介護事業者の採用意欲は旺盛だが、求人を出しても応募がない!?人材難のなか、介護職員の「早期離職」を防ぐための方策とは?
慢性的な人材不足に悩まされている介護業界。
求人を出しても応募者がほとんど集まらず、採用に苦慮している介護事業者もいることでしょう。
また、せっかく採用した介護職員の早期離職に直面、定着率の向上に課題を感じているものの、どのような手を打つべきかわからず右往左往している介護事業者も少なくありません。
今回は、厚生労働省が先月公表した「平成27年転職者実態調査」と「平成27年度介護労働実態調査」(調査実施主体:公益財団法人介護労働安定センター)のデータを読み解きながら介護職員の「離職」と「定着」について考察します。
転職が一般的な介護業界。約10人に1人は転職して1年以内
「平成27年転職者実態調査」によると、医療・福祉業界では、直近の1年間で、別の事業所から現在働いている事業所に転職した人は全従事者の1割を超えることが示されました。
そうした「転職者」が在籍する事業所は、すべての医療・福祉事業所の45%余りを占めており、医療・福祉業界で人材移動が活発化していることが裏付けられました。
転職者が勤務している事業所に、転職者を採用する際の問題の有無を尋ねると、医療・福祉事業所の90.5%が「ある」と回答。
その中身を見ると、「必要な職種に応募してくる人が少ないこと」(71.3%)「応募者の能力評価に関する客観的な基準がないこと」(37.4%)「採用時の賃金水準や処遇の決め方」(35.1%)などが挙げられていました。
求人を出してもそもそも人が集まらないという介護事業者の窮状を反映したデータだと言えるでしょう。
サービス提供を担う介護職員だけでなく、管理職、事務職の採用意欲も旺盛
「低賃金」「重労働」といったネガティブイメージが先行している介護業界ですが、介護事業者の採用意欲は旺盛です。
今後3年間で転職者の採用を予定している介護事業所は56.6%。
全産業平均を4ポイント上回っています。
このなかで、介護福祉士や介護支援専門員など介護に関する何らかの資格を所有している転職者を採用したいと考えている介護事業所は85.7%に上り「即戦力」を求めている姿が浮かび上がります。
介護事業者が求めているのは、基本的に介護系資格を有している者ですが、管理職や事務職の需要も実は大きくなっています。管理職については13.8%、事務職については24.4%の事業所で「転職者を採用したい」としています。
介護職員のうち約75%は勤務年数3年未満で離職する?
ここまで見てきた通り、医療・福祉は「転職者が多い」業界。裏を返せば、「離職率が高い」業界だとも推測され、職員の定着率の向上を課題に感じている介護事業所も多いと聞きます。
「平成27年度介護労働実態調査」によると、訪問介護員と介護職員、2職種を合計した1年間の離職率は16.5%です。
離職者のうち74.8%は勤務年数3年未満、40.2%は勤務年数1年未満となっています(ただし、非正規職員も含んでいる)。入職しても約4割は1年未満で離職しており、介護事業所においては転職が一般的であるとうかがい知ることができます。
離職率を法人格別で見ると、訪問介護員、介護職員とも民間企業の離職率が他法人より高くなっています。
社会福祉協議会の正規訪問介護員と株式会社の正規訪問介護員の離職率の差は13.6ポイントに及んでおり、どの事業所に転職するかによって、離職率は大きく前後します。
さらに、事業所規模別で見ると、「19人以下」の小規模事業所で離職率が高い傾向にあります。
「定着率が低くない」という油断が離職率の上昇を招きかねない
なぜ医療・介護業界の離職率は高いのでしょうか。賃金や労働環境などさまざまな要素が複雑に絡み合っているため特定は難しいですが、定着率に対する介護事業者の「意識の低さ」も一因と考えられます。
「平成27年度介護労働実態調査」によると、70.3%の介護事業者は「定着率は低くない」と回答。
「定着率が低く困っている」と回答した介護事業者は17.6%に留まっています。
「定着率が低くて困っている」と回答した介護事業所の離職率は23.9%。
これらの介護事業者は、離職率低下に向けて早急に対策を打つべきでしょう。
一方、「定着率は低くない」と回答した介護事業者の離職率は12.8%と全産業平均離職率15.0%(出典:平成27年雇用動向調査)を2.2ポイント下回っています。
しかし、安心してはいられないでしょう。
職員を募集しても人が集まらない介護という業界特性を鑑みれば、離職率の低下に向けてさらなる施策を展開し職員数の確保を図るべきだと見るのは誤った考えでしょうか。
介護事業者と介護職員の間で早期離職防止や定着促進を図る方策にギャップがある
最後に介護職員の早期離職防止や定着促進のための方策について考えていきましょう。
現在、介護事業者が行っている方策は上位から「労働時間(時間帯・総労働時間)の希望を聞いている」(68.4%)「職場内の仕事上のコミュニケーションの円滑化を図っている(定期的なミーティングなど)」(60.9%)「賃金、労働時間等の労働条件(休暇を取りやすくすることも含める)を改善している」(59.5%)。
一方、介護労働者の労働条件等の悩み、不安、不満は上位から「人手が足りない」(50.9%)「仕事内容のわりに賃金が低い」(42.3%)「有給休暇が取りにくい」(34.6%)。
人手不足がトップに来ていることから、介護事業者が実施している方策と介護労働者が求めている方策との間にギャップが少なからずあると推測できるでしょう。
有給休暇の取得しやすい労働環境を目指して介護事業者は方策を講じているものの、人手不足により実現していないジレンマもあるでしょう。
労働人口減少に伴い、介護職員の確保はさらに難しくなると予想されます。
各種データを俯瞰すると、介護業界では「早期離職が一般化」しているように見えます。
人手不足、低賃金、休暇が思うように取れないなどさまざまな要因から離職している介護職員。
介護人材確保は喫緊の課題なだけに、国や介護事業者などが連携し、より有効な方策を講じてほしいものです。
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2020年9月7日 制定