
昨年5月11日に放送されたNHKスペシャル「認知症800万人時代 行方不明者1万人~知られざる徘徊の実態~」で、年間1万人もの人が認知症による徘徊で行方不明になっている実態が報じられ、国民の多くが衝撃を受けました。
この放送を機に、認知症高齢者の徘徊、行方不明者の本格的な実態が調査されるようになり、その対策も講じられるようになりました。
NHKが全国の警察本部に、認知症の疑いがある人が徘徊などで行方不明になったケースを取材した結果、2013年の1年間で全国延べ1万322人にも上ります。このうち388人が死亡し、2014年4月の時点でも258人が行方不明のままとなっています。
また、徘徊で保護されたものの、認知症のため名前や住所が思い出せず、身元不明のまま施設で暮らしている人がいることも明らかになりました。
これらの認知症患者は、今までは事件や事故でないという判断で、ほとんど情報が公開されることなく、疾病による行方不明というカテゴリーのなかに埋もれ続けてきました。
NHKスペシャルの反響は大きく、放送から1か月に満たない2014年6月5日には、警察庁は認知症に特化した身元確認を強化するため、自治体との連携強化を都道府県警に求める通達を出しました。
…が、そうした策が果たして機能しているのか?詳しくデータを見てみると、決して安穏としてはいられない現状が見えてきました。
認知症高齢者の徘徊、行方不明の実態調査が本格的に始まる
本格的な調査開始から3年、認知症の行方不明者は高齢化とともに増え続けている
NHKが調査した2012年以後、警察庁の行方不明者調査の項目に、認知症の人の数が新たに加わりました。
2013年は前出の通り、1万322人で前年度比7.4%増。
さらに今年6月25日に発表された2014年に届け出のあった認知症の行方不明者は前年度比4.5%増の1万783人と、効果的な対策が講じられないまま、高齢者数の増加とともに増え続けています。

また、行方不明者のうち、2014年中に所在が確認された人は、前年までに届け出があった233人を含めた1万848人で、そのうち警察が発見して保護された人が6427人、帰宅などにより家族が発見して保護された人が3610人、そして、死亡が確認された人が429人いたことも警察庁から発表されました。
認知症の行方不明者1万783人のうち、1万615人は同年中に所在が確認されましたが、168人の所在は年末の時点で確認されませんでした。
認知症の人は周囲に対する注意力が低下してしまうので、車が往来する車道の真ん中を歩いたり、電車が走る線路に入り込んでしまうなど、非常に危険な行動をする可能性があります。
また、今のような猛暑の中を徘徊すれば熱中症や脱水症状を起こす可能性が高いことを考えると、いまだに所在が確認できていない認知症の行方不明者の発見、保護が一刻も早く望まれます。
警察庁では認知症身元不明者の身元確認の対策として、衣服や靴などに名前や連絡先を書くなどの工夫を呼びかけていますが、それでもなお、行方不明者数の増加に歯止めがかかる気配は感じられません。
10年後、高齢者の5人に1人が認知症に 認知症の高齢者と今後どう向き合うのか?
「身元不明迷い人台帳」制度はあっても、個人情報保護が行き過ぎれば機能しない!?
超高齢社会のまっただ中にある日本において、今後急速に増えることが予測される認知症。世界一早いスピードで高齢化が進んでいる日本にとっては避けては通れない深刻な問題です。
10年後の2025年には認知症患者は約700万人となり、65歳以上の高齢者に対する割合は、現在の約7人中1人から約5人に1人にまで増加すると推計されています。そのため、認知症の高齢者の徘徊、行方不明者も今後さらに増加することが予測されます。

警察庁は身元確認のまま保護されている人の写真や特徴を記した台帳を警察署で閲覧できる「身元不明迷い人台帳」制度を昨年11月よりスタートさせています。しかし、それでも大きな成果を得ていないというのが現状のよう。
先月のニュース:『身元不明迷い人台帳』が認知症高齢者の行方不明事例を初めて解決!でもご紹介した通り、ぽつぽつと朗報が届いてはいるものの、大々的な成果にはつながっていない模様。
というのも、「身元不明迷い人台帳」が全国で閲覧可能なのは、わずか数十名分しかないから。全国で閲覧できるデータはわずか16名分、保護された都道府県のみで閲覧できる23名分のデータを含めても40名に満たないのです。
身元が不明のままで保護されている高齢者は全国各地に約300名以上が存在していると考えられています。
たとえば、大阪府警は全国に先駆けてこの制度に参加していましたが、実際に大阪府内で保護されている身元不明者40名のうち、閲覧できる台帳はたった4名分にとどまっています。
どの自治体も、顔や身体的な特徴を公開することが個人情報保護の観点に触れる、というのが大きな理由のようですが、そんな悠長なことを言っている場合でしょうか?
