ケアプランの有料化にケアマネの8割が反対。その理由と今後の動きはどうなるのか?
日本介護支援専門員協会がケアマネを対象に調査を実施
ケアマネージャーの76.6%は有料化に反対
2024年度の介護保険制度改正に向けて、以前から重要なテーマとして議論されているのが、ケアマネが行うケアマネジメントの有料化の是非です。
3月31日、日本介護支援専門員協会が、ケアマネジメント有料化に関する最新のアンケート調査の結果を発表しました。調査対象となったのは、居宅介護支援事業所に所属する2,000人のケアマネージャー、全国500件の市町村(介護保険の保険者)と500件の地域包括センターで、ケアマネージャーからは74%、市町村から52%、地域包括支援センターから71%の回答を得ています。
その調査結果によると、ケアマネでは76.6%が有料化に反対で、賛成はわずか9.6%。「分からない」が13.7%との結果でした。同様に地域包括支援センターも反対は68.5%と約7割に上り、賛成は7.9%にとどまり、「分からない」が23.6%となっています。
一方で市町村の場合、反対が33.5%、賛成が19.2%で、「分からない」が46.9%と半数近くに上っていました。ケアマネジメントの有料化の議論はすでに長く続いており、有料化を進めたい国・財務省側の意向と、有料化に反対する現場の意向の両方を知った上で、市町村では態度を決めかねているケースが多いのかもしれません。
少なくともこの調査結果からは、介護現場で働く人の大半がケアマネジメントの有料化に反対である、という現状を改めて読み取れます。
居宅介護支援とは?
居宅介護支援は、介護の専門家であるケアマネージャー(介護支援専門員)が、介護サービスを必要とする人と介護サービス提供事業所とをつなげるサービスのことです。
利用者にとって重要なのはもちろん、訪問介護や通所介護など介護サービス提供事業所にとっても、利用者・他事業所との調整役となるケアマネージャーが果たす役割は大きいと言えます。
具体的なサービス内容としては、「要介護認定を受けた人のアセスメント(解決すべき課題の把握)」「ケアプランの作成」「介護事業者との連絡・調整」「サービス内容を評価するモニタリング」「介護給付費管理」などを実施することです。これら居宅介護支援の業務は、一般的に「ケアマネジメント」と呼ばれています。
このケアマネジメントは、介護保険サービスに分類される業務ですが、現行制度では利用者の自己負担額は0円です。他の訪問介護やデイサービスなどは利用者の所得に応じて1~3割の自己負担が必要ですが、居宅介護支援については、全額が介護保険給付とされています。
この0円という現状を、利用者に自己負担を求める形へと改正すべきかどうかが現在議論されているわけです。
ケアマネジメント有料化の動きとその背景
介護給付費の抑制、ケアマネージャーの資質向上
ケアマネジメントの有料化を推し進めるべきとの代表的な理由として、以下の2点を挙げられます。
- 介護給付費の抑制・・・ケアマネジメント有料化に賛成の財務省が主な理由として挙げていることです。増大化する国の社会保障費を抑えることを目的に、利用者に自己負担を求めることで、公費・保険料で構成される財源の負担の軽減化を図るというものです。
- ケアマネージャーの資質向上・・・利用者負担がないので、利用者には「対価に見合ったサービスの質を求める」という動機が働きにくいです(実際には税金、保険料で払ってはいますが、直接の利用料金として払っていないので働きにくい)。自己負担額導入で、利用者はより厳選して高度なサービスを受けようとするので、ケアマネージャーの能力向上の意識を高めることにつながります。
介護給付費の抑制に関しては、財務省の『令和5年度社会保障関係予算のポイント』によると、2023年度の日本における介護給付費の予算額は3兆6,809億円で、2022年度から2.8%増となっています。
社会保障関係費全体は36兆8,889億円なので、社会保障費全体の約10分の1が介護給付費であるわけです。利用者に自己負担を求めることは、増え続ける介護給付費に歯止めをかける、という意味を持ちます。
