国立長寿医療センターが老老介護の所得と期間について調査
老老介護は低所得者ほど長期化することが判明
2018年6月下旬、国立長寿医療センターは、介護をする側と介護を受ける側の両方とも65歳以上である「老老介護」が、低所得層であるほど介護期間が長期化しやすい、という調査結果を発表しました。
同調査では、2013年に大学の研究者が行った「日本老年学的評価研究」のデータを改めて分析。老老介護をしている1,598人を所得ごとに分け、週あたりの介護時間を測定するという形で数値化が行われました。

調査結果によると、週72時間以上にわたって介護に直面する可能性があるのは、最も高所得の老老介護世帯を等倍とした場合、「200万円以上、318万円未満」の世帯で1.63倍、「130万円未満」の世帯だと1.79倍、そして生活保護受給世帯では2.68倍と特に高い値となっています。
また、厚生労働省の「国民生活基礎調査(2016年)」によると、在宅介護をしている全世帯のうち、老老介護をしている世帯の割合は54.7%。
介護者と被介護者がともに75歳以上の世帯は30.2%と3割に達しています。
老老介護では、介護者の肉体的、精神的な負担は大きく、介護者自身も既に軽度の要介護状態であることも珍しくありません。
介護が長期間に及ぶほど、介護する側が健康を損ない、在宅介護の継続が難しくなるリスクが高まります。
平均寿命と健康寿命の差が老老介護の期間を延伸させる
老老介護世帯がこれほど増加してきたのは、平均寿命が年々延伸している一方で、「一生のちで健康で生活できる期間」を示す健康寿命の延びがそれほど上がっていない、ということが一つの原因です。
財務省主税局が公表している相続税の申告データによると、日本人の死亡時における年齢は、1989年では80代が約40%ほどでしたが、2013年だと80代が60%以上にまで上昇。
約14年間で死亡年齢層の割合が大幅に増えているのです。
厚生労働省が毎年発表している「簡易生命表」よれば、2016年時点における日本人の平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳。
いずれも過去最高を更新しています。
ところが、健康寿命の方は、平均寿命ほど伸びていません。
ニッセイ基礎研究所が発表したデータによれば、2016年時点の健康寿命は男性が72.14歳、女性が74.79歳です。
平均寿命から健康寿命を差し引いた値は、「一生のうちで健康でいられない期間」、つまり介護を要する期間を含む数値となりますが、2016年時点におけるその差は男性が8.84年、女性が12.35年となっています。
平均寿命の伸び率に、健康寿命の伸び率が追い付かないという状況が長く続いてきたために、両者の差は大きくなり、介護期間も延伸してしまったのです。
貧困・介護・心中を招く老老介護は社会問題に
貧困に陥りやすい世帯の特徴は『年金収入』のみ
老老介護世帯では若い世代が介護する世帯とは異なり、多くの場合、働き手がおらず収入が年金のみ、という経済状況となっています。

厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、2016年度における年金収入の月額平均は、厚生年金だと14万7,927円、国民年金では5万5,464円です。
特に、自営業者の方など年金収入が国民年金のみという場合、夫婦の額を合わせても十分な収入とは言えません。
もし夫婦ともに医療費、介護費を要する状態となった場合、家計はさらに苦しくなります。
また想定されるのが、老老介護世帯では貯金額が十分ではないというケース。
「平成28年版高齢社会白書」によれば、世帯主が65歳以上の世帯のうち、貯蓄高が500万円未満の世帯は全体の20.3%に上っており、貯金が不十分な高齢者世帯は少なからず存在していると言えます。
そうなると家計上、介護費用に回せる額が少なくなり、それによって介護予防・重度化防止の介護サービスを十分に受けられず、介護期間が長期化していることが想定されるのです。
排泄の介護による極度のストレス負担
「国民生活基礎調査」で「日常生活で悩みやストレスがある」と回答した人に原因をアンケートしたところ、「家族の病気や介護」と回答した人が男性で73.6%、女性で76.8%と突出して高い値となっています。
また、厚労省が介護経験者に対して行った調査では、介護における一番の苦労は何かという問いに、「排泄」と答えた人が62.5%に及びました。
介護ストレス、特に排泄介護に苦労している介護者が多く、心身が衰えている高齢介護者の場合、そのストレス・負担はより大きくなるとも考えられます。
さらに現在、要支援・低介護度といった「軽度者」向けの介護サービスを提供する事業者の撤退・廃業が増加するなど、軽度者が充分な介護サービスを受けにくい状況が生まれつつもあるのです。
介護予防や重度化防止への支援が心もとないと、その分、介護度が上昇しやすくなり、高齢介護者の介護負担も増えていくことになります。
負担の蓄積は介護を原因とする殺人に及ぶことも
このような、経済的な不安や介護ストレスの蓄積などにより、老老介護世帯では介護を原因とする殺人、無理心中といった痛ましい事件が全国各地で相次いでいます。
警察庁の調査によると、2016年に全国で発生した「介護・看護疲れ」を動機とする殺人事件は、無理心中を含めて41件に上りました。
同庁では2007年から統計を取り始めていますが、毎年40~60件弱の間で推移しており、減少傾向は今のところみられていません。
国が取り組む低所得の老老介護を救う2つの方策
高額介護サービス費制度の周知化を進める
介護サービスを利用した場合、所得に応じて1~3割の自己負担額を支払う必要がありますが、もしこの自己負担額の合計が一定額を超えた場合、役所に申請すると超過分が支給されるという「高額介護サービス費制度」が、介護保険法で規定されています。
この制度を活用すれば、要介護者の介護度が上昇し、訪問介護や訪問看護の利用頻度が上がって毎月の介護費用が高額になった場合でも、限度額以上のお金を負担しなくても済むわけです。
限度額は収入状況に基づいて決められていて、以下の通りとなります。
- 生活保護受給者:1万5,000円
- 世帯全員が市区町村民税の非課税者:2万4,600円
- 課税者・現役並の所得者世帯:4万4.400円(世帯内に65歳以上で課税所得145万円以上の方がおり、65歳以上の収入合計が520万円以上の場合か、単身世帯で収入合計が383万円以上の場合)
しかしこの高額介護サービス費制度ですが、国民の間であまり知られていません。「安心介護」が行った調査では、「高額介護サービス費制度を知らない」と回答した人が調査対象者の40%に上っており、国を挙げて周知化をさらに進めていく必要があります。

介護人材を増やして施設数を増やす
老老介護を避ける、あるいはその負担を軽減化していくには、介護人材を増やし、施設・事業所数を増加させることが重要です。
軽度者向けのサービスを充実化させて介護予防・重度化防止に力を入れること、あるいは要介護状態となった場合に、高齢の介護者に代わって介護負担を担ってくれるサービス提供体制を強化することで、老老介護によって生じる問題の緩和・解消につながります。
しかし現状、介護人材の不足は深刻化し、軽度者向けのサービス提供も上手くいっていません。経済産業省の試算によると、介護人材の不足数は、2035年には2015年の約20倍となる約79万人に達するとのこと。
将来的な人材確保の目途は立っていないのです。
軽度者向けのサービスも、介護報酬の低減化などによって現在撤退・廃業する介護事業者が相次いでいるという状況。
介護サービスを利用する人のうち、要支援・低介護度の利用者は最も数が多いのですが、この領域における介護サービス供給量の低下、質の低下が懸念されています。
今回、老老介護の問題の現状を取り上げ、その背景や、発生要因について考えてきました。超高齢社会に突入している現在、この問題は今後さらに深刻化していくと予想されます。
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2020年9月7日 制定