高齢者の疲れやすい原因は「フレイル」にあった!80代から優勝者の増加が激しくなる
老年医学分野で注目されている「フレイル」とは
フレイルの原因は食事を十分に取らないことによる低栄養から
フレイルという言葉をみなさんはご存知でしょうか。
近年、老年医学分野で注目を集めている言葉で、由来は「虚弱」を意味する英語「frailty(フレイルティー)」からきています。
日常生活の活動量減少による食欲低下などから、食事を十分取らず低栄養状態に陥りやすくなった高齢者が、その結果、全身が弱って外出困難へと陥る状態のことを指すのです。
このフレイルについては、日本老年医学会も2014年から提唱しており、その定義を「加齢に応じて運動機能や認知機能などが低下して生活機能が傷害され、心身両面での衰弱がみられる状態」としています。
タニタヘルスリンクの管理栄養士・健康運動指導士の龍口知子氏はインターネットサイトの中で、低栄養をフレイルの原因の一つとして取り上げました。
低栄養になると外出するのが億劫になり、それによってお腹の減らないことにも繋がり、食べる量が減ってくるという悪循環になった結果、健康が徐々に損なわれてくることを述べています。
フレイルにかかっている人は、少なくとも250万人が該当すると言われています。このフレイルは現在、数値化され統一された判断基準はありませんが、注意すべき複数の項目が提唱されています。
- 意図せずに年単位で生じた一定以上の体重減少
- 強い疲労感
- 歩く速度の低下
- 日常の歩行や家事など活動量の減少
- 心肺機能や感染症への抵抗力低下
- 握力などの筋力低下
この5つのうち、該当するのが3項目以上ならフレイル、それ未満であれば、注意が必要なプレフレイルといわれているのです。
フレイル予防には医療と介護の連携が必須
現在、実際にフレイルの兆候があっても、医療現場で施せる治療は多くないのが現状です。十分な栄養の摂取と散歩など、低負荷の運動が一番の対策といわれており、フレイルの予防には今後、医学分野と介護分野との連携が不可欠とみられています。
筋肉や骨は加齢によって、次第に機能が低下していきます。
しかし、これを「年のせい」と放置しておくと、骨粗しょう症、変形性関節症、変形性脊椎症などの運動器疾患があった場合、症状が重篤化。
特に肥満の人は、関節にかかる負担が増えてきます。
しかし、それを気にして痩せすぎた場合、逆に骨がもろくなって筋肉が弱くなるため、身体への負担は大きくなるのです。
さらに、運動に関与する骨格筋の量は、基礎代謝量の低下に比例しています。基礎代謝量は、男性は15~17歳、女性は12~14歳児をピークに、それ以降は低下していくことがわかっていますが、筋肉量も同じように10代をピークとして減少していくのです。
これに食事をおろそかにした生活習慣が加わると、40~50代で早くも身体が衰え初め、60代以降には移動機能が低下しきり、日常生活に支障をきたす可能性が大きくなります。
骨や筋肉を丈夫に保つためには、ほどよい運動を行い、栄養バランスのとれた食事を摂ることが重要といえるでしょう。
サルコペニアとフレイル、ロコモティブシンドロームの関係性
嚥下障害を引き起こすサルコペニアの恐怖
加齢と関連して筋肉量が低下し、筋力や身体機能の低下が起こることをサルコペニアといい、これはフレイルに至る症状の中でも最も恐れられているものです。
筋肉というと、腕や足や腹筋のことを想像するかもしれませんが、サルコペニアは、口腔器官から発症し、舌や咀嚼嚥下に関する筋肉や呼吸に関する筋肉に干渉し、嚥下障害を引き起こすのです。
近年、日本歯科医師会や全国老人福祉施設協議会が高齢者とその介助者に向けて口腔ケアの普及に力を入れていることはよく知られていますが、これはオーラル(=口腔)フレイルを予防するために他なりません。
オーラルフレイルは、滑舌低下、食べこぼし、僅かな噎(む)せ、噛めない食品が増えるなどのささいな口腔機能の低下から始まります。
これらのさまざまな口腔機能の衰えは、些細な兆候としてしか現れないため、気づかれずに済まされることが多いと言われます。
しかし、嚥下障害で十分に栄養を取れないことは、全身のサルコペニアを引き起こし、たちまち全身のフレイルへと至ることは言うまでもありません。
