「看取り介護」を提供している特養、老健は約7割を突破!課題はスタッフへの研修と精神的負担のケア
今後の日本は高齢者の人口が増え続け、いわゆる団塊の世代が75歳以上となる2025年に高齢者の医療、介護需要はピークに達するとされます。
日本における死亡者数は年間約127万人(2013年)おり、そのうち約76%が病院で死亡。
多くの高齢者が亡くなる「多死社会」は目前にまで迫ってきていることは明らかです。

政府は、急速な高齢化に対して、2025年を目途に住み慣れた地域で人生の最期まで生活できる「地域包括ケアシステム」を構築すべく多様な施策を展開しています。
こうしたなか、高齢者の「看取り介護」が大きな社会問題としてクローズアップされてきました。
今回は、特別養護老人ホーム(以下、特養と表記)を中心に「看取り介護」の現状と課題について整理します。
看取り介護加算の見直しも追い風となって、「看取り介護」は一般的なものに
そもそも「看取り」とはどういうことなのでしょうか。
公益財団法人全国老人福祉施設協議会によると、「看取り」とは「近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」とされています。
厚生労働省が2015年度に発表した調査結果によると、特別養護老人ホームと介護老人保健施設では、すでに約7割の施設が「看取り介護」を実施していることが明らかになっています。
さらに、公益財団法人全国老人福祉施設協議会が実施した「特別養護老人ホームにおける看取り介護の推進に関するアンケート調査」によると、看取り介護を実施している施設の約8割が看取り介護の対象者全員を最期まで施設で介護していることが明らかになっています。
特養においては、看取り介護はもはや日常的に提供されている介護サービスと言ってもよいでしょう。
2015年4月の介護報酬改定において「看取り介護加算」の要件が見直されたことも看取り介護を特養で行っている理由のひとつとなったとも考えられるかもしれません。

では、看取り介護はどのような流れで提供されるのでしょうか。
看取り介護は「適応期(入所)」「適応期(1か月後)」「安定期(半年後・定期的なケアプランの更新時期)」「不安定・低下期(衰弱傾向の出現・進行)」「看取り期(回復が望めない状態)」「看取りからその後まで」という6つのプロセスに分割されます。
どのプロセスも看取り介護には不可欠ですが、とりわけ高齢者や家族に対する生前意思(リヴィングウィル)確認は重要なもの。生前意思確認では、下記のことについて、「してほしい」かそれとも「してほしくないか」質問されます。
- 心臓マッサージなどの心肺蘇生
- 延命のための人口呼吸器
- 人工透析の開始
- 胃ろうによる栄養補給
- 鼻チューブによる栄養補給
- 点滴による水分補給
特養においては、医師の医学的見地に基づき回復の見込みがないと診断したときが看取り介護の開始となります。
看取り介護実施時は、医師から高齢者や家族に対し看取り介護について十分な説明を行い、同意を得ることが求められます。
この際、特養は自施設の「看取り介護指針」に基づき「看取り介護同意書」や「医師の指示書」「看取り介護計画書」「経過観察記録」など所定の書類を備える必要があります。
一方で、人生の最終段階におけり医療の治療方針や書面を利用していない施設は5割以上であるというデータもあります。

よい看取り介護が提供されると、家族の悲しみが緩和されることもある
ここからは、「看取り期(回復が望めない状態)」にフォーカスして、高齢者の身体的特徴と特養で行われている看取り介護について説明していきましょう。死期を迎えた高齢者は、死亡1週間前から身体に変化を来すとされます。
【死亡1週間前】
・睡眠時間が長くなる
・夢と現実を行き来している
【死亡2日前】
・声をかけても目を覚まさない
【そのほかの変化】
・食べ物や水を飲み込めなくなる
・つじつまの合わないことを言い始める
・手足を動かすなど落ち着かなくなる
・呼吸のリズムが不規則になる
・息をすると同時に肩や顎が動くようになる
・手足の先が冷たくなる
・脈が弱くなる
こうした変化に対応し、特養の介護職員は高齢者に対し、手足のマッサージをしたり医師などと相談して過剰な処置を行ったりしないよう、援助を行います。
看取りに際し、家族の希望が変わることも多くあります。介護職員は、家族に対し希望を頻繁にヒアリングすることも求められます。よいケアが提供されると、死別後における家族の悲しみが軽減されるケースもあるだけに、看取り介護は重要なものです。
病院、診療所、特養。施設形態によって看取り介護の提供体制が異なる
ここまで見てきたように「多死社会」に突入するなか、看取り介護の重要性は増すばかりです。
ここからは、厚生労働省の終末期医療に関する意識調査等検討会が実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査」を参照しながら、病院、診療所、特養の看取り介護の提供体制について見てみましょう。
死が間近な患者の治療方針について医師や看護師、介護職員などの関係者が集まって十分な話し合いが行われているか尋ねた質問では、病院および特養の約8割は「行われている(「十分行われている」と「一応行われている」の合計)と回答しました。
しかし、診療所においては「行っている」としたのは約3割に留まっています。
職員に対する看取り介護を含めた終末期医療に関する教育・研修の実施状況は施設によって大きな差が出ています。

特養の約半数、病院の約3割が職員に研修を行っている一方で、診療所で「行っている」と回答したのは約1割に過ぎません。

特養の多くは、看取り介護に対し高い意識を持っていますが、診療所はマンパワー不足などを背景に、看取り介護体制が未整備となっていると考えられるかもしれません。
介護職員、高齢者そして私たちも看取り介護について考える時期にある
特養の多くは看取り介護を提供していますが、職員への教育体制が十分とは必ずしも言えないという実態が浮き彫りとなりました。
厚生労働省の「長期療養高齢者の看取りの実態に関する横断調査事業」報告書のなかで、職員に対し終末期ケアに関する十分な教育の場があるか特養に質問したところ、約半数の特養は「ない」と回答しました。
さらに、職員への精神的負担をケア(これを「グリーフケア」と呼ぶ)する場が十分にないと回答した特養も多く見られました。
看取り介護の課題は、多職種連携やインフォームドコンセントのあり方などさまざまです。
とはいえ、看取り介護の最前線で活躍する介護職員のレベルアップなくして語ることはできないでしょう。
介護職員への看取り介護に対する教育を十分に行うとともに、グリーフケアにも今後配慮する必要がありそうです。
超高齢社会・日本。高齢者人口の激増に伴い、看取り介護は誰しも直面する可能性のあるものになりつつあります。介護職員だけでなく介護を受ける高齢者、そして私たち自身も看取り介護のあり方について考える時期に来ているのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定