警察庁が検挙者の高齢化について指摘
高齢の検挙者は20年前とくらべて3.8倍に

2016年版の「犯罪白書」によると、2016年における65歳以上の刑法犯検挙者数は4万6,977人で、全検挙者数の20.8%を占めるという結果となっています。
1996年時点では検挙者数1万2,423人、65歳以上の割合は4.2%でしたから、ここ20年の間で検挙者数は約3.8倍、割合では約4.9倍も増えているのです。
全世代の検挙者数自体は、2004年に38万9,297人を記録してからその後、近年は雇用状況の改善などもあり急速に減少。
2013年からは毎年、戦後最小記録を更新し続けています。
2015年における総検挙者数は23万9,355人で、2004年より15万人以上も減っているのです。
特に、働ける世代で犯罪に手を染める人の数は急速に減りつつあります。
その一方で、働ける世代ほどの減少がみられないのが高齢者の犯罪件数。
高齢受刑者の数も増えており、例えば東京の府中刑務所では、全受刑者における65歳以上の割合がここ10年で約2倍に増加。
今や、刑務所は老人福祉施設のような様相を呈していて、「急速に進む高齢化にどう対応すべきか」という問題は、一般社会だけでなく塀の中においても起こっているわけです。
高齢者の犯罪が増え続けている理由は?
警察庁の資料によれば、増え続けていた高齢者の検挙者数自体は、2008年次にピーク(4万8,786人)を迎えてからは緩やかに減少。
2008~2016年にかけて2,000人近く減っています。
しかし、先に述べた通り、未だ4万人以上もいることには変わりはなく、全世代の検挙者数は高齢者の検挙者数よりも急速に減少。
結果として全体に占める高齢者の割合は年々増え続けているのが現状なのです。
全検挙者数に占める高齢者の割合が増えている理由としてよく言われるのは、「日本では高齢化が急速に進展しているので、それに比例しているから」ということ。
確かに日本の高齢化率は年々上昇しており、1996年時点では15.1%でしたが2016年には27.3%となっています。
ところが、日本と同じく高齢化が進行しつつあるアメリカ、スウェーデン、ドイツ、韓国といった国々では、一部に上昇は確認できるものの、日本ほど顕著に高齢者の犯罪率が上がっているという現象はみられません。
つまり現代の日本社会が持っている何らかの構造的な特徴が、高齢者を犯罪に走らせる要因になっているとも考えられるのです。
高齢者の犯罪事情
高齢者の犯罪はダントツで窃盗(万引き)が多い
警察庁のデータによれば、主な犯罪の種類・手口において高齢者の割合が高いのは窃盗・万引きです。

2016年度において、窃盗犯の全検挙者数(11万5,462人)のうち65歳以上が占める割合は29.4%(3万3,979人)。
万引きについては、全検挙者数(6万9,879人)のうち38.5%(2万6,936人)を占めています。
つまり、万引き犯の4割近くが、高齢者であるわけです。
高齢者に窃盗・万引き犯が多いというのは以前から言われていたことでしたが、近年は割合自体が上昇。
2007年時点における窃盗の検挙者数に占める高齢者の割合は17.5%、万引きでは25.2%でしたから、9年ほどのうちに窃盗で11.9ポイント、万引きで13.3ポイントも上がっているのです。
高齢者による窃盗・万引きが増えている主な要因としては、健康で外出できる高齢者が増えていることや、かつての魚屋や八百屋のような対面型ではなく、スーパーのような非対面型の店舗が増えていること、そして生活面(年金額の少なさ)・精神面(社会的孤立、認知症など)で不安定な状況にある高齢者が増えていることが有識者によって指摘されています。
高齢の受刑者のうち14%が認知症傾向
犯罪検挙者数に占める高齢者の割合が増える中、刑務所の受刑者における高齢者の割合も急激に増えつつあります。
「矯正統計年報」によれば、1989年当時の受刑者は20代、30代が全体の過半数を占め、65歳以上の割合は1.2%に過ぎませんでした。
ところが、その後高齢者の割合は急増していき、2016年には受刑者全体の12%を占め、受刑者数も2,498人と1989年当時の約8倍となってしまったのです。
こうして全受刑者に占める高齢者の割合が増えている中、課題となりつつあるのが、認知症を発症する受刑者が増えているという問題。
法務省の推計(2015年)によると、全国各地の刑務所に服役している60歳以上の受刑者のうち、認知症傾向があるのは1,300人、割合にして14%に上っています。
日本における認知症の有症者数は既に500万人を突破し、今後さらに増加していくことが見込まれていますが、こうした傾向は刑務所内においても同様に起こっているわけです。
このような状況を受けて法務省は、今年度から受刑者の多い全国8か所(札幌・宮城・府中・名古屋・大阪・広島・高松・福岡)の刑務所に入所する60歳以上の受刑者に対して認知症検査を開始。
認知症の症状が認められる受刑者に対しては、刑務作業の軽減化を図る一方で、認知機能の低下を防ぐための計算トレーニングや体操を実施するなど、処遇面で配慮するとしています。
高齢者の再犯率が高いのはなぜ?
働けるところがなく刑務所の方が住みやすいから
高齢の受刑者が増えている要因の一つに、再犯で刑務所に再入所する人が多いことが挙げられます。2016年版の「犯罪白書」によれば、高齢者の再入者の割合は平均70.2%で、入所者全体平均59.5%を大幅に上回っているのです。

刑務所の出所・再入所を繰り返している高齢者も多く、2016年時点における高齢者の入所者2,498人のうち、1度目の入所者数は745人だけで、2~5度目の入所者が831人、6度以上の入所者が922人にも上っています。
出所してから「2年以内」という短期間のうちに再び刑務所に戻った入所者の割合は、全体平均が18.0%なのに対し高齢者の場合は23.2%。
出所してすぐに犯罪を起こし、刑務所に再び戻るということを繰り返す高齢者が非常に多いわけです。
再入所を繰り返す高齢者が多い背景には、出所しても家がない、身寄りがいないなど、行き場を無くしてしまうケースが多いということがあります。
高齢になると就職先も見つかりにくいため、出所後も生活を安定させることができにくく、その結果食事と部屋・寝床のある刑務所に戻るために、再度犯罪に手を染めてしまう高齢者も多いのです。
再犯しないように社会復帰しやすい環境を作ることが課題
こうした状況に対して、国としてもさまざまな取り組みを進めています。
法務省は厚労省と連携し、出所後に帰住先の無い高齢者に対しても介護、医療などの福祉サービスを受けられるようにするための「特別調整」を実施。
各自治体に民間の協力を得て「地域生活定着支援センター」を設置し、出所後に行き場のない高齢者に受け入れ先となる福祉施設を紹介したり、生活保護の申請手続きの支援を行ったりしています。
しかしこの施策が始まったのは2009年度なので今年度で10年目になりますが、高齢者の再犯率が高い現状を考えると、未だ十分に機能しているとは言えない部分もあるでしょう。
こうした支援があることを高齢者の受刑者に周知を図り、より利用しやすくするためのさらなる体制作りも必要なのかもしれません。
今回は、刑務所において高齢者の受刑者が増えているという問題について考えてきました。
犯罪・再犯に手を染める高齢者が多い要因としては、罪の意識が希薄であることもさることながら、身寄りがなくて社会的に孤立する、生活困難により行き場を無くす、といったことも大きく影響しているとも考えられます。
日本社会の高齢化が急速に進む中、高齢者による犯罪をいかにして減らすかは、社会全体で取り組むべき大きな課題と言えるでしょう。
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2020年9月7日 制定