介護報酬改定「マイナス2.27%」の内容を検証!介護職員の給料への影響は?
介護報酬の改定が決定したというニュースはご存知の方も多いことでしょう。その内容は「マイナス2.27%」。
このマイナス改定を受けての反応を見ると、利用者からは「利用料が下がるのはありがたい」「介護保険料も下がるのは良いことだ」といった意見がある反面、介護の現場で働いている介護職員からは「給料が下がるんじゃないか?」「職場の経営が危なくなるんじゃないか?」といった声も上がっています。
とはいえ、この数字はあくまで全体的な数字の話。介護報酬が上がる介護サービスもあれば、下がるサービスもあり、それらをまとめてマイナス2.27%となっているのです。
そこで今回は、各介護サービスの現行の介護報酬と改定後の介護報酬を比較して、各サービスごとに具体的な数字の推移と改定のポイントについて検証していきます。
特別養護老人ホームの介護報酬は-5.6%!…でも、利用料は最終的に値上がりに?
介護報酬マイナス改定の引き金になったとも言えるのが特別養護老人ホーム。
【まとめニュース】:特別養護老人ホームの内部留保について調べてみたでも触れた通り、1施設あたり3億円とも言われる内部留保があることや、経営状態の目安となる収支差率が全産業の4.0%を上回る8.7%を記録したことが要因のひとつと言われています。
介護報酬改定の議論が始まった時には「-6%」とも言われていましたが、特別養護老人ホームの介護報酬に関しては、それに近い約5.6%のマイナス。以下がその具体的な数字となります。
特別養護老人ホームの介護報酬改定
従来型個室
現行(単位/日) | 改定後 | |
---|---|---|
要介護1 | 580 | 547 |
要介護2 | 651 | 614 |
要介護3 | 723 | 682 |
要介護4 | 794 | 749 |
要介護5 | 863 | 814 |
多床室(2012年4月1日以前に整備されたもの)
現行 (単位/日) |
2015年4月 | 2015年8月 | |
---|---|---|---|
要介護1 | 634 | 594 | 547 |
要介護2 | 703 | 661 | 614 |
要介護3 | 775 | 729 | 682 |
要介護4 | 844 | 796 | 749 |
要介護5 | 912 | 861 | 814 |
ユニット型個室
現行(単位/日) | 改定後 | |
---|---|---|
要介護1 | 663 | 625 |
要介護2 | 733 | 691 |
要介護3 | 807 | 762 |
要介護4 | 877 | 828 |
要介護5 | 947 | 894 |
4人の多床室で暮らす要介護5の高齢者を例に取ると、月額の利用料は1530円下がることになります(地域によって異なります)。
しかし、それも7月いっぱいの話。
8月からは多床室でも個室と同様に室料がかかるようになるため、下図のように実質的な負担は1万3000円以上大きくなってしまいます。
利用者にとって頭の痛い話はまだ続きます。というのも、全国26都道府県において、予定していた特別養護老人ホーム建設が中止、または延期になっているというのです。
介護報酬の引き下げによって実質的に減収となる事業者が「人材確保の見通しが立たない」「安定的な経営が難しい」などが、新規開設をためらう理由のひとつ。
戸数が増えなければ、約52万人とも言われる入居待ちの列は解消するとは考えられません。特養関連に限れば、介護報酬のマイナス改定によって“冬の時代”を迎えたと言って良いかもしれません。
デイサービスも予想通りの大幅減!増え続ける利用者への対応が今後の課題に
特別養護老人ホームよりもさらに厳しい改定となったのが通所介護、つまりデイサービスです。【まとめニュース】:デイサービスの介護報酬は大幅減に!?で検証した通り、約10%の大幅減となりました。
<デイサービス(通所介護)の介護報酬改定>
小規模型通所介護(7時間以上9時間未満)
現行(単位/日) | 改定後 | |
---|---|---|
要介護1 | 815 | 735 |
要介護2 | 958 | 868 |
要介護3 | 1108 | 1006 |
要介護4 | 1257 | 1144 |
要介護5 | 1405 | 1281 |
通常規模型通所介護(7時間以上9時間未満)
現行(単位/日) | 改定後 | |
---|---|---|
要介護1 | 695 | 656 |
要介護2 | 817 | 775 |
要介護3 | 944 | 898 |
要介護4 | 1071 | 1021 |
要介護5 | 1197 | 1144 |
収支差率を見てみると、特養よりも高い10.6%という数字を記録しており、「収益を出しやすい」というビジネスの構造故にデイサービス事業所を開設する事業者が急増。
下記のグラフの「小規模」に注目すると、ここ7年で1万近くの事業所が増えていることがわかります。
その流れに歯止めをかける意味での今回の介護報酬改定と見ることができるでしょうし、これまで右肩上がりだったデイサービス事業所数の推移も、今後はなだらかになっていくものと思われます。
介護報酬が大幅減となった代わりに、通所介護では加算の要件が新設されています。主なものが、以下。
認知症加算
①指定基準に規定する介護職員又は看護職員の員数に加え、介護職員又は看護職員を常勤換算方式で2以上確保していること。
②前年度又は算定日が属する月の前3月間の利用者の総数のうち、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の利用者の占める割合が100分の20以上であること。
③指定通所介護を行う時間帯を通じて、専ら当該指定通所介護の提供に当たる認知症介護指導者研修、認知症介護実践リーダー研修、認知症介護実践者研修等を修了した者を1以上確保していること。
中重度者ケア体制加算
①指定基準に規定する介護職員又は看護職員の員数に加え、介護職員又は看護職員を常勤換算方法で2以上確保していること。
②前年度又は算定日が属する月の前3月間の利用者の総数のうち、要介護3以上の利用者の占める割合が100分の30以上であること。
③指定通所介護を行う時間帯を通じて、専ら当該指定通所介護の提供に当たる看護職員を1以上確保していること
上記の通り、事業所数の増加と比例するように利用者数も増加しており、増えるニーズにどのようにして対応していくかは、今後のデイサービス事業者における課題になるかもしれません。
小規模多機能型居宅介護の事業者が生き残る道は「訪問体制強化加算」と「看取り加算」!?
