老健運営は儲かる?の8割以上が黒字経営!"介護報酬減"でも在宅支援が安定のカギ
介護老人保健施設の経営状況をデータで読み解く
独立行政法人福祉医療機構が行った分析によると、2015年度の介護老人保健施設の経営状況が改善しつつあることが明らかになりました。
「平成27年度 介護老人保健施設の経営状況について」によると、入所者一人あたりの年間事業利益が561万1,000円と大きく改善しました。
一方で、従事者一人あたりの人件費も440万8,000円と上昇、事業収益対事業利益率は6.8%に収まりました。
これは、それぞれ事業利益3万2,000円増加、人件費も9万6,000円増加と、人件費が増加しているのに利益が改善しているということです。
つまり、内部の改革が進み事業の効率性が改善したことを意味します。
詳細を見ると、従来型の施設においては赤字施設の割合が増加しています。
これは、ひとえに2015年度介護報酬改定での基本単価引き下げの影響によるものだと考えられます。
一方、在宅強化型の施設は赤字施設が減少し、事業収益も増加傾向にありました。
今後の経営の安定化を考えると、従来型の施設から在宅強化型への転換が望ましいと考えられます。
赤字か黒字か、ということで見ても、黒字施設のほうが入所率、通所利用率ともに赤字施設を上回っていました。特に在宅強化型の黒字施設では、通所利用型の差が大きくなりました。
「在宅強化型」とは、2012年度の介護報酬改定で創設された新しい施設サービス費です。この改定以降、老健においては在宅強化型、在宅復帰・在宅療養支援機能加算型、従来型の3つの類型が機能することとなりました。
国も、介護報酬を改定して従来型から在宅復帰支援をうながしています。
もはや施設でケアする時代ではなく、増えすぎた老人をケアするためには在宅でのケアが欠かせないのです。
これは家族に「介護せよ」と言っているわけではなく、あくまで介護の中心となる場所が自宅であるということです。
入所利用率・通所利用率を維持向上させることが、黒字転換には欠かせないとのデータが出ています。
定員の多い施設ほど黒字経営!?
入所定員規模別のデータでは、規模が大きくなるほど有利という状況が明らかになりました。事業利益率が向上し、赤字施設の割合が縮小していたのです。事業規模が大きくなるほどスケールメリットが働いて、業務の効率化が可能であるからと考えられます。
規模が小さい施設では、職員のそれぞれにおけるスキルアップ研修、ICT等の導入による事務負担等の効率化と負担軽減、組織化して一体化した生産性向上に力を注ぐなどの取り組みを行って、経営の黒字化を目指す必要があります。
それが、経営の安定にもつながるのです。
単価が下がっているのに人件費が増加する理由とは?
2015年度に改定された介護報酬・老健の基本報酬単価によると、要介護度1~5までのすべてにおいて、基本報酬単価は下がっています。
在宅強化型と従来型のどちらの施設でも単価が下がったものの、それにもかかわらず、従事者1人あたり人件費は9万6,000円増加し、440万8,000円となっています。
在宅強化型個室
2014年 | 2015年 | 15-14年 | |
---|---|---|---|
要介護1 | 745 | 733 | -12 |
要介護2 | 817 | 804 | -13 |
要介護3 | 880 | 866 | -14 |
要介護4 | 937 | 922 | -15 |
要介護5 | 993 | 977 | -16 |
従来型個室
2014年 | 2015年 | 15-14年 | |
---|---|---|---|
要介護1 | 716 | 695 | -21 |
要介護2 | 763 | 740 | -23 |
要介護3 | 826 | 801 | -25 |
要介護4 | 879 | 853 | -26 |
要介護5 | 932 | 904 | -28 |
介護報酬に関しては、介護職員処遇改善に対応したことも原因として挙げられそうです。厚生労働省の調査によると、介護職員処遇改善加算を取得している割合は高く、全体で88.5%、老健で93.1%もの施設が介護職員処遇改善加算を取得しています。
施設・事業所別にみた介護職員処遇改善の取得の有無
取得している | 取得していない | |
---|---|---|
介護老人福祉施設 | 97.7% | 2.0% |
介護老人保健施設 | 93.1% | 6.4% |
介護療養型医療施設 | 63.1% | 35.4% |
訪問介護 | 86.2 | 11.4% |
通所介護 | 86.9% | 11.0% |
認知症対応型共同生活介護 | 95.8% | 2.4% |
全体 | 88.5% | 9.6% |
職種別に見た介護従事者の平均給与額においても介護職員の給与は28万7,420円と増加。2014年9月と比較しても、1万3,170円の増加が見られます。これは、介護職員処遇改善加算を込みにした金額ですので、それだけの差が出たものだと考えられます。
職種別に見た介護従事者の平均給与額の状況
2015年9月 | 2014年9月 | 差 | |
---|---|---|---|
介護職員 | 287,420円 | 274,250円 | 1万3,170円 |
看護職員 | 375,130円 | 368,180円 | 6,950円 |
生活相談員 | 321,490円 | 312,120円 | 9,370円 |
理学療法士等 | 348,900円 | 339,990円 | 8,910円 |
介護支援専門員 | 342,760円 | 332,890円 | 9,870円 |
基本報酬単価が下がって、収益が改善。改革の成果か!?
