歯周病が認知症を悪化させるメカニズム解明!この事実の一方、歯科検診受診は約49%にとどまり…
歯周病が身体に与えるさまざまな影響
歯周病が認知症を悪化させるメカニズムの判明
先日、名古屋市立大学・国立長寿医療研究センターなどの研究グループによって、歯周病が認知症を悪化させるメカニズムについて解明されました。
歯周病菌が発生する毒素によってアルツハイマー型認知症の原因である脳の「ゴミ」が増えてしまい、認知症が進行してしまうというのです。
脳の海馬を中心に蓄積する悪玉たんぱく質・アミロイドβによって脳細胞が圧迫され、死滅することで起こるのがアルツハイマー型認知症。
発症するとまず「記憶障害」の症状が現れ、症状が悪化していくにつれて場所や時間、人物の識別ができなくなる「見当識障害」の症状が出るようになります。
進行の速度には個人差がありますが、早いと数年で寝たきりになってしまうことも。
アルツハイマー型は認知症患者の6割以上を占めると言われており、特に女性に多くみられる認知症としても知られています。
今回の研究ではアルツハイマー型認知症を発症するマウスに対して歯周病菌を感染させ、感染させていないマウスの脳と比較することが行われました(期間は5週間)。
研究の結果、歯周病となったマウスは歯周病ではないマウスよりも悪玉たんぱく質の量が約1.4倍も多いことが明らかに。
記憶学習能力においても、歯周病のマウスは大幅に劣っていたといいます。
歯周病は体全体に疾患をもたらす
そもそも歯周病とは、歯周組織(歯肉、歯槽骨、歯根膜、セメント質で構成)が口内細菌(細菌性プラーク)によって破壊される慢性的な炎症性疾患のことです。
歯周組織に炎症が起こると歯と歯茎の間に「歯周ポケット」と呼ばれる深い溝ができ、その溝から細菌・病原因子が体内に侵入、血流に乗って全身の組織・臓器に悪影響を与えるようになります。
また、炎症した歯周組織で作られる物質「サイトカイン」が、糖尿病や早産を引き起こすことも疫学調査・基礎研究によって明らかにされており、歯周病は歯の病気でありながら、体全体に疾患をもたらす恐ろしい病気であることは明白です。

そして何より、歯周病は歯を失わせる最大の原因であることは言うまでもありません。
公益財団法人「8020財団」が行った調査によると、歯を失う原因として最も多いのは、44歳以下では「虫歯」ですが、45歳以上の年代になると「歯周病」が最も多くなり、55歳以上の年代になると失う人の割合は5割以上に達するという事実が、歯周病の恐さを裏付けています。
歯の喪失が生活に悪影響を及ぼす
認知症になりやすくなる
歯周病は歯を失う大きな要因となっているわけですが、歯を失うことにより、認知症を発症しやすくなることが各種研究で明らかにされています。
例えば、広島大学の研究では「よく物を噛めるマウス」と「歯がなく柔らかいものしか口にできないマウス」とを比較する研究が行われ、歯のないマウスにはアルツハイマー病の原因であるアミロイドβがより多く蓄積していたことが明らかにされました。
物をよく噛んで食べられなくなると咀嚼による脳の中枢神経への刺激が減り、それだけアルツハイマー型認知症が起こりやすくなるのです。
こうした認知症のリスクを高める咀嚼力の低下は、たとえ歯1本の喪失であっても起こりうると言われています。
歯を1本失うことでその両隣の歯が支えを失って歪んだり、噛み合っていた向い合う歯が伸びてくるといった症状が現れ、噛み合わせに大きな狂いが生じてくるからです。