ケアマネジメントの有料化をめぐる議論はもう15年以上続く
2000年に介護保険制度がスタートした当初、介護保険サービスの利用をスムーズに行ってもらうために、ケアマネジメントの利用者自己負担は0円とされました。「有料化すべきではないか」との議論の始まりは、2009年の「地域包括ケア研究会報告書」の場でした。この中で、居宅介護支援の利用者負担導入について初めて言及されたわけです。
この時以来、15年近くにわたって、3年に1度行われる介護保険制度改正に関する議論の場で、毎回ケアマネジメントの有料化を巡る話し合いが行われています。構図としては、「有料化を進めたい国・財務省」と「強力に反対する日本介護支援専門員協会を始めとする現場の声」という対立軸で、厚生労働省がその間に立っているといった状況です。
例えば前回の2021年度の介護保険制度改正に向けての議論でも、当時の日本介護支援専門員協会の会長が有料化に向けた動きに強く反対。
一方で財務省は、財政運営を議論する審議会の場で「ケアマネジメントでも利用者から自己負担を徴収すべき」との提言を改めて出しています。しかし、議論はされるものの、今のところ有料化は現実化されていないのが現状です。
ケアマネジメント有料化の弊害と注目すべき論点
ケアマネジメントが有料化されることの懸念点
冒頭の日本介護支援専門員協会によるアンケート調査結果では、ケアマネージャーの有料化への反対理由として以下のような回答がありました。(複数回答)
- 集金業務や利用料管理などの業務負担が増大する(76.4%)
- 介護支援専門員の本来業務以外への要求が強まる(72.8%)
- 医療者・家族からの不要なサービス利用などの要求がエスカレートする(69.0%)
- ケアマネジメントの利用が抑制されることで、早期発見、早期対応が困難になる(58.0%)
最多回答となったのは、集金業務・利用料管理などの業務が増えてしまうという点です。現行制度では自己負担額0円なので料金の徴収・管理の必要がありません。しかし有料化すると金銭管理が発生し、そのことが大きな悩みとなるわけです。
また、自己負担額という利用料金が発生することで、利用者からすると「お金を払っているんだから、しっかりやってよ」という意識が働きやすくなります。その結果、利用者からの要求が増えるのではないか、対等の立場で説明・支援ができなくなるのではないか、といったことを懸念する回答が目立っているようです。
さらに有料化になるとサービスの利用控えが起こり、ケアマネジメントの遅れによる早期発見・早期対応が難しくなるとの声も多いです。早くから介護サービスの利用ができれば介護予防・重度化防止を行いやすいですが、利用控えが起こると心身の衰えが進み、寝たきりになってからサービス利用を始める、といった事態が生じやすくなる恐れがあります。
ケアマネジメント有料化で問題となることへの対応策も並行して必要
もし国側がケアマネジメントの有料化を進めるなら、それに伴って生じる問題に前もって対処を進めておくことも重要です。
ケアマネへの要求・業務量の増加に対しては、AI導入の促進など業務負担の軽減策と歩調を合わせて進めていく方策が重要となるでしょう。また、最大の懸念点であった集金・利用料管理についても、専用の自動管理システムの開発・導入なども要検討事項といえます。
また、ケアマネジメントの有料化によって介護サービスの利用控えが生じないようにする対策も必須です。例えばケアマネに頼らない「セルフケアプラン」の作成方法を普及させるなどの対応も必要でしょう。ただし、介護のプロであるケアマネージャーのサポートなしで適切なケアプランを作れるのか、という懸念はあります。
今回はケアマネジメント有料化について改めて考えてきました。介護保険制度改正の時期になると注目が集まるテーマですが、今後の改正で有料化が実現されるのかどうか、引き続き見守っていきたいです。
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2020年9月7日 制定