福祉用具産業、年々売れ行きを増す
高齢者が増すに連れて福祉用具市場の規模も拡大
総務省統計局によれば、2017年9月15日時点における高齢者人口は3,514万人、高齢化率は27.7%にまで達しました。
特にここ数年は伸び率が高く、2010年時点では高齢者人口が2,924万人、高齢化率は23.0%でしたから、わずか7年間の間に高齢者人口が約600万人、高齢化率は4.7ポイントも上昇したことになります。
現在、こうした急速な高齢化の前に介護施設・介護人材の不足状況が深刻化しています。
国や厚労省は施設(病院)での介護(療養)ではなく在宅介護・在宅医療を推進する施策に力を入れ、高齢者が住み慣れた自宅で終末期を迎えられるような体制作り、制度整備を進めています。

このような状況を背景に、ここ数年で急激な伸び率を示しているのが福祉用具産業の市場規模。
2000年代~2010年代はやや横ばいの状況が続いていたものの、2010年度以降は再び右肩上がり。
2010年度時点で1兆1,652億円だった市場規模は、2015年度には1兆4,337億円にまで拡大し、5年間で2,700億円近くも規模が大きくなっています。
中でも在宅介護の現場で柱となる介護ベッドの市場の成長は著しく、2011年度時点では200億円強の市場規模でしたが、2015年度には250億円近い規模にまで成長。
福祉用具への需要は今まさに急速に増えつつあるわけです。
介護用品と福祉用具の違いは介護保険がかかるか否か
介護・福祉分野においては、介護に必要な用具は大きく「介護用品」と「福祉用具」に分けられています。
両者の違いを一言で言えば、レンタルする際に介護保険が適用されるか否かという点。
介護保険が適用されない用具は「介護用品」、介護保険の適用対象となっている用具は「福祉用具」と呼ばれているのです。
福祉用具は介護保険制度に基づき、1~2割(負担割合は所得に応じて変化)でレンタル・購入することができます。
保険適用のレンタル対象(福祉用具貸与)としては、車いすや付属品、特殊寝台、特殊寝台付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、認知症老人徘徊探知機、移動用リフト、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助杖、自動排泄処理装置の13品目が対象です。
また、保険適用で購入(特定福祉用具購入費)できるのは、腰掛便座、特殊尿器、入浴補助用具、簡易浴槽、移動用リフトの釣り具の部分の5品目。人が既に使用したものを別の人が使うことがはばかられる品目について、購入時の保険が適用されるわけです。
福祉用具貸与には自由価格制による問題が
外れ値による福祉用具の費用が上がる問題
自己負担1~2割でレンタルできる介護保険の福祉用具貸与ですが、現行制度では、もとの貸与価格の設定は各事業者が行えるという自由価格制が採用されています。
自由価格制は市場の原理(市場がさまざまな過不足やアンバランスを自ら調整し最適化する仕組み)を持ち込むことになるので、平均貸与価格が低めになるなどの利用者側が受けるメリットもありますが、一方で「外れ値」の発生という問題も指摘されてきました。
外れ値とは、平均価格に比べて極端に高額、低額な貸与価格のことを指します。発生要因は請求書の誤記などの請求ミスが多いですが、不当に高額な請求を行い、利用者側がそのことを疑問に持たないまま支払いを続けるというケースも多いのです。
もっとも、現行制度では事業者が価格を自由に設定できる形となっているので、事業者間や地域間で貸与価格に多少のばらつきが生じることはやむをえませんし、事業者ごとに仕入れ価格、搬出入費、保守点検費などが異なるので、そうした差異も事業者間での価格の相違につながります。
しかし中には、明らかに市場の原理を逸脱するような価格で貸与が行われることもあり、この点については以前から問題視されていたのです。
貸与価格の不透明性が原因の一つ
では、なぜ利用者側はそんな「外れ値」で福祉用具をレンタルしてしまうのでしょうか。
低額な外れ値ならともかく、高額な外れ値で借り続けてしまうと、それこそ大損です。
そんな事態が起こってしまう要因の1つとして、利用者側が適正なレンタル価格とはいくらぐらいなのかが把握しづらいという点があります。

