慢性的な人手不足に悩まされている介護業界。介護人材を増やすために、国や事業者などが協働して、労働環境の整備から処遇の改善までさまざまな施策を講じていますが、今のところ目に見えた効果は得られていません。
現在、日本の高齢者人口は3,000万人超に上り、介護が必要な高齢者の数も右肩上がりで増えています。
2012年の要介護認定者数(要支援も含む)は、545.7万人。
2001年と比較し、約2倍になっています。
2025年の高齢者人口は約3,500万人、認知症高齢者は約320万人と推計され、介護職に寄せられる期待も高まるばかりです。
厚生労働省によると、高齢化の進展により、2025年には253万人もの介護人材が必要と推計されています。
2013年時点での介護人材は171万人で、13年間で116万人増加したものの、需要を十分に満たしているとは言い難い状況です。
実際、介護分野の有効求人倍率は、上昇傾向にあります。
特に、東京都や愛知県などの都市部では、有効求人倍率が3倍超となるなど、介護人材不足は顕在化しています。

今後、介護人材をどのように確保していくのか。
実効性のある対策が必要です。
そのひとつとして議論されているのが「離職した介護職員の再就職」と「潜在介護福祉士の活用」です。
何らかの理由でいったん離職した介護職員を現場に呼び戻そうという取り組みと、介護福祉士資格を持っていながら介護職として勤務していない介護福祉士を活用する試みです。
自治体や福祉団体だけでなく介護事業者が介護職員の再就職支援に乗り出している

まず再就職支援について見てみると、現在行われている支援策は主に2つです。ひとつめは離職した介護人材に向けた「知識や技術を再確認するための研修」が行われています。
埼玉県福祉部高齢者福祉課は、3日間の基礎研修と職場体験がセットになった「埼玉県潜在介護職員復職支援事業」を実施しています。
研修後は、事業者と本人の意向により、体験先にそのまま就職することも可能な仕組みです。
東京都社会福祉協議会では、職場体験を経た人に対し、「介護職員初任者研修資格取得支援」を行い、介護業界への就労を促しています。
もうひとつは「ハローワークや福祉人材センターにおけるマッチング支援の実施」です。
一部支援内容が異なるものの、各都道府県では、介護施設の求人開拓や就業や資格取得などに関する相談に対応するキャリア支援専門員を設け、介護人材の再就職をフォローしています。
こうした自治体や福祉団体だけでなく、介護事業者も独自に介護職員の復職支援策を打ち出しています。
介護老人保健施設の「牧野ケアセンター」は、介護福祉士を対象とした復職支援プログラムを行っています。
全3日間の日程で、現役職員による講習や入浴介助ほか実践的なセミナーが開催されています。
札幌市で特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人ほくろう福祉協会は、独立行政法人福祉医療機構の助成のもと、「介護スタッフ復職支援事業」を実施。
札幌市厚別区および清田区で計88名に対して、復職セミナーなどを行ったところ、約10名の採用につながったといいます。
今年度予算に盛り込まれた「再就職準備金制度」とは?
それでも人材確保には不十分だとして、厚生労働省は今年度予算に「離職した介護人材に対する再就職準備金制度貸付の創設」を盛り込みました。
先般、「再就職準備金貸付制度」の概要が明らかになりました。
制度の対象となるのは、介護職員として1年以上働いた経験がある離職者で、介護福祉士など一定の知識や技術を持っている人です。
都道府県社会福祉協議会が運営する福祉人材センターへの登録が必須要件となっています。
実施主体は、都道府県または都道府県が認める団体です。
貸付回数は1回で貸付上限額は20万円となっています。
貸付金は「子どもの預け先を探す際の活動費」「介護に係る軽微な情報収集や学び直し代(講習会、書籍等)」「被服費等(ヘルパーの道具を入れる鞄、靴など)」「転居を伴う場合の費用(敷金礼金、転居費など)」「通勤用の自転車、バイクの購入費など」に使うことができます。

再就職後、2年間介護職員として勤務すると返還義務は免除されます。
介護福祉士資格を持っていても介護業務に就かない「潜在介護福祉士」は約45万人
次に「潜在介護福祉士の活用」について見ていきます。
約45万人が介護福祉士として登録しながらも、介護職として働いていない現状があります。
こうした介護に関する専門知識を有した人材が介護業界に就職すれば、介護業者にとっては、一定の教育、研修が省けるなどのメリットもあります。

せっかく苦労して介護福祉士資格を取得したにもかかわらず、なぜ介護職として復職しないのでしょうか。
公益財団法人介護労働安定センターの「平成25年度介護労働実態調査」を見ると、直前の介護の仕事をやめた理由として、「職場の人間関係に問題があったため」(24.7%)がトップで、続いて「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」(23.3%)「他に良い仕事・職場があったため」(18.6%)「収入が少なかったため」(17.6%)「自分の将来の見込みが立たなかったため」(15.1%)が挙げられています。

同調査によると、「現在(介護)の仕事を選んだ理由」として最も多いのが「働きがいのある仕事だと思ったから」(54.0%)でした。

この結果から判断すると、介護人材の多くは働きがいを求めて介護業界に就職していながらも、自分の理想とかけ離れた介護現場の実態に直面し、“心が折れてしまった”のかもしれません。
また、労働条件等の不満では「人手が足りない」(45.0%)「仕事内容のわりに賃金が低い」(43.6%)「有給休暇がとりにくい」(34.5%)などの回答が多くなっています。

この調査より、仕事が大変である割に低賃金であることや、身体的、精神的負担が大きいことが復職しない理由になっているということが垣間見えます。
現状の再就職支援策では介護人材は増えない!?
今後、介護職への再就職支援策はうまく機能するのでしょうか。
創設された「再就職準備金制度」は、介護職復帰に伴う経済的負担を緩和するもの。
確かに、再就職の際の経済的負担が軽くなれば喜ぶ人はいるでしょう。
しかし、こうした短期的な利益に誘導されて再就職する人はどれだけいるのでしょうか。
先の調査を見る限り、介護業界は「低賃金」「重労働」なだけでなく、労働者の「働きがい」にも応えられていない現状があります。
まず、こうした状況を注視し、業界構造を改善していくことが先決ではないでしょうか。
そうしなければ、いくら再就職支援をしても機能せず、再就職しても再離職してしまう、そんな結果が待ち受けています。
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2020年9月7日 制定