
「しんどい」「割に合わない」介護職の夜勤。2交代勤務の割合が90%以上で、仮眠さえままならない現状…
厚生労働省の「平成26年度賃金構造基本統計調査」によると、全産業の平均給与(基本給と諸手当の合計金額)は、42歳平均で32万9000円ですが、ホームヘルパー22万円(44歳平均)、福祉施設介護員21万9000円(39歳平均)となっており、全産業平均より10万円も低いとわかります。



小規模施設の夜勤は過酷。グループホームなどでは「2交替勤務」が当たり前
介護施設の夜勤形態は、「3交替夜勤」と「2交替夜勤」に大別されます。「3交替夜勤」であれば、24時間を3で割った時間、つまり8時間勤務のうち1時間を休憩とすれば実質的な勤務時間は7時間。それほど大きな負担にはなりません。
一方で「2交替夜勤」となると、12時間という長時間の勤務となり、これが深夜から早朝にかけて続くわけですから、身体的な負担は相当なものになります。同調査によると、「2交替夜勤」(「2交替」と「当直と2交替の混合」の合計)が90.1%を占めています。その割合は、2015年より2ポイント上昇しています。一方、「3交替夜勤」はわずか5.3%(「3交替」と「当直と3交替の混合」)に過ぎず、介護職員の厳しい勤務実態が浮き彫りになっています。
当直と3交替の混合(0.8%) | |
当直と2交替の混合(1.5%) | |
3交替(4.5%) | |
変則3交替(1.5%) | |
2交替・3交替の混合(3.0%) | |
2交替(88.6%) | |
その他(0.1%) |
業態別に夜勤形態を見ると、「グループホーム」「小規模型&看護小規模多機能型居宅介護」は、すべて「2交替夜勤」でした。「小規模型&看護小規模多機能型居宅介護」「グループホーム」はそれぞれ70.0%、62.5%の施設で16時間以上の長時間勤務となっています。
一方、比較的人員配置に余裕があると言われる特別養護老人ホームおよび老人保健施設のうち約10%の施設が「3交替夜勤」を採用しています。

どうやら、経営基盤の脆弱な小規模施設は「2交替勤務かつ16時間以上の長時間勤務」を余儀なくされていると推測できそうです。
制度上「ワンオペ」は認められている。利用者の安心、安全をどのように確保するのか
たとえ長時間勤務であったとしても、十分な休憩時間が確保できたり、他に深夜勤務をするスタッフがいれば業務負担を按分することもできるでしょう。しかし、現状、介護施設では「1人体制」通称「ワンオペ(ワンオペレーション)」が常態化しています。
「グループホーム」「小規模&看護小規模多機能型居宅介護」では、すべて「1人体制」となっており、夜間帯に長時間、1人で高齢者をケアしなければなりません。当然、なかには認知症高齢者や要医療行為者もいます。この人員体制では、利用者の安全、安心の確保は覚束ないでしょう。
2010年3月に札幌市内のグループホームで発生した火災事故は、深夜の時間帯(午前2時)におけるワンオペの問題点を白日のもとにさらしました。たった一人の職員は利用者を助けようと必死で救助活動を行ったものの、7人の利用者が死亡するという惨事に。職員も重傷を負い、深夜帯における安全管理体制が疑問視されました。
とはいえ、利用者数に応じて配置要件が定められているのは、特養と短期入所だけ。「グループホーム」「小規模&看護小規模多機能型居宅介護」では、制度上「ワンオペ」が認められているのです。「ワンオペ」では、まともに休憩を取れない状態と推測されますが、放置されています。
同調査では、「仮眠室の有無」も質問項目のひとつになっています。夜勤では仮眠が認められています。ベッドで少しの時間でも眠ることができれば、身体負担は軽減されるでしょう。しかし、調査結果を見ると、「グループホーム」「小規模多機能型居宅介護」において、「仮眠室がある」と回答した施設はわずか2~3割。労働安全衛生上の観点から判断しても、望ましくない状況と言えるでしょう。ここでも、小規模施設ほど労働環境が過酷であるとわかります。
