高齢者に急増する「てんかん」の発作!記憶を無くす症状を認知症と判断してしまう場合も
高齢になるほどかかりやすい「てんかん」とは…?
人口100人あたり0.5~1人ほどの割合で発症
てんかんとは、大脳の神経細胞における電気的活動の調和が崩れることで起こる症状・発作のことを言います。
突然意識を失って体中が痙攣(けいれん)する大発作、体の一部が勝手に動く、あるいは会話をしている中でぼんやりとし始めて意識が遠のくといった小発作が典型的な症状です。
現代医学では、適切に治療を行えば発症者の7~8割については発作をコントロールでき、有病者であっても問題なく社会生活を営むことができます。
ただ全体の2割ほどの人は、難治性てんかんと呼ばれる薬を飲んでも発作を抑えられない状態となり、発作に備えた生活を余儀なくされるのです。
医学論文のデータによれば、てんかんは人口100人あたり0.5~1人ほどの割合(0.5~1%)でみられる病気で、発症年齢は3歳以下が最も多く、成人になると発症率は下がっていきます。
しかし50代を過ぎたころから再び発症率は上昇し、特に高齢者世代(65歳以上)以降は有病率、発症率ともに右肩上がりとなるのです。高齢になるとさまざまな病気に襲われるリスクが高まりますが、てんかんもまた、用心せねばならない病気の一つといえるでしょう。
てんかんが発症する原因とは?
大脳における神経細胞(ニューロン)は、通常お互いに調和を保ちつつ、規則正しいリズムで電気的な活動を行っています。
しかし何らかの要因によりこのリズムが崩れ、電気的な乱れが突然生じることによって起こるのがてんかんの発作です。
こうした発作のメカニズムから、てんかんは「脳の電気的嵐」と呼ばれることもあります。
大脳ニューロンの電気的なリズム・調和を乱す原因はさまざまありますが、大きく「症候性てんかん」と「突発性てんかん」とに分けて理解されるのが通例です。
症候性てんかんは、脳に障害、傷があることによって生じるてんかんで、出生時の仮死状態、脳内の低酸素状態、脳梗塞、脳出血、脳炎、脳外傷、髄膜炎などによって引き起こされるものを言います。
一方突発性てんかんとは、さまざまな検査をしても脳内に異常が発見されず、原因が不明であるてんかんのことです。
また一部のてんかんには、発症要因として遺伝子が関係していることも明らかにされています。
ただ遺伝性のてんかんは良性の場合が多く、病院での治療により症状が改善することが多いようです。
高齢者に多いてんかんは、「複雑部分発作」と呼ばれる発作型
最も多い症状は脳血管障害で16.4%と高め
厚労省の研究報告書によれば、高齢者のてんかんは全体の約半数近くが「画像検査で病変を認めない」もの、つまり原因が不明な突発性てんかんとなっています。原因が明らかになっている中で最も多いのは、全体の16.4%を占める脳卒中(脳血管障害)。
脳卒中には、大きく分けて脳内の血管が破れる「脳出血」と、脳内の血管が詰まる「脳梗塞」とがありますが、脳細胞が破壊されるという点ではどちらも同じで、現れる症状・後遺症も双方の間で大きな違いはみられません。
重要なのは脳内のどこで発症し、どこの脳細胞を損傷したかということで、その損傷の受け方によっては、てんかんを引き起こす要因にもなるわけです。
脳卒中は高齢者に非常に多い病気で、東京都保健局のデータによると、都内の医療機関における確定診断で脳血管障害(脳卒中)と診断された人のうち、高齢者(65歳以上)の発症者は全体の約7割に上っています。
最も多い年代は、発症者全体の14.3%を占める「75~80歳未満」。
続いて多いのが13.8%を占める「65~70歳未満」です。
高齢化の進展と共に、脳卒中を発症する高齢の患者数は今後も増えていくとみられ、それと共に脳卒中を原因とする高齢者のてんかん発症者数もさらに増加していくことが予想されます。
認知症と誤診されるケースも
高齢者に多いのが「複雑部分発作」と呼ばれる発作型のてんかんです。
