人手不足に苦しむ介護施設は全体の6割以上!低賃金とハラスメント改善で人材確保は可能か?
介護労働実態調査の結果が公表、現場の人材不足がまた悪化
アンケートにより66%の介護施設で不足感が明らかに
8月3日、介護労働安定センターは「平成29年度介護労働実態調査」の結果を公表しました。
それによると、職員の過不足を問うアンケートに対して、「不足感がある」と回答した事業者は昨年度より4ポイント増となる66.6%に上り、4年連続で悪化する結果となっています。
「不足感がある」の内容を詳しくみると、職員が「大いに不足」と回答した事業所は全体の9.6%、「不足」が24.4%、「やや不足」が32.6%で計66.6%。
特に人材不足が著しいのは「訪問介護員」で、調査対象事業所の82.4%が不足感を感じていました。
人材が不足している理由としては、「採用が困難」との回答が全体の88.5%を占め圧倒的に多くなっています。
そして採用が困難な理由について尋ねたところ、「同業他社との人材獲得競争が激しい」(56.9%)、「他産業に比べて、労働条件等が良くない」(55.9%)、などの回答が目立っていました。
今回の調査は2017年10月に、全国1万7,638の介護サービスを提供する事業所を対象に行われ、そのうち49.8%にあたる8,782の事業所から有効回答が得られたとのこと。
人材不足の問題に直面する介護業界の厳しい現実を、改めて浮き彫りにする調査結果となっています。
2017年の処遇改善加算拡充でも解決できず
国は2017年4月、人手不足が続く介護業界の状況を改善するために、「介護職員処遇改善加算」の改訂・拡充を行いました。
介護職員処遇改善とは、職員のために職場環境の改善やキャリアアップの仕組みを行った事業所に対し、賃金を上げるためのお金を支給するという制度です。以前は、加算の区分は4つでしたが、2017年4月からは新たな区分が新設され計5区分となりました。
具体的には、加算を受けるための新たなキャリアパス要件(経験もしくは資格などに応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること)を新設し、既存のものを含めキャリアパス要件をすべてクリアし、かつ「職場環境等要件」を満たした場合、新規に設けられた区分である「処遇改善加算(Ⅰ)」が得られるようになったのです。
ところが、介護職員の労働組合である「UAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)」が介護職員を対象に行ったアンケート調査では、全体の63%が、処遇改善加算が自分の収入に反映されているという「実感がない」「分からない」と回答。
実際、加算分は通常の定額昇給分に充てることができ、さらに処遇改善加算が増えると社会保険料の負担も増えてしまうので、手取りが上がっている実感が少ないのもうなずけます。
今回の「介護労働実態調査」の結果をみても、昨年行われた処遇改善加算の改定は、人材不足の解消につながっていないのが実情と言えるでしょう。
他産業に比べて「介護職の労働条件が良くない」ポイントは
(1)給与――訪問介護員の月給、依然として20万円以下
今回公表された「介護労働実態調査」によると、訪問介護員の平均月給は19万8,486円。
依然として20万円を下回っているという状況です。
介護分野で働く労働者全体の平均月給は22万7,275円ですから、訪問介護員はそれよりも2万8,789円ほど低い値となっています。
厚生労働省の「平成29年賃金構造基本統計調査」によれば、2017年時における全産業の平均月給は30万4,300円。他職に比べると、介護分野全体の給料が低めであると言わざるを得ません。
しかも実際のところ、各介護サービス提供事業所において、職員の給料を上げるための運営体制ができていない実情もあります。例えば、先ほど紹介した「処遇改善加算」ですが、実際に取得している事業所は全体の64.9%のみです。
処遇改善加算の届け出をしない理由として多いのが、「事務作業が煩雑」ということ。
事務作業に時間と労働力を割くことが難しく、届け出を出せないのです。
また、処遇改善加算を得ても分配方法は事業所に任されているので、勤務年数で差をつけられるなど、労働者によっては給料の向上にさほどつながらないケースもあります。
(2)ハラスメント――7割以上の介護職員が被害あり
さらに介護現場では、セクハラ・パワハラの問題が深刻化しているのが現状です。
NCCUが介護職員を対象に行ったハラスメントに関するアンケート調査(2018年6月実施)によれば、全体の74.2%が利用者や家族からセクハラやパワハラを受けたことがあると回答しています。
また厚生労働省が実施した調査によると、利用者から受けるハラスメントとして多いのが、「暴言」(26.0%)、「利用者から介護保険以外のサービスを求められた」(16.8%)、「暴力」(14.4%)、「セクハラ」(9.1%)などです。
このような調査結果を受け、NCCUは、8月9日に厚生労働省に対してセクハラ・パワハラの対策強化を訴える要望書を提出しました。
要望書は「このままでは介護人材を確保し、定着するのは難しい」と指摘した上で、サービスを受ける側に対してハラスメントに対する理解を深めてもらうための周知・啓発活動を進めていくことを提案。
またセクハラやパワハラがある場合、事業者がサービス提供を拒否できることをルール化した新たな法整備を行うことも求めています。
労働条件を良くするために何ができるか
加算を得られるよう事業所側の努力が肝に
福祉医療機構は今年1月、2016年度における特別養護老人ホームの経営状況に関するレポートを公表しましたが、それによると、赤字の施設は前年度比1.4ポイント増となる32.8%に及んでいることが分かりました。
同機構は調査結果を踏まえた上で、「特別養護老人ホーム全体の経営が苦しいわけではなく、うまくいっている黒字の施設とそうではない赤字の施設とで明暗が分かれている」と分析。
特に、施設によって加算の算定率と人件費率の多寡にばらつきがあるとし、赤字の施設に対しては「加算を多く取得し、収益基盤の強化を図ることが課題である」と指摘しています。
この同機構の指摘は、より加算を得ることでようやく人件費を満足に払えるようになるという、施設側の苦しい経営事情を浮き彫りにしているとも言えますが、やはり加算を多く得ればそれだけ人件費に回せる額を増やせるのも事実です。
先に挙げた処遇改善加算も含め、人手不足で苦しい運営体制の中でも、まずは加算を得られるよう施設・事業所として努力していくことが重要なのかもしれません。黒字の施設は、そのことにある程度は成功している施設であるとも言えるでしょう。
介護業界の「お客様第一主義」を見直す
ハラスメントに関しては、まず介護・福祉業界で主流となっている「お客様第一主義」の考え方をいい意味でなくしていく、ということが対策として挙げられます。
NCCUの調査によれば、セクハラを受けて「誰にも相談しなかった」と答えた職員にその理由を尋ねたところ、「相手のことを考えたから」と回答している人が約1割いました。
利用者を軽視すべきではないのは当然ですが、もし利用者側に明らかに問題がある場合は、それを見過ごさずに毅然と対処する意識を持つことも大事です。
施設・事業所側が、そうした方針を職員に対して打ち出すことも重要であると言えます。
また、事業所間で、ハラスメントをする利用者のブラックリストを共有するというのもひとつの方法です。
個人情報保護法の問題があるので難しい面もありますが、役所などがこうした情報をまとめて管理するということはできるかもしれません。
その場合、必要に応じて市から利用者に対して注意喚起をし、悪質なケースに対しては介護保険サービスの一定期間利用停止などの対応を取ることもできるでしょう。
今回は介護人材不足の問題を改めて取り上げました。介護人材を増やすために労働環境の改善は必須。また、介護福祉士の登録者数と従事者数には乖離があるので、これら登録者の就労を促せば、2025年の高齢者問題解決に一歩近づくかもしれません。
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2020年9月7日 制定