そして、日本人の多くが加齢とともに歯を失う傾向にあるというのは見逃せない事実。
一般社団法人「歯の寿命をのばす会」の調査によると、45~55歳の間に3本、55~65歳の間に5本、65~75歳の間に8本の歯を失い、80歳時点で残っている歯は8.9本だけというのが日本人の平均的な値です。
年を重ねる中、歯を失うことで認知症を発症する確率が高まるという調査結果を考慮すると、これは大変な問題と言わざるをえません。
歯を失うことの弊害は口を使う動作にも…
歯を失うと社会生活の面でもいろいろと悪影響が出るようになり、場合によっては長年続いた人間関係を悪化させることにもつながりかねません。
歯を失うということは審美性の低下にも影響。
特に女性の場合、人前で口を開ける、歯が見えるような笑顔を人に見せるといったことを控えるようになる傾向にあります。
そんな状態が続くと、誰かと一緒に食事に行ってご飯を食べる、会話を楽しむということが億劫になっていき、次第に人付き合いも減少。
人間関係の希薄化が進むという状況は想像に難くありません。
また、笑顔が減ると「話しかけにくい」雰囲気を出すことにもなり、歯がある頃に比べて友人関係を築きにくくなる可能性も十分に考えられます。
付言すると、歯が抜けることで頬や顎のラインが内側に寄るようになり、頬がこけて見える、頬が弛緩してゆるむといった変化が現れ、周囲の人に明るい印象を与えにくくなるようです。
前歯を失った場合は口元に大きなしわができやすくなり、実年齢よりも年老いて見られるようにもなります。
こうした弊害に直面するようになると、何より本人が人付き合いに対して自信を持てなくなってしまい、社会的な孤立を深めることにもなりかねないのです。
人生の質を上げるために歯は必要不可欠
食事によるQOL(人生の質)の変化
高齢になっても体の健康を維持し、日々おいしく物を食べるためには、自分自身の歯を1本でも多く残して咀嚼力を維持することが不可欠です。しっかり噛むことが心身の状態に与える影響は非常に大きく、
- 食べた物の消化・吸収力が高まる(消化酵素アミラーゼの分泌を促す)
- 虫歯・歯周病予防(唾液の分泌がよくなるため)。
- 老化・がんの予防(唾液に含まれるたんぱく質・「ペルオキシターゼ」には発がん性物質を抑え、活性酸素を抑制する力がある)
- 脳の活性化(噛むことで脳神経が刺激される)
- ストレスの解消(時間をかけて食事ができるので、緊張をほぐし、精神を安定させる)
などの効果が得られると言われています。

また「8020推進財団」が55~75歳の男女1,518人を対象に行った調査によれば、普段の食事を「とてもおいしい」と感じている人は平均で約20本の歯がありました。味を楽しみながら食べられるという点でも、歯は重要であると言えるわけです。
歯周病予防にはやはり歯科検診がマスト
さらに、歯が多く残っている人ほど年間の医療費用が少ないというデータもあります。
日本歯科医師協会が全国の40歳以上、約1万9,000人を対象に行った調査では、残存歯数が20本以上ある人は0~4本の人よりも年間の医科医療費が平均で17万5,900円も低いという結果が出ているのです。
歯周病や虫歯を予防し、高齢になっても歯を多く残していくためには、やはり定期的な歯科検診が重要な役割を果たします。
日本歯科医師協会が全世代を対象に行った調査によれば、1年に1度以上歯科検診を受けている人の割合は約49.0%。
全体の半数を割り込んでいるという状況であり、歯科検診に行く頻度が少ないのは女性よりも男性にみられる傾向のようです。
ただ近年、自治体が無料で高齢者に向けて歯科検診のクーポンを配布していることなども影響し、70代以降の検診者数は増えつつあるという状況。
今後こうした動きがさらに強まっていくことが望まれています。
今回は高齢者と歯の関係について注目しました。
歯を多く持っているほど心身状態を健康に保つことができ、QOL(生活の質)を高められるということがさまざまな研究によって実証されています。
歯周病予防・歯科検診受診への意識を強く持って歯を大切にしていくことが、健康長寿の秘訣とも言えるのでしょう。
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2020年9月7日 制定