やはり、従来型よりも在宅強化型のほうが有利なようです。先のデータによれば、2015年度の介護報酬改定で基本報酬単価が1.6%下落したにもかかわらず、事業収益が231万3,000円改善したことが明らかになっています。
これは、内部の改革が進んで生産性がアップしたものだと考えられます。
また、在宅強化型の施設では、50%以上の在宅復帰率や10%以上のベッド回転率などの、在宅復帰への高い機能が求められています。
そして、ターミナルケア(終末医療)にも力を入れている傾向から人員の配置が手厚く人件費もかさんでいますが、利益そのものは向上しているのです。
しかし、増収となってはいるものの、人件費が高騰した結果、事業利益率は下がっており6.1%となっています。
赤字施設は全体の2割弱
2015年度の在宅強化施設、従来型施設の赤字施設は全体の何割ほどになるのでしょうか。データによると、在宅強化施設が16.9%、従来型施設が18.8%と、約2割弱となっています。
入所定員数は多いほうが有利といえそうです。
赤字施設のほうが、黒字施設よりも入所人員数が少ないという傾向がありました。
通所利用率は、高いほうが利益率も高いこともわかりました。
データによると、入所利用率よりも通所利用率のほうが収益に大きく影響してくるようです。
黒字施設(83.1%) | |
赤字施設(16.9%) |
黒字施設(91.2%) | |
赤字施設(18.8%) |
このことから、赤字施設は、入所利用率よりもまずは通所利用率の改善に力を注ぐべきだといえるでしょう。
そのためには、持続可能な在宅生活を送り、短期間での老健施設への入所を含むものの、在宅での過ごし方が穏やかになるような通所サービスを提供していくことが重要でしょう。
医師やリハビリ専門職とともにリハビリ計画書を作成し、利用者家族の負担を少しでもやわらげていくことも重要です。
入所定員数が多いほど、規模が大きくなるほど事業利益率が改善しているということは、大きな現場ほど生産性が高いことを意味します。医師や看護師、ケアワーカー等が連携して介護にあたっており、ICTなどの導入も進んでいるからだと考えられます。
介護現場では非効率な業務も多く、改善の余地がある現場です。
規模が大きいほど経営が安定しますので、事業規模の拡大を目指すのもいいでしょう。
規模が小さくとも、研修などによるスキルアップ、ICTの導入による事務作業負担の軽減、職員間での密な連携、情報共有など、できることはまだまだあるといえます。
事業規模が小さいからといって生産性を放置しておいていいことにはならず、事業規模が小さい職場ほど、生産性の向上は大きな役目を果たします。
時間と人的リソースは有限で、インプットとアウトプットを見直さないことには、いつまでも長時間労働の弊害からは逃れることができません。
従業員の満足度向上のためにも、利用者の満足度向上のためにも、事業者の利益率向上のためにも、生産性の向上は欠かせない課題なのではないでしょうか。
在宅復帰支援への移行が求められる
トータルでデータを俯瞰してみると、利益率が高く、国も介護報酬改定で後押ししている在宅復帰支援への移行を目指していく必要があることが見てとれます。
今後の介護報酬改定でも、同様に在宅復帰支援をうながす方向になる可能性は多いにあります。従来型に比べて利益率・収益性も高く、赤字割合が低いため、経営側としても在宅復帰支援に乗り出していくことが良い結果を生むのではないかと考えられます。
現在も在宅復帰支援型である場合は、その経験をさらにふまえてより高度な在宅復帰支援機能を高めていくことが求められます。従来型から、在宅復帰型への移行は、もはや避けては通れない時代の流れなのかもしれません。
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2020年9月7日 制定