高齢者の6割以上が地方移住に「NO!」。日本版CCRCを待ち受ける前途多難な道のりとは?
注目を集める「日本版CCRC」。高齢者の地方移住、そして地方創生は実現するのか!?
日本は現在、世界に先駆けて超高齢社会に突入しています。それに伴い、「少子化」「医療費の増大」「介護問題」「介護する人材の不足」「税金問題」など、さまざまな課題や対策が話題になっていますが、状況は一向に改善されていないというのが現状のよう。
2015年6月、東京大学大学院客員教授の増田寛也氏が座長を務める日本創成会議がさまざまな高齢化対策のアイディアを発表しました。
「不足する人材を補填するために、外国人介護士や介護用ロボットなどの積極的な活用」「増加する空き家の有効活用を含めた高齢者の集住化」「1都3県の東京圏への協力・連携と広域対応の強化」などさまざまな案があるなか、今とくに「首都圏から医療・介護に余力のある地方への高齢者移住支援」というアイディアが注目を集めています。
そこで昨今、注目を集めているキーワードが「日本版CCRC」というものです。
「CCRC(Continuing Care Retirement Community)」とは、現在アメリカで普及している高齢者コミュニティのことで、リタイア後、健康なうちに入居し、その後介護が必要な状態になっても同じ場所で最期まで過ごせるというものです。
政府は、これを参考にした「日本版CCRC」を普及させ、高齢者の地方移住を促進し、地方創生につなげたいという考えです。
下の図からもわかるように、現在、日本の総人口における65歳以上の高齢者の割合は26.8%、2050年には38.8%になると見込まれています。
高齢者の急激な増加とともに、とくに都市部では、「受け入れ施設の不足」「介護人材の不足」などの課題が表面化しており、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)に達する2025年には約13万人分の受け入れ能力が不足すると予測されています。
その一方、過疎地域でないなどの一定以上の生活機能を満たし、要介護の高齢者を受け入れる体勢が整っている地域もあります。
そういった地域と連携し、首都圏の急速な高齢化に歯止めをかけようというのがこのアイディア。
医療・介護に余力のある地方として、函館市・秋田市・岡山市・北九州市などの都市部を含めた全国各地41ヵ所が選定されています。
また、「日本版CCRC」に関連する取り組みを推進する意向のある地方公共団体は202、地方版総合戦略に盛り込む予定の地方公共団体は75もあります。
日本版CCRCに関連する取り組みに 推進意向のある地方公共団体 |
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北海道 | 函館市、旭川市、稚内市、滝川市、知内町、長万部町、 上ノ国町、厚沢部町、喜茂別町、古平町、沼田町、 東神楽町、南富良野町、占冠村、和寒町、音威子府村、 遠別町、手塩町、猿払村、利尻富士町、遠軽町、 厚真町、上士幌町、鹿追町、広尾町、池田町、豊頃町、 釧路町、弟子屈町、中標津町、標津町 | 滋賀県 | - |
青森県 | 青森市、弘前市、今別町、おいらせ町、東通村、 風間浦村、佐井村、五戸町 | 京都府 | 舞鶴市、京丹後市 |
岩手県 | 陸前高田市、八幡平市、雫石町、平泉町、軽米町 | 大阪府 | 河内長野市、箕面市、羽曳野市 |
宮城県 | 気仙沼市、岩沼市、東松島市、柴田町、湧谷町 | 兵庫県 | 三木市、篠山市、南あわじ市、宍粟市、たつの市、 上郡町 |
秋田県 | 秋田市、鹿角市、仙北市 | 奈良県 | 奈良県、天理市、桜井市、安堵町、高取町、十津川村、 上北山村 |
山形県 | 山形県、大石田町、舟形町、小国町 | 和歌山県 | 高野町 |
福島県 | 伊達市、猪苗代町、金山町、泉崎村、古殿町、大熊町、 葛尾村 | 鳥取県 | 鳥取県、鳥取市、倉吉市、南部町、日野町 |
茨城県 | 常総市、笠間市、潮来市、坂東市、阿見町 | 島根県 | 松江市、雲南市、飯南町 |
栃木県 | 栃木市 | 岡山県 | 岡山県、岡山市、玉野市、真庭市、和気町、新庄村、 奈義町 |
群馬県 | 前橋市、みなかみ町 | 広島県 | 呉市、三原市、神石高原町 |
埼玉県 | 秩父市、戸田市、志木市、桶川市、鳩山町、 小鹿野町 | 山口県 | 山口県、宇部市、山口市、阿武町 |
千葉県 | 鴨川市、八街市、富里市 | 徳島県 | 徳島県、美馬市、海陽町、つるぎ町 |
東京都 | 杉並区、羽村市 | 香川県 | - |
神奈川県 | 川崎市、茅ヶ崎市、厚木市、二宮町 | 愛媛県 | 愛媛県、西予市、松野町 |
新潟県 | 新潟市、妙高市、佐渡市、南魚沼市 | 高知県 | 高知県、馬路村 |
富山県 | 舟橋村、朝日町 | 福岡県 | 北九州市、大牟田市、赤村 |
石川県 | 小松市、珠洲市 | 佐賀県 | - |
福井県 | 鯖江市、坂井市 | 長崎県 | 長崎市、壱岐市、五島市、南島原市、佐々町 |
山梨県 | 山梨県、都留市、韮崎市、甲斐市、丹波山村 | 熊本県 | 熊本市、人吉市、合志市、長洲町、小国町、山都町、 湯前町、水上村、苓北町 |
長野県 | 長野県、松本市、上田市、岡谷市、中野市、佐久市、 南牧村、南相木村、高森町、木祖村、木曽町、麻績村、 生坂村、高山村 | 大分県 | 臼杵市、杵築市 |
岐阜県 | - | 宮崎県 | 宮崎市、延岡市、日南市、小林市 |
静岡県 | 静岡市、南伊豆町 | 鹿児島県 | 姶良市、十島村、大崎市、錦江町、宇検村、瀬戸内町、龍郷町、伊仙町 |
愛知県 | 春日井市、豊田市、南知多町 | 沖縄県 | 石垣市 |
三重県 | - |
首都圏に増え続ける高齢者をどこまで地方都市が受け入れることができるのか。理念としては筋道が通っているような気はするものの、果たして高齢者自身はどのように感じているのでしょうか。
動き出した「日本版CCRC」構想は高齢者問題を解決する新しい風となるか?
