日本は「人生100年時代」を迎え、高齢者の就業環境が大きな転換点を迎えています。
65歳以上の高齢者の就業者数が18年連続で増加し、65~69歳の就業率が初めて50%を超えるなど、高齢者の社会参加が進んでいます。本記事では、高齢者の就業を取り巻く現状と、政府や企業が打ち出す支援策の最新動向に焦点を当て、高齢者が生きがいを持って働き続けられる社会の実現に向けた道筋を探ります。
65歳を超えても働きたい高齢者が5割!その経済への影響とは
多様な就業機会の拡大が高齢者の活躍の場を創出
内閣府によると、日本の高齢者の約5割が65歳を超えても働き続けたいと考えているそうです。
高齢者が働くことで、彼らの豊富な経験やスキルを活かし、新たな価値を生み出すことが可能になります。たとえば、伝統的な職人技術を持つ高齢者が若い世代に技術を伝えることで、その産業の維持や発展に貢献することができます。また、高齢者が消費者としての役割も果たすことにもつながります。
さらに、高齢者の働き手としての活躍は、社会保障費用の削減にも寄与する可能性があります。
働く高齢者は、自らの健康管理や生活費に対して自立した責任を持つことになり、公的支援への依存度を減らすことができます。これにより、年金や医療費などの社会保障給付への圧力が緩和されることが期待されます。
しかし、このポテンシャルを最大限に引き出すためには、職場の物理的な環境の改善、技術トレーニングの提供、柔軟な労働時間の導入など高齢者が働きやすい環境の整備が不可欠です。
これらの取り組みによって、高齢者の就業率の向上が促され、彼らが経済に貢献するチャンスが拡大します。結果として、日本の経済活動全体の活性化につながり、長期的には持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。
継続雇用年齢の引き上げが社会保障制度に及ぼす好影響
65歳以上の高齢者に働く場を提供することは、彼らが社会に積極的に貢献し続けるための鍵です。
多くの高齢者は、フルタイムでの正規雇用よりも非正規雇用やパートタイムでの就業を望んでいます。
内閣府の実施した『高齢期に向けた「備え」に関する意識調査』によると、60歳以降の方の53.9%がパートタイムでの勤務を望んでおり、フルタイムを希望したのは24.2%、次いで自営業の15.9%でした。
このようなニーズに応えるためには、企業や政府によるさまざまな支援策が必要です。例えば、再就職支援プログラムや職業訓練、働き方の柔軟性を高めるための政策などが考えられます。
また、テクノロジーの活用によるリモートワークの促進も、高齢者にとっては重要な働き方の選択肢の一つです。
高齢者が多様な就業機会にアクセスできるようにすることで、彼らの経験や知識、スキルを生かした仕事に就くことが可能になります。これは、高齢者自身の生活の質の向上だけでなく、社会全体の経済的な活性化にも繋がります。
さらに、社会参加を通じて高齢者の孤立感を減少させ、精神的な健康を支える効果も期待できます。そのためにも、社会全体で高齢者の就業を支援し、彼らが活躍できる環境を整えることが求められます。
高齢者の知識と経験を活かす「スキルの伝承と新たな挑戦」
職場での知識伝承、若年層育成への高齢者の貢献
継続雇用年齢の引き上げは、社会保障制度への負担を軽減し、高齢者の経済的自立を促進する重要な施策です。
高齢者が働き続けることで得られる収入は、彼らの生活質を向上させるだけでなく、公的年金への依存度を下げることにも繋がります。これにより、国の社会保障費用の圧迫が緩和される可能性があります。
また、高齢者の健康維持にも寄与し、医療費用の削減にもつながることが期待されます。具体的には、定年後も働くことにより、高齢者は社会との接点を保ち、精神的な満足感や生活の目的を持つことができ、これが健康へのプラスの影響をもたらします。
さらに、高齢者の就業は、彼らの経験や知識、スキルを生かした社会貢献へとつながります。たとえば、シニア世代が若い世代に対してメンタリングや指導を行うことで、貴重な経験やノウハウが次世代に伝えられることになります。このような世代間交流は、職場の活性化だけでなく、社会全体の結束力を高める効果も期待できます。
高齢者が若い世代へ自身の豊富な経験や知識を伝えることは、社会全体にとって大きな価値があります。高齢者は、長年のキャリアを通じて培った人脈、経験、そして胆力を持っています。これらは、特に若手社員や中堅社員に対する技術や技能、さらには営業ノウハウの伝承において、非常に重要な役割を果たします。
