「総報酬割」の導入で、会社員の介護保険料が増減する!?背景にあるのは大企業と中小企業の埋めがたい報酬格差か?
介護保険料は右肩上がりで増加。2025年には8,000円超に!
高齢者人口の増大に伴い、今後も介護保険の総費用は増加し続けるでしょう。
ここで課題となるのは、財源の確保と負担。
今回は、厚生労働省の社会保障審議会で議題となっている介護保険料の算定方法「総報酬割」に言及しながら、介護保険料の適正負担について考えてみます。
厚生労働省の資料によると、2016年度の介護保険の総費用は10.4兆円。介護保険が始まった2000年度と比較すると総費用は約3倍にまで膨らんでいます。

「総報酬割」の導入により、介護保険料が増加する保険者がいる一方、減少するケースも……
8月19日に行われた社会保障審議会介護保険部会。
このなかで厚生労働省が提案したのは「総報酬割」への転換でした。
現行の第二号被保険者の介護保険料については、各医療保険者(協会けんぽまたは健康保険組合)が、第二号被保険者数に応じて負担する仕組み(通称「加入者割」)となっています。
このため、第二号被保険者の一人当たりの保険料負担額は、医療保険者問わず同額です。
すなわち、報酬額に対する保険料負担額の割合は、相対的に報酬の高い健康保険組合(加入者は大企業の従業員中心)の被保険者では低くなり、報酬の低い協会けんぽ(加入者は中小企業の従業員が中心)の被保険者では高くなります。
一方の「総報酬割」は、被保険者間で、各保険者の総報酬額に応じて介護保険料を負担する仕組み。
単純に人数だけを勘案する「加入者割」と異なり、財政力の豊かな保険者により多くの支払いを求める方法です。
医療保険では、既に導入されている方法で、以前から介護保険にも取り入れるよう求める声が上がっていました。
「総報酬割」への変更により負担が増えるのは、大企業の健康保険組合や公務員の共済組合。
厚生労働省の試算によると、1,030の健康保険組合(加入者923万人)、84の共済組合(同349万人)で介護保険料が増加するといいます。
一方、協会けんぽの被保険者1,437万人は、介護保険料が減少する見込み。
国が協会けんぽに出している補助金約1,450億円も不要となるため、財政的なメリットも大きいとされます。
総報酬割導入時のイメージを具体的に解説!総報酬額の多少により負担額が変化する
文章で説明してもイメージが湧きにくいので、「第二号被保険者数が同じ3保険者(それぞれ「A保険者」「B保険者」「C保険者」とする)で2,400万円を負担するケース」を例にとって説明します。
現行の「加入者割」では、加入者の人数に応じて負担することから、3保険者の負担額は「800万円」と同額になります。
仮に2,400万円のうち、半分の1,200万円を総報酬割で負担するとなれば、下記の棒グラフの通り、A保険者(総報酬額1億円)200万円、B保険者(総報酬額3億円)600万円、C保険者400万円(総報酬額2億円)となります。
総報酬額の多いB保険者は、現行と比較して「200万円」の負担増(合計負担額1,000万円)、A保険者は「200万円」(合計負担額600万円)の負担減となります。

この例の通り、総報酬割を導入すると、総報酬額が多い保険者では負担が増え、総報酬額が少ない保険者では負担が減ることがわかります。
協会けんぽと健康保険組合の平均総報酬額の差はなんと約1,700,000円!
政府が「総報酬割」を検討する理由のひとつに、協会けんぽと健康保険組合間の財政格差があります。協会けんぽの被保険者は中小企業の従業員、健康保険組合の被保険者は大企業の従業員であり、報酬に大きな格差があるためです。
下記は、年齢階級別に平均総報酬額(厚生年金保険料の算定基準となる標準報酬月額の12か月分に標準賞与額(2013年10月1日から2014年9月30日までの1年間に支払われたもの)を加えたもの)をグラフ化したもの。
どちらも山型をなしているものの、その盛り上がり方が大きく異なることに気づくでしょう。
ピークとなる年齢階級は、協会けんぽ、健康保険組合とも「50~54歳」。その総報酬額は、男性の場合、協会けんぽ5,035,390円、健康保険組合8,286,231円で、両者間に約3,000,000円もの開きがあります。

また、下記の表の通り、協会けんぽの平均総報酬額は3,750,028円、健康保険組合では5,445,816円となっており、全年齢をトータルしても約1,700,000円の差があることがわかるでしょう。
協会(一般)
2013年平均総報酬額(円) | 2014年平均総報酬額(円) | 伸び率(%) | 報酬額変化分(%) | 年齢構成の変化による分(%) | |
---|---|---|---|---|---|
総数 | 3,708,998 | 3,750,028 | 1.11 | 1.02 | 0.08 |
男性 | 4,186,912 | 4,237,388 | 1.21 | 1.14 | 0.07 |
女性 | 2,959,008 | 2,986,716 | 0.94 | 0.89 | 0.05 |
組合健保
2013年平均総報酬額(円) | 2014年平均総報酬額(円) | 伸び率(%) | 報酬額変化分(%) | 年齢構成の変化による分(%) | |
---|---|---|---|---|---|
総数 | 5,369,039 | 5,445,816 | 1.43 | 1.06 | 0.36 |
男性 | 6,134,040 | 6,239,507 | 1.72 | 1.39 | 0.32 |
女性 | 3,670,164 | 3,727,216 | 1.55 | 1.35 | 0.20 |
厚生労働省は年末までに結論を出す予定…。でも、健康保険組合と協会けんぽ間で意見が真っ向対立
8月19日の審議会では、負担アップが懸念される健康保険組合連合会などからは「この仕組みが導入されれば健康組合には過大で急激な負担になる。
国の補助を肩代わりさせるものだ」という反対意見も上がっています。
大企業が主な加入者である日本経団連からは「社員の手取り収入が減り、景気が悪化する」という問題提起もあったといいます。
その一方で、協会けんぽや介護関係者、医師会などからは「誰もが自分の給料に見合った額を負担するほうが納得できる」「所得を十分に勘案しないほうが不合理だ」などと意見が真っ向から対立する場面も見られました。
主な介護保険利用者である第一号被保険者から介護保険料をさらに徴収すべきという声も上がっています。
実際、厚生労働省は、「高額介護サービス費の負担増」などにより、改革を進めています。
しかし、「下流老人」という言葉に代表されるように、高齢者の負担余力も限られているのが実態。
厚生労働省は、年末までに結論を出し、2018年度からの数年間で段階的に実施したい考え。
健康保険組合や共済組合に加入する大企業の従業員や公務員にとっては収入減、協会けんぽに加入する中小企業の一部の従業員にとっては収入増となるかもしれない「総報酬割」。
互いの利害が相反しているだけに、調整は難航しそうです。
高齢者激増時代のなか、持続可能な介護保険制度をつくるためには、財政問題は避けて通れないもの。単なる負担の押し付け合いではなく、長期的視点を持って介護保険料の適正負担に向けて改革にあたってほしいものです。
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2020年9月7日 制定