「高齢者は65歳以上」の見直しで、年金支給開始年齢はどうなる!?社会的に呼ぶべき“高齢者”の年齢を考察する
今月5日、日本老年学会(日本老年医学会など医師や社会学者らが参加する7学会で構成)などは、現在「65歳以上」とされている高齢者の定義を「75歳以上」に見直す提言を発表しました。
同学会は、2013年に高齢者の年齢の定義の再検討に着手。
1990年代以降の身体および知的能力そして健康状態を収集・分析し、最近10~20年間に5~10歳程度若返っていることから、今回の提言を行いました。
この記事では、日本老年学会が提言した高齢者の年齢の定義に言及しながら、高齢者の健康状態などについて俯瞰的に見ていきます。
65~74歳を「准高齢者」、90歳以上を「超高齢者」とする提言を発表
日本老年学会が提言した高齢者の定義をまずは見ていきましょう。
現在の高齢者の定義は、冒頭で記述した通り「65歳以上の者」となっています。
これを「65~74歳」には「准高齢者」という新たな区分を設け「75歳以上」を高齢者とするもの。
ちなみに「准高齢者」には、「高齢者への準備段階」という意味合いがあります。
なお、「90歳以上の者」は「超高齢者」となる予定です。
65~74歳 | 准高齢者 | 准高齢期(pre-old) |
---|---|---|
75~89歳 | 高齢者 | 高齢期(old) |
90歳~ | 超高齢期 | 超高齢期(oldest-old) |
日本老年学会は、今回の提言のなかで「65~74歳は、若い世代と比較して身体機能が低下するものの、その個人差は大きい。個々人の健康状態に合わせた就労や技能、経験を生かしたボランティアなどの社会参加を促すべき」と言及しました。
一方、今回の提言を年金の支給年齢引き下げなど、社会保障の制度変更へと直接的につなげることについては、慎重な対応を求めました。
昨年9月の総務省の推計によると、65歳以上の高齢者は約3400万人で人口の約27%を占めています。
ちなみに、高齢者を75歳以上とした場合、高齢者の人口は半減します。
0~64歳(73.0%) | |
65~74歳【准高齢者】(14.0%) | |
75~89歳【高齢者】(12.0%) | |
90歳以上【超高齢者】(1.0%) |
実は、高齢者の定義は国によって異なり、国連が1956年に発表した報告書によると、高齢化率の基準となる年齢を「65歳以上」として以降、国際的に65歳以上を高齢者とすることが主流になっています。
日本もこれにならい、これまで「65歳以上」を高齢者としてきました。
しかし、60歳以上を高齢者とする国もあり、統一した定義はないのが実情です。
60歳以上の人で「75歳以上」を「高齢者」だとする割合は約5割
高齢者自身は、現在の高齢者の年齢の定義についてどのように考えているのでしょうか。内閣府が行った「高齢者の日常生活に関する意識調査(2014年版)」をひも解きながら現状を見ていきましょう。
全国の60歳以上の男女6,000人に対し「自分が高齢者だと感じるか」と質問したところ、5割以上が「いいえ」と回答しました。
自身の年齢が高くなるほど、高齢者だと感じる割合が増加し、「70~74歳」で約5割、「75~79歳」で約7割が高齢者だと感じていることがわかりました。
一方、「65~69歳」は24.4%と約4分の1の人しか高齢者だと感じていない結果に。
さらに「高齢者とは何歳以上か」との問いには、「70歳以上」と答えた人が29.1%、「75歳以上」と答えた人が27.9%でした。現在の高齢者の定義である「65歳以上」を選択した人の割合は6.4%に留まっています。
続いて「支えられるべき高齢者は何歳以上か」質問したところ、「80歳以上」が25.2%と最も多くなっています。「75歳以上」は23.4%と、「80歳以上」と拮抗する数字が出ています。
これらの結果を見ると、年齢層によって「高齢者」に対する捉え方が違うものの、「65歳以上」を一律に高齢者と扱うことは適当でないという意見が出てくることも頷けます。文部科学省のデータが高齢者の体力向上を物語っている
昨年9月に厚生労働省が発表したデータによると、全国の100歳以上の高齢者は、6万5692人。そのうちの87.6%は女性が占めています。1963年の100歳以上の高齢者は153人なので、およそ50年間で約380倍以上も増加したことになります。
今回の日本老年学会の提言では、「最近10~20年間に5~10歳程度若返っている」と報告しましたが、実際のところ、高齢者の体力はどのような状況なのでしょうか。
文部科学省が実施した「2014年度体力・運動能力調査」の結果を見ると、高齢者の体力が向上していることはひと目でよくわかります。
調査項目は、「握力」「上体起こし」「長座体前屈」「開眼片足立ち」「10m障害物歩行」「6分間歩行」の6種目ですが、それぞれで右肩上がりに向上しているのです。
「週に3日以上」運動する70歳以上は53.6%。体力向上に熱心な高齢者の姿が
よく運動をする人(=運動する時間が長い人)ほど体力があるというのは一般常識ですが、文部科学省が2013年1月に実施した「体力・スポーツに関する世論調査」によれば、年齢が高い人ほど「週に3日以上(年151日以上)」と回答する人が多かった模様。
60~69歳では42.4%、70歳以上では53.6%でした。
70歳以上では、半分以上の高齢者が週に3日以上スポーツを楽しんでいるのです。
週に3日以上の運動をするとメタボリックシンドロームの予防に効果を期待でき、かつ高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防にも役立つとか。スポーツに関するデータとあわせて考えると、昨今の長寿化の理由もわかるというものですね。
社会保障制度の見直しにも影響する「高齢者の年齢の定義」
年金支給を65歳から75歳へ!?
日本老年学会は、今回の高齢者の年齢の定義の見直しについて、年金の支給年齢引き上げなど社会保障制度の変更に直接結びつけることについては、慎重な対応を求めました。しかし、年金財政がひっ迫するなか、支出抑制のため、政府は何らかの手を打つ必要があります。
もし今回の提言の通り見直しが行われることになれば、冒頭でも触れた通り、高齢者の人口は半減し約1700万人となります。
年金支給開始年齢が75歳以上となれば年金財政の安定化を図ることも困難なことではないのかもしれません。
後期高齢者医療制度など医療への影響も甚大で、高齢者雇用など労政についても見直しを迫られることになります。
年金支給開始年齢の見直しのために議論を深めていくことが必要
一方、年金支給開始年齢を65歳として計算し生活している現役世代にとって、この見直しは大きな不利益となるでしょう。社会保障制度全般にも関わる見直しなだけに、国民的議論が必要なことは言うまでもありません。
日本老年学会の今回の提言を受けて、政府はどのような反応を示すのか。私たちの将来を大きく左右しかねない話だけに動向を注視する必要があるでしょう。
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2020年9月7日 制定