例えば、金属熱処理業や金属工作機械製造業においては、高齢者による技能伝承が積極的に行われています。これらの業界では、熟練した高齢者が若年社員に対して、直接的なOJT(On-the-Job Training)を通じて、実践的な技術や知識を伝えることが一般的です。このプロセスでは、高齢者が持つ「手の平の感覚」や「ハンマーの打ち加減」など、マニュアル化できない繊細な技術も若い世代に伝わります。このような伝承活動は、組織全体の技術力の向上だけでなく、新たなイノベーションを生み出す土壌を作り出しています。
また、高齢者が若い世代に自身の経験や知識を伝える行動は、高齢者自身が所属する社会集団に対してポジティブなイメージを持っている場合に、より積極的に行われることが示されています。高齢者へのポジティブイメージが高いほど、彼らは世代継承的関心や行動をとる傾向が高くなります。これは、高齢者自身が感じる社会への貢献意識や自己実現の欲求を反映していると言えるでしょう。
このような背景を踏まえると、高齢者による知識と経験の伝承は、個々の業界や企業に限らず、社会全体の知の継承と発展に貢献していることがわかります。高齢者と若い世代が共に学び合い、互いの長所を生かしあえる環境の整備は、今後もさらに重要になってくるでしょう。
キャリアチェンジと社会貢献、高齢者の新たな役割
日本のミドル・シニア層は、長年にわたるキャリアや価値観に基づき、新しい働き方を模索しています。従来の雇用慣行から脱却し、自身のキャリアプランや価値観、理想のライフスタイルを実現するためには、内発的動機に基づく働き方が重要になってきています。企業としても、単なる労働力としてではなく、パートナーとして社員のキャリア開発を支援することが求められています。
また、東京都では「東京キャリア・トライアル65」というプロジェクトを通じて、65歳以上のシニアを対象に、彼らが経験やノウハウを活かせる職場でトライアル就業(有給)する機会を提供しています。トライアル期間は1週間から最大2か月間で、事務職、営業職、IT・技術職などの職種が対象です。これにより、シニアの方々には新しいスキルを身に付ける機会を、企業には高齢者を雇用するノウハウを取得する機会を提供し、働くシニアの活躍の場を広げています。
これらの取り組みから、キャリアチェンジを通じて社会貢献を目指すミドル・シニア層にとって、自己成長の機会が増えていることがわかります。自身の長年の経験を生かし、新たな分野で活躍することは、個人の生活の質の向上だけでなく、社会全体の発展にも貢献することに繋がります。
60歳以上の起業家増加、高齢者による新事業の可能性
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、日本の平均所得は過去5年間で増加しているものの、一般世帯(中央値)の所得増加は限定的であり、所得の格差が広がっていることが分かります。富裕層と一般世帯の間の所得格差が広がっているのです。
そんな中で退職後も安定した収入を得るためには、年金収入に加えて副収入の確保が重要であり、いわゆる「シニア起業」が一つの有効な手段となっています。
シニア起業は、退職金支給額の減少、健康寿命の延伸、起業しやすい環境への変化などにより、注目を集めています。
事業を通じて年金以外の収入を確保し、社会に貢献したい、やりがいを見つけたい、夢を叶えたいという動機がシニア世代の起業を後押ししています。実際に、60歳以上の起業家の割合は年々上昇しており、シニア起業家の開業動機としては、仕事の経験・知識や資格を生かしたい、社会の役に立つ仕事がしたい、年齢や性別に関わらず仕事がしたいという点が特に多いとされています。
起業の成功率は必ずしも高くはないですが、シニア世代には独自の強みがあります。長年にわたるキャリアで培ったスキルや人脈を活かすことができ、また、自己資金を溜めやすいという利点もあります。これらの資源を活用することで、シニア起業家は成功のチャンスを高めることができます。さらに、起業は年金以外の収入源を提供するだけでなく、老後の生きがいややりがいにも繋がります。シニア起業は、経済的自立はもちろん、充実した人生を送るための有効な手段と言えるでしょう。
働くことで得られる「健康と福祉の向上」
定期的な活動が高齢者の健康維持に不可欠