福祉用具貸与は、価格の中に付加サービスも含めていることが多く、「品物+付加サービス」ではどのくらいの費用になるのか、理解しにくいのです。
そもそも、品物の価格が妥当なのかも分かりづらい部分もあります。
福祉用具の中には普段からお店・スーパーなどで目にしないような品も多く、レンタルだとどのくらいが適切・妥当な価格なのかの情報が、利用者側に無い場合も多いのです。
こうした外れ値問題に対応するには、「適正な貸与価格・業界における平均貸与価格はいくらなのか」を理解できるように、付加サービス内容も含めての価格情報を利用者側にきちんと提供することが必要になります。
ただ貸す側、借りる側における情報の非対称性を悪用し、不当に高額な貸与価格設定をする事業者も現れかねないので、事業者側の善意に任せきれない部分もあるでしょう。
そのため、価格情報の提供を行う旨を規定した制度作りが必要になってくるわけです。
既に一部の自治体では貸与価格情報の公開に積極的に取り組んでいるところもあります。
福祉用具のレンタル料について上限額が7月を目処に公表
不透明性への対策を施す
国・厚労省も外れ値問題について次第に重く受けとめるようになり、今年10月に施行される制度改定において、ついに対策案が盛り込まれました。その内容のポイントは以下の通り。
- 国が商品ごとに貸与価格に関する全国的な状況を把握し、商品の全国平均貸与価格を公表する。
- 貸与事業者(福祉用具専門相談員)は、福祉用具を貸し出す際、その福祉用具の全国平均貸与価格、その事業者の貸与価格の両方を利用者に説明する。また、機能、価格帯が異なる複数の商品についても提示する(複数の商品を提示することについては、2018年4月に施行)。
- 適切なレンタル価格を確保するために、貸与価格に対し上限を設定する。
既に述べた通り、一部の自治体では貸与価格情報の公開に自主的に取り組んでいるところもありますが、正式に制度化されることで、全国的・本格的にその取り組みが進められることになります。
また貸与価格の上限設定は商品ごとに行い、上限額の決め方は「当該商品の全国平均貸与価格+1標準偏差(1SD)」と規定されました。
標準偏差とはデータの散らばりの大きさを示す指標で、この規定内容では上位約16%に相当(正規分布の場合)することになります。実際の上限額については、今年の7月を目途に公表される予定です。
福祉用具専門員をうまく活用すること
福祉用具専門相談員とは、高齢者が介護保険適用で福祉用具を利用する際、本人の心身状態や生活環境にあった福祉用具を選定し、適切に利用するためのサポートをしてくれる専門家で、福祉用具貸与事業所では2人以上配置することが義務付けられています。

ところがこの福祉用具専門相談員、実際にはあまり活用されていないという実態があります。
一般社団法人シルバーサービス振興会が行ったアンケート調査によると、「福祉用具をレンタルする際に誰に相談するか」という質問に対して、「福祉用具相談員」と答えた人はわずか12%。
多くの人は「ケアマネ」(全回答の67.4%)に相談しているようですが、せっかく各事業所に配置されているわけですし、できれば相談・活用したいところです。
特に今年10月の制度改正では福祉用具専門相談員(貸与事業者)が価格情報を提供する旨も規定されているので、高額な外れ値のレンタル品を借りないようにするためにも、積極的に相談するのが得策と言えます。
今回は福祉用具の市場動向、制度状況を踏まえつつ、「外れ値」の問題について取り上げました。利用者に不当な出費をもたらしかねない外れ値のような事態があるのはやはり問題。今年の制度施行も含め、今後とも注目を集める問題となりそうです。
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2020年9月7日 制定