「ダブルケア離職」の要因は少子化と晩婚化?育児と介護の両立支援策はないのか
「ダブルケア」という言葉をご存知でしょうか。
「ダブルケア」とは、育児と介護、両方を同時に担う人のことです。
内閣府の「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書」によると、この「ダブルケア」に直面する人が全国で少なくとも253,000人(女性168,000人、男性85,000)いることがわかりました。
2012年の就業構造基本調査で「ふだん育児をしている」「ふだん介護をしている」の両方を回答した人を「ダブルケア」の担い手と定義し、推計したものです。
年齢別では、40~44歳が27.1%と最も多く、次いで35~38歳が25.8%、30~34歳が16.4%と続き、30~40代が8割を占める結果に。
ダブルケアを行う女性の半数、男性の9割は有業者であり、育児と介護、そして仕事の両立を迫られています。
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かつては社会的にほとんど注目されなかった「ダブルケア」という現象。ここに来て、大きな社会問題としてクローズアップされるようになりました。
「晩婚化」「高齢出産」に伴い、育児期間が後ろ倒しに
いったい「ダブルケア」はなぜ生じたのでしょうか。キーワードは「晩婚化」「高齢出産」そして「少子化」です。まずは「晩婚化」「高齢出産」について説明します。
日本人の平均初婚年齢は、2012年で夫が30.8歳、妻が29.2歳となっており、1980年(夫が27.8歳、妻が25.2歳)からの約30年間に、夫は3.0歳、妻は4.0歳、平均初婚年齢が上昇しています。
晩婚化の主な要因のひとつとして考えられているのが「女性の社会参加」です。下記のグラフは大学進学率を示したものです。男女とも大学進学率は右肩上がりに上昇しているものの、女性のほうが、角度が急になっており、伸び率が男性より高いことがわかります。
一般的に、高学歴になると、就職して高待遇を得られる可能性が高くなってきます。
従来の結婚観は、「男は仕事、女は家庭」というものでしたが、女性の社会進出が進展するなかで、価値観が一変、結婚は先延ばしにして仕事に生きる、いわゆる“キャリア志向”の女性が急増しました。
晩婚化が進むにつれ、出産年齢も上昇。第1子出生時の母の平均年齢を見ると、1980年では26.4歳であったのに対し、2012年は30.3歳。約4歳も上昇しており、その分育児期間が後ろ倒しになっているというわけです。
深刻な少子化により、親族間の助け合いが減少。育児と介護の負担が本人に集中することに
「少子化」も「ダブルケア」を引き起こす要因のひとつです。かつて、日本の家庭では兄弟姉妹が2人以上いることが普通でした。もちろん状況次第ですが、育児と介護の負担を親族間で分散することも可能でした。
第二次世界大戦前、合計特殊出生率は4~5を記録しており、子どもの数の多さを物語っています。たくさんの子どもを育てるのは大変だったと想像できますが、困ったときに支え合える親族がそれだけ多くいたということです。
少子化社会では、育児も介護も負担が本人にすべてのしかかり、仕事との両立も求められることから、心理的な圧迫感は相当のものになるでしょう。「晩婚化」「高齢出産」「少子化」がそれぞれ複雑に絡み合って、「ダブルケア」という現象が生まれたわけです。
女性は「ダブルケアの担い手になりやすく手助けを受けにくい」状況にある
さて、先の内閣府の「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書」によると、ダブルケアを行う者のうち、育児と介護ともに「主に」担う者の割合は、女性が約半数、男性は約3割となっています。
ダブルケアを行う者の周囲からの手助けの状況を見ると、女性は男性に比べて周囲からの手助けが得られていない割合が11.9%(男性2.5%)と高くなっています。
ダブルケアを行う男性は配偶者から「ほぼ毎日」手助けを得ているのに対し、女性では4人に1人に留まっています。
女性は「ダブルケアの担い手になりやすく手助けを受けにくい」状況にあると想像できます。
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さらにダブルケアが女性に不利に働くことを物語るデータがあります。ダブルケアに直面する前後の業務量や労働時間の変化を見ると、「業務量や労働時間を変えなくてすんだ」者は、男性で約半数であるのに対し、女性は約3割に留まっています。
「業務量や労働時間を減らした」者は、男性で約2割、女性では約4割となっており、そのうち離職して無職になった者は、男性で2.6%、女性で17.5%でした。
昨今、家族の介護や看護などにより、離職を余儀なくされることを「介護離職」と呼びますが、「ダブルケア離職」に追い込まれている人も女性を中心に数多くいると予想されます。
「介護施設の増設」や「仕事と介護の両立支援」は「ダブルケア」の解消に役立つ!?
「業務量や労働時間を減らした」者は、男性で約2割、女性では約4割となっており、そのうち離職して無職になった者は、男性で2.6%、女性で17.5%でした。
昨今、家族の介護や看護などにより、離職を余儀なくされることを「介護離職」と呼びますが、「ダブルケア離職」に追い込まれている人も女性を中心に数多くいると予想されます。
平成28年度予算では、安倍首相が掲げる「一億総活躍社会」に向けて、「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」に直結する、子育て支援や介護サービスなどの充実を図るほか、教育費の負担軽減なども決まりました。
政府の大胆な政策により、ダブルケアの現状は変化するのでしょうか。
先の内閣府の「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書」によると、ダブルケアに直面して業務量や労働時間を減らした(増やせなかった)理由として挙げられているのは、男性では「介護者を施設に入所させることができなかった(31.4%)」「勤め先の勤務条件では両立が難しかった(26.3%)」「子育てや介護は自分でやるべきと考えているから(23.7%)」。
一方、女性は「家族の支援が得られなかった(27.9%)」「子育てや介護は自分でやるべきと考えているから(25.7%)」「勤め先の勤務条件では両立が難しかった(22.1%)」でした。
この結果だけを見ると、「介護施設の増設」や「勤務先の両立支援」がダブルケアの解消に役立ちそうです。
本年度予算には、「介護サービス基盤の確保」と「仕事と介護の両立支援」につながる施策が盛り込まれています。
「介護サービス基盤の確保」では、2020年代初頭までに首都圏、中京圏、阪神圏、福岡県などの人口集中地区を中心に特別養護老人ホームの整備を図ります。
新たに設けられる入居枠は約50万人分以上の見込みです。しかし、すでに特養の入所待機者は約52万人(2013年度)おり、待機者減につながるかどうかは未知数です。また、人材不足から増設が進んでも安定稼働が進むか議論が分かれるところです。
介護休暇取得者(0.14%) | |
介護休暇を取得していない者(99.86%) |
制度改正によって、介護休業制度の利用者が増えるかどうか注視したいところです。
両立支援策を導入すると、女性従業員の定着率が向上する!
「晩婚化」「高齢出産」「少子化」を背景により今後より一層深刻化すると思われる「ダブルケア」。
問題は、育児と介護、両方にかかっているだけに問題は複雑です。
保育所や介護施設の整備など行政支援はもちろんですが、各企業それぞれの育児や介護、仕事との両立支援策にも注目する必要があるでしょう。
両立支援を行った企業において、従業員(女性)の定着率が向上したという企業は62.8%に上り、企業イメージの向上や従業員の意欲向上、モラル向上などにもつながったというデータもあります。
「ダブルケア」は誰もが直面する問題。行政、企業、市民が一体となって社会全体で解決する仕組みが必要です。
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2020年9月7日 制定