働くことによる高齢者の健康維持面でのメリットは多方面にわたります。定期的な労働は、身体的な活動を促し、心身の健康を保つ一因となり得ます。例えば、日々の業務を通じて、高齢者は適度な身体活動を維持し、フレイル(虚弱)の予防に繋がるだけでなく、認知症のリスク低減にも寄与する可能性があります。実際に、定期的な社会参加と活動は、高齢者の認知機能の維持にも役立つとされています。
さらに、仕事を通じて得られる精神的な満足感も無視できません。自己実現の感覚や、社会的役割を果たしているという意識は、自尊心や生活の質を向上させる重要な要素です。高齢者が社会に貢献していると感じることは、彼らの精神的健康にも好影響を与え、ポジティブな生活態度を促進します。
経済的な面から見ても、働くことは高齢者にとって大きな利点があります。例えば、自らの収入を得ることで、高齢者は経済的な自立を実現し、生活の質を自らの手で向上させることができます。これは、社会保障や家族への依存を減らし、より自由で充実した高齢期を送るための鍵となり得ます。
また、働く高齢者が増えることで、社会全体の健康意識が高まる効果も期待できます。高齢者が職場で活躍する姿は、若い世代にとっても健康的な生活の重要性を示す良いモデルとなり、健康寿命の延伸に貢献する可能性があります。
就業を通じた社会参加、孤立感の軽減への効果
日本の高齢者が社会参加を通じて孤立感を軽減し、精神的な満足感を高める具体例は多岐にわたります。群馬県吾妻郡中之条町の「傾聴ボランティアやまぶきの会」では、高齢者施設での傾聴ボランティア活動を通じて、一人ひとりに寄り添う丁寧な傾聴を心がけ、月例会での活動振り返りやスキルアップ講座への参加を行い、地域の担い手として貢献しています。
また、東京都世田谷区の「世田谷環境学習会」では、環境学習講座の修了生が中心となり、環境問題の啓発活動やさまざまなイベントへの参加を通じて、環境保全の輪を広げる活動を行っています。
これらの活動は、社会参加が高齢者の孤立感を軽減し、生活の質を向上させる一例を示しています。こうした活動は、高齢者が社会とのつながりを保ち、自己実現を果たす機会を提供し、孤立感を軽減する上で非常に重要です。高齢者が社会参加を通じて得られる精神的な満足感は、彼らの生活の質の向上に直接的に寄与し、活動的で健康的な高齢期を送るための鍵となります。
つまり、高齢者が働くことは、彼らの健康維持と生活の質の向上に直接的に寄与し、経済的自立を促進すると共に、社会全体の健康意識の向上にも繋がるのです。これらのポイントは、高齢者の就業を促進する政策を検討する際に、重要な考慮事項となるでしょう。
高齢者の経済的自立支援と生活困窮予防の重要性
政府は、高齢者が経済的に自立し、生活困窮を予防するためのさまざまな支援策を実施しています。
これには、リスキリング支援や職業訓練、キャリアコンサルティングサービスが含まれます。例えば、人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に対し、職務に関連した知識やスキルを習得させるための職業訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。この制度は、経費の75%が助成されることもあり、手厚い支援を提供しています。
特定求職者雇用開発助成金は、高齢者や障害者などの就職困難者を雇い入れ、人材育成に取り組む事業者に向けた助成金であり、未経験の就職困難者に対し、人材開発支援助成金による人材育成、賃上げをした場合には、最大360万円の助成金を支給します。
また、政府はデジタル分野の重点化を通じてデジタル推進人材の育成を目指し、WEBデザインやITなどの資格取得を目指す訓練コースを委託し、一定条件を満たせば職業訓練受講給付金を支給しています。
このような支援策は、高齢者が新たなスキルを習得し、経済的自立を促進するための重要な手段です。さらに、キャリアコンサルティングサービスを利用して、個人の能力や強み、関心事を見つめ直し、スキルアップやキャリアの再設計を行うことも可能です。
一方で、仕事と介護の両立支援に関しては、高齢者が介護の必要性に直面した場合に、仕事を辞めずに介護を行うための準備と動き方に関する情報も提供されています。これにより、高齢者自身だけでなく、その家族も経済的な自立を支援し、生活困窮のリスクを減らすことが目指されています。
これらの取り組みを通じて、高齢者が社会的、経済的に自立し、活躍できる環境を整備することが、生活困窮の予防につながると期待されています。
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2020年9月7日 制定