業 態 | 有効回答施設数 | 仮眠室の有 | 仮眠室の無 | 割合(%)有 | 割合(%)無 |
---|---|---|---|---|---|
特 養 | 21 | 12 | 9 | 57.1 | 42.9 |
老 健 | 43 | 35 | 8 | 81.4 | 18.6 |
グループ ホーム |
17 | 6 | 11 | 35.3 | 64.7 |
小規模多機能 | 9 | 2 | 7 | 22.2 | 77.8 |
看護小規模多機能 | 5 | 2 | 3 | 40.0 | 60.0 |
短 期 入 所 |
23 | 14 | 9 | 60.9 | 39.1 |
合 計 | 118 | 71 | 47 | 60.2 | 39.8 |
さらに、勤務間隔が12時間以上確保されていない施設も増えています。こちらも労働安全衛生上の観点から、12時間以上の間隔を空けたうえで勤務することが望ましいとされていますが、23.0%の施設が「勤務間隔が12時間以上確保されていない」と回答しています。
あり(77.0%) | |
なし(23.0%) |
体調への影響を踏まえ、夜勤の翌日は勤務免除日、最低でも休日とすべきです。しかし、夜勤明け翌日に勤務はあったか介護職員に質問したところ、36.0%の施設で「勤務だったことがある」と回答がありました。昨年の調査では25.0%であり、わずか1年で11.0%も上昇。人手不足が一層深刻化しているとわかります。
教育を十分に受けていない非正規職員が深夜勤務を受け持つことも
人手不足に伴い、非正規職員に頼らざるを得ない介護業界。誰もやりたがらない深夜勤務の担い手がこの非正規職員です。「グループホーム」では約8割、「小規模多機能型居宅介護」では約6割、比較的職員数に余裕があると思われる「特別養護老人ホーム」でも約3割が非正規職員に夜勤を命じています。
業 態 | 施設数 | 夜勤に入った人数 | うち非正規職員人数 | 非正規職員の割合(%) | 非正規職員が夜勤に入った施設数 | 非正規職員が夜勤に入った施設の割合(%) |
---|---|---|---|---|---|---|
特 養 | 16 | 425 | 52 | 12.2 | 5 | 31.3 |
老 健 | 51 | 1396 | 96 | 7.0 | 21 | 41.2 |
グループホーム | 32 | 307 | 122 | 39.7 | 25 | 78.1 |
小規模多機能型 | 16 | 105 | 28 | 26.7 | 10 | 62.5 |
看護小規模多機能型 | 4 | 24 | 6 | 25.0 | 2 | 50.0 |
短 期入 所 | 12 | 128 | 38 | 29.7 | 8 | 66.7 |
前述のように、認知症高齢者や要医療行為者がいる環境です。事故が起きれば、もちろん対応に当たらなければなりません。非正規職員の場合、十分な教育を受けていないケースも多いと想定されることから、重大なミスにつながる可能性も考えられます。グループホームなどでは、「非正規職員かつワンオペ」が常態化していると見ることができるでしょう。
介護サービスに必要不可欠な「深夜勤務」。職員の健康と介護サービス向上を両立する方策は?
これまで見てきたように「低賃金」と「重労働」両方が絡み合って、人手不足に拍車がかかっています。特に小規模事業所の窮状は見過ごせません。介護は24時間365日提供されるものだけに、過酷な深夜勤務であっても誰かが担わなければなりません。介護職員からは「夜勤手当がないと生活できない」という声も聞かれ、たとえワンオペが常態化していても、働かざるを得ないという実態もあるでしょう。
よりよいケアは介護職員の健康があってこそ実現できるもの。介護職員の疲弊が続けば、介護サービスの基盤そのものが危うくなるでしょう。
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2020年9月7日 制定