そもそも今回の介護報酬改定の目的は、国が進める「地域包括ケアシステム」の構築に向けて、介護における“施設から在宅へ”という流れを確たるものにするためという見方もあります。
デイサービスだけでなく、下記のように小規模多機能型居宅介護でも介護報酬はマイナス改定となり、利用者にとっては利用しやすい設定になったことは間違いありません。
「訪問」「通い」「宿泊」を組み合わせて利用できる小規模多機能型居宅介護は地域包括ケアシステムの要とも言えるサービスであり、国としての舵取りの意思が、利用者を増やしたい=介護報酬減に見て取ることができます。
小規模多機能型居宅介護の介護報酬改定
現行(単位/日) | 改定後 | |
---|---|---|
要介護1 | 683 | 645 |
要介護2 | 803 | 762 |
要介護3 | 928 | 883 |
要介護4 | 1053 | 1004 |
要介護5 | 1177 | 1125 |
ご覧の通り、介護報酬は減となり事業者の収入減が懸念されますが、ここでもまた要件を満たすことによる加算が新設されています。
訪問体制強化加算 1000単位/月
①指定小規模多機能型居宅介護事業所が提供する訪問サービスを担当する常勤の従業者を2名以上配置していること。
②指定小規模多機能型居宅介護事業所が提供する訪問サービスの算定月における提供回数について、当該指定小規模多機能型居宅介護事業所における延べ訪問回数が1月あたり200回以上であること。
③指定小規模多機能型居宅介護事業所の所在する建物と同一の建物に集合住宅(養護老人ホーム、軽老老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に限る。
)を併設する場合は、登録者の総数のうち小規模多機能型居宅介護費の同一建物居住者以外の登録者に対して行う場合を算定する者の占める割合が100分の50以上であって、かつ、これを算定する登録者に対する延べ訪問回数が1月あたり200回以上であること。
看取り連携体制加算 64単位/日 (死亡日から死亡日前30日以下まで)
①看護職員配置加算(Ⅰ)(常勤の看護師を1名以上配置)を算定していること。
②看護師との24時間連絡体制が確保されていること。
③看取り期における対応方針を定め、利用開始の際に、登録者又はその家族等に対して、説明し同意を得ていること。
看護職員配置加算(Ⅲ) 480単位/月
①看護職員を常勤換算方法で1名以上配置していること。
②定員超過利用、人員基準欠如に該当していないこと。
介護報酬の引き下げが利用者メリットにつながる!?
ここまで「特別養護老人ホーム」「デイサービス」「小規模多機能型居宅介護」と大きなマイナスとなった分野について見てきました。
介護報酬の引き下げによって事業者の収入が減るのは間違いないでしょう。
そのために「私たちの給料が減るのでは…?」と心配している介護職員の方もいらっしゃるかもしれませんが、そうとも言い切れないのは、併記した“加算”があるから。
そもそもですが、介護報酬が引き上げとなった過去の介護報酬改定では、事業者の収入は増えたものの、それが職員の給料に反映されなかったという話もあります。逆に離職率は高いままで、職員の待遇改善に直結していなかったことがよくわかります。
その反省を受けて、2009年度から加算分を職員の賃金に上乗せすることを義務付ける「介護職員処遇改善加算」を導入すると、職員の待遇は改善され、離職率も全産業と変わらないレベルまで下がってきたのです。
今回の介護報酬改定でも、基本報酬をマイナスとして加算を手厚くするという流れを汲んでおり、マイナス改定によって介護職員の給料が減るという可能性は低いように思われます。
介護事業者にとっては介護報酬がプラスになって収入が増えればそれに越したことはなかったでしょう。しかし、現在の経済状況だけでなく一連の流れを見ても、今回のマイナス改定は仕方のないことだったのかもしれません。
介護事業者にとっては酷な改定になったかもしれませんが、要件を満たすことによる加算を受けられれば、あるいは現状維持程度はクリアできるのではないでしょうか?それはつまり、サービスの質を維持することでもあり、結果的に利用者メリットにつながることに。こう考えると、国としての施策は正しい方向に向かっているように感じられるのですが、皆さんはどうお考えでしょうか?
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2020年9月7日 制定