1万人以上にも及ぶ行方不明者の多くには、帰りを待ちわびる家族や友人もいることでしょう。
厚生労働省のウェブサイト内の特設サイトでも限られたデータしか閲覧できないのが実情ですが、情報の管理や閲覧のルールを改善し、積極的な情報の開示が必要なのではないでしょうか。
大阪、兵庫、愛知、京都…都市部での行方不明者が突出して多いのはナゼ?
さて、ここに興味深いデータがあります。
これは、先に紹介した認知症の行方不明者数を都道府県別に見たもの。
届出数の上位は大阪府、兵庫県、愛知県、京都府、福岡県で、大都市のある自治体が占めていることが一目瞭然。
65歳以上人口比(10万人あたり)でも同じような傾向が見られます。
都道府県 | 2014年中の認知症行方不明者 | ||
---|---|---|---|
届出数 | 65歳以上人口比 (10万人あたり) |
||
1 | 大阪府 | 1,921 | 84.7 |
2 | 兵庫県 | 1,207 | 82.7 |
3 | 愛知県 | 894 | 51.7 |
4 | 京都府 | 444 | 63.3 |
5 | 福岡県 | 396 | 31.0 |
6 | 神奈川県 | 378 | 17.9 |
7 | 埼玉県 | 329 | 18.9 |
8 | 茨城県 | 293 | 38.9 |
9 | 岐阜県 | 264 | 47.4 |
10 | 広島県 | 257 | 33.4 |
11 | 東京都 | 253 | 8.4 |
12 | 北海道 | 232 | 15.3 |
熊本県 | 46.0 | ||
14 | 岡山県 | 213 | 39.4 |
15 | 千葉県 | 204 | 13.0 |
16 | 富山県 | 199 | 62.6 |
17 | 奈良県 | 185 | 48.3 |
18 | 群馬県 | 177 | 33.5 |
19 | 愛媛県 | 174 | 41.9 |
20 | 新潟県 | 172 | 25.6 |
21 | 栃木県 | 171 | 34.3 |
22 | 福島県 | 151 | 28.1 |
23 | 静岡県 | 141 | 14.1 |
24 | 三重県 | 133 | 26.9 |
25 | 香川県 | 129 | 45.1 |
26 | 長野県 | 121 | 19.7 |
27 | 滋賀県 | 117 | 35.2 |
28 | 鹿児島県 | 112 | 23.4 |
29 | 徳島県 | 109 | 47.4 |
30 | 山形県 | 108 | 32.0 |
31 | 山口県 | 107 | 24.3 |
32 | 宮城県 | 100 | 17.5 |
33 | 石川県 | 93 | 29.7 |
34 | 福井県 | 86 | 39.1 |
35 | 大分県 | 71 | 20.5 |
36 | 秋田県 | 69 | 20.4 |
37 | 沖縄県 | 68 | 25.2 |
38 | 長崎県 | 66 | 16.5 |
39 | 岩手県 | 57 | 15.0 |
佐賀県 | 25.3 | ||
41 | 宮崎県 | 55 | 17.2 |
42 | 青森県 | 53 | 13.8 |
43 | 高知県 | 52 | 21.9 |
44 | 和歌山県 | 37 | 12.5 |
45 | 山梨県 | 36 | 15.6 |
46 | 島根県 | 34 | 15.4 |
47 | 鳥取県 | 26 | 15.6 |
全国 | 10,783 | 32.7 |
地方は『ムラ社会』といわれるように、地域のつながりが強く、悪く言えば排他的な側面があるとされていますが、一方ではまだ地域社会が残り、見守り機能が働いているともいえます。
反面、都会は人が多く、さらに人の出入りも激しいことから、どうしても他人に対して無関心になりがちということでしょうか。
認知症の行方不明者を少なくするために、都会でも、自治体や地域が主体となって、地方のような地域社会を構築する必要があるのかもしれません。
認知症は誰もがなりうる、また関わる可能性がある身近な病気だけに、国民一人ひとりが当事者意識をもって認知症高齢者と接することが大切です。実際に住民の声かけで行方不明だった認知高齢者が発見、保護された実例もあります。
確かに法律やルールの制度化も重要な観点ではありますが、高齢者を見守るやさしい地域づくりの推進と同時に、国民の一人ひとりが認知症についての理解を深めていかなければ、認知症高齢者の行方不明問題の解決にはつながらないと言えるでしょう。
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2020年9月7日 制定