この発作が起こると、倒れるまでには至らないものの、「突然動作を止めてぼんやりとする」(意識減損発作)、「目的もなくフラフラと歩き回る」「口をモグモグさせる」などの無意味な挙動・動作を繰り返す(自動症)、といった意識障害の症状が強く現われます。
こうした発作は数十秒~数分の間続き、発作後もしばらくの間は周囲の状況を把握できず、的確な行動を取れなくなることが多いです。
また複雑部分発作は、他の発作型のてんかんに多い痙攣の症状が出ないため、別の病気に間違われやすいという特徴があります。医師による誤診のケースも多いようで、特に多いのが認知症と誤診されること。
発作中は意識がもうろうとするために発作前後のことを覚えていないことも多く、さらに1日当たりの発作回数も多いため、頻繁に記憶を無くす症状が現れます。こうした記憶障害は認知症の場合にも顕著に現れるので、医師が誤って認知症だと判断してしまうのです。
自動車運転中に発作が起き、重大事故になった事例も
てんかんによる免許取り消しが3.8倍に
てんかんの発作は時と場所を選ばずに発生するため、状況によっては重大な事故を引き起こします。その最たる例が、発作が自動車の運転中に起こった場合です。運転中に体の痙攣や意識障害が起これば、命に関わる交通事故を招くことにもなります。
こうした事態を防ぐべく、2014年に改正道路交通法が施行され、てんかんのような運転に支障をきたす恐れがある持病の申告の義務化が規定されました。
日本てんかん学会が都道府県公安委員会に対して行ったアンケート調査によれば、2015年の免許取得、更新時にてんかんを申告した件数、および運転の適性についての相談件数は1万4,154件で、2013年時点の1万1,460件から約23%増となっています。
また2015年のてんかんを理由とする免許の取り消し件数は3,028件で、2013年時点における788件の約3.8倍となりました。
2015年に実際にてんかんが原因で発生した交通事故は全部で約70件ほどですが、事故を起こした運転手のうち、持病について申告していたのはわずか5、6人のみです。
申告していなかった理由としては、意図的に申告せずに症状を隠していたという悪質な事例のほか、自分がてんかんを発症していることを自覚していなかった事例もあったとのこと。
てんかんによる交通事故を防ぐには、規制強化だけでなく医師による指導も重要であると言えます。
てんかんの発作による事故は重罪
もし車を運転中にてんかんの発作が起こり、それによって交通事故の加害者になった場合、病気を理由に罪が軽減される…ということはありません。
てんかんのような「正常な運転をするのに支障が生じる恐れがある状態」で死傷事故を起こした場合、「自動車運転死傷行為処罰法」に基づき、もし被害者を死亡させた場合は懲役15年以下(危険運転致死罪)、傷害を負わせた場合は懲役12年以下(危険運転致傷罪)の刑罰が科せられます。
実際、2015年3月に大阪で発生したてんかん発作を原因とする交通事故(3人が死傷)では、加害者が自動車運転死傷行為処罰法違反の罪で起訴され、懲役10年の実刑判決がくだされました。
てんかんの発作は脳内における興奮系の神経が過度に働くことで生じますが、車の運転をすると、そうした発作を誘引する興奮を起こしやすくなります。
てんかんの有病者は、上記のような厳しい法律があること、そして運転中は発作が起きやすいことを十分に理解しておく必要があるでしょう。
今回は、高齢者に多い「てんかん」について取り上げました。高齢者の交通事故というと認知症の問題がよく取り上げられますが、てんかんもまた、重大な事故を引き起こす恐ろしい病気です。
毎年3月26日は、てんかんの啓発活動キャンペーンを行う「パープルデー」の日とされており、今年も全国各地でさまざまなイベントが開催されました。てんかんが引き起こす交通事故の危険性を考えると、こうした機会はもっと増やしていくべきなのかもしれません。
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2020年9月7日 制定