていかなければいけません。少子高齢化のなか、若い働き手はますます減少していきます。そうした中で無理なく働ける労働環境を整えることは必要不可欠です。
仕事に新しい意義・価値を見出す高齢期
長く働き続けた企業で職業人生を終える。そういった考えも一概に否定されるわけではありません。ただ、人生100年時代においては、管理職や専門・技術職で生涯働き続けるということは、多くの人にとって現実的ではありません。
定年後後の就労はこれまでの経験に過度に固執せず、柔軟な意識を持つことが重要です。
人は多くの場合、高齢期に差し掛かると自然に就労観が変わっていくことも分かっています。
現役世代は「高い収入や出世を重視する」ことに価値を感じるのに対し、65歳以上は「他者への貢献」「体を動かすこと」といった部分に労働の意義を見出していきます。
これまで家族のため自分のために働いていた人たちも、長い人生経験を通して価値観が変化し、働くことをより柔軟に捉えられるようになるのでしょう。
シニア世代を取り巻く就労環境
高齢社員には個別管理型の人事マネジメントが必要
すでに地方や中小企業では、働き手が集まらないといった課題に直面していますが、今後さらなる二極化が進むと考えられます。若い世代は都市圏の大企業に人気が集中する傾向があるため、地方に拠点を抱える企業や規模が小さい企業は既存社員にいかに長く働いてもらえるかを考えなければ生き残れません。
企業側としては、定年後に働きたいと思わせる魅力的な職場をつくるためにはどうすれば良いでしょうか。
現在の日本では、定年後に一律の給与形態を採用している企業も少なくありません。定年後、嘱託や契約社員という形で再雇用される場合、従業員が生み出す成果にかかわらず、給与額を一律に下げてしまうケースが多くあります。
しかし、家計状況や身体機能が変化する高齢期になると、働くことへの意識は多様化していきます。まだまだ現役時代と変わらず成果を出して給与を得たい人もいれば、仕事の負荷を緩やかに下げていきたいと考える人もいるなか、全員に同じ給料で同じように働くことを要求することは非現実的です。
定年後、従業員にモチベーションを持って働いてもらうためには、パフォーマンスに応じた評価制度が必要となります。働く人一人ひとりに寄り添った柔軟な人事評価システムがより一層求められます。
AIやロボットに仕事を奪われるではなく、機械化・自動化を進めるべき
さて、「ITやAIの進歩によって仕事がなくなる」と言われるようになって久しいですが、技術進歩によって本当に仕事はなくなるのでしょうか。
実際には、あらゆる業種で慢性的な人手不足が発生しています。特に、労働力不足の問題が逼迫しているのが介護の現場です。
ケアが必要な高齢者は増える一方で、介護人員が余剰して困ることは決してありません。むしろ積極的に業務の機械化を推し進め、労働需要をいかに減らせるかを模索する必要があります。
以前取材した業界大手のSOMPOケアでは、介護現場に先進機器の導入が進められています。例えば、数年前に採用された「排泄ケア支援デバイス」は当時大きな話題となりました。これは、利用者の膀胱付近へ超音波センサーを取り付けることで、排尿のタイミングを知らせてくれるシステムです。
この技術のおかげで、それぞれの利用者ごとに適切なタイミングで排泄介助を行えるようになりました。結果、介護士は少ない人員で効率良くケア業務を進めることができ、利用者自身も失禁や紙オムツ着用といった精神的ストレスから解放されたといいます。
AIや機械を活用して、これまで複数人で行っていた業務を1人でできるようにする。限られた労働力で無理なくやりくりできる職場環境の整備は急務です。
高齢期の就労に対して前向きに考える
いくら時代の流れとはいっても、定年後の就労へ不安を感じる人もいるでしょう。現実的には、まず自分が興味のある分野から仕事を探してみることから始めてみても良いと思います。
これからの時代においては、現役世代が高齢者を支えるという考え方では立ち行きません。
例えば、教員の過重労働が課題となっている教育現場。そこにシニア層が無理なく非常勤として就業すれば、疲弊した先生たちに時間的・精神的余裕が生まれます。高齢就業者も報酬を受け取るだけでなく、次世代をサポートし社会貢献しているという誇りや充実感を得ることにもつながるかもしれません。
高齢期における職業選択の幅は、今後ますます広がると思います。
認知症予防・介護防止の観点からも無理のない就労はポジティブな影響があるかもしれません。高齢期に働くことは歳を取っても質の高い生活を維持し、社会との接点を持ち続けるための一助となります。高齢期の就労を前向きに考えることが、定年後の生活を豊かにすることにもつながると期待されます。
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2020年9月7日 制定