警察庁、改正道路交通法が施行されてから約1年の状況を公表
2017年における免許の自主返納件数は約42万件
警察庁は6月7日、75歳以上の高齢運転者に対する認知機能検査を厳格化した改正道路交通法に関して、施行後1年間の現状について公表しました。
改正法が施行された2017年の3月12日から今年の3月31日までに、免許の更新や一定の交通違反により認知機能検査を受けた75歳以上の人は210万5,477人。
そのうち第1分類(認知症のおそれがある)に判定された人は5万7,099人で、臨時適性検査(専門医の診断)の通知、または診断書提出命令を受けた人は4万1,486人、医師の診断をうけた人は1万6,470人、そして最終的に免許の取り消し・停止を受けた人は1,892となっています。
なお第1分類と判定された人のうち、再受験によって第1分類から外れた人は8,385人、免許を自主返納した人は1万6,115人、更新しないまま失効させた人は4,517人となりました。
今回の調査結果からは、「認知症のおそれがある」と判定を受けた人の約3割が自主返納していること、また再受験によって第1分類から外れ、第2分類(認知機能低下のおそれがある)、第3分類(認知機能の低下のおそれなし)に改めて判定される人がかなりの数に上っていることが読み取れます。

警察庁によれば、75歳以上の免許証自主返納者数は年々増えており、2017年における自主返納件数は42万3,800件で、そのうち約25万件が75歳以上の運転者です。
高齢運転者の危険性が社会的に認識されるようになる中、今後も返納者は増えていくと予想されます。
改正道路交通法とはどのような内容?
道路交通法とは、交通の安全・円滑を図るため、1960年に施行された法律です。その後、何度も改正されてきましたが、昨年3月12日には、75歳以上の運転者に対する認知機能検査をさらに強化した改正道路交通法が施行されています。
それまでの道路交通法だと、免許更新時の認知機能検査で第1分類(認知症のおそれがある)と判定された方が、一定期間内に一定の交通違反行為を行った場合に、臨時適性検査(医師による診断)を受けることになっていました。
それが昨年3月に施行された改正道路交通法では、もし免許更新時に第1分類と判定された場合、違反の有無にかかわらず臨時適性検査を受ける、または医師による診断を受けてその診断書を提出する、という義務が課せられることになったのです。
もし、そこで認知症であると正式に判明した場合は、免許取り消しなどの対象となります。
さらに改正道路交通法では、75歳以上の運転者に更新時以外でも一定の違反行為があった場合、新設された臨時認知機能検査を受けることが義務化されています。
この検査で第1分類と判定された場合は、免許更新時と同様の手続きを経て、認知症であることが判明すれば免許取り消しなどの対象となるのです。
なぜ高齢者は事故を起こしやすいのか
高齢者が起こした交通事故件数は増加傾向にある
つい最近も、90歳の女性高齢者の運転による痛ましい人身事故が神奈川県茅ケ崎市の国道で発生しました。
女性高齢者は警察の調べに対し、「信号は赤だと分かっていたが、歩行者が渡っていなかったので通過できると思った。
そのあとに横断する人が見えて慌ててハンドルを左に切った」と供述していたそうです。

こうした75歳以上の運転者による交通死亡事故の割合は年々増えつつあります。
「平成29年版交通安全白書」によれば、死亡事故全体に占める75歳以上の運転者による死亡事故件数の割合は、2006年では7.4%だったのに対し、10年後の2016年では13.5%にまで増加。
死亡事故件数の推移事態は緩やかな増加にとどまっているものの、全世代における交通死亡事故件数が年々減り続けているため、結果として割合の方は年々上昇しているのです。
また、75歳以上運転者が引き起こした死亡事故の人的要因をみると、最も多いのが「ハンドル等の操作不適」(全体の28%)で、以下「内在的前方不注意(漠然運転等)」(23%)、「安全不確認」(22%)と続きます。
特に75歳以上の場合、若い世代に比べてハンドル等の操作不適(75歳未満では11%にとどまる)による事故が非常に多いです。
高齢者が免許を返納しない理由は?
返納するための手続きが大変である
運転免許証を自主返納する場合、住民票のある都道府県の運転免許センター、もしくは最寄りの警察署に、運転免許証と印鑑を持参して本人が直接出向き、用意されている「運転免許取消申請書」に記載し窓口へ提出せねばなりません(もし申請者本人が病気や負傷によって介助が無くては行動できないという場合、代理人による申請も可能)。
高齢者の中には、この「免許証を自主返納する際の手続き」が難しいと不安に思い、そのことが理由で返納への意欲を無くしてしまうというケースも多いようです。
また、自治体によっては、運転免許証の自主返納・運転経歴証明書申請の手続きをする窓口が非常に混雑し、運転免許センターや警察署に出向いても長時間待たされるというケースも続出しています。
高齢者に免許証の自主返納を促す場合、まずはその手続きのあり方についての周知化、そして混雑の解消に向けた取り組みを進めていく必要もあるのかもしれません。
地域によって車の有無は死活問題
高齢の運転者が免許証の自主返納をしない理由としては、高齢になるほど運転に対する自信に満ち、「自分は大丈夫」という意識の高いドライバーが多いということも挙げられます。

MS&AD基礎研究所が、全国の運転者1,000人に対して「運転に自信があるか」を尋ねるアンケート調査を行ったところ、「自信がある」と答えた割合は60代以降どんどん増え続け、75~79歳で67.3%、80歳以上では7割以上に達するのです。
身体能力・運動神経は若い世代の方が高いのですが、運転に対する自信は高齢者の方がずっと高いという結果となっています。
また、運転に自信がない場合でも、車がなければ生活できないため、運転免許証の自主返納ができないという実情もあるようです。
老友新聞社が、高齢ドライバーに対して「運転免許証の自主返納をなぜためらうのか」を問うアンケート調査を行ったところ、全体の約7割の人が「車がないと生活が不便になるから」と回答しています。
特に郊外地域では買い物の際に必ず車を使わねばならないことも多いため、すぐに免許返納を行うのは難しいとも考えられるのです。
高齢者に免許を返納させるには返納後のケアが大事
高齢者にとっては運転免許を持ち、車を運転することが本人のプライドや生きがいになっていることも多いため、安易に「危ないから運転をやめて!」と説得しようとしても難しい場合が多く、そればかりか激高することも少なくありません。
もし高齢者に免許証の自主返納をお願いしたい場合は、高齢者の気持ち・心情にきちんと寄り添うこと、そして返納したあとの生活のあり方について話し合っておくことが大事だと言えます。国も高齢者に自主返納を促すなら、その点を意識した施策を講じるべきでしょう。
また、運転免許証を返納した場合に貰える「運転経歴証明書」が公的な本人確認書類として利用できること、自治体によっては免許返納者にさまざまなサポートや特典(公共交通機関の割引など)が付与されること、などを知ってもらうよう周知化を図ることも重要です。
今回は改正道路交通法が施行されて1年が経過したことを受け、高齢ドライバーの運転免許自主返納の現状について論じてきました。
ただ頭ごなしに高齢者に免許の返納を迫るのではなく、返納した後のことについても真剣に考え、話し合うという姿勢も大切なのかもしれません。
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2020年9月7日 制定