誰のための制度なのか…高齢者の気持ちはどこに?
まち・ひと・しごと創生本部事務局は、2015年5月14日の「日本版CCRC構想有識者会議」で素案を正式に発表しました。
取り組みの推進にあたって、協力を求める機関は、医療機関、教育機関、商工会議所などの経済団体、ボランティア活動を行うなどのNPO法人、民間企業など多岐にわたっています。
成功すれば、介護施設の不足問題などが一気に解決される可能性がありますので、「2025年問題」を迎える前に軌道に乗ることを期待している方も多いでしょう。
しかし、この「日本版CCRC」は新しい社会システムのために、モデルケースやノウハウが確立されておらず、戸惑っている人、または自治体も多いようです。
また、受け入れ可能な施設があったとしても、継続的な介護は受けられるのでしょうか?確かに、2000年から施行された介護保健法以来、介護職員の数は増え続けており、今後もますます増えることが予想されています。
一方で、現場職員からは「人手が足りない」「賃金が低い」などの不満の声も多く、よい人材は仕事を求め都心部へと流れたり、「採用が困難」との理由で職員が不足したりしている現状もあります。
さらには、介護を受ける側の高齢者にとっても、受け入れ場所があればどこでも良いのかというと、決してそうではないようです。
内閣府が行った「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」によると、「移住を検討したいと思っている」人が全体の約4割なのに対し「検討したいと思わない」というNOの意思をはっきりと持っている人が多いことに気づきます。
医療が発達し寿命がのびている今、がんや認知症などの病気にならずに死ぬことの方が珍しいかもしれません。
介護が必要になり老人ホームへの入居が必要になった場合、費用が高い割に居住スペースが狭くなりがちな都心部に比べて、少しでもゆったりしたスペースがあり、費用も都心に比べれば抑えられる地方に施設があったとしたら、選択肢のひとつになるでしょう。
しかし、元気なまま、住み慣れた便利な都心を離れ、子や孫と離れ、地方に移住した場合の生活はどうなるのでしょうか?車がなければ出かけられない、ちょっと歩いて買い物にでも…となっても歩いて行ける近くにお店がないなど、住んでみなければわからない不便さなどが出てくることが容易に想像できます。
住み慣れた街であれば、元気なお年寄りは外に出て社会に接し、さまざまなことに挑戦する機会もあります。「受け入れる土地がある」というだけで、はたして高齢者はそれを本当に望んでいるのでしょうか?
高齢者が地方に移住することで何が変わるのか…そもそも望まれている介護の本質ってどんなこと?
「どんな老後を迎えたい?」それぞれが考える幸せな未来のために
「まち・ひと・しごと創生本部事務局」が実施した調査によると、「日本版CCRC」に関連する取り組みを推進したいという意向があると回答した地方公共団体は202(全体の4.2%)。
既に取り組みを開始している地方公共団体が、全体の1.8%であるのに対し、具体的なスケジュールは決まっていないとの回答は10%と大きな開きがありました。
「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」の結果からも見えるように、受ける側の気持ちにも開きがあります。飽和状態の都市から受け入れ可能な都市への移動という、一見素晴らしいアイディアにも見えますが、現実はそんなに容易なことではないようです。
たしかに、日本全体の数字から見れば、増え続ける首都圏から、受け入れ可能な地方に移住する高齢者が増えることでバランスはとれるのかもしれません。一方で、そこには実際に移住する高齢者の気持ちや実情がないがしろにされているような印象もあります。
「住み慣れた土地で最期を迎えたい」と思うことは、とても自然な考えです。まずは、その気持ちに寄り添った介護ができる環境やサービスを整えることが検討されるべきではないでしょうか?
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2020年9月7日 制定