フレイルを引き起こす原因は、癌や肺気腫、腎臓病、慢性心不全など無数にありますが、口腔器官の機能低下は、どうしても軽視されがちです。しかし、それが鬱や転倒リスクなどにも繋がるなどさまざまな身体的な障害をなかば掛け算的に誘発するのです。
運動機能に障害を与えるロコモティブシンドローム
厚生労働省が公開しているグラフによると、高齢になればなるほどフレイルの有症率が増えることが明らかとなっていますが、口腔器官の機能低下と並んでフレイルの原因として恐れられているのが、ロコモティブシンドロームと呼ばれる症状です。
ロコモティブシンドロームは、様々な要因が元となって移動にかかわる運動器(骨、関節、筋肉)に障害が起こり、歩行や筋力が低下し日常生活に影響がある状態をいい、早期に適切な処置を行う必要があります。
口腔器官の機能低下とロコモティブシンドロームは、癌や肺気腫、腎臓病、慢性心不全と違い、適切な処置で改善する場合が多いと言われています。しかし、放置しておくとたちまちそこから全身のフレイルを誘発するのです。
もし、次の7つのうち、1つでも心当たりのある人はロコモティブシンドロームの恐れがあると言われています。
- 家の中でつまずいたり、滑ったりする
- 15分くらい続けて歩けない
- 横断歩道を青信号で渡りきれない
- 片脚立ちでくつ下が履けない
- 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難
- 簡単な家事をするだけで疲れてしまう
フレイルを防ぐにはどうすれば良いのか
フレイルの治療法は未だに見つかっていない
このように、高齢者医療の現場で注目されているフレイルですが、診断や治療におけるガイドラインに関しては、現在のところ十分に整備されているとはいえません。
また、一般の人が簡単にフレイルか否かをチェックできるような、パンフレットやホームページすら整っているとは言いがたいのが現状です。
これは、具体的にフレイルに対する治療法が見つかっていないからかもしれません。栄養や運動と薬物療法の組み合わせによる治療法が期待されているものの、肝心の薬物療法についてはまだまだ研究段階の状態なのです。
対策としては、先程も少し述べましたが散歩など低負荷の運動や、日常的な栄養のバランス良い摂取が重要となるでしょう。
このことに関しては、国立長寿医療研究センターがフレイルに対する予防と啓蒙の一環として興味深いテキストを発行しており、重要なのは筋肉をつくる刺激として、栄養(アミノ酸)、運動(筋肉の収縮)、インスリンの3つを挙げています。
これらの刺激に対する反応性は、加齢とともに低下することが知られており、それを医学的な言葉で、 筋肉の「同化抵抗性」と呼びます。
たとえ同化抵抗性が増大しても、刺激が一定以上あれば、筋肉合成 はきちんとされます。
中でもアミノ酸の摂取は、朝昼晩の3食一定以上の量を摂取することが望ましいとしています。
さらに同テキストは、筋肉の減少を予防するバランス良く栄養を摂取するために注意すべきこととして、次の5項目を挙げています。
- 欠食しないこと
- 食欲がないときは間食で栄養補給
- 肉か魚を1日2品、卵か豆腐を1日1品
- 牛乳やヨーグルトを1日コップ1杯
- 噛みやすく飲み込みやすい工夫を
また運動面について、東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床栄養部発行の「食彩たより」は、1日3回程度を目安にしたスクワットを5~6回繰り返すことや、バランス能力をつけるための、左右1分間ずつの片足立ち1日3回程度を推奨しています。
フレイル予防には、身体機能や認知機能、周囲の環境など様々な角度から対象者を捉え、総合的な機能評価を実施し、対象者を総合的に把握することが不可欠です。
高齢者とより長い時間かかわることで、その状態を医師よりも多面的に把握している介護の現場スタッフには、医師以上に大きな期待が寄せられているのは言うまでもありません。
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2020年9月7日 制定