審査件数は年間6000件!要介護認定の負担軽減のため「審査の簡素化」が検討される
要支援・要介護認定者数は608万人(2015年4月時点)。介護保険制度がスタートした2000年の約2.8倍となっており、高齢化の進展に伴いさらに増加する見込みです。
介護保険制度を利用してサービスを受けるためには、市区町村から「要介護認定」を受ける必要がありますが、高齢者が増加するなか、「要介護認定」事務を担う市区町村の負担が増加しているという声も聞かれます。
この状況を重く見た厚生労働省は、2016年9月7日の社会保障審議会・介護保険部会で、要介護認定を担う現場の事務負担を軽減する具体策を挙げました。論点は「更新認定の有効期間のさらなる延長」と「介護認定審査会における審査の簡素化」です。
要介護度は、コンピュータ判定の「一次判定」を経て、要介護認定審査会で決定される
ここで、基礎知識として要介護認定の流れについておさらいしておきましょう。介護保険サービスを受けたい場合は、市区町村の窓口で申請を行い、要介護認定を受けることになります。
要介護認定等基準時間 | 要介護度 |
---|---|
25分未満 | 非該当 |
25分以上32分未満 | 要支援1 |
32分以上50分未満 | 要支援2/要介護1 |
50分以上70分未満 | 要介護2 |
70分以上90分未満 | 要介護3 |
90分以上110分未満 | 要介護4 |
110分以上 | 要介護5 |
認定調査の中の基本調査には74もの項目があり、その結果から「要介護認定等基準時間」「中間評価項目得点」(高齢者の健康状態を統計処理し、数値化したものから一次判定がなされます。
1.能力で評価する調査項目(18項目)
(調査対象者に実際に行ってもらう、あるいは状況を聞き取る)
- 寝返り
- 起き上がり
- 座位保持
- 両足での立位保持
- 歩行
- 片足での立位 など
2.介助で評価する調査項目(16項目)
(介助が行われているかどうかを聞き取る)
- 洗身
- つめ切り
- 排便
- 食事摂取
- 口腔清潔
- 上衣の着脱 など
3.有無で評価する調査項目(21項目)
- 麻痺等の有無(左上肢、右上肢、その他)
- 拘縮の有無(肩関節、股関節、膝関節、その他)
- 徘徊
- 物を盗られたなどと被害的になる
- 作話
- 泣いたり、笑ったりして感情が不安定になる など
ここで大きな役割を果たすのが認定調査員。
認定調査員は、市区町村職員のほか、市区町村よりその業務を委託された事務受託法人(社会福祉法人など)が担当し、調査項目を元に、申請者から直接聞き取り調査を行います。
なお、認定調査を事務受託法人に「委託している」市区町村は20.3%であり、ほとんどの市区町村が自前で認定調査を実施しているとわかります。
さらに、主治医に意見書の作成を依頼、これらに基づいてコンピュータ判定を行うこととしています。ここまでの一連のプロセスを「一次判定」と呼びます。
市区町村における要介護認定審査件数は、年間約6,000件超!
申請者が要介護認定の申請書を提出後、実際に認定を受けるまでの期間は平均で「36.5日」。下記の表は、要介護認定事務の流れと業務量をグラフ化したものです。
要介護認定の申請書受理後、市区町村における認定調査実施までの期間は「平均9.6日」、主治医意見書依頼から入手までの期間は「平均15.6日」となっています。
その後、市区町村職員が申請者のデータを一次判定ソフトへ入力、コンピュータによる一次判定結果を得て、介護認定審査会用の資料を作成、審査会委員に送付します。
現在、市区町村における年間の介護認定審査会開催回数は「平均207回」、審査会一回あたりの審査件数は「平均30.3件」、市町村職員が審査会に同席するための時間外勤務時間は「週あたり平均1.9時間」となっています。
単純計算で年間約6,000件もの審査を行っていることに気づくでしょう。
ただし、このなかには、新規に要介護認定を申請した者だけでなく、要介護認定の有効期間(新規および区分変更認定の場合、原則6か月、上限12か月。更新認定の場合、上限は原則12か月)を満了し、「更新認定」を受ける者も含まれます。
12か月経過時点で要介護度が不変である者の割合は4~8割
下記の表は、要介護認定後、一定期間経過後に要介護度が変わっていない者の割合です。
新規および区分変更申請において、12か月経過時点で要介護度が不変である者の割合は4~5割。
さらに、更新認定を見ると、12か月後に要介護度が変わらない者の割合は85.8%に達しました。
要介護度が変わらない者の割合
6か月後 | 12か月後 | 24か月後 | 36か月後 | |
---|---|---|---|---|
新規認定 | 81.0% | 42.3% | 32.2% | 25.0% |
区分変更認定 | 84.7% | 47.3% | 36.3% | 26.5% |
更新認定 | 93.8% | 85.8% | 60.0% | 40.6% |
つまり、長期間に渡って状態が変化していない高齢者は、要介護度も変わらない可能性が高いと言えるでしょう。だからこそ、「更新認定の有効期間のさらなる延長」が議論されているわけです。
そして「介護認定審査会における審査の簡素化」も論点のひとつ。
これが論点となる背景には、一次判定と二次判定の結果がほとんど変わらない現状があります。
介護認定審査会が行った二次判定結果(要介護度)が一次判定結果から変更されなかった者であって、次の更新時の一次判定でも再度同じ要介護度であった者のうち約96%がその後の二次判定でも要介護度が変更されていないことがわかりました。
この結果を見ると、長期間に渡って状態が変化していない高齢者は、やはり要介護度も変わらない可能性が高いと言えそうです。
有効期間を「36か月」に延長し、二次判定の手続きを簡素化する方針
こうした現状を受けて、厚生労働省は、更新認定有効期間の上限を「36か月」(現在は原則12か月)に延長する方針。(2022年現在は最大48ヵ月まで緩和)
また、認定調査などの内容が長期に渡り変化していない者(状態安定者)は、要介護度が不変である可能性が高いと考えられることから、二次判定の手続きを簡素化することも検討しています。
これらの案を受けて、現場の事務を担う市町村は「明確な基準が示されないと、介護認定審査会の負担軽減の理由のみで上限の有効期間を利用しかねない」「期間延長に伴い、更新申請は減るが、区分変更申請(要介護度を期間中に変更すること)が多くなると考えられる」などの意見が出ており、議論は難航しそうです。
「要介護認定」は、介護保険制度の根幹をなすもの。
現在実施している要介護認定プロセスを一律に廃止、省略することは、要介護認定の信頼性に悪影響を与えるおそれもあります。
都道府県における要介護認定率の格差も問題となるなか、高齢者激増時代にどう対処していくのか。
要介護認定を申請する者が不利益を被らないよう制度を設計してほしいものです。
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